中小企業の人材育成の現状と課題は?効果的な施策についても解説

人材育成はどの企業にとっても重要な問題です。特に従業員数が大手企業に比べて少ない中小企業にとっては、従業員一人ひとりの働きが業績への影響が大きいだけでなく、大手企業に対抗するためには、人材育成がより重要になってきます。 中小企業で働く人の中には、人材育成に頭を抱えている方は少なくないと思われます。 この記事では、中小企業の人材育成における現状と直面している課題を提示し、それらの課題に対する解決策や、改善事例を紹介します。
- <目次>
- 中小企業における人材育成の実態
- 人材育成を経営課題と捉えている企業は多い
- そもそも人材育成を行っていない中小企業は多い
- 中小企業が抱える人材育成における主な3つの課題
- 1.指導するための時間・人材がない
- 2.人材育成を行うノウハウがない
- 3.人材育成のための予算を出せない
- 中小企業が効果的に人材育成を行うための施策
- 業務をマニュアル化する
- 助成金・補助金を活用して人材育成の費用を作る
- eラーニングを活用する
- 中小企業が人材育成に活用できる助成金の例
- キャリアアップ助成金
- 人材開発支援助成金
- 小規模事業者持続化補助金
- 企業における人材育成事例一覧
- 株式会社アントレ
- デジタル・アドバイタイジング・コンソーシアム株式会社
- 株式会社小学館集英社プロダクション
- まとめ
中小企業における人材育成の実態
結論から言うと、人材育成の環境構築の面において大手企業と中小企業には大きな乖離があります。 ここでは、多くの中小企業において人材育成の実態について説明します。
人材育成を経営課題と捉えている企業は多い
経済産業省が平成29年に発表した「中小企業の経営人材の育成に関する実態調査」によると、調査対象となった2000社の中小企業のうち、約60%が「人材の確保・定着・育成」が課題だと捉えていることがわかりました。 昨今では、一つの企業に定年まで勤めるのではなく、転職をして自分に合った企業を探すような流れが若手世代を中心に一般的になりつつあります。 雇用の流動性が高まっているということは、一から業務内容やビジネススキルを指導する必要性が出てくるため、人材に関する課題を解決したいと考えている企業が多いと考えられます。
そもそも人材育成を行っていない中小企業は多い
先ほどの「中小企業の経営人材の育成に関する実態調査」では、中小企業の人材育成のプログラムに関する実施状況も調査しており、中小企業の58.6%が「特段の人材育成は行っていない」と回答していることもわかっています。 この結果は、中小企業が人材育成への取り組み意識が低いとも言えるかもしれませんが、教育のための予算が捻出できなかったりするなど、様々な経営課題が複雑に絡んでいることにより引き起こされているとも考えられます。
中小企業が抱える人材育成における主な3つの課題
中小企業が人材育成に課題を抱えつつも、なかなか実施に移せていないことがわかりましたが、何が原因で実施に至らないのでしょうか。 ここでは、中小企業が人材育成において抱える主な課題について解説します。
1.指導するための時間・人材がない
従業員数が大手企業に比べて少ない中小企業では、従業員一人あたりに割り振られている業務量が多く、研修・教育するための時間を確保できないケースが考えられます。 また、しっかりと指導・教育ができる従業員が社内にいないという企業も少なくないのではないでしょうか。 そういった場合には、実際の業務を通じて学んでもらうOJTの実施が一般的ではありますが、担当する上司や先輩社員によって教え方が異なるため、複数の従業員に同質の教育ができないという問題が発生しています。
2.人材育成を行うノウハウがない
従業員が少ない中小企業ではしっかりと研修を受けた後に業務に取り組むというよりも、実際に業務を行うなかで自分で学んでいくことが多いのではないでしょうか。 人材育成に関するノウハウがないと、物事を体系的に教えることができなかったり、どのような研修方法が効果的なのがわからず、非効率な選択肢を採ってしまいかねません。 そういった不確実性要素が強い場合には、なかなか本格的な人材育成に乗り出しづらくなってしまうのではないでしょうか。
3.人材育成のための予算を出せない
中小企業の中には財務基盤が弱かったり、経営難に陥っているために人材育成のために費用を捻出することが難しいことが挙げられます。 また、特に経営的に不調ではなくとも、外部研修などの教育コストが高いために、人材育成を行うことが億劫になっているのではないでしょうか。 自社で研修会場を持っていない場合、外部の会場を確保するためには1日あたり数十万円が必要です。また、外部から講師を招待する場合にも数万円~数十万、著名人などの有名講師を招待する場合には100万円以上を要することになるため、1回研修を行うにしても莫大な金額になってしまいます。
中小企業が効果的に人材育成を行うための施策
人材育成において様々な課題を抱えている中小企業ですが、課題を解決せず、人材育成も放棄してしまうことは持続的な企業経営の面から見ても避けたいことです。 ここでは、効果的な人材育成を行うための施策について解説します。
業務をマニュアル化する
普段は口頭で伝えられる業務に関する知識やノウハウを、マニュアルとしてドキュメントなどで作成しておくことも方法が挙げられます。 自分の業務について文書としてマニュアル化するにはかなりの時間を要することもありますが、一度作成してしまえば、新しく従業員が入社しても同じ内容の指導ができるため、教育の質にムラが発生しません。
助成金・補助金を活用して人材育成の費用を作る
人材育成の費用を捻出するために、政府の助成金・補助金を活用することも一つの手です。 厚生労働省は人材育成に取り組もうとする中小企業を対象に、「企業内人材育成助成金」という制度を設けています。 助成金の対象となるプログラムには、「教育訓練・職業能力評価制度助成」、「キャリア・コンサルティング制度助成」、「技能検定合格報奨金制度助成」の3つがあります。 各プログラムは導入することで20万円~50万円、プログラムを実施すると制度を適用した従業員一人あたり5万円の助成が受けられます。 どのプログラムも従業員のモチベーション・生産性向上に繋がる内容ですので、活用を検討してみてはいかがでしょうか。
eラーニングを活用する
eラーニングとは、動画講義をスマートフォンやPCで視聴し、学習できるサービスです。 インターネットさえ繋がれば時間や場所を選ばず学習が可能なので、わざわざ研修の場所や時間、人材を確保する必要性がなくなります。 昨今では、企業研修向けにビジネススキルを動画にした研修パッケージを提供している企業もあり、3万円~10万円程で利用可能です。 一般的な集合研修であれば、会場費や講師を招待するためにかかる費用を考えると低額で研修を行うことができます。
Schooのオンライン研修を紹介
schooのオンライン研修ではエクセルスキルやビジネスマナーなどの一般的なビジネススキルに加え、営業術やプログラミングといった職種別の研修も用意しています。 また、各従業員が何をどれくらい学んだのかが一元管理できる機能もあり、研修管理がしやすい設計となっているため、普段の業務でまとまった時間が取りづらいという方でも利用しやすいサービスです。 ここでは、主な研修コンテンツについていくつか紹介します。
仕事がデキると思われるビジネスマナーの基本

この授業では仕事がデキると思われるビジネスマナーの基本を解説します。
東京外国語大学を卒業し、ウェディング司会・研修講師を経て、2007年 エイベックスグループホールディングス株式会社人事部にて教育担当に。2010年にキャリアカウンセラー・研修講師として独立。全国の企業や大学などで年間 約2,500人へビジネスマナーやコミュニケーション、キャリアの研修・セミナ―を行う。 現在はライフスタイリストとしてワーク(仕事)寄りだった人生を、生きること=ライフにシフト。自分らしく、かつ生き方を自分らしく美しくすることを自らも目指し、それを広める場作りに力を入れる。 2016年4月、著書「ビジネスマナーの解剖図鑑」(エクスナレッジ)発行
最速のExcel術

この授業では「普段 Excel を使っているが、どうも作業スピードが速くならない……」という方を対象に、『外資系投資銀行がやっている 最速のExcel』著者が、ショートカットを駆使してエクセルの作業効率をアップする方法を実践します。
新卒でモルガン・スタンレー投資銀行本部に入社、顧客企業のM&A、資金調達案件に携わる。現在は、インターネット企業の事業マネージャー。仕事のかたわら、主に週末に「投資銀行が教える!エクセルで学ぶビジネス・シミュレーション」セミナーを全国各地および海外で開催し、8ヶ月で2,000名以上が参加。企業研修も実施中。 2014年10月27日発売のPRESIDENTのエクセル特集も監修。
Pythonで学ぶ、初めてのプログラミング

この授業では、プログラミング言語「Python」を使って、プログラミングに必要な考え方を身につけて頂くのをゴールとしています。
1979年生まれ。SIer在籍期間にブログ「GoTheDistance」を始め、SIerを巡るIT業界のあり方・エンジニアのキャリアについて記事を書き、様々なメディアで紹介される。「ござ先輩」とも言われている。 中小企業のITをサポートするITプロフェッショナルがあまりにも少ないことに危機感を覚え、「中小企業のIT投資のROIを最大化できて、経営に資するITを手に入れて頂く。」ことをミッションにした会社を2016年6月に創業。 重度の野球好き。会社名も野球の用語から取っており、「いつ野球見るの?今でしょ?!」という野球ブログを書いている。東京ヤクルトスワローズのファン。
中小企業が人材育成に活用できる助成金の例
キャリアアップ助成金
人材開発のための助成金として、「キャリアアップ助成金」があります。非正規雇用の労働者のキャリア形成を図るため、体系的な人材育成制度を導入する取組みに対しての助成金です。非正規社員の「正社員化」や、非正規社員への人材育成など、厚生労働省が定めた8つのコースに当てはまる企業が受け取ることができます。非正社員の扱いを正社員に近づけ、正社員になれるようにキャリアアップ支援を行っていることが条件となります。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、正社員のキャリア形成を図るため、体系的な人材育成制度を導入する取組に対しての助成金です。「キャリアアップ助成金」とは違って、主に正社員のスキルアップ・キャリアアップに対しての取組みを支援しようとする助成金が、この人材開発支援助成金です。教育訓練をする、「訓練関連コース」とキャリアカウンセリングの導入などの制度作りに関する「制度関連コース」の2つがあり、コースによって補助金の額が変わります。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、経路計画に基づいて、小事業者の地道な販路開拓などの取組を支援するための補助金です。対象となる経費としては、機械装置費、開発費、広報費など、比較的幅広い経費を補助してもらえる補助金です。補助の上限はおよそ50万円で、補助率は2/3以内と、他の補助金と比べると補助額は少し小さくなってしまいますが、小規模事業者向けの補助金として活用することができます。
企業における人材育成事例一覧
株式会社アントレ
2019年に親会社から独立したことで、社員研修の仕組みが一切無い状態となったことがきっかけで、オンライン学習サービスを導入し、社員一人一人の成長に活用されているそうです。活用方法としては、まず初めに上司と部下の社員で面談を行い、学習の到達目標を設定します。そして、社員が目標達成に必要な講座を選択して受講し、学んだこととその講座を受けたことで得られた成果を面談で報告するという形でオンライン学習サービスを活用しています。さらに、半期に一度学んだことを共有する場を設け、社員同士が刺激し合うように成長できる人材育成を行っています。
デジタル・アドバイタイジング・コンソーシアム株式会社
この会社では、元々内製で研修を計画・作成し、人材育成を進めてきましたが、内製の研修と外部の研修を組み合わせた方が効果的であると考え、オンライン学習サービスを導入されました。インターネット広告をメインの事業として行っている会社であるため、どうしても環境の変化が激しく、新しい情報や業界のトレンドに常にキャッチアップしていく必要がるため、日々コンテンツが新しく更新されるオンライン学習サービスを活用し、社員を育成しているそうです。
株式会社小学館集英社プロダクション
この会社では、デジタル人材を育成したいという大きな目標があり、オンライン学習サービスを活用した人材育成を行うことを決めたそうです。デジタル人材として必須のスキルであるwebリテラシーを身につけてもらうためにオンライン学習サービスを活用しています。活用方法としては、会社が推奨する講座を組み合わせてカリキュラムを作成し、受講した社員が社内チャットなどで感想を述べあったり、おすすめの講座を紹介するなどして学びの幅を広げているということです。
まとめ
- ・経済産業省が公開したデータによると、人材育成に課題を感じている中小企業は全体の約60%に上る。また、中小企業の58.6%が人材育成について特に人材育成を行っていないと回答しており、課題と感じつつも本格的な改善に取り組めていない。
- ・多くの中小企業が人材育成に対して抱えている課題には、指導するための時間や人材が不足している、人材育成に関するノウハウがない、人材育成のために捻出する予算がないことが挙げられる。
- ・中小企業が人材育成を効果的に行う方法としては、業務のマニュアル化を進めることや、政府の助成金を活用してコストを抑えつつ人材育成を行うことに加え、eラーニングで低コストで各従業員に学んでもらうという方法が挙げられる。