ケイパビリティの意味とは|コアコンピタンスやスキルとの違いを解説
近年ビジネスにおける競合が激しくなり、どの会社でも自社の強みを活かして競合他社に勝てる戦略を考えるようになりました。この記事では自社の強みを知り、企業の優位性を確保するのに役立つケイパビリティの考え方について詳しく解説します
- 01.ケイパビリティとは
- 02.ケイパビリティを高めるメリット
- 03.ケイパビリティを高める際の注意点
- 04.ケイパビリティを把握する方法
- 05.ケイパビリティを用いた経営
- 06.ダイナミック・ケイパビリティとは
- 07.まとめ
01ケイパビリティとは
ケイパビリティとは、才能・能力・機能・性能・手腕・可能性などの意味を持ちます。一方で、ビジネスの場におけるケイパビリティとは、企業の競争力を高める組織的な能力のことです。
ケイパビリティは1992年にボストン・コンサルティング・グループのジョージ・ストークス、フィリップ・エバンス、ローレンス・シュルマンによる論文「Competing on Capabilities: The New Rules of Corporate Strategy」で提唱されました。この論文では、「バリューチェーン全体の組織的な能力」とケイパビリティを定義しています。
ケイパビリティの具体例
ケイパビリティの具体例として、iPhoneでお馴染みのApple社の事例を紹介します。Appleのケイパビリティは、「洗練されたデザインやUX」です。Appleは、これらの認知を拡げるために直営店を展開し、購買せずとも端末に触ることができ、このケイパビリティを体験できるようにしています。また、店舗のデザインにもこだわり、Appleのケイパビリティを伝えているのです。
ケイパビリティとコアコンピタンスの違い
コアコンピタンスは、「競合優位性のある特定の技術力や製造能力」を意味します。一方で、ケイパビリティは「バリューチェーン全体の組織的な能力」のことです。先ほどのApple社の例で言うと、コアコンピタンスはRetinaディスプレイであり、ケイパビリティはそのディスプレイから得ることのできる映像体験となるのです。
▶︎関連記事:コアコンピタンスとは?見極めるための5つの視点とその手順について解説する
ケイパビリティとスキルの違い
スキルとは、個人の能力です。各社員のスキル発揮されることによって、コアコンピタンスとなり、それがケイパビリティを形成します。
例えば、営業スキルは個人の能力ですが、そのスキルが発揮され、営業プロセスが競合優位性となるまでに成長したら、それはコアコンピタンスとなります。そして、そのコアコンピタンスが、組織の事業プロセス全体の強みとなると、それはケイパビリティと呼ばれます。
02ケイパビリティを高めるメリット
ケイパビリティを高めることで、「競合との差別化」・「事業の持続性向上」というメリットを得ることができます。強いケイパビリティは、他社が真似しようと思ってもできるものではありません。そのため、ケイパビリティを高めることで、競合との差別化が強まり、安定的な利益向上に寄与するのです。
他社が簡単に真似できない強いケイパビリティにするためには、顧客の便益となるものを見定めなくてはなりません。そして、それを提供するにはコアコンピタンスの向上も欠かせないでしょう。
03ケイパビリティを高める際の注意点
ケイパビリティを高める際には、「即効性が低い」・「外的要因に対して変化していく必要がある」といった点には注意が必要となります。
組織は一朝一夕で変化させていくことが難しく、従業員の育成やビジョンの再定義など、やるべきことは多く存在します。また、市場の変化など外的要因による方針転換も必要な場合があるため、柔軟な対応をしていかないと返って組織が崩壊してしまうというリスクも存在するのです。
04ケイパビリティを把握する方法
ケイパビリティを向上させるためには、まず自社のケイパビリティとはどのようなものなのかを把握する必要があるでしょう。 企業がケイパビリティを把握する方法は次の2つが挙げられます。
- 1.バリューチェーンを分析し強みを見つける
- 2.市場のニーズから差別化できるポイントを見つける
ここでは、ケイパビリティを把握する2つの方法について詳しく解説していきます。
1.バリューチェーンを分析し強みを見つける
バリューチェーンとは、商品やサービスが顧客に提供されるまでの一連の企業活動を価値の連鎖として捉え、どこに付加価値があるのかや競合他社と比較してどの部分に強み・弱みがあるのかを分析し、事業戦略の有効性や改善の方向を探ることです。 具体的には、自社で行っている事業活動、事業活動以外に行っている支援活動やバックオフィスにおいてそれぞれの長所を探します。 こうして多数出てきた長所を俯瞰して分析することで、競合他社と差別化できる自社ならではのケイパビリティを見つけ出すことができるでしょう。
2.市場のニーズから差別化できるポイントを見つける
自社を取り巻く市場の現状を把握し、自社の立ち位置を分析することでもケイパビリティを見つけることが可能です。 具体的には、なぜ自社の商品やサービスが購入されるのか、市場にはどのような課題やニーズがあるのかを明確にすると見つけやすいでしょう。
また、ケイパビリティを把握するために「SWOT分析」というフレームワークを使うのも良いでしょう。具体的には以下のような構造で分析を行います。
内部環境 | 外部環境 | |
プラス要因 | 自社の強み(Strength) | 市場における機会(Opportunity) |
マイナス要因 | 自社の弱み(Weakness) | 競合他社などの脅威(Threat) |
SWOT分析は相対的に評価することができるため、自社の強み・市場における差別化ポイントを踏まえ、マイナス要因も考えてみましょう。これにより、顧客や市場、社会で評価され得るケイパビリティを発見することができるはずです。
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【関連記事】SWOT分析とは?読み方からやり方、書き方、クロスSWOT分析まで簡単に解説
05ケイパビリティを用いた経営
自社のケイパビリティは何かを把握したら、今度は経営の目線でケイパビリティを向上させることのできる人材育成や、ケイパビリティを用いた競争戦略を立てるのが望ましいでしょう。 具体的な人材育成の内容と、競争戦略の立て方についてそれぞれご紹介します。
ケイパビリティを向上させる人材育成
企業のケイパビリティを向上させるためには、人材育成に力を注ぐ必要がありますが、従業員の能力や可能性を高めるためにも、利益活動に直接つながる内容だけではなく、幅広い教養が身につくような教育を行うのが望ましいでしょう。 新しい発想で利益を生む商品・サービスを開発したり、マーケティングを行ったりするためにも従業員の視野を広げておくことは重要です。
企業のケイパビリティを向上させるためには、人材育成に力を注ぐ必要がありますが、従業員の能力や可能性を高めるためにも、利益活動に直接つながる内容だけではなく、幅広い教養が身につくような教育を行うのが望ましいでしょう。 新しい発想で利益を生む商品・サービスを開発したり、マーケティングを行ったりするためにも従業員の視野を広げておくことは重要です。
ケイパビリティを用いた競争戦略
ケイパビリティを経営戦略の中心に据えて、競合他社に対して優位性を発揮することを目指す戦略を「ケイパビリティ・ベース競争戦略」と言います。 これには4つの基本原則があり、実践することでスピード・整合性・明瞭性・俊敏性・革新性の5点で競合他社を上回ることができれば、競争力のあるケイパビリティだと判断できるのです。 4つの基本原則の内容について、それぞれご紹介します。
1.ビジネスプロセスの重視
「企業戦略の構成要素は、製品や市場ではなくビジネスプロセスである」という原則です。 企業戦略を立てる際は、商品やサービスの市場性や価値といった外的要因に重きを置いて立てるのではなく、価値実現のための組織作りやビジネスプロセスといった内的要因に重きをおいて立てるのが良いということです。
2.主要なビジネスプロセスをケイパビリティに転換する
「競争の勝敗は、企業の主要なビジネスプロセスを、競合他社より優位性のある価値を継続的に顧客に提供できるような、戦略的ケイパビリティに転換することにかかっている」という原則を指します。 組織や人材など経営資源には限りがある中、他社より優位性のあるビジネスプロセスを継続的に提供するためには、自社の基幹プロセスを有効活用するのが良いということです。
3.部門間をつなぐインフラへの投資
「SBU(Strategic Business Unit=企業の戦略上仮に設定したグループのこと)と職能部門を結びつける一方、双方の力をこれまでの限界を超えて引き出すためにインフラに戦略的に投資し、戦略的ケイパビリティを構築する」という原則です。 部門間を円滑につなぐためにITなどに積極的に投資し、各部門の力を最大限に発揮できる環境を整えるのが良いということを意味します。
4.CEOがケイパビリティ戦略を推進
「ケイパビリティは必然的に複数の職能部門を横断するため、ケイパビリティ・ベース戦略を推進するのはCEOの仕事である」という原則です。 ケイパビリティを発揮するために行う組織を横断しての体制構築は、CEOがするのが良いということを指しています。
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・自己啓発への活用方法 など
06ダイナミック・ケイパビリティとは
ケイパビリティの中でも最近注目を集めているのがダイナミック・ケイパビリティで、2019年に経済産業省が国会に提出した「ものづくり基盤技術の選考施策」においても、その強化について記載されています。 ダイナミック・ケイパビリティとは「企業変革力」を指し、1997年にデイビッド・J・ティース教授らの論文、「Dynamic Capabilities and Strategic Management(ダイナミック・ケイパビリティと戦略経営)」によって提唱されました。 近年ビジネスにおける環境の変化が激しい中、企業がどうすれば持続的に競争力が維持できるのかという問題意識を背景に登場したのが、環境や状況の変化に応じて自己変革する能力であるダイナミック・ケイパビリティなのです。 参考:経済産業省「令和元年度 ものづくり基盤技術の選考施策」
1.オーディナリー・ケイパビリティとダイナミック・ケイパビリティの違い
デイビッド・J・ティース教授らの論文、「Dynamic Capabilities and Strategic Management(ダイナミック・ケイパビリティと戦略経営)」によると、企業のケイパビリティはオーディナリー・ケイパビリティとダイナミック・ケイパビリティの2つに分類することができます。 オーディナリー・ケイパビリティは「通常能力」とも呼ばれ、与えられた経営資源をより効率的に利用して、利益を最大化しようとする能力のことです。 また、ダイナミック・ケイパビリティとは「企業変革力」とも呼ばれ、環境や状況が激しく変化する中で、企業が、その変化に対応して自己を変革する能力のことです。 企業にとってオーディナリー・ケイパビリティを高めることは重要ですが、それだけでは企業は持続可能な競争力を獲得できず、環境の変化次第でその強みが弱みに変わってしまうこともあるでしょう。 そのため、企業は環境や状況の変化に応じて社内、社外における資源を再構成して自己変革を行う、ダイナミック・ケイパビリティを高める努力が必要なのです。
2.ダイナミック・ケイパビリティを向上させる方法
このように、企業にとって重要なダイナミック・ケイパビリティを向上させるためには、どのような方法があるのでしょう。 現在は、「ニューノーマル」の時代と呼ばれ、生活様式・働き方・ビジネスそれぞれにおいて、新しい常識・常態に合わせて行動を変える必要性が出てきました。 この早い変化に対応するためには、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が不可欠です。 DXは元々、2004年にスウェーデンのウメオ大学の教授であるエリック・ストルターマン氏によって、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念として提唱され、近年では社会や企業をデジタル技術で変革するという意味で用いられています。 社内のアナログ業務のデジタル化、古くなった基幹システムの刷新、顧客対応の自動化など、企業の事業内容に応じて多岐に渡りますが、これを行うことであらゆる状況変化に対応できる企業体質を作ることができるでしょう。
▼ダイナミックケイパビリティについて詳しく知りたい方はこちらから▼
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07まとめ
ビジネスにおけるケイパビリティとは、企業の競争力を高める組織的な能力のことですが、その原則は、人事から競争戦略まで幅広く展開できることがわかりました。 自社に思わぬケイパビリティが埋もれていないかよく分析し、見つけたらそれを経営に活かす姿勢が大切です。