休職期間の給与はどうなる?休職中の過ごし方について産業医が解説

何らかの休職制度を設けている企業は多いですが、休職期間については企業ごとに異なります。休職期間が長くなることもあり、休職満了後の退職や解雇がトラブルになるケースも少なくありません。本記事では、休職期間の決定方法、満了後の対応や注意点について解説します。
- 01.休職期間とは?
- 02.種類別|休職期間の目安
- 03.休職期間中の給料やボーナスについて
- 04.休職中に受給できる手当
- 05.休職の手続き方法
- 06.産業医が解説|休職期間の過ごし方
- 07.休職における企業側の対応・注意点
- 08.まとめ
01休職期間とは?
休職期間とは、病気や怪我などにより業務に従事できない従業員に対して、年次有給休暇とは別に会社が定める規程に基づき休みを与える、または命じる期間のことです。ここでは「欠勤」や「休業」との違い、そして一般的な休職期間について解説します。
休職と欠勤・休業の違い
休職は、会社が規定に基づき、従業員の都合によって長期の業務免除を認める制度です。一方、欠勤は業務免除の扱いではなく、従業員の都合で仕事を休む状態を指します。欠勤が一定期間続いた後に休職へ移行する場合もあります。休業は企業または従業員の都合により業務を停止することを指し、企業の都合には経営悪化や自然災害などが含まれます。この場合、休業手当を申請できるケースがあります。従業員の都合では介護や出産などがあり、法令要件を満たせば請求権が認められます。
一般的な休職期間
休職期間は企業ごとに異なりますが、一般的には3か月から長くても3年程度が多い傾向にあります。独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によると、最も多い期間は半年から1年で全体の22.3%を占め、75%が2年以内となっています。休職期間は、事由や勤続年数、企業規模によっても変わります。具体的な期間は就業規則を確認することが重要です。
▶︎参考リンク:メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査
02種類別|休職期間の目安
休職にはいくつかの種類があり、その目的や背景によって期間の目安も異なります。ここでは、自己都合によるものから私傷病、留学や公職就任など、多様な休職形態について概要と一般的な期間の目安を解説します。人事担当者は自社の規定や制度と照らし合わせながら、適切な対応を検討することが重要です。
自己都合休職
資格取得や家族の介護など、従業員本人の事情によって取得する休職です。期間は数週間から数か月が一般的で、介護の場合は1か月程度から開始し、状況に応じて延長されることがあります。法定の介護休業制度を活用すると、最大93日まで取得可能です。業務への影響や復職計画を考慮した期間設定が求められます。
私傷病休職
業務外での病気や怪我により長期の療養が必要な場合に適用されます。多くの企業では3か月から1年程度を一区切りとし、必要に応じて延長を認めています。復職時には医師の診断書や産業医の面談を求めるケースが一般的で、回復状況や職務復帰の可能性を慎重に判断します。
出向休職
グループ会社や関連企業に出向する従業員を、出向元が休職扱いとする形態です。多くの場合、期間は1年から3年程度が目安で、出向先の契約や業務の必要性によって延長されることもあります。復職後の配置やキャリア形成を見据えて制度設計されることが多いです。
留学休職
在職のまま海外や国内の教育機関で学ぶための休職です。企業によっては人材育成の一環として導入しており、期間は1年程度が中心ですが、留学プログラムに応じて2年程度まで認められる場合もあります。復職後の活用計画を含めた制度運用が重要です。
公職就任休職
国会議員や地方議会議員など、公的役職に就くための休職です。任期は4年や6年と長期に及ぶ場合が多く、その間は企業の業務を離れます。復職を希望する際は、任期終了後に職務内容や配置を見直すケースが一般的です。
起訴休職
刑事事件で起訴された従業員が、判決確定まで就業を停止される際に適用されます。期間は判決確定までとなり、場合によっては長期化します。判決内容に応じて継続雇用や処遇の方針を決定する必要があります。
組合専従休職
労働組合の専従役員や担当者として活動するための休職です。1年ごとに任期更新する例が多く、役員任期が複数年の場合はその間専従を続けます。復職後の業務調整やキャリア形成への配慮も必要です。
事故欠勤休職
不慮の事故により長期の療養が必要となった場合、一定の欠勤期間を超えた時点で休職扱いとされます。期間は私傷病休職と同様、3か月から1年程度が多く、治療経過や回復状況に応じて延長する企業もあります。
03休職期間中の給料やボーナスについて
休職中は、給与や賞与の支給有無、社会保険料や税金の負担など、在職時とは異なる取り扱いが行われます。従業員と企業双方にとって重要な要素であり、制度や法律の理解が欠かせません。ここでは、給与・賞与・社会保険料・税金に分けて解説します。
給料(給与)について
休職中は、原則として給与は支給されません。これは「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、労働時間に応じて賃金を支払うという労働基準法の考え方によるものです。ただし、会社が独自に定めた休職規定により、一定割合を支給する場合や、会社都合の休業時には休業手当を支払う場合があります。また、業務外の傷病で休職する場合、健康保険から傷病手当金を受け取れることもあり、従業員にはこの情報を適切に案内することが望まれます。
ボーナス(賞与)について
賞与は、多くの場合休職期間中には支給されません。支給の有無は、就業規則や賞与規程で定められた評価期間と基準によって決まります。休職前に勤務していた期間が評価対象に含まれていれば、勤務実績に応じて一部が支給される可能性があります。逆に、評価期間の大半を休職していた場合は、支給対象外となることが一般的です。企業は、支給基準を明確にし、休職者にもわかりやすく説明しておくことが重要です。
社会保険料について
休職中も健康保険や厚生年金保険などの社会保険は継続加入となるため、原則として保険料の支払い義務があります。給与が発生しない場合は、従業員から直接徴収する、会社が立替える、傷病手当金から差し引くなどの方法で対応します。なお、育児休業の場合は申請により、健康保険と厚生年金保険の保険料が免除されますが、雇用保険・労災保険は給与に基づいて算出されるため、無給期間中は保険料が発生しません。
住民税・所得税について
所得税は給与から源泉徴収されるため、無給の休職期間中は発生しません。一方、住民税は前年の所得に基づいて課税されるため、休職中であっても納付が必要です。給与からの天引きができない場合、納付書による個別払いに切り替わります。企業は、従業員が納付漏れを起こさないよう、休職前に徴収方法の変更や納付スケジュールについて案内しておくことが求められます。
04休職中に受給できる手当
休職中であっても、一定の条件を満たせば各種の手当を受給できる場合があります。代表的なものとして、健康保険から支給される傷病手当金、会社の独自規定による手当、そして業務上の災害や通勤災害に対して支給される労災保険給付金があります。それぞれの概要と受給条件を理解しておくことが重要です。
傷病手当金
傷病手当金は、業務外の病気やけがで連続4日以上仕事を休み、給与が支払われない場合に、健康保険から支給される制度です。支給額は原則として休業1日につき、直近12か月の平均給与日額の3分の2相当で、最長1年6か月まで受給可能です。申請には医師の意見書と事業主の証明が必要で、復職可能な健康状態になるまでの生活保障として大きな役割を果たします。
▶︎参考リンク:傷病手当金|全国保険協会
▶︎参考リンク:傷病手当金について|厚生労働省
会社の規定に従った手当
企業によっては、休職中の生活を支えるため、就業規則や給与規程に基づいた独自の手当を設けている場合があります。例えば、私傷病休職時に一定期間給与の一部を支給する制度や、長期療養者向けの生活補助金などです。支給額や期間、対象者の条件は企業ごとに異なり、傷病手当金などの法定給付と併用できるケースもあります。利用を検討する場合は、必ず社内規程を確認し、必要な手続きを事前に行うことが重要です。
労災保険給付金
労災保険給付金は、業務中または通勤途中の事故・けが・病気によって働けなくなった場合に支給されます。代表的な給付として、休業補償給付(平均賃金の60%)と特別支給金(平均賃金の20%)があり、あわせて80%相当が支給されます。さらに、治療費や障害補償、遺族補償なども含まれます。労災認定を受けるためには、労働基準監督署への申請と証明書類の提出が必要です。申請から給付までの流れを事前に把握しておくとスムーズです。
▶︎参考リンク:労災保険給付の概要|厚生労働省
05休職の手続き方法
休職の手続きは、従業員と労務担当者の双方が役割を分担して進める必要があります。従業員は就業規則や診断書の提出などの準備を行い、労務担当者は休職理由の確認や期間の設定、保険や手当の手続きなどを担います。事前に流れを把握しておくことで、スムーズな対応が可能になります。
休職者が行う手続き
休職を希望する従業員は、まず自社の就業規則を確認し、休職制度の有無や条件を把握します。疾病やけがによる場合は、症状に応じた医療機関を受診し、医師から休職が必要と判断された際に診断書を発行してもらいます。この診断書には病名や症状、休職期間などが記載され、発行手数料は自己負担となるのが一般的です。診断書と休職届を上司に提出し、その後、労務担当者との間で社会保険や手当の有無など、必要な手続きを進めます。
労務担当者が行う手続き
労務担当者は、従業員から休職届と診断書を受領したら、就業規則や会社の規定に基づき休職理由が妥当かを確認します。そのうえで休職期間を決定し、社会保険料や住民税の支払い方法を調整します。また、休職中の給与や手当の有無を就業規則に沿って確定し、必要に応じて傷病手当金や労災保険給付金の申請書類を準備します。さらに、休職中の連絡方法や頻度をあらかじめ取り決め、従業員が安心して療養できる体制を整えることも重要です。
06産業医が解説|休職期間の過ごし方


本章では、Schooの講座「休職中の不安との向き合い方」から、休職期間の過ごし方を解説します。本講座は産業医の武神健之先生が、休職中に多くの人が抱える不安や焦りについて事例を交えながら整理し、回復と復職を見据えた適切な過ごし方を提案しています。初期は十分な休養でエネルギーを回復し、次に好きな活動や趣味を通じて心身を整えます。その後、活動時間が6割に達したら図書館通いなどで集中力を養い、8割に回復した段階で通勤練習を行うことで、復職後の負担を減らします。
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医師、医学博士、日本医師会認定産業医
産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書―上司のための「みる・きく・はなす」技術 』(きずな出版)、『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある。
寝たいだけ寝る
休職開始直後は、心身のエネルギーが大きく消耗しており、まずは十分な休息が必要です。真面目な性格の人ほど規則正しい生活を心がけようとしますが、初期段階ではアラームを切って好きなだけ眠り、必要なときに食事をとるなど、あえて「何もしない時間」を確保します。こうした徹底的な休養により、2〜4週間ほどで自然に起きられるようになり、心身が徐々に回復へ向かいます。この時期は、無理に活動を増やさず充電期間と割り切ることが重要です。
好きなことをして、趣味を増やす
ある程度元気が戻ってきたら、無理のない範囲で好きなことや趣味に時間を使いましょう。新しい趣味を見つけることも、気持ちを前向きにする良い方法です。図書館通いなど「復職を意識しすぎる活動」よりも、純粋に楽しめる活動の方が回復には効果的です。好きなことをした日は気分が良く、よく眠れ、食欲も出やすくなります。こうしたポジティブな変化を自覚することで、復職への土台が整っていきます。焦らず、自分の心身の反応を観察しながら過ごすことが大切です。
平日の活動時間が6割で図書館に通う
平日の活動時間が6割程度(1日5時間前後)を安定して過ごせるようになったら、復職準備期に入ります。この段階では、図書館通いのように「ある程度の集中力と持続力が必要な活動」を生活に取り入れると効果的です。長時間座って過ごすことで、仕事再開後の体力や集中力の感覚をつかむことができます。無理せず短時間から始め、徐々に活動時間を延ばすことで、再び職場に戻った際の負担を軽減できます。あくまで「慣らし運転」の意識で取り組みましょう。
平日の活動時間が8割で通勤練習をする
活動時間が8割程度まで回復したら、通勤練習を始めるのがおすすめです。実際に朝の時間帯に電車へ乗ることで、通勤特有の疲労や混雑に慣れることができます。会社最寄り駅まで行く必要はなく、途中で引き返す形でも構いません。また、通勤練習と並行して図書館やカフェなどで長時間座る練習を行うと、復職後のデスクワークへの適応がスムーズになります。この段階を経てから復職すれば、再び体調を崩すリスクを減らせます。
07休職における企業側の対応・注意点
休職における企業側の対応・注意点は、以下の通りです。
- ・休職規定を明確に定めておく
- ・休職期間中は状況把握と情報提供を行う
- ・復職に向けた支援をする
- ・休職期間の延長が必要かを判断する
- ・休職期間満了時の対応も事前に決めておく
- ・復職後の経過観察・支援をする
企業が休職者を適切に支援するためには、制度の明確化と計画的なフォローが不可欠です。事前に休職規定を整備し、期間中は状況を把握しつつ情報提供を行います。復職に向けた準備や必要に応じた休職延長の判断、満了時の対応も事前に決定しておくことで、トラブルや混乱を防げます。復職後も経過観察と継続的な支援を行うことで、再休職のリスクを軽減できます。
休職規定を明確に定めておく
休職制度は就業規則や社内規定に明確に記載し、社員が内容を把握できる状態にしておくことが重要です。対象となる事由、申請手続き、休職期間の上限、給与や社会保険の扱いなどを具体的に定めることで、休職申請時の混乱や不公平感を防げます。規定があいまいだと、対応がケースバイケースになりやすく、トラブルや不信感の原因となります。定期的に規定を見直し、法改正や社内の状況に応じて更新することも欠かせません。
休職期間中は状況把握と情報提供を行う
休職中は、本人の体調や回復状況を適切に把握することが重要です。ただし、過度な連絡はプレッシャーとなるため、頻度や方法は慎重に設定します。産業医や人事担当者を通じて、必要な情報提供や社内の動向、復職制度の説明などを行い、本人が安心して回復に専念できる環境を整えます。情報の共有は記録として残し、休職者・上司・人事間で齟齬が生じないように管理することが望まれます。
復職に向けた支援をする
復職を円滑に進めるためには、本人の回復度合いや職務復帰の準備状況を踏まえた支援が必要です。短時間勤務や試し出勤など、段階的な復職プランを設けることで、再度の体調悪化を防げます。また、上司や同僚への事前説明や配慮事項の共有も欠かせません。産業医や外部カウンセラーと連携し、本人が安心して働ける職場環境を整えることが、長期的な就労継続につながります。
休職期間の延長が必要かを判断する
休職期間中に回復が思うように進まない場合は、延長の可否を慎重に判断します。主治医の診断や産業医の意見を踏まえ、復職の見通しや業務上の影響も考慮する必要があります。延長が可能な場合は、上限や条件を事前に明示し、本人と合意形成を行います。一方、延長が困難な場合は、その理由を丁寧に説明し、他の選択肢(部署異動や業務軽減など)を提示することで、本人の納得感を高めることが重要です。
休職期間満了時の対応も事前に決めておく
休職期間が満了した際の取り扱いを事前に決定しておくことは、トラブル防止に有効です。復職可能な場合はスムーズに受け入れられるよう準備し、不可能な場合は退職や契約終了の手続きを法令に則って進めます。事前に本人へ説明し、必要書類やスケジュールを共有することで、不安や誤解を減らせます。こうした取り決めは就業規則に盛り込み、すべての社員が確認できる状態にしておくことが望まれます。
復職後の経過観察・支援をする
復職はゴールではなく、新たなスタートです。復職直後は体調や業務への適応度を観察し、必要に応じて業務量の調整や勤務時間の短縮を行います。定期的な面談や産業医のフォローを通じて、再休職の兆候を早期に察知し対応することが大切です。また、上司や同僚にも適切な配慮方法を周知することで、職場全体が支え合える環境を形成できます。継続的な支援が、長期的な職場定着とパフォーマンス向上につながります。
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・大人たちが学び続ける「Schoo for Business」とは?
・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など

08まとめ
休職対応では、規定の明確化から期間中の状況把握、復職に向けた支援、延長の可否判断、満了時の対応、復職後の経過観察まで、一貫したプロセス管理が重要です。事前準備と計画的なフォローにより、トラブルや再休職のリスクを軽減し、社員が安心して働ける環境を整えることが企業の信頼性向上につながります。