大公開!過去授業レポート

第6回
Granma 熊坂 惟と考える、いま世界が取り組むべき問題とは
「世界の問題」とは何か
5分
「世界の問題」とは何か
熊坂 惟 先生
株式会社Granma
実施日
2012年2月16日(木) 20:30〜21:00
タグ
  • イノベーション
  • デザイン
  • 国際
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授業レポート

BOP層からイノベーションを起こしていく

「世界の問題」をテーマに、現在の世界で立ち上がりはじめている運動などを例にとりながら考えてみたいと思います。特に、「世界中に暮らす人達の生活の質を高めつつ、持続可能な社会を形成する為にはどの様にすれば良いのか」、という点を中心に考えていきます。通常「貧困」というと皆さんは何か経済的な問題だと捉えるのが一般的だと思いますが、私達Granmaは、貧困を「イマジネーションの枯渇」と定義しているところが一つの特徴だと思います。決して経済的なファクターだけで「貧困」という言葉を規定しているわけではない、という点です。

Granmaは、「More Imaginative Life」即ち「最大多数の最大幸福を実現するプラットフォームを創ろうとしている株式会社です。創業のメンバーは世界中を放浪してきたメンバー(最多で過去50ヶ国訪問)で構成されているのですが、メンバー全員で共通していたのが「アジア」を旅してきたということ、旅の途上で「社会課題」という切り口について考えていたという点でした。まず、「アジアの社会課題の解決に資するようなビジネスを行おう」と考えた時に、貧困を「想像力の枯渇」だと定義するという結論に行きつきました。その点については順番に説明していきます。

海外を旅していると、色々な人たちと仲良くなるように、Granmaは代表の本村を中心にアジア圏を転々としていきながら、各NGO団体や、マイクロファイナンス機関や、大学など、様々な問題に対して挑んでいる方々とのネットワークを自然と構築していきました。Granmaは、そのような現地の人たちとデザインという力を使って、ビジネスをすることを通じて、社会にある問題に取り組むということに重きを置いて活動しています。「社会の役に立ちそうなのはわかったけれど、どうやって会社を維持しているの?」というような質問をしばしば受けます。メーカーをクライアントとして、バングラデッシュで水の浄化をテーマに、農村コミュニティの中で現地NGOと一緒に水の浄化システムをいかに生活者ニーズに合わせて適応するかという取り組みや、インドの農村やスラムの低所得者層が抱える生活課題に関するリサーチなどを行ってきました。

「世界の問題とは何か」という話に入って行きますが、まずは「BOP層」について考えてみましょう。「BOP」とは即ち、「Base of the Pyramid」(ピラミッドの底辺)を省略した単語です。2009年くらいから日経新聞などでも頻繁に出てくるようになったキーワードです。「BOP層」の定義としては、一人当たり年間所得が購買力平価で3,000ドル以下の階層と定義されています。一般的に世界には40億人ほどがBOP層に当てはまり、多くはアジアに集中しています。「BOPビジネス」と一概に言われるものとしての「BOP」は、低所得者の人たちを、モノを売る対象として、人口規模が多いところに対して低価格化したものを販売してそれを大量に売っていくことで利益が出るという購買者、即ち「マーケット」だとみなして語られることが多いのですが、現在ではその概念が少し変わってきています。WEBの世界にも、WEB1.0とかWEB2.0というステップを定義して語られることがありますが、BOPにも1.0と2.0という考え方があります。「BOP2.0」では、購買者として向き合ってきた、貧困層をいかにビジネスパートナーとして巻き込んでいくかという考え方にシフトしています。

▲ 出典; http://ameblo.jp/haraochi/entry-10400809892.html より抜粋

ここまでより議論がなされて来ましたが、私達はそれを踏まえて世界の問題に対して、「デザイン」という切り口で取り組もうとしています。デザインと貧困は無関係のように見えます。2つが関係あるということを示す例として、アメリカでは「DESIGN FOR THE OTHER 90%」という展覧会が2007年に開催されました。この展覧会は、安全な飲料水へのアクセスやエネルギー不足などの社会課題に対し、プロダクトやシステムの生成から供給(※一部は廃棄まで)をデザインというアプローチで実践している事例を紹介するという展示でした。デザインが、社会課題に対するソリューションになり得るんだ、と世に知らしめたエポックメイキングな展覧会でもありました。私たちは、そういったソリューションを提供している世界中の企業・団体・大学機関を訪問し、プロダクトと彼らのストーリーを東京の六本木ミッドタウンの「DESIGN HUB」というスペースと「AXIS Gallery」というスペースに展示、2010年に世界を変えるデザイン展として開催しました。その時には大きく、「water・food・energy・health・education・housing・mobility・connectivity」という8つの課題を定義して、これらの課題に対して直接「デザイン」という形を使って解決策を提供しているケースを展示してきた訳です。その後の反響に関しては、デザインやエンジニアリングなど、企業や個人が持っているノウハウやスキルをいかに社会課題や途上国というフィールドに還元できるか、そこでチャレンジできるか、という事をやってみたい」というような声が非常に多く寄せられたのがこの展覧会の特徴でした。

▲ DESIGN FOR THE OTHER 90% ポスター

▲ DESIGN FOR THE OTHER 90% 会場風景

「Grassroots Innovation」を知っていますか?

インドのR.A. Mashelkar氏によるTEDのプレゼンテーション「Breakthrough designs forultra-low-cost products」は、是非みなさんにもご覧頂きたいです。ここで登場するキーワードに「Frugal Innovation」という言葉があります。「frugal」とは「質素な、慎ましい、節約する」という意味があります。端的にプレゼンテーションの中から抜粋したケースをお話ししますと、日本でも話題になった「Tata Moters」の「TATA NANO」という、小型で低価格の車がインドで販売されましたが、これは低価格ではあるけれど、顧客にとっての必要条件を十分に満たしているという意味でパフォーマンスは非常に高い。ガンジーの言葉にあるように、「できるだけ少ないものからより多くを得て、できるだけ多くの人と共有する」このような、「Frugal Innovation」がインドのみならず、世界から注目を集めています。

私たちはこのようなイノベーションが経済的に恵まれず、教育を受ける機会を失った貧困層の最大限の努力と才能によって実現されているという事実を、インド経営大学院の教授の活動を通じて知りました。そして「Grassroots Innovation」と呼ばれるその営みに着目しています。BOP層とレッテルを貼られた人たちが現地の環境で、自分たちの生活の中の「こんなものがあったらいい」という要望に対して、自分たちの身の回りにあるものを中心に最大限の想像と工夫をこらして創りだしたイノベーションの数々は、大げさに聞こえてしまいますが、当然、中には本当に発明と言いたくなるようなものもあります。こういったイノベーションのカケラを世界中から、探し始めたのが展覧会後、今に至るまで取り組んでいることです。

世界を変えるデザイン展で展示していたプロダクトに、あえて懐疑的な目を持つと、「sustainability」(持続可能性)というキーワードが立ち上がってきます。例えば、水を浄化するストローがありますが、実際に国際機関等々から、NGOが資金を調達して、NGOがストローを作っている企業からストローを購入して、それを供給していくというモデルになっているのですが、これは結局、資金を調達できなければ、ストローを行き届かせることが難しいという構造になっています。

▲ 水を浄化するストロー「Lifesraw」

また、プロダクト側にも、コストの問題、オーバースペックな状態であるといった問題があります。ファイナンス面、プロダクト面以外にも、実際に現地の課題とプロダクトの「認識のズレ」のようなものが存在しています。つまり、メーカーサイドが認識している課題が現地の生活者が抱える課題の本質からずれているという点です。

先述の、インド経営大学院の教授であるAnil Gupta氏は、「貧困層と呼ばれる彼ら自身の持っている知識というのが問題解決への一番の鍵となる」と言っています。問題点に向きあう解決策は問題を抱えている対象の内にある、ということです。この考え方は、彼自身「Grassroots Innovation」発掘の先駆者として20年近くインド各地の農村を渡り歩き、ビジネス化をサポートしてきた中で生まれたもので、私たちも賛同しています。

▲ Anil Gupta氏

例えば、粘土でできた電気を使わない冷蔵庫を販売している方がいます。この方がなんでこのようなものを作ったのかというところから、「Grassroots Innovation」について考えてみましょう。この冷蔵庫は、元々開発者のラガヴバイー氏が瓦職人として割れにくい土器の開発研究を、行なってきたということが前提になっています。インド西部で2001年に大きい地震がありました。その地震後、エリア一帯の冷蔵庫等々が全部壊れてしまったという新聞記事を見つけたそうです。いわゆる問題が発生した瞬間です。その問題に対して彼は、生活向上のためにも陶器を生成する技術を活用して、壊れにくく電力が不要の冷蔵庫を作って、現地の人々たちに供給するという取り組み始めました。そこで作り始めたのがこの冷蔵庫です。自分の持っている技術と、現地にある素材というものを使って、プロダクトを提供していったというこの一連のストーリーが、「Grassroots Innovation」の事例のひとつです。このようなイノベーションを発掘し、文章化、データベース化、マイクロインベストメント基金を通じた投資、マーケティングと製品化、特許取得と知的財産権の保護までをトータルでサポートするといった取り組みが、先ほどのGupta氏を中心に築きあげられてきた取り組みです。このような発明、発明に繋がりそうなアイデアの卵がインドには16万件以上集まっているというのが現状です。

▲ 自転車を使ったヤスリの例

思考を停止することなく、問題に多面的にアプローチする

世界の課題を中心に置くのはもちろん重要なのですが、課題の中心にいる人が見えて、その人自身がその課題を顕在化させ、創りだしたものがあって、そこにストーリーがあるということで、問題へのアプローチのあり方が変わるのではないかと考えています。また、マクロな課題を提示されるより、人の方が対象に対する共感を呼びやすい。私たちは、現地の生活者の方たち自身が自らの意志で未来を切り拓ける状態を理想としています。そして、秀逸なアイデア、起業家マインドを持ったイノベーターのビジネスをサポートしていく存在が必要不可欠だと認識しています。そのために、Granmaがお手伝いできる領域はかなりたくさんあると考えています。

「世界の問題」とは何か? と大上段から捉えてしまうと、「発展途上国が抱える問題」という総論について考えてしまいます。しかし、問題の渦中にいるのはいつでも人です。さらに、「発展途上国=貧しい」とみなしてしまう我々の想像力の欠如についても考えなければなりません。はじめに、貧困を「イマジネーションの枯渇」と定義しました。想像を止めてしまうことは、思考停止につながります。彼らも問題解決に対するアイデアを持っているのに、そこに対して耳を傾けてこなかったという歴史を繰り返すのではなく、そこから未来を創っていかなければならなりません。

<第6回:「世界の問題」とは何か レポートおわり>
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先生プロフィール

熊坂 惟
熊坂 惟 先生
株式会社Granma

国語の教師を目指していた学生時代、これからの時代に教師をやるならば、地球的視座を身につける必要があると思い立ち、一年間の周遊チケットを手に世界50カ国近くを訪問。そこで得た問題意識を胸に、自分に出来ることは何かを追求すべく社会課題の解決に取り組む人々に出会っていく。

ビジネスの力で社会課題の解決に挑む本村拓人に深く共感し、株式会社Granmaの創業期に参画。

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