コーポレートガバナンスの定義とは?企業で強化が求められる背景や事例について解説
コーポレートガバナンスは、今、企業の姿勢を表す上で重要な仕組みです。本記事では、アバナンスとはなにか、混同しやすい用語との違いからガバナンス強化で成功した3社の事例をご紹介していきます。企業姿勢として当たり前となってきているコーポレートガバナンスの仕組みを理解し企業価値を高めていきましょう。
01コーポレートガバナンスとは何か
まずはコーポレートガバナンスとはなにかについて解説していきます。コーポレートガバナンスの定義や企業におけるコーポレートガバナンスの必要性とはなにかを最初に理解していきましょう。コーポレートガバナンスの定義を理解することで自社においていかに必要不可欠な概念であるかを整理していくことができます。
コーポレートガバナンスの定義
ガバナンス(governance)とは、もともと「統治」という意味です。企業における「コーポレートガバナンス」は、統治だけではなく「統治・支配・管理」の3つを表します。コーポレートガバナンスの定義は、「健全な企業経営を行うために、自社における管理体制を構築し運用する」ことです。日本では、2000年に起きた三菱のリコール隠しから始まり、大企業の不祥事が相次いだことで注目されました。企業経営を行う上で、経営者や企業全体の不正や情報漏洩などのリスクを未然に防ぎ、サービスを安全に利用してもらうための行動「コーポレートガバナンス」は、現在、強化すべき経営ミッションの1つになっています。
コーポレートガバナンス整備の必要性
コーポレートガバナンスの定義でご紹介していますが、2000年から起きている大企業の不祥事によりサービス利用者の意識が大きく変化しています。大企業だから大丈夫という概念とは異なり、サービスを利用して問題ないかを確認するのは自分達で行うべきではないかという思想が生まれています。継続してサービスを利用する理由は、大手企業ということではなく安心してサービスを受けることができるか、信頼できる企業であるかで決めています。コーポレートガバナンスを実施するということは、透明性のある企業経営をしていることや不正なくサービスを提供している企業姿勢をアピールしサービス利用者に安心してもらうことが可能になります。このようにサービスを利用する側に対してもコーポレートガバナンスは有効ですが、企業の不正を防止するという側面では企業自体にも有益な概念になります。
02上場企業では必須のガイドライン「コーポレートガバナンス・コード」
コーポレートガバナンスは経営の透明性から多くの企業で整備されていますが、金融庁および東京証券取引所は、上場企業がコーポレートガバナンスを行う上で参照すべきガイドラインとして、「コーポレートガバナンス・コード」を公表しています。ここではコーポレートガバナンス・コードの概要や非上場企業の対応方法について解説していきます。
コーポレートガバナンス・コードとは
「コーポレートガバナンス・コード」とは、企業が株主や取引先、従業員などステークホルダーの立場を踏まえた上で、透明かつ適切な意思決定を行うための仕組みを意味します。「Corporate Governance」の頭文字を取ってCGコードと略す場合もあります。コーポレートガバナンス・コードでは、次の5原則で構成されています。
▼コーポレートガバナンス・コードの基本原則
- 基本原則1「株主の権利・平等性の確保」
- 基本原則2「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」
- 基本原則3「適切な情報開示と透明性の確保」
- 基本原則4「取締役会等の責務」
- 基本原則5「株主との対話」
これらは、2022年4月より再編された東京証券取引所の「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場において、適用されており、プライム市場に関しては、取締役会の独立性や諮問委員会の設置が義務付けられるなど、水準が厳しいものになっています。
非上場企業の対応方法
上場していない企業の場合は、コーポレートガバナンス・コードが適用外のため、コーポレートガバナンスの整備は必要ではありません。ですが、上場を視野に入れている企業は今後のことを考えて、コーポレートガバナンス・コードに基づいた体制整備を行っていくと良いでしょう。また、コーポレートガバナンスの整備は資金調達や顧客との取引などにおいて、経営状況の透明性をアピールすることができるため、信用を高めることができます。したがって、上場の有無にかかわらず、コーポレートガバナンスの強化は企業価値向上に貢献するといえます。
03コーポレートガバナンスとの類似用語の違い
次にコーポレートガバナンスと類似している用語について解説していきます。類似用語のため誤って使用してしまう可能性があります。コーポレートガバナンスとの違いを理解し用語を正しく使えるようにしておくことも大事なことです。
コンプライアンスとの違い
コーポレートガバナンスと類似して最も多く使われるコプライアンスの意味を解説します。コンプライアンスとは「法令遵守」のことです。ビジネスにおいては、「法令遵守」だけではなく「社内規範や社会規範の遵守」の意味でも使用されます。コーポレートガバナンスの概念は、法令遵守を含む企業統制体制を作ることを意味するため、コンプライアンスはコーポレートガバナンスの中に含まれていると考えます。
▼コンプライアンスについて詳しく知りたい方はこちらから▼
【関連記事】コンプライアンス教育の重要性とおすすめの実施方法と教材を紹介
リスクマネジメントとの違い
リスクマネジメントとは、企業経営や企業そのものに課題や危機が迫った際に、問題を回避することやダメージを最小限に食い止める準備や措置のことを意味しています。コーポレートガバナンスは、企業統制をはかる中でリスクの回避についても対策を講じるため、リスクマネジメントの概念はコーポレートガバナンスの中に含まれていると考えます。
▼リスクマネジメントについて詳しく知りたい方はこちらから▼
【関連記事】リスク管理とは?そのプロセスやリスク管理の実効性を高める方法を解説
ガバメントとの違い
ガバナンスとガバメントは非常に似ている用語です。ガバメントは主に国や地方自治体などによる統制という意味で利用され、企業独自の考え方ではありません。コーポレートガバナンスは企業にとって私的な統制に対して、ガバメントはもっと広義な範囲での統制を意味しています。
04コーポレートガバナンス強化によるメリット
次にガバナンスを強化することで企業が得られるメリットについて解説していきます。コーポレートガバナンスを強化することで得られるメリットには内部的、外部的の両側面にあります。その代表的なメリットを解説していきます。
労働環境改善
内的なメリットの1つに労働環境の改善があげられます。企業において従業員の労働環境は整備する義務がある項目です。コーポレートガバナンスを整備していく中で、企業サービスを提供しつづける環境として労働環境の整備を行う項目を盛り込みます。従業員の労働環境を酷使した環境では継続的、かつ、良いサービスを提供し続けることはできないことを踏まえているためです。企業の統治や管理を行う対象は、経営層だけではなくそこで働く従業員についても含まれています。また、管理という視点で従業員の労働環境、労働時間についても管理を進めていくため、労働環境改善を実現していきます。
企業価値向上
「コーポレートガバナンスで管理されている」「ガバナンスが効いている」という評価は、管理が正しく行われ統治されていることを指します。企業への対外的な信頼が向上し魅力ある企業と評価されることにつながり、企業の社会的価値が向上するとともに、株主・サービス利用者が安心できる企業だと判断を下します。この流れにより、企業のサービス価値やサービス利用量も増え、財務面での成長も期待できるようになることを理解しておきましょう。
持続的な収益性向上
企業価値の向上により、サービスへの信頼が厚くなればサービスを利用する顧客数、取り扱い金額が増加します。同時に、より良いサービスを提供するための資金が調達されることで、新サービスの提供も可能となり顧客離れを抑制することが可能になってきます。この繰り返しにより継続的にサービスが利用され持続的な収益の向上を実現することが可能になることを理解しておきましょう。
05コーポレートガバナンス強化の実施手順
コーポレートガバナンス強化の方法とはどんな手順があるのでしょうか。次にコーポレートガバナンス強化の実施手順について解説していきます。コーポレートガバナンスの強化は短期間で実現することはありません。中長期的な計画で実施していくことが必要です。
社内ルールの整備と社内体制の構築
まず行うべきことは、社内ルールの整備です。なにをどういった手順で行うのか、それを管理する方法について検討を行い実践していきます。しかし、企業の中にある様々な業務や工程を整備することは大変なボリュームとなります。社内ルールの整備を漏れなく、計画通りに行うためには社内における推進体制を構築しておく必要があります。この推進メンバーは計画の遅れや見直しを行うと同時に、部門メンバーと一緒にルールの整備を行う役割を担います。
社内における周知と認知度の向上
コーポレートガバナンスの強化は原則、従業員全員に影響を与える大きなプロジェクトです。企業をより成長させるためにも、ガバナンス強化を実施すること、自社にとって不可欠なこと、そして、自分達が実践するメンバーであるという認知度の向上が必要です。策定されたルールを浸透させ、常に自分達が守っていくという風土作りをしておかなければ、制定されたルールを守ることはできなくなります。
監視や評価体制の構築
自社内での監視や策定されたルールを評価する体制を準備することが必要です。内部監査を行う部門を設立し自社の評価を定期的に実施し第三者視点での監視体制の整備を行います。内部監査だけではなく第三者視点での監査を設けることで経営陣の不祥事などを見過ごす、思い込みなどで判断しない評価体制が実現し、常に監視体制が強化され統治、管理された仕組みが維持できることを念頭に組織作りを行いましょう。
06コーポレートガバナンス強化の成功事例
最後にガバナンス強化を実施した企業の成功事例をご紹介します。コーポレートガバナンス強化により企業価値があがった事例を確認することで、自社の目指すべき方向性を導く参考になります。インターネット上には、成功事例として多くの企業が紹介されていますので自社の業種や業態に似ている企業を是非、参考にして頂き自社のコーポレートガバナンス強化のヒントを得てください。
資本市場との対話を重視するソニー
ソニーグループは、中長期的な企業価値向上と企業の社会的責任を意識したコーポレート・ガバナンスを実践しています。具体的には、健全かつ透明性のある経営の仕組みを構築・維持するために、取締役会メンバー11人中9人が社外取締役と非業務執行取締役であり、取締役会議長も社外取締役が担当。また、情報セキュリティ担当取締役の設置など、体制強化に向けて、積極的に取り組みを実施しています。
透明性の高いガバナンス体制を構築するキリンホールディングス
キリンホールディングスは、社会貢献が企業の成長と財務的価値を拡大すると考え、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」という長期経営構想のもと、スキルの高い外部人材を経営に招き、透明性の高いガバナンス体制を構築しています。
抜本的な経営改革を行う塩野義製薬
塩野義製薬は、コーポレートガバナンスの基本である、外部のステークホルダーの目を強く意識し、広く透明でトレースできるような対話を心掛けています。また、常に危機感を持って経営を行い、商品の選択と集中を行い、利益率の大幅改善に挑戦。結果として、積極的に自社の経営改革を行い、業績を向上させています。
健全と透明性を目指す花王
花王は、企業の持続的な成長を目的としたガバナンス強化を実施しています。具体的には「財務的および非財務的の両方の側面から戦略・取り組みの強化」をテーマに取り組みを行い成功しています。花王では、2030年までに自分達がどのような企業でありたいのかのビジョンを示した「花王ウェイ」を構築することで具体的な行動指針に繋げています。この中で「心を込めた“よきモノづくり”を通じて、豊かな生活文化の実現と社会の持続可能性への貢献」を使命とし従業員全てがそれに向けた行動を行うことを明言しています。
企業統治体制を実現したパナソニック
「透明性の高い事業活動と公正かつ正直な行動を迅速に行う」ことを目的としてコーポレートガバナンスを戦略基盤の重要な取り組みと位置付けています。大企業であるパナソニックは事業部数38を抱えるため、意思決定の仕組み、意思疎通のスピード化は経営課題です。それを実現するために「事業軸」「地域軸」で分けた7つのカンパニー制をとり、成長戦略の実現を図っています。また、「コーポレート戦略本部」「プロフェッショナルビジネスサポート部門」などのコーポレートガバナンスを引率する部門を立ち上げ責任と役割を明確化して推進を図っています。
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07まとめ
本記事では、ガバナンスの定義、類似用語の解説から成功事例までを解説しています。企業におけるガバナンス強化は必須の経営課題であり、企業の成長や継続的ビジネスを行う上では不可欠な要素となっています。しかしながら、ガバナンス強化には時間も手間もかかります。環境の変化を受けることで、完全なゴールがある訳でもありません。しかし、これからの企業経営には不可欠な要素であることを理解し、自社のガバナンス強化を実現してください。