MBO(目標管理)とは|OKRとの違いや運用を成功に導くポイントを紹介
目標管理は、公平で適切な人事評価を下す上で重要なマネジメントツールの一つであり、目標管理の導入は従業員のモチベーションアップにも繋がります。本記事では、目標管理設定のメリット・デメリット、効果的な目標管理運用の方法についてわかりやすく解説します。
- 01.MBO(目標管理)とは
- 02.MBOとOKRの違い
- 03.MBO(目標管理)のメリット
- 04.MBO(目標管理)が機能しない理由
- 05.目標管理の実践方法
- 06.MBO(目標管理)を正しく機能させるポイント
- 07.まとめ
01MBO(目標管理)とは
MBO(目標管理)とは、「社員が自律的に目標を設定・管理することによるマネジメント(経営)」というマネジメント哲学のことをいいます。そもそも、MBOは「Management by Objectives and Self-control」の略称で、1950年代に経営学者のピーター・ドラッカーが提唱したマネジメント哲学です。
日本においては、1990年代にMBOという言葉が広まります。その際、MBOは「目標管理」と翻訳され、ノルマ管理型の成果主義を推進する人事評価手法として広まってしまい、多くの誤解が生じたまま現在に至っています。
MBO(目標管理)が普及した背景
MBO=「目標管理」という本来の定義と異なる形で広まった背景には、1990年代から急速に広がった成果主義の考え方があります。バブル崩壊後、年功序列による人件費の増加を抑制することを目的として、多くの企業が成果主義を導入し始めました。そこに、目標の達成度というわかりやすい指標で社員の仕事の成果をはかることができる、目標管理の考え方が適合したという経緯です。
MBOにおける誤解
MBOは本来の意味ではなく、「目標管理」という人事評価手法として広まりました。そのため、以下のような誤解が生じています。
本来のMBO | 誤解されたMBO |
マネジメント哲学 | 人事評価手法 |
主語は全てのマネージャー(管理職) | 主語が経営者または人事部門 |
組織に対して自らが果たす貢献を目標とする | トップダウンで落ちてくるノルマが目標になる |
自チームの成果に加えて、他チームへの貢献を定義 | 個人主義・自チーム主義となり組織が歪みやすい |
短期・中長期をバランスさせる | 期間は3ヶ月・半年・1年など査定期間に準ずる |
定量と定性を含む | 必ず定量(数字)にする |
仕事を自ら管理する | 数字を上司が管理する |
情報は自らが直接得る | 情報は上司が握る |
このように、本来のMBOには「自己管理」という定義が含まれているので、主体的に目標を作り、管理するといった意味合いが内包されています。一方で、誤った意味で広まったMBOは人事評価手法なので、主語が経営者や人事部門になり、トップダウンで落ちてくる数字を達成することが主眼となっています。
02MBOとOKRの違い
OKRは「Objectives and Key Results」の略称で、目標と主要な結果を意味します。MBOと並んで目標管理の手法として語られることが多いですが、こちらもMBO同様に誤認しているケースが多く存在するのです。
OKRは、インテル社によるMBOの実践手法として生まれました。ドラッカーと親交が深かったインテル社のアンディ・グローブ元社長が、1970年代にMBOというマネジメント哲学を実践するための手法としてOKRを生み出したのです。その後、GoogleがOKRを取り入れ、OKRという手法が世界的に広まっていきました。
つまり、MBOとOKRには、そもそも前提として哲学と手法という違いがあるのです。また、MBOというマネジメント哲学を実践するための目標管理の手法がOKRなので、これらはセットで考えるべきものと言えます。
03MBO(目標管理)のメリット
MBO(目標管理)は、そのメリットを認識した上で運用を行えば、さらなる効果が期待できます。主なメリットを3点ご紹介します。
主体的に業務へ取り組む人材の育成
目標管理の手法は、目標の設定や進捗の管理といったプロセスにおいて社員が主体となって実行することになります。もちろん上司のサポートは必要となりますが、自分が決めた目標達成のために、自分で取り組み方を考えやり遂げるというステップを踏むことは、いわゆる指示待ち型でない、自主性のある人材を育成することに役立つでしょう。
社員のモチベーションアップ
目標管理制度においては、社員とその上司とのコミュニケーションを通して、社員の能力に合わせた個別の目標を設定することとなります。会社や上司の設定したお仕着せの成績目標ではなく、会社の方針とすり合わせた上で、社員自身がチャレンジしたいことを目標に盛り込むことが可能です。このように「自分で決めた」目標にチャレンジするということは、社員の業務へのモチベーションアップにもつながります。
人事評価の公平性・透明性の担保
目標管理制度においては目標の達成度というわかりやすい指標を評価の基準としますが、これは人事評価における評価指標のうち、成果評価と非常に相性がよいやり方です。目標管理制度を適切に運用し、ある程度定量的な目標達成度=成果を人事評価の尺度とすることで、評価制度の公正性・透明性の担保につながり、社員に納得感を持たせることができるでしょう。
04MBO(目標管理)が機能しない理由
MBOは時代遅れ。MBOは機能しない。このような声も多く聞かれますが、MBOが機能しない理由は業績向上という観点が弱いか、人間性の尊重という観点が弱いか、そのいずれも弱いかです。上記の画像は、縦軸を業績向上・横軸を人間性の尊重と置いて、4象限でそれぞれMBOのパターンを表したものです。
つまり、MBOが人間性偏重型になっているか、ノルマ管理型になっているか、形式重視型になっている場合に、正しく機能していないことになります。
ノルマ管理型MBOの課題
ノルマ管理型MBOは、業績向上の意識は強いが、人間性の尊重が弱いパターンです。多くの日本企業が陥った失敗MBOが、このノルマ管理型MBOと言えるでしょう。
MBOを業績追求の仕組みと勘違いして導入したことで、成長局面では機能しましたが、安定成長期やゼロ成長期ではモチベーション低下や離職を招く結果となりました。
人間性偏重型MBOの課題
人間性偏重型MBOは、人間性だけ尊重して業績向上の意識が弱いというパターンです。社員の幸福感が最優先され、部下の発言に耳を傾けることが絶対の状態となってしまい、挑戦するマインドや成長意欲が薄れていく状態です。
ノルマ管理型MBOに陥った企業が反省して、「心理的安全性」や「傾聴」、「コーチング」などを学び、部下の話を聞かないといけないと思いすぎたために、ぬるま湯を作ってしまって失敗するのが、こちらの人間性偏重型MBOです。
形式重視型MBOの課題
形式重視型MBOは、業績向上の観点も弱ければ、人間性の尊重も弱いという最も良くないパターンです。このパターンに陥る企業の特長として、手段が目的化していることが挙げられます。
「最近、MBOとかOKRが流行っているらしいから、弊社も導入しよう」といったように、解決すべき課題や目的意識がないままにMBOを導入した結果、現場の管理職や社員が実態と伴わない面倒な作業を増やされて辟易する。このような状態に陥るのが、形式重視型MBOです。
05目標管理の実践方法
MBOを本来の「目標と自己管理によるマネジメント」として捉え、MBOを実践する手法としてのOKR、KPIを活用した目標管理の実践方法を紹介します。
1.目標を設定する
まず、目標(組織に対して自身がマネジメントするチームや部署が果たす貢献)を決めましょう。その際に、他チームへの貢献を定義することも忘れてはいけません。
そして、短期・中長期のバランスをとり、目先の貢献だけでなく未来への種まきも同時に考える必要があります。また、定量だけでなく定性目標が含まれていても問題ありません。
2.目標を達成するためのKey Results・KPIを見極める
目標を決めたら、それを達成するためのKey Results(主要な結果)を見極めましょう。そのKey Results自体がKPIになることもあれば、Key Resultsを因数分解してKPIを決める必要がある場合もあります。
3.進捗を確認する
進捗は目標・Key Results・KPIのそれぞれをモニタリングできるようにしておきましょう。また、進捗は日次・週次・月次で分解して、現状の進捗率を確認できるようにしておき、日次でビハインドした分は翌日で取り返せるようにアクションを変更できると達成率が上がります。
また、目標達成までの期日を1週間くらい前倒しで計画しておくと、不測の事態が発生しても取り返しができるので、目標達成確率が上がります。
4.評価・振り返りをする
評価・振り返りは必ず実施するようにしましょう。未達だった際に振り返りをする人は多いですが、達成した際の振り返りも重要です。
ハイ達成した際は、最初に立てた目標の見立てが間違っていた可能性があるので、どの見立てを誤ったのかを振り返り、次の目標設定に活かす必要があります。また、他部署への貢献という観点も振り返り、本当に自分のチームの成果が他部署に貢献できているのかを確認し、他部署が未達だった場合も目標の修正が必要だったということで内省しなければなりません。
06MBO(目標管理)を正しく機能させるポイント
MBO(目標管理)は適切に運用すれば多くのメリットを享受できます。しかし、特に人事評価のツールとして利用する場合、以下のようなリスクに留意する必要があります。
目標が「人事評価のため」のものになる
人事評価制度全体に対して目標管理の占める存在感が大きなものである場合、目標の達成度によって社員自身の評価や昇格、昇給が大きく左右されることになります。このような条件下においては、社員は自身の評価が下がることを恐れて確実に達成できる目標、つまり自分の能力に対してやや低いレベルの目標を立てようとする傾向があります。それでは、目標管理制度の目指すところのひとつである「社員の成長」にはつながりません。 このような現象を防ぐためには、目標の達成度だけではなくそのプロセスも評価するような仕組みを作ることが有効です。また、そもそもの目標設定時に、そのレベル感が適切なものであるかをチェックする体制を整えることも必要です。
業務に対する長期的な視野が養われにくくなる
多くの企業では、目標設定から評価までのスパンは1年以内に設定されています。期初に目標を設定し、期末にその達成度を評価するというケースがほとんどです。 ここで注意したいのは、それによって社員の業務に対する長期的な視野が失われる恐れはないかということです。目標の達成は大切なことではあるものの、あまりにそれに目が向きすぎると、現在の目標と直接的な関連のないスキルを身に着けるインセンティブが失われるリスクもあります。また、1年ごとの目標設定では、じっくりと腰を据えて取り組む数年規模の大きな仕事を、目標として据えづらくなるという可能性も出てきます。これらを防ぐためには、目標の中に自己啓発を盛り込むことを推奨したり、数年単位の大きなプロジェクトに取り組む際の目標の立て方をケーススタディのような形でアナウンスするとよいでしょう。
役職者の負荷が増大する
目標管理制度の運用には、上司のサポートが必須ですが、このサポートによって上司の負荷が増大しやすいということも目標管理制度の特徴です。 部下が自主的に立てる目標を適切なレベルにまで導くというところから始まり、進捗の確認とアドバイス、評価と、上司の役割は多岐にわたります。上司が一方的に部下へノルマを課すというやりかたに比べると、コーチング的な役割が加わる分負荷が高まるのです。 そのため、人事部門としては、なるべく役職者の負荷を軽減するための工夫が求められます。システム化の検討や、進捗管理面談の頻度ややりかた、各プロセスで使用する帳票などを、現場が実際に掛けている時間を踏まえて定期的にブラッシュアップしていくことが望まれます。
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・自己啓発への活用方法 など
07まとめ
目標設定・進捗管理・評価と、目標管理制度のプロセスは非常に明白です。しかし、人事部門や現場がその意義を理解し、それぞれのプロセスが適切に運用されているか否かによって、その効果は大きく変わってきます。社員ひとりひとりの成長や、組織全体の目標達成につなげるために、運用方法の組み立てには工夫を凝らしましょう。