サーバントリーダーシップとは|10の特性・メリット・デメリットを解説

サーバントリーダーシップとは、1970年にロバート・K・グリーンリーフ博士が提唱した「部下に奉仕することがリーダーの役割」とする支援型リーダーシップのことです。本記事では、その基本的な考え方に加えて、注目される背景や導入企業の事例、メリット・デメリット、コーチングとの関係性まで詳しく解説します。
01サーバントリーダーシップとは

サーバントリーダーシップとは、組織のリーダーがメンバーを「支援する立場」に立ち、彼らの成長と成功を最優先に考えて行動するリーダーシップ理論です。リーダー自身が上に立つのではなく、まるで召使のようにメンバーに寄り添いながら、最終的に組織を目的地へと導くというスタイルが特徴です。
この理論では、最も重要なのは組織のミッションであり、ミッションを実行する現場メンバーを支えるのがリーダーの役割とされています。従来のトップダウン型とは逆の構造を持ち、リーダーが「支配者」ではなく「奉仕者」として機能する点が大きな違いです。
▶︎参考:実践のためのリーダーシップ理論 -伝統と最先端-|Schoo
提唱者はロバート・K・グリーンリーフ
サーバントリーダーシップは、1970年にアメリカ人のロバート・K・グリーンリーフが提唱した概念です。彼は、社会の中で信頼されるリーダー像を模索する中で、短編小説『東方巡礼』をヒントにこの理論を構築しました。権力や命令による支配ではなく、他者への奉仕と倫理観に基づく行動こそが真のリーダーシップだと唱えました。
▶︎参考:提唱者について|NPO法人サーバント・リーダーシップ協会
従来型リーダーシップとの違い

従来型のリーダーシップは、ピラミッド構造の頂点に立つ管理職や経営層が、部下に指示や命令を出す形が一般的です。これに対してサーバントリーダーシップは、現場の社員が最前線で顧客と向き合う中で、リーダーがその背後から支援する構造をとります。
このような支援型のリーダーシップは、現場の裁量や顧客起点の発想を促進する一方で、現場の判断力や視座が不足している場合には方向性を誤るリスクも含んでいます。実践においては、ミッションの共有と信頼構築が不可欠です。
02サーバントリーダーシップが重視される背景
不確実性の高いVUCA時代だからこそ、不測の事態に強い組織を作らなくてはなりません。そのためには、顧客起点での企業経営と社員の自律が必要とされています。
特に自律型人材は欠かせません。上司の指示に頼って業務に取り組むのではなく、自身で課題を検討し、業務を進めていくことができれば、激しい変化にも現場ですぐに対応することができるようになるでしょう。また、自律している社員は生産性も高く、人手不足という課題解決にも重要な鍵となります。
それに対して、上司の指示がなければ行動できない社員が多くなると業務の遅滞を引き起こし、チーム全体の業務の効率が低下してしまうのです。主体性を持っている社員は戦力として、チームに大きな成果をもたらすでしょう。したがって、サーバントリーダーシップは傾聴や共感を重視し、社員の主体性に働きかけるものであり、VUCA時代が到来している現代に、必要とされるリーダーシップの1つだといえます。
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■資料内容抜粋
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03サーバントリーダーシップの特徴
サーバントリーダーシップでは、組織の成果よりもメンバーの成長や自律を優先する姿勢が重視されます。ここでは、Schooの授業で紹介されている7つの特徴を基に、リーダーに求められる資質を紹介します。これらの特徴は、部下との信頼関係を築き、主体性と共感を育むための基盤となります。
▶︎参考:実践のためのリーダーシップ理論 -伝統と最先端-|Schoo
1:誠実さ
サーバントリーダーにとって最も基本的な資質のひとつが誠実さです。言行が一致し、約束を守り、部下に対して率直かつ誠意ある姿勢を示すことで、信頼関係が生まれます。責任逃れせず、成果だけでなく過程も大切にする態度は、部下に安心感を与えます。日々のコミュニケーションで誠実な行動を積み重ねることが、リーダーとしての信頼を築く近道となります。
2:利他主義
利他主義とは、自分の利益ではなく、周囲の人のために行動できる姿勢です。部下やチームのためにリスクを取り、サポートを惜しまないリーダーは、自然と人望を集めます。サーバントリーダーは、メンバーの立場や課題に目を向け、必要であれば自分が一歩引いてでも周囲を支える存在です。この利他的な行動が、組織内の信頼と協働を生み出します。
3:謙虚さ
謙虚なリーダーは、自分の立場や肩書きにこだわらず、周囲から学ぶ姿勢を大切にします。他者の貢献を積極的に評価し、功績を部下やチームに帰属させることで、メンバーのモチベーションを引き出します。自己主張を控えることで他者の声が届きやすくなり、チーム内に対話と尊重の文化が根づきます。謙虚さは信頼の土台となる重要な資質です。
4:共感・癒し
部下の感情や状況に寄り添い、精神的なサポートを提供する力が共感・癒しの特性です。単なる感情的な共感ではなく、相手の立場や背景を理解しようとする姿勢が大切です。メンバーの落ち込みや不安に気づき、言葉や態度で支えることで、心理的安全性の高いチーム環境が実現します。対立の和解や多様性の受容も、この資質によって促進されます。
5:フォロワーの成長促進
サーバントリーダーは、メンバーの成長を支援する役割を担います。今の業務に直結しない分野でも、本人の関心や将来に役立つスキル獲得の機会を与えることで、長期的な成長を支えます。失敗を責めるのではなく、そこから学べるよう導く姿勢も重要です。フォロワーの自己効力感を高め、挑戦を応援することで、組織全体の能力底上げが可能になります。
6:公平・公正
公平性と公正さは、チーム内の信頼構築に直結する重要な要素です。サーバントリーダーは、すべての部下に対して平等な姿勢を取り、えこひいきや不透明な運営を避けます。不公正な制度や言動に対しては声を上げ、是正を図ることも求められます。一人ひとりの尊厳を守る姿勢は、チーム全体に安心感と一体感をもたらします。
7:エンパワーメント
エンパワーメントとは、部下に権限や裁量を与えて自律的に行動できる環境を整えることです。意思決定の場に参加してもらい、情報を共有することで、当事者意識が芽生えます。サーバントリーダーは、指示命令型ではなく支援型の関わりを通じて、部下の自信と能力を引き出します。自立と信頼を軸としたマネジメントが、組織の活力を高めていきます。
06サーバントリーダーシップにおけるコーチングの役割
サーバントリーダーシップにおけるコーチングの役割は、以下の通りです。
- ・目標達成のサポート
- ・成長の促進
- ・自律性の育成
- ・モチベーションの向上
サーバントリーダーシップにおいて、コーチングは部下の主体性と可能性を引き出すために重要な手段のひとつです。傾聴や共感を基盤とするこのスタイルとコーチングの考え方は非常に親和性が高く、部下との信頼関係を築くうえでも有効に機能します。ここでは、コーチングが果たす4つの役割について紹介します。
目標達成のサポート
コーチングは、部下が自身の目標を明確にし、達成に向けて行動できるよう支援する役割を担います。サーバントリーダーは命令ではなく、問いかけや対話を通じて部下に考えさせ、主体的な目標設定とアクションを促します。その過程では、壁にぶつかったときの乗り越え方や、リソースの活用方法なども一緒に考えることで、現実的かつ実行可能な目標達成に導くことができます。
成長の促進
コーチングを通じて、部下が自らの課題や可能性に気づき、次の成長ステージへ進むことができます。リーダーが部下の強みや成長領域に気づかせることで、スキル向上や役割拡大へのモチベーションが高まります。日常業務に追われがちな現場において、定期的に内省と対話の時間を設けることは、短期的な成果だけでなく、長期的な人材育成にもつながる重要な取り組みです。
自律性の育成
サーバントリーダーシップの目的のひとつは、部下の自律性を高めることです。コーチングでは、正解を与えるのではなく、部下自身に考えさせる問いかけを行います。これにより、自分の意志で行動する習慣が身につき、周囲に依存せず主体的に意思決定できる力が育まれます。自律した社員が増えることで、チーム全体のスピード感や変化対応力も向上していきます。
モチベーションの向上
コーチングは、部下の内発的な動機づけを引き出す手段として有効です。リーダーが感情や価値観に寄り添い、本人の中にある「やりたいこと」「なりたい姿」に光を当てることで、仕事への意欲が高まります。また、定期的な対話を通じて「自分のことを見てくれている」という実感が得られることで、信頼関係が強化され、心理的安全性が確保されやすくなります。
07サーバントリーダーシップの事例紹介
サーバントリーダーシップを導入している企業は、以下の通りです。
- ・スターバックスコーヒー
- ・資生堂
- ・株式会社サイバーエージェント
- ・ダイエー
- ・良品計画
多くの企業が、業績の急落や会社の再建を図る過程で、サーバントリーダーシップを導入しています。このリーダーシップスタイルを採用した結果、従業員の意欲やパフォーマンスが向上し、組織全体の生産性が高まった例も少なくありません。実際、サーバントリーダーシップの導入後に業績がV字回復し、成功を収めた企業も存在します。従業員の意見を尊重し、信頼関係を築きながらリーダーシップを発揮することで、組織全体のモチベーションと顧客満足度が向上し、結果的に経営改善へとつながるのです。
スターバックスコーヒー
アメリカのコーヒーショップ「スターバックスコーヒー」は、サーバントリーダーシップに注力する企業のひとつです。過去に経営危機に直面した際、約33億円もの費用がかかる「リーダーシップ会議」を実施しました。当時の社長シュルツ氏は「危機だからこそ、会って話すことが大切」と考え、約1万人の従業員を集めて自社の苦しい経営状況について隠すことなく説明することで、社内全体に危機感を共有しました。「経営陣よりも現場で働く社員の方が大切である」という哲学は今も受け継がれており、ストアマネージャーを対象に「奉仕型セミナー」を開催するなど、様々な取り組みをおこなっています。
資生堂
「資生堂」では池田守男相談役のもとにサーバントリーダーシップが実践されています。「会社を再建する」「新しく生まれ変わらせる」というミッションの下に当時社長に就任し、「店頭基点」を念頭に組織の改革を実施しました。サーバントリーダーシップを経営の中心概念に据え、自分自身がビューティーコンサルタントや営業職の会議に出席し、現場や顧客の生の声に耳を傾けました。そこから得たアイデアを元にした経営の実施や社員環境の整備などに尽力し、数々の改革を成功させました。
株式会社サイバーエージェント
「株式会社サイバーエージェント」でもサーバントリーダーシップは導入されています。「優秀な人材を活かすためにはサーバントリーダーシップが重要」と考えられており、人材活性化の取り組みにより100社以上もの子会社の創出に成功しました。新規事業を創出するための「スタートアップJJJ」という制度も設立しており、社内で競い高め合う環境が整っています。また、スタートアップJJJでは「2四半期連続で減収減益になったら撤退」という明確なルールがあり、決められた範囲の中で「社員の自由」が守られていることも、会社の成長につながっているようです。
ダイエー
大手スーパー「ダイエー」もその一つです。かつてダイエーでは、トップダウン経営によって業績が悪化しており、赤字が続いて50もの店舗の閉鎖が決まっていました。当時、社長の樋口泰行氏は閉鎖の決まった店舗すべてに出向き、閉鎖理由の説明や、働いてくれたお礼を直接従業員に伝えたのです。結果、対象店舗のスタッフのモチベーション向上につながり、各スタッフの努力によって「閉店売りつくしセール」が成功し、2年4カ月ぶりに前年比プラスの売り上げを記録しました。閉店後も、直接言葉をもらったスタッフのモチベーションは維持され、異動先のスタッフたちへの積極的な働きかけの実施から、ダイエーは11カ月連続の前年比プラスの売り上げを達成したのです。
良品計画
最後に、無印良品を運営する「良品計画」の事例を紹介します。2001年に社長に就任した松井忠三氏は、サーバントリーダーシップを取り入れた先駆者の一人です。業績が急落したタイミングでの就任後、全国ほぼすべての店舗に自ら出向き、現場の話に耳を傾けました。そこから見えてきた課題をもとに、業務を可視化する「MUJIGRAM」というマニュアルと、現場の声を吸い上げるシステムを開発したのです。その後業績はV字回復を達成し、現在も増収増益を続けています。
08リーダーシップ研修|Schoo for Business

オンライン研修/学習サービスのSchoo for Businessでは約9,000本の講座を用意しており、様々な種類の研修に対応しています。リーダーシップ研修はもちろんのこと、新入社員研修・管理職研修からDX研修まで幅広いコンテンツで全ての研修を支援できるのが強みです。
受講形式 | オンライン (アーカイブ型) |
アーカイブ本数 | 9,000本 ※2023年5月時点 |
研修管理機能 | あり ※詳細はお問い合わせください |
費用 | 1ID/1,650円 ※ID数によりボリュームディスカウントあり |
契約形態 | 年間契約のみ ※ご契約は20IDからとなっております |
リーダーシップ研修に関するコンテンツ一覧
Schooのリーダーシップ研修の特長は、リーダーとしての在り方・姿勢・役割意識から、部下育成・人間関係構築スキルまで、主任や課長、中堅社員に求められるスキルに関する幅広いコンテンツが充実しているという点にあります。
また、Schooはeラーニングによる研修受講となるので、社員1人ひとりが好きな時間や場所、タイミングで研修を受講することができるので、研修受講に時間を割くことが難しい社員が多かったり、リモートワークを導入している企業や多拠点展開している企業におすすめです。
研修内容 | 時間 |
漫画『弱虫ペダル』に学ぶ、メンバーの心に火をつけるリーダーシップ | 1時間 |
シンプルに問題解決へ導くリーダーシップ | 2時間 |
実践のためのリーダーシップ理論 | 2時間 |
リーダーシップは「見えないところ」が9割 | 1時間 |
自信のない人のためのリーダーシップと交渉術 | 1時間 |
「自分らしさ」を武器にするこれからのリーダーシップ | 1時間 |
【実践】頼られるリーダーの自己育成法 | 2時間 |
次世代リーダー育成研修 初級 | 6時間30分 |
次世代リーダー育成研修 中級 | 8時間 |
Schoo for Businessの資料をダウンロードする
大企業から中小企業まで4,000社以上が導入

Schoo for Businessは、大企業から中小企業まで4,000社以上に導入いただいております。利用用途も各社さまざまで、IT人材育成もあれば階層別研修やDX研修としての利用、自律学習としての利用やキャリア開発の目的で導入いただくこともあります。
導入事例も掲載しているので、ご興味のあるものがあれば一読いただけますと幸いです。以下から資料請求いただくことで導入事例集もプレゼントしております。そちらも併せて参考にいただけますと幸いです。
リーダーシップ研修のカリキュラム例
この章では、Schooが保有する9,000本の授業の中から、リーダーシップ研修におすすめの授業を3つ紹介します。
実践のためのリーダーシップ理論 -伝統と最先端-
第1回 | リーダーシップ研究の流れ/代表的な理論を活用する |
時間 | 60分 |
研修内容 |
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第2回 | 職場を元気にする シェアド・リーダーシップ |
時間 | 60分 |
研修内容 |
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この授業では立教大学統括副総長の石川教授を講師に招き、リーダーシップの代表的な理論や最先端のリーダーシップ理論を解説いただいています。
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立教大学統括副総長/立教大学経営学部教授/博士(経営学)
慶應義塾大学法学部卒。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士・博士課程修了後、山梨学院大学、米国・オレゴン大学客員教授を経て現職。2014-2017年の間、立教大学経営学部長。2014-2020年の間、立教大学リーダーシップ研究所所長。専門分野は組織行動論、リーダーシップ論。著書に『リーダーシップの理論』(単著)、『シェアド・リーダーシップ』(単著)、『グローバル研究開発人材の育成とマネジメント』(分担執筆)、『Organizational Leadership: Concepts, Cases and Research』(分担執筆)など多数。また、国際学会や国際学術誌での発表も多く、2014年にはPan-Pacific Conference XXXIにてOutstanding Paper Awardを受賞。現在、国内学術誌である『組織科学』および『人材育成研究』に加えて、国際学術誌であるAsia Pacific Business ReviewにてInternational Editorを務める。
自信のない人のためのリーダーシップと交渉術
第1回 | 自信のない人のためのリーダーシップと交渉術 |
時間 | 60分 |
研修内容 |
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この授業は女性の特性に合った多様なリーダーシップのスタイルを学べる授業です。女性の活躍を助けるためのリーダーシップ論や、win-win交渉術などを、女性管理職育成・交渉コンサルタントの小早川優子さんに解説いただきます。具体的な事例や実践的な知恵を学べる授業です。
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株式会社ワークシフト研究所 代表取締役社長
慶應義塾大学大学院経営管理研究科経営学修士/米国コロンビアビジネススクール留学(MBA) 慶應義塾大学ビジネススクールケースメソッド授業法研究普及室認定ケースメソッド・インストラクター。 GEキャピタル等外資系金融機関に約15年勤務。第二子出産後、両立の壁に直面し退職。「育休プチMBA®」に出会い起業。三児の母。
シンプルに問題解決へ導くリーダーシップ
第1回 | 課題解決のOSを装着しよう |
時間 | 60分 |
研修内容 |
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第2回 | シンプルに問題解決するためのワークショップ |
時間 | 60分 |
研修内容 |
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この授業はこれからの時代に求められるリーダーシップを学ぶことができる授業です。全2回の授業で、成果の出せる組織において、自律した一人ひとりのメンバーがハイパフォーマンスを発揮し、課題を解決できるようにリーダーがマネジメントする方法を組織マネジメントに携わってきた中尾隆一郎さんに解説していただきます。
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中尾マネジメント研究所 代表取締役社長
中尾マネジメント研究所 代表取締役社長 兼 LIFULL取締役、旅工房 取締役、博報堂フェロー、東京電力フロンティアパートナーズ 投資委員、LiNKX監査役。2019年中尾マネジメント研究所を、自律してマネジメントできる経営リーダを育成するために設立。
09まとめ
本記事では、サーバントリーダーシップの基礎知識や重視される背景、メリット・デメリットについて解説しました。サーバントリーダーシップは、命令で動くのではなく、心で動くというイメージが近いようです。自社に、サーバントリーダーシップを取り入れる際、まずは経営層など管理職がその精神を理解し、実践していくことが重要であるといえます。