公開日:2022/01/26
更新日:2024/03/12

サーバントリーダーシップの基礎|重視される背景や求められる10の特性からメリット・デメリットまでを解説

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サーバントリーダーシップは、1970年にロバート・K・グリーンリーフ博士が提唱し、「部下に奉仕することがリーダーの役割」という考えに基づく、支援型リーダーシップのことです。本記事では、サーバントリーダーシップの基礎知識や重視される背景、メリット・デメリットについて解説します。

 

01サーバントリーダーシップとは

サーバントリーダーシップとは、分かりやすくいうと支援型リーダーシップのことです。つまり、部下に対して指示や命令するのではなく、奉仕した上で目標を達成できるよう主体的な行動を促すリーダーシップを指します。

また、サーバントリーダーシップは、部下の召し使いではなく、リーダー自身が目標を達成するために、自らの意思で部下の支援に徹するというという点を理解しておかなければいけません。従来のリーダーシップは、トップダウンでメンバーや組織を動かしていく点で共通しており、部下に対して説明や指示、命令することが中心です。

一方で、サーバントリーダーシップは、部下の話を傾聴し共感することが中心になるため、コミュニケーションの質に大きな違いがあります。 したがって、部下の話に耳を傾け、どうすれば部下の役に立てるのかという視点が必要になるのです。

サーバントリーダーシップ誕生の背景

サーバントリーダーシップは、1970年にロバート・K・グリーンリーフというアメリカ人によって提唱されました。当時アメリカでは、ベトナム戦争の泥沼化や、ウォーターゲート事件の勃発により、若者たちが社会を導くリーダーに対して不信感を募らせていたのです。そんな時代の中で、グリーンリーフは短編小説「東方巡礼」から発想を得て、権力・物欲への執着ではなく人々が望む理想の社会を実現するために行動できるリーダーの必要性を提唱しました。

提唱者のロバート・K・グリーンリーフについて

ロバート・K・グリーンリーフは、前述したようにサーバントリーダーシップの提唱者です。父親の経営する企業で2年ほど勤務したのち、通信会社AT&Tのマネジメント研究センターでマネジメントの研究や開発に携わりました。また、マネジメント研究センターでセンター長となり、マサチューセッツ工科大学やハーバード・ビジネス・スクールで客員講師として講演を行い、ダートマス大学・ヴァージニア大学で教鞭を執りました。

サーバントリーダーシップの具体例

サーバントリーダーシップの具体例を紹介します。前述の通り、リーダー自身が目標を達成するために、自らの意思で部下の支援に徹するのがサーバントリーダーシップです。具体的な行動例が以下の5つです。

  • 1:明るい職場風土の醸成
  • 2:トラブル発生時に報告しやすい雰囲気作り
  • 3:トラブル発生時のフォロー
  • 4:メンバーを承認する
  • 5:メンバーの能力を把握する
 

02サーバントリーダーシップにおける、リーダーの役割

前述したように、サーバントリーダーシップの理論において、リーダーには奉仕の精神が求められます。権限や威光で引っ張っていくのではなく、まずは部下やメンバーに対して奉仕をして導いていくことが、サーバントリーダーシップにおけるリーダーの役割です。自らの良心に従って、部下を正解へと導いて行く姿が、理想のリーダー像と言えるでしょう。そのためには、部下の意見に耳を傾けて、共に協力することで目標を達成していく組織の運営をすることが重要です。

 

03サーバントリーダーシップが重視される背景

現代は、技術革新の進展によりビジネス環境が複雑化し、予測が困難な状況にあり、「VUCA(ブーカ)時代」と呼ばれています。働き方において、終身雇用や年功序列といった制度が崩壊しつつあり、人材の流動性も高まっています。不確実性の高いVUCA時代において、どのような状況になっても企業を継続、発展していけるよう対応が求められています。

ビジネスの環境変化の激化に伴い社員の主体性が求められている

不確実性の高いVUCA時代だからこそ、不測の事態に強い組織を作らなくてはなりません。企業がVUCA時代を生き抜くためには、経営層やリーダーだけでなく、社員の行動や考え方の意識改革も必要になります。 社員にこれまで以上に求められるのが、「主体性」です。主体性のある社員は、「何をすべきか自ら考え行動すること」が可能です。具体的には、上司の指示に頼って業務に取り組むのではなく、自身で課題を検討し、業務を進めていくことです。このことによって、業務全体の効率が改善がされ、チームの生産性向上に期待できます。 それに対して、上司の指示がなければ行動できない社員が多くなると業務の遅滞を引き起こし、チーム全体の業務の効率が低下してしまうのです。主体性を持っている社員は戦力として、チームに大きな成果をもたらすでしょう。したがって、サーバントリーダーシップは傾聴や共感を重視し、社員の主体性に働きかけるものであり、VUCA時代が到来している現代に、必要とされるリーダーシップの1つだといえます。

 

04サーバントリーダーシップに求められる10の特性

ここでは、サーバント・リーダーシップにおける10の特性について、NPO法人 日本サーバント・リーダーシップ協会の定義を参考にご紹介します。

  • 1:傾聴
  • 2:共感
  • 3:癒し
  • 4:気づき
  • 5:説得
  • 6:概念化
  • 7:先見力 予見力
  • 8:執事役
  • 9:人々の成長に関わる
  • 10:コミュニティづくり

傾聴

相手が伝えたいことを聞き出し、同時に自分自身の心の声に耳を傾けます。そして、相手に対して何をすべきかを考えましょう。 部下の話を遮って、アドバイスや説得などをしてしまうことを良しとはしません。丁寧に話を聞き、部下の考えや心の変化、悩みなどに気づき、部下に対して最善を尽くすことが重要になります。

共感

傾聴するためには、相手の立場から理解し、相手の考えを受け入れて理解します。 部下の話を先入観を持たずに、耳を傾けてみるとよいでしょう。部下に寄り添って、思いを受け入れることであり、その行為によって、相手は気持ちが軽くなり、心の傷が回復するにつながります。

癒し

相手の心身の回復を助け、組織に欠けているものを互いに補い合うことが、組織に成長や成果をもたらします。 部下が予期せぬ問題が発生したり、ミスをしたりして、モチベーションが下がってしまう場合があるでしょう。部下を精神的にサポートし、問題解決を一緒に考えるのもリーダーの大切な役目です。

気づき

全体を把握することも大事ですが、自分への気づきを意識することで、自身のリーダーシップを強化できます。 気づきは、あらゆる事象の本質を見極められ、チームや部下の些細な変化を知ることができます。そして、リーダーが自身の行動を振り返ることで、リーダーとして何をするべきかを知ることも大切です。

説得

リーダーとしての権限によって服従させることなく、相手に同意を得られるような説得の仕方をします。 部下が納得しない状態で、論理的に説明するだけでなく、目的などを共有して、納得してもらうことが必要です。社員が納得した上で仕事をすると、チーム内に相乗効果が出て、チーム力が強化されるでしょう。

概念化

将来を見据えた目標(組織やチームの目標)を明確にし、相手に分かりやすく伝えます。 異なる価値観を持った社員が、同じ目標を目指して達成するためには、それぞれが目的や役割を理解して、取り組む必要があります。目標に向けてやり遂げる重要性を共有しましょう。

先見力 予見力

過去の教訓や現在の状況から、将来的に起こる出来事を予測します。 ビジネスを取り巻く環境の変化にともない、チームが成長し続けていくためには、過去の出来事から未来を見据え、方向性を見定める力が必要です。

執事約

相手が成長できるように支援し、信頼関係を構築します。 部下に献身的に接し、部下の利益に貢献するように支援します。上司に献身的に支援してもらえることで、部下との信頼関係を築くことで、仕事に意欲的になるでしょう。

人々の成長に関わる

業務上の成果を超えて、社員が持つ可能性や価値を信じて、個人やチームの成長に深く関わります。 サーバントリーダーは、チームの成果だけを求めるのではなく、プロセスも重視し、一緒に働く仲間として社員の成長を促すことができます。

コミュニティづくり

社員が、働きやすく成長できるコミュニティを作ります。 社員同士が、お互いに助け合いながら成長できるコミュニティを形成することができます。 社員の能力を発揮して、チーム内で相乗効果を生み出せるような環境を作ります。サーバントリーダーシップの特性のうち、「傾聴」が最も重視されています。サーバントリーダーシップのどこから取り入れるべきか分からないという場合は、社員との話を傾聴することから、始めてみるとよいかもしれません。

▶︎参考:NPO法人 日本サーバント・リーダーシップ協会

 

05サーバントリーダーシップのメリット

サーバントリーダーシップを取り入れた場合の効果として以下の4つが挙げられます。

  • ・生産性が向上する
  • ・部下のパフォーマンスが上がる
  • ・顧客満足度が上がる
  • ・コミュニケーションが円滑になる

上記について、以下で詳しく解説します。

生産性が向上する

社員の行動や意識に変化をもたらすことで、生産性の向上につながります。各社員の話をしっかりと聞いてくれて、リーダーに尊重されることで、信頼関係が高まり、チーム力が強化されていきます。社員一人ひとりのスキルや適性、社員の希望を考慮することで、それぞれが最も効果的に成果を出せることができるポジションへ、配置が可能となります。その結果、チームは目標を達成することができ、生産性の向上につながるのです。

部下のパフォーマンスが上がる

主体的な仕事のやり方へと変化することでパフォーマンスが上がります。社員の持つ能力に対して適切なサポートがあることで、社員のモチベーションとともにパフォーマンスも上がります。さらに、モチベーションの高い社員がいると、他の社員のパフォーマンスにも好影響を与えることでしょう。部下のパフォーマンスを上げるためには、部下のスキルのほかに、主体性を持たせることや部下をサポートすることも必要になるのです。

顧客満足度が上がる

生産性や部下のパフォーマンスだけでなく、顧客満足度の向上にもつながります。ビジネスにおいて、現場で働くメンバーが最も顧客の声・意見を知っている存在です。サーバントリーダーはその特性上、現場のメンバーに対しても欠かすことなく耳を傾けます。そのため、間接的に顧客の生の声が耳に入ってくるため、顧客を喜ばせるにはどうすればいいかを考えながら経営に取り組むことができ、それが顧客満足度の向上へとつながるのです。

コミュニケーションが円滑になる

サーバントリーダーによって、チームの意見交換が活発になり、コミュニケーションが円滑になります。報告・連絡・相談など基本的なコミュニケーションはもちろん、相手の意見を聞くという傾聴力も向上するでしょう。年齢も性別も考え方も異なる社員同士で構成されるチームにおいて、コミュニケーションが円滑になることで、安心感が生まれ信頼関係が構築されるのです。

 

06サーバントリーダーシップのデメリット

新しいリーダーシップ論として、重視されているサーバントリーダーシップにも、状況によって、以下のようなデメリットが発生する可能性もあります。

  • ・意思決定に時間がかかる可能性がある
  • ・社員によっては合わないこともある

上記について、以下で詳しく解説します。

意思決定に時間がかかる可能性がある

社員の意見を傾聴することで、意思決定に時間がかかるという懸念があります。一人ひとりの意見を尊重しすぎるがゆえに、社員の意思決定に時間がかかると、チーム全体の意思決定が遅れる可能性があり、業務の進捗にも悪影響をおよぼすリスクもあるのです。また、迅速な対応をしなければならないとき、サーバントリーダーシップがデメリットになる可能性は高くなるでしょう。

社員によっては合わないこともある

主体性を重視するサーバントリーダーシップにおいて、「自ら気づき、思考することが不得手な社員」「知識や経験値が低い社員」は、ついてこれないケースもあります。また、方向性がはっきり見えていないチームの場合も、サーバントリーダーシップが一概に適しているとはいえないでしょう。


 

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07サーバントリーダーと支配型リーダーの違い

他者への奉仕の欲求から行動するサーバントリーダーと異なり、権力や威光を手に入れたい欲求から行動する「支配型リーダー」も存在します。サーバントリーダーの特徴について前述しましたが、ここでは支配型リーダーの特徴とサーバントリーダーとの違いについて解説します。

支配型リーダーの特徴

積極的に部下に耳を傾けるサーバントリーダーと違い、支配型リーダーは自分の意見・考えを中心に行動します。部下・メンバーに対して一方的な説明や命令でコミュニケーションを取るため、部下はリーダーに対して恐れを感じ、信頼ではなく義務感で指示に従ってしまうことが多いです。そのため、社内で円滑なコミュニケーションが取れなくなり、業務に支障をきたしてしまいます。また、支配型リーダーの下で育った部下は、同じく支配型リーダーとなってしまい、組織全体のコミュニケーションの悪化につながってしまうことも多いです。

 

08サーバントリーダーシップの事例紹介

サーバントリーダーシップを実際に導入した企業・組織は多くあります。ここでは、その事例をいくつか紹介していきます。

スターバックスコーヒー

アメリカのコーヒーショップ「スターバックスコーヒー」は、サーバントリーダーシップに注力する企業のひとつです。過去に経営危機に直面した際、約33億円もの費用がかかる「リーダーシップ会議」を実施しました。当時の社長シュルツ氏は「危機だからこそ、会って話すことが大切」と考え、約1万人の従業員を集めて自社の苦しい経営状況について隠すことなく説明することで、社内全体に危機感を共有しました。「経営陣よりも現場で働く社員の方が大切である」という哲学は今も受け継がれており、ストアマネージャーを対象に「奉仕型セミナー」を開催するなど、様々な取り組みをおこなっています。

資生堂

「資生堂」では池田守男相談役のもとにサーバントリーダーシップが実践されています。「会社を再建する」「新しく生まれ変わらせる」というミッションの下に当時社長に就任し、「店頭基点」を念頭に組織の改革を実施しました。サーバントリーダーシップを経営の中心概念に据え、自分自身がビューティーコンサルタントや営業職の会議に出席し、現場や顧客の生の声に耳を傾けました。そこから得たアイデアを元にした経営の実施や社員環境の整備などに尽力し、数々の改革を成功させました。

株式会社サイバーエージェント

「株式会社サイバーエージェント」でもサーバントリーダーシップは導入されています。「優秀な人材を活かすためにはサーバントリーダーシップが重要」と考えられており、人材活性化の取り組みにより100社以上もの子会社の創出に成功しました。新規事業を創出するための「スタートアップJJJ」という制度も設立しており、社内で競い高め合う環境が整っています。また、スタートアップJJJでは「2四半期連続で減収減益になったら撤退」という明確なルールがあり、決められた範囲の中で「社員の自由」が守られていることも、会社の成長につながっているようです。

ダイエー

大手スーパー「ダイエー」もその一つです。かつてダイエーでは、トップダウン経営によって業績が悪化しており、赤字が続いて50もの店舗の閉鎖が決まっていました。当時、社長の樋口泰行氏は閉鎖の決まった店舗すべてに出向き、閉鎖理由の説明や、働いてくれたお礼を直接従業員に伝えたのです。結果、対象店舗のスタッフのモチベーション向上につながり、各スタッフの努力によって「閉店売りつくしセール」が成功し、2年4カ月ぶりに前年比プラスの売り上げを記録しました。閉店後も、直接言葉をもらったスタッフのモチベーションは維持され、異動先のスタッフたちへの積極的な働きかけの実施から、ダイエーは11カ月連続の前年比プラスの売り上げを達成したのです。

良品計画

最後に、無印良品を運営する「良品計画」の事例を紹介します。2001年に社長に就任した松井忠三氏は、サーバントリーダーシップを取り入れた先駆者の一人です。業績が急落したタイミングでの就任後、全国ほぼすべての店舗に自ら出向き、現場の話に耳を傾けました。そこから見えてきた課題をもとに、業務を可視化する「MUJIGRAM」というマニュアルと、現場の声を吸い上げるシステムを開発したのです。その後業績はV字回復を達成し、現在も増収増益を続けています。

 

09サーバントリーダーシップについて学べるSchooのオンライン研修

サーバントリーダーシップなど、リーダーシップの基本について学べる授業をご紹介します。

リーダーシップの全体像 -リーダーシップとは何か?-

この授業では、サーバントリーダーシップなどリーダーシップの基本について解説し、自分に合ったリーダーシップの型を発見することができます。サーバントリーダーシップの概要と役割についてについて学ぶことができます。

 
  • 立教大学大学院 ビジネススクール教授

    EQパートナーズ株式会社 代表取締役社長。立教大学大学院 ビジネススクール教授。聖心女子大学 非常勤講師。 中央大学法学部卒業、Bond大学大学院 MBA修了。パナソニック(当時松下電器)にて、SE・営業・マーケティング・海外(香港)駐在員などを経験。EQパートナーズ株式会社を設立、代表取締役社長。
サーバントリーダーシップを学べる授業

リーダーシップの全体像 -リーダーシップとは何か?-

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11まとめ

本記事では、サーバントリーダーシップの基礎知識や重視される背景、メリット・デメリットについて解説しました。サーバントリーダーシップは、命令で動くのではなく、心で動くというイメージが近いようです。自社に、サーバントリーダーシップを取り入れる際、まずは経営層など管理職がその精神を理解し、実践していくことが重要であるといえます。

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この記事を書いた人
Schoo編集部
Editor
Schooの「世の中から卒業をなくす」というミッションのもと活動。人事担当や人材育成担当の方にとって必要な情報を、わかりやすくご提供することを心がけ記事執筆・編集を行っている。研修ノウハウだけでなく、人的資本経営やDXなど幅広いテーマを取り扱う。
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