企業内大学とは?設立のメリットやポイントを企業事例とともに解説
人材育成に力を入れている企業が設立する「企業内大学」が注目されています。アメリカの主要企業からはじまり、現在では国内企業も企業内大学を開設しています。本記事では、企業内大学の概要と設立のメリットやポイントを企業事例とともに解説します。
- 01.企業内大学とは?社内研修との違い
- 02.企業内大学を設立する際のメリット
- 03.企業内大学を設立する際のデメリット
- 04.企業内大学を設立する際のポイント
- 05.企業内大学の企業事例
- 06.まとめ
01企業内大学とは?社内研修との違い
企業内大学とは、企業が社内に設置する研修制度の一種で、社員が自主的に学ぶ場を与える制度のことです。本項では、企業内大学の概要と、一般的な社内研修との違いを解説します。
企業内大学とは社員が自主的に学ぶ場を与える制度
企業内大学は、公的に認められた大学ではなく、社員教育の一環として、社内に大学のような部署や機能を持たせることに特徴があります。「コーポレート・ユニバーシティ」「コーポレート・インスティテュート」「コーポレート・アカデミー」と呼ばれることもあります。 企業内大学は、1950年代にアメリカの主要企業が開設したのが始まりだと言われています。例えば、GE(ゼネラル・エレクトリック社)の「クロトンビル経営開発研究所」、マクドナルド社の「ハンバーガー大学」などの成功により、多くの企業が企業内大学の設立に注目するようになりました。
一般的な社内研修との3つの相違点
企業における学びの場として、一般的には社内研修が主流となっていますが、ここでは、企業内大学と社内研修との3つの相違点を解説します。
目的
一般的な企業研修では、ビジネスマナーやITリテラシーなど、通常業務で必要なスキル習得が目的です。企業研修の主流となっているのは、業務遂行と同時に行うOJTで、上司から部下に、業務上必要な知識や技術を継承することが行われます。 一方、企業内大学は、社員の将来のキャリアアップに焦点を合わせています。それで、携わっている業務の専門性をさらに深めることや、企業の経営戦略への理解を促進して次世代リーダーを輩出することなどを目的とします。
講師
企業研修の講師は、外部から招くことが一般的です。専門講師による高水準の学習が行えるメリットがありますが、内容が一般向けとなっているため、自社のニーズに合わない場合もあります。また、自社向けにカスタマイズすることで、費用が高額になるケースもあります。 企業内大学では、外部講師だけでなく、優秀な社員を講師として起用する場合も少なくありません。現場で培った実践的な知識やノウハウを共有でき、受講者にとっても業務に直接関係のある内容が学べることで、大きな刺激になると考えられます。
講座内容
一般的な企業研修と企業内大学では、講座内容を決定するための流れにも違いがあります。企業研修の講座内容は、企業が課題とするテーマに基づいて、課題解決のための講座内容を決定するのが一般的です。講座内容によっては、社員が受講したいと思うものがなかったり、受動的に受講したりするケースにも繋がると考えられます。 企業内大学の講座内容は、人事が社員の要望を把握して、ニーズに適した内容や講師を選出します。また、現場社員が共有したいと思う経験を体系化する場合もあります。社員が学びたいと思う講座内容が用意されるため、モチベーションが高まる効果が期待できます。
02企業内大学を設立する際のメリット
企業内大学を設立するメリットとして、3つのポイントが挙げられます。
- ・社員の能力の向上に繋がる
- ・次世代リーダーの育成ができる
- ・採用活動のアピールポイントになる
ここではそれぞれのポイントについて具体的に解説します。
社員の能力の向上に繋がる
企業内大学は、一般の社内研修と違って、社員一人ひとりが能動的に取り組むような仕組みになっています。その仕組みを活用して意欲のある社員が自身のスキルを磨き、専門性を深められるような講座内容を用意し、社員の能力の向上に繋げることができます。 社員は、自身の能力を向上させることで、キャリアアップの道を開くことができます。また、企業内大学の講師として、業務を通して得た知識や技術をアウトプットする機会も得られるかもしれません。教えることで、コミュニケーションなどのスキルアップはもちろん、その他の今まで気づかなかった才能が開花することも考えられます。
次世代リーダーの育成ができる
企業内大学では、講座内容を企業理念や経営戦略に基づいたものにカスタマイズできます。そのため、経営層育成を目的としてカリキュラムを組み、次世代リーダーの育成ができるのも大きなメリットです。 経営者育成のための研修も、外部に依頼することは可能ですが、内容が一般的なものとなり、自社のニーズに合わない場合も考えられます。企業内大学を設立すると、自社が経営層に求めるスキルやマインドを徹底的に教え込むことができ、経営陣自ら教壇に立ってより具体的な講義の機会とすることもできるでしょう。
採用活動のアピールポイントになる
企業内大学の設立は、採用活動のアピールポイントにもなるメリットがあります。人手不足が叫ばれる昨今、求職者の多くは、自身が成長できる環境を用意している企業を探す傾向にあります。教育制度は大きなアピールポイントとなり、企業内大学の設立は、優秀な人材を集めるための効果的な施策にもなり得ます。
03企業内大学を設立する際のデメリット
企業内大学が注目されているのは事実ですが、多くの企業に普及しているとは言えないのが現状です。ここでは、企業内大学を設立する際に、デメリットとして、次が挙げられます。
- ・導入と運営のコストがかかる
- ・講師の選出が難しい
- ・仕組みの構築が難しい
ここでは、それぞれの課題点について解説します。
導入と運営のコストがかかる
企業内大学の設立には、導入と運営のために、人員の確保や時間など、さまざまなコストがかかります。将来への投資と考えて、経営資源を費やすだけの価値があるか、しっかりと見定める必要があるでしょう。
講師の選出が難しい
企業内大学の講師を選出することは簡単ではありません。まず、講師の経験のある人材を探すことが困難だと考えられます。また、優れた社員が優れた講師になるとは限らず、適任だと思われる人材が、講師として教えることを望まない場合もあるでしょう。
仕組みの構築が難しい
企業内大学では、社員のニーズに合わせて幅広いコースを用意することがあり、仕組みの構築が難しいデメリットがあります。また、受講履歴の管理など、運営に伴う業務が複雑化することも考えられます。
04企業内大学を設立する際のポイント
企業内大学は規模も大きく、研修以上に計画的に設立していく必要があります。企業内大学を設立する際のポイントとしては、大きく次の5つが挙げられます。
- ・目的を明確にしてカリキュラムを構成する
- ・全従業員を対象者とする
- ・専門知識を持つ講師をアサインする
- ・学び方に多様性を持たせる
- ・キャリアアップ支援の体制を整える
ここではそれぞれについて解説します。
目的を明確にしてカリキュラムを構成する
企業内大学を設立するにあたり、目的を明確にしてカリキュラムを構成する必要があります。カリキュラムの選択は企業の自由ですが、ただコースを増やすだけでは、形骸化する場合があります。企業のニーズと社員のニーズを良く確かめたうえで、社員が能動的に学習できるようなカリキュラムを決めましょう。
全従業員を対象者とする
社内研修では受講者を限定しますが、企業内大学では全従業員を対象とするのがポイントです。派遣社員やパートも含めた全社員に学びの機会を与えましょう。全社員に教育を施すことで、企業理念の浸透や組織全体の育成に繋がります。
専門知識を持つ講師をアサインする
社内の専門知識を持つ人材を講師としてアサインするようにします。外部講師による新たな知識の習得も大事ですが、社内の暗黙知を次世代に伝えることにははるかに大きな効果があります。専門知識を持つ人材や、経験豊富な人材をアサインし、必要に合わせて講師としての訓練を施すようにしましょう。
学び方に多様性を持たせる
受講方法や学び方に多様性を持たせることも大切なポイントです。座学だけでなく、eラーニングを導入したり、ディスカッション形式で学べる講座を用意したりできるでしょう。テレワークの普及に合わせて、eラーニングを導入すると、全社員に受講機会が与えられることになります。
キャリアアップ支援の体制を整える
企業内大学と併せて、キャリアアップ支援の体制を整えるようにしましょう。学習するだけでなく、習得した知識やスキルがキャリアアップに繋がることで、受講者は目標をもって意欲的に取り組むようになると考えられます。上司が部下の受講履歴にアクセスできるようにして、1on1ミーティングやキャリア面談の際に的確なアドバイスができる仕組みにすると良いでしょう。
組織の価値観やビジョンを共有する
企業内大学を設立する際、組織の価値観やビジョンを共有することは不可欠です。これは、組織文化と一致させる重要なステップです。共有された価値観やビジョンは、従業員に組織の方向性を明確に示し、一貫性を保つのに役立ちます。また、トップリーダーシップのコミットメントやカスタマイズされた教育プログラムを通じて、従業員は組織に特有のスキルと知識を獲得し、組織目標への貢献が容易になります。持続的なコミュニケーションを通じて、価値観やビジョンを従業員に浸透させ、組織全体の一体感を高めていきましょう。企業内大学は、これらの要素を統合し、組織の成功に貢献します。
05企業内大学の企業事例
企業内大学はさまざま存在しますが、具体的にどのような内容で実施されているのでしょうか。ここでは、主な企業内大学の一覧と、企業事例を4つ紹介します。
主な企業内大学一覧
主な企業内大学を一覧で紹介します。
- ・ハンバーガー大学(日本マクドナルド株式会社)
- ・コカ・コーラユニバーシティ ジャパン(コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社)
- ・ソフトバンクユニバーシティ(ソフトバンク株式会社)
- ・HAKUHODO UNIV.(博報堂)
- ・Toshiba e-University(東芝ソリューション株式会社)
- ・あしたの大学(株式会社あしたのチーム)
- ・ローソン大学(株式会社ローソン)
- ・兼松ユニバーシティ(兼松株式会社)
- ・JTBユニバーシティ(株式会社JTB)
- ・ポーラユニバーシティ(株式会社ポーラ)
- ・エコール資生堂(株式会社資生堂)
日本マクドナルド株式会社の「ハンバーガー大学」
1955年に創業したマクドナルドは、6年後の1961年に企業内大学を設立し、社員教育の重要性への理解に基づき人材育成に取り組んできました。日本でも、銀座1号店が開店する1ヵ月前にハンバーガー大学を開講し、人材育成の重要性を顕著にしています。最新の教育理論や手法を用いて人材育成に取り組む専門教育機関として、東京を含む世界9ヵ国に設立しています。
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社の「コカ・コーラユニバーシティ ジャパン」
次世代リーダーを育成する目的で、2020年に設立されました。2020年7月のキックオフミーティングには、各本部から選ばれた一般職と日本コカ・コーラ社の80名が参加し、約10ヶ月間にわたるトレーニングが実施されました。第1弾は若手の育成が目的でしたが、今後はマネジメント層を対象にしたプログラムの実施が計画されています。
ソフトバンク株式会社の「ソフトバンクユニバーシティ」
2010年に設立されたソフトバンクユニバーシティは、約9割の研修を内製化し、実務経験者による実践的な教えが得られるようにしています。約80コース以上のビジネスプログラムが用意され、社員の主体的な受講を促しています。また、階層別プログラムを用意し、役職や年代を問わず、誰もが学習できる環境になっています。
博報堂の「HAKUHODO UNIV.」
「クリエイティブな博報堂」をビジョンに、2005年に設立されました。「粒ぞろいよりも粒違い」という言葉を昔から大切にしていますが、若年層向けのプラグラムからプロフェッショナルとして専門領域を極めるものまで、年間200講座以上が提供されています。社員が気づきによって成長し、顧客の期待を超えるクリエイティビティが生まれる「発育のための場」として期待されています。
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・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など
06まとめ
企業内大学のメリットや課題、設立のポイントや企業事例をまとめました。企業内大学は、一般の社内研修とは異なり、企業理念や経営戦略を浸透させつつ、社員を育成し成長させる場として期待されています。多くの企業で課題とされている経営層の育成や、社員一人ひとりのキャリアアップを支援する施策ともなり、社員のモチベーション向上とともに、優秀な人材の獲得に繋がるとも考えられます。