海外赴任の現状は?必要な手続きや人材育成のポイントを解説
日系企業の海外進出に伴い、重要なポイントとなるのが海外赴任です。この記事では、新型コロナウイルス感染拡大の影響も踏まえつつ、海外赴任の現状や必要な手続き、グローバル人材を育成するために企業がしなければならないことを解説します。
01海外赴任とは?現地採用との違い
海外勤務の形態として、海外赴任と現地採用という言葉がありますが、どのような違いがあるのでしょうか。
海外赴任とは海外への転勤のこと
海外赴任とは、海外への転勤のことです。海外転勤により海外で生活している従業員のことを、「海外赴任者」「海外駐在員」と呼びます。かつては、大手企業が海外に駐在員を置くことが多かったですが、近年では中小企業やスタートアップ企業も海外進出を行い、海外赴任を命じることが増えてきました。 海外赴任を命じるのは、日本企業や外資系企業の日本法人であるため、転勤後も雇用主は変わりません。状況によって赴任先の変更や、帰任が命じられることもあります。
現地採用は海外現地の企業に直接雇用されること
現地採用は、海外現地の企業に直接雇用されることです。雇用主は現地企業になるため、待遇も基本的には現地基準で決定され、現地通貨での支給になります。現地採用の場合、日本企業や日本法人の待遇を受ける海外赴任者と比較して、待遇面でのメリットはさほど大きくありませんが、本人の活躍次第では、昇進や昇給もです。
02海外赴任者が得られるメリット
海外赴任者が得られるメリットを3つ解説します。
待遇が上がることが多い
海外赴任者が得られるメリットのひとつは、待遇が上がるケースが多いことです。日本の雇用先で設定されている水準で給与がもらえることに加え、「特別手当」「住宅補助」などが支給されることが多く、日本での給与の1.5倍程になるとも言われています。さらに、現地での税金を会社が負担すると、手取りが1.8倍程になるケースもあるようです。 海外で生活するにあたり、充実した福利厚生を提供する企業も少なくありません。例えば、現地の治安を考慮して、高級住宅街に家を借りたり、運転手付きの自動車やメイド、子どもの養育費補助など、日本では考えられないような好待遇を受けることもあります。
語学力やマネジメントスキルの向上
海外赴任者は、海外で現地の言葉を使って働くことになります。現地スタッフとの交流を通して、語学力の向上が期待できるでしょう。日本で学習する語学とは違い、現地の文化に根差した語学を習得することで、国際的な感覚を磨くことに繋がります。 また、一般的には、ある程度日本で経験を積んだ管理職クラスの人材が海外赴任を命じられます。現地スタッフをまとめたり、事業所の立ち上げや経営戦略に携わったりする際に、言語、文化、価値観などの違いによる壁をいくつも超えることで、マネジメントスキルを向上させることもできるでしょう。
グローバルな人脈が築ける
海外赴任中に、さまざまな立場の人たちと接することになり、グローバルな人脈が築けるのもメリットとなるでしょう。パーティなど、社外での社交的な集まりに積極的に参加して、日本でのビジネスに関係している、または興味を持っている人たちと知り合いになる可能性もあります。 日本にいては築けないないようなグローバルな人脈は、帰任後の活躍や将来の自身のキャリアに大きな影響を与える貴重な財産になる場合もあるでしょう。
03海外赴任の現状
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、企業を取り巻く状況が大きく変化しました。ここ数年を含めた海外赴任の現状について解説します。
2017年に日系企業の世界進出は過去最高を記録している
外務省領事局政策課が発表した海外在留邦人数調査統計によると、2017年10月の時点で、海外進出している日系企業は75,531拠点あるとのことで、2005年以来過去最高を記録していることがわかっています。 日系企業の海外進出が加速している理由には、少子高齢化により国内市場だけに頼ることができなくなっていることが挙げられます。進出先としては中国が多いですが、一極集中のリスクを回避するため、人件費の安いASEAN後発国や中東への進出も増えています。また、中国人を日本に迎えてから、海外赴任を命じる3ヵ国間での人事異動を行う大企業もあります。
参考:海外在留邦人数調査統計
ここ数年で諸外国では外国人の受け入れを制限する動きがある
日本では人手不足の解決策のひとつとして、外国人の雇用に積極的に取り組んでいますが、諸外国では、外国人の受け入れを制限する動きがあります。例えばアメリカでは、トランプ政権時に、同国の雇用を保護するために、外国人の就労ビザの発給要件を厳格化しました。 シンガポールでは、同国内での外国人労働者が増加したことから、就労ビザの規定を厳格化し、シンガポール人を優先して雇用する働きかけが行われました。それにより、日系企業の進出も減少し、ベトナムなど他国への進出が増加している傾向にあります。
新型コロナの影響で見直しが迫られる海外赴任のニューノーマル
2020年に入ると、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、海外赴任を取り巻く環境が大きく変化しました。日経リサーチ最新調査によると、海外駐在員の見直しを考えている企業が全体の7割もあることがわかりました。そのうちの3割強においては、海外駐在員の削減や引き上げを行っています。 さらに、管理業務の一部は、本社からのリモート管理ができることに気づいた企業も多く、駐在員の役割や意義の見直しが急ピッチで行われています。ニューノーマル時代の海外赴任者には、大きな変化の中でも、本社とのパイプ役をしっかりと担える、柔軟な姿勢とリーダーシップが求められるようになっています。
参考:市場調査、マーケティングリサーチの日経リサーチ
04海外赴任者で考慮すべき各種手続き
海外赴任を命じる際に、企業が考慮すべき各種手続きが発生します。ここでは、4つの点を解説します。
海外赴任者の給与設定
海外赴任者の給与設定として、3つの方式があります。
購買力補償方式
国内での購買力を赴任先でも補償するもので、海外赴任者にとっても納得感が高い方式です。国内での給与に、赴任地の「生計費指数」と「為替レート」を掛け合わせて算出します。生活費指数は民間機関などが提供しており、人事担当者の負担を減らすことができます。
別建て方式
現地独自の給与テーブルを作成し、それに則り給与を支給する方式です。国内で支給されていた給与との整合性はなく、現地の給与水準を把握して構築することが困難であることもあり、最近では採用されることが少なくなっています。
併用方式
購買力補償方式と別建て方式を組み合わせたものです。現地法人が提示可能な給与額を、日本法人が調整するという形がとられることが多いようです。
海外赴任者の税金
海外勤務の期間によって、所得税を支払う場所が異なります。1年未満の場合は居住者として日本で所得税を支払い、1年以上の場合は、非居住者として現地のルールに従って所得税を支払うことになります。現地通貨で生計費を受け取り、日本円でも別に受け取る場合は、両方を所得として計上する必要があるため、注意しなければなりません。
海外赴任者の保険
雇用者が変わらない限り、厚生年金保険や健康保険、雇用保険は継続となります。一方で労災保険は退会となるため、現地でのトラブルに備えて、それに代わる保険に加入する必要があるでしょう。非居住者になると、介護保険の支払いは不要になりますが、市町村への届け出が必要です。
海外赴任者の予防接種
渡航先によっては、黄熱など特定の感染症の予防接種証明書を要求される場合があります。また、予防接種により当人を感染症から保護し、二次感染を防止することもできるため、渡航先の感染症状況を調べたうえで、予防接種の種類を決定する必要があります。
05海外赴任者をいサポートするために企業がしなければならないこと
海外赴任者は、海外での生活をするにあたり、さまざまなトラブルに遭遇する可能性があります。それを踏まえて、企業がサポートできることを解説します。
病気や事故などの危機管理
赴任先の衛生状況や医療のレベルによって、病気にかかった際のリスクが高くなる場合があります。そこで、赴任先で流行している病気についての情報を提供する必要があるでしょう。また、運転マナーの悪い国も多いことから、現地での運転に関しての規定を設ける必要もあります。
孤独を感じやすい海外赴任者とその家族のメンタルヘルスケア
言葉や文化の違いなど、海外での生活は海外赴任者とその家族に大きな影響を与える場合があります。業務報告だけでなく、定期的なコミュニケーションや、必要に合わせてスタッフによる訪問を実施するなど、メンタルヘルスケアを行う必要があります。
海外赴任者を取り巻く社会的な環境の変化に合わせた柔軟なサポート体制の構築
海外では、日本で考えられないような犯罪が発生する場合があります。現地の日本大使館からの情報をもとに、犯罪予防措置を講じるようにしましょう。また、自然災害やテロ、紛争などが起こった場合に備えて、避難方法などを事前に検討しておくことも大切です。
自社で行うことと外部の専門機関に任せることを整理する
海外赴任者を送り出す際にしなければならい手続きは複雑です。言語の違いや時差など、海外赴任者にとっても自社スタッフにとってもストレスになるさまざまな状況が発生するでしょう。そこで、外部の専門機関に業務の一部を任せることも効果的です。
06海外赴任を成功させるための人材育成は段階的に行うのがポイント
海外赴任者を成功させるためには、段階的に人材育成を行うことが大切なポイントになります。ここでは、企業が行える赴任前から赴任後までの段階的なサポートについて解説します。
赴任前から計画的な育成を行う
赴任先では、異文化への理解に基づいたビジネスの進め方をしなければなりません。そのためには、赴任前から赴任先の文化、社会環境についての知識を得ておく必要があります。また、マネジメント業務など、国内よりもさらに上の役割を任せることが多いため、役割に適用するための訓練も施さなければなりません。
赴任中も継続的にサポートを行う
海外赴任者が不適応を引き起こさないためにも、赴任中の継続的なサポートは不可欠です。言語学習や赴任者同士の集まりの場を設けたり、生活面やメンタル面でのサポートをしたりすることも、海外赴任者が孤独感と戦う際に重要なポイントとなります。
帰任後の再適応へのサポートも重要なポイント
帰任後の再適応のために、赴任中の経験が活かせる業務への配置や、赴任経験を発信できる場を設けるなどして、当人にとっても企業にとってもプラスになる仕方でサポートするようにしましょう。帰任者が海外赴任中に獲得した経験や知識の価値を見過ごすことなく、それを活用することで、海外赴任の成功が語れるといっても過言ではありません。
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07まとめ
新型コロナの影響もあり、海外赴任の見直しを図る企業が増えています。変化の時代において、海外赴任者が担う役割はさらに重要なものになっています。「行けばどうにかなる」ではなく、段階的な準備をしっかりと行うことで、海外赴任者は企業の成長に繋がる役割を立派に果たし、貴重な人材として育つことになるのです。