フレキシキュリティとは?意味や効果、デンマークやオランダの事例を詳しく解説
フレキシキュリティとは、労働者の生活を安定させるため、雇用の柔軟性を図る政策のことです。労働人口の減少や終身雇用制度の崩壊により、一人ひとりが自分らしく働き生産性を高める手段として注目されています。当記事ではフレキシキュリティの意味や効果、デンマークやオランダの事例、人事ができることなどを詳しく解説します。
- 01.フレキシキュリティとは
- 02.フレキシキュリティの効果
- 03.フレキシキュリティモデル国の取り組み事例
- 04.フレキシキュリティ導入のために会社ができること
- 05.まとめ
01フレキシキュリティとは
フレキシキュリティとは、雇用の柔軟性は担保しつつ、同時に社会保障によって労働者の生活の安定を守る政策のことです。 フレキシキュリティという言葉は、英語で柔軟性を意味するフレキシビリティ(Flexibility)と安全性を意味するセキュリティ(Security)を組み合わせてできた造語です。ここではフレキシキュリティの意味について詳しく解説します。
雇用の柔軟性とは
雇用の柔軟性とは、解雇規制の緩和や手厚い失業補償の給付により、従業員が安心してプライベートも両立しながら、次の職場を探すことができる仕組みです。 解雇規制を緩和していますが、決して企業側に従業員の解雇を促すための制度ではありません。労働市場の規制は緩和しすぎてしまうと、雇用調整が容易にできるようになるため、景気が悪化すれば失業率は大幅に高まることでしょう。 だからといって労働者保護ばかりに重点を置いてしまうと、経営の悪化や労働者のモチベーション低下を招くことになります。企業と労働者側のどちらにもメリットをもたらすために、雇用規制を緩和しつつ、失業対策などの労働者保護に努める必要があります。
なぜフレキシキュリティが重要視されているのか
フレキシキュリティが重要視されている背景は労働人口の減少や終身雇用制度の崩壊が挙げられます。 未婚化や晩婚化、出産年齢の高齢化、または子育て費用の負担増加などで少子化が進む一方、医療サービスの充実により平均寿命が延びていることから、日本では少子高齢化が深刻化しています。 また、人生100年時代といわれる現代は長期的な視点で自分のキャリアと向き合う必要があります。終身雇用制度も崩壊しつつあることから、生涯同じ会社に勤めるという概念をなくし、長期的な視点で自分のキャリアアップやスキル向上を検討すると良いでしょう。 労働人口の減少による人手不足や経済の縮小を抑え、一人ひとりが自分らしく働く社会を実現するために、フレキシキュリティが重要視されています。フレィシキュリティで雇用の流動化を適度に促すことで、個々の生産性を高めることが期待できるでしょう。
02フレキシキュリティの効果
フレキシキュリティは、企業に従業員の解雇を促す制度ではありません。適度な雇用の流動化が促されることは、企業にとっても従業員にとっても多くのメリットをもたらします。ここではフレキシキュリティの効果について詳しく解説します。
失業率の改善
フレキシキュリティは、雇用の規制を緩和するため失業率を高めてしまうように感じるかもしれません。しかし、実際にはフレキシキュリティは失業率の改善に役立ちます。 なぜならフレキシキュリティでは失業手当や再就職などの労働者保護に力を入れているからです。単に失業手当を給付するだけでなく、効果的な職業訓練の実施や失業者が再就職するまでの支援を手厚く行うため、失業率を改善することができるのです。 さらに再就職の際は失業者の要望やプライベートを優先しつつ進めることができるため、長期的な目で見ると一人ひとりが自分らしく長いスパンで働くことができることにつながります。
経済成長を促す
フレキシキュリティにより経済の成長が促されます。 高度成長期に確立した日本的雇用慣行ではそもそも、労働流動性を確保することを想定していません。終身雇用制度によって、新卒で入社してから同じ会社で定年まで安定雇用を保障することが期待されてきました。 しかし終身雇用制度では、自身のキャリアアップやスキルの転身の軌道修正が困難となってしまいます。年功序列型の報酬制度や社歴によるキャリアアップは、個々が成長するモチベーションを低下させ、革新的なアイディアの創出や従業員のスキル育成にあたっての弊害にもなってきたのです。 今では終身雇用制度は崩壊しつつあり、誰もが自分のキャリアアップを長期的に捉えた転職を前向きに考えるようになりました。雇用の流動性が高まれば、結果的に個々のモチベーションアップにつながり経済成長が促されることが期待できます。
自分らしく働く社会の実現
フレキシキュリティにより、一人ひとりが新たなキャリアに踏み出しやすくなることで「自分らしく働く社会の実現」が近づきます。 新型コロナウイルスの影響により、働く上でネット環境が整備されるようになり、オフィスに出勤するといったこれまでの働き方が変化しました。場所にとらわれずに働けるようになったことで、地方へ移住したり家での家事と両立させながら働く人も増加しています。 そのような中、自分のプライベートと照らし合わせ、新たな働く環境を手に入れたいと考えている人も多いのではないでしょうか。フレキシキュリティが実現すれば、失業後の生活に困ることはなく、前向きに転職活動を進めることができるでしょう。
03フレキシキュリティモデル国の取り組み事例
フレィシキュリティは、世界の中でもデンマークやオランダで高い効果を上げているといわれています。ここでは、デンマークやオランダにおけるフレキシキュリティの取り組み事例を具体的に解説します。
デンマーク
デンマークにおける失業率は4〜5%程度とEU内では低く、就業率は約75%と高水準となっています。 デンマークのフレキシキュリティ制度は「黄金の三角形」と呼ばれており、1.解雇しやすい柔軟な労働市場、2.手厚い失業手当、3.充実した職業訓練プログラムを軸としています。 デンマークにおける失業手当は、前職の給与の約9割であり、最長4年間支給対象となります。また、失業者向けの教育訓練制度や在職者向けの教育訓練にも力を入れており、失業者が特定企業だけでなく外部労働市場で活用できるスキルを習得する制度を整えています。
オランダ
オランダは、フレキシキュリティにより失業率の低下だけでなく財政の赤字解消も実現しています。 労働市場の柔軟性を高め、低失業を維持するためにオランダに導入されたのが 1999年施行の柔軟性と保障法(The Flexibility and Security Act)です。そのためフレキシキュリティという概念そのものがオランダで生まれたともいわれています。 オランダではフレックス労働者における労働者性や労働契約性の特定、さらに労働期間が定められている労働契約から期間の定めのない労働契約への転換や派遣労働契約規制などにも力が入れられています。
04フレキシキュリティ導入のために会社ができること
フレキシキュリティの規制緩和は国としての取り組みであるため、企業ごとに容易に変更ができません。しかし、会社として従業員にできることももちろん存在します。ここでは、フレキシキュリティ導入のために会社ができることを解説します。
資格取得やスキルアップの支援
従業員のスキルアップや資格習得を促すことで、従業員の転職や退職後の雇用を後押しすることができます。 従業員のスキルアップは会社全体にもメリットをもたらすため、企業は自己成長をしたいという従業員向けに学習を支援する制度を構築・整備すると良いでしょう。 例えば、福利厚生として従業員の書籍購入を支援したり、会社として研修や勉強会を開催することなどが具体的な施策として挙げられます。 また、資格を習得してスキルアップした従業員に対し現金を支給する「資格手当」という制度も存在します。会社からインセンティブをもらえることで、高いモチベーションで資格取得に励むことができるでしょう。さらに、資格取得の過程で学んだことが業務に活かされれば、結果として会社全体の生産性向上に役立てることができます。
上司と部下におけるコミュニケーションの活性化
部下のビジョン達成を実現させるためには、上司と部下で活発なコミュニケーションをとり、互いの考えや価値観を共有していることが大切です。 例えば1on1などで部下のキャリアプランやビジョンを聞いた上で、「どうやってそのビジョンを達成するのか」を上司が共に考えることができれば、部下のキャリアプランを広げることができるでしょう。 長期的な目線で自分のキャリアについて意見をもらえる機会は、「自分らしく働く」を実現する上で非常に貴重です。活発なコミュニケーションをとれるようにするために、心理的安全性が保たれていること、コミュニケーションをとる手段があることも重要です。
退職後も再び会社に就職できる仕組み作り
部下が退職し、新たな職種や事業に挑戦した後、その社員を再び受け入れられる環境が整っているかどうかは非常に重要です。 誰でも新たな挑戦には勇気が必要ですが、「安心して帰れる場所」が整えられていることで、果敢に挑むことができるようになるでしょう。退職し別の企業に勤めた後、再び前職に戻る人を「出戻り社員」と呼ぶことがあります。 出戻り社員を雇うことは、人となりや能力があらかじめ分かっている人物を採用することになるため、会社としてもメリットがあります。
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05まとめ
フレキシキュリティは、雇用の規制緩和と労働者保護を手厚く行うことで、失業率の改善に役立てられる仕組みです。 「自分らしく働く」社会の実現のためには、フレキシキュリティは欠かせないといえるでしょう。企業側は、従業員のスキルアップ支援や退職した社員の再雇用を積極的に行うことで、フレキシキュリティの実現につなげましょう。