尖閣諸島の領有権をめぐる日中対立が深刻さを増しているが、人も住んでいない遠い海に浮かぶ小さな島をめぐって争うのは愚かなことだ、と考えていないだろうか。この問題は、単に小さな島の領有権をめぐる争いではない。周辺の海底資源をめぐる問題でも、ナショナリズムの問題でもない。これは今後のアジアの将来を左右する大きな問題であり、これをどのように解決するかどうかで、アジアで国際法に基づいた秩序を維持できるのか、それとも力が正義という論法がまかり通る地域となってしまうのかが決まることになるだろう。
現在、アジアの海で起こっている様々な問題の中心にいるのが中国である。問題の本質を理解するためには、背景にある中国の海洋戦略を分析しなければならない。この講義では、尖閣諸島をめぐる日中対立を取り上げながら、その背景にある中国の海洋戦略を理解することを目的とする。中国人民解放軍(陸軍)の一部門に過ぎない海軍が、改革開放とともに独自の戦略を打ち立てるようになったが、一体何を目指そうとしているのか、そして日本はどのようにそれに向き合うべきなのか考えたい。