ヒヤリハットとは? 事故防止への取組みと安全教育の重要性について解説
「ヒヤリハット」とは、一歩間違えば重大な事故に発展したかもしれない「ヒヤリ」としたり、驚いて「ハッとする(ハット)」ような事象のことです。この「ヒヤリハット」事象を戦略的に活用し、労働災害防止に役立てる企業も多くなっています。当記事では企業における労働災害防止の取組みと、安全教育の重要性について解説します。
- 01.ヒヤリハットとは?
- 02.ヒヤリハットの事例
- 03.ヒヤリハット報告書作成のポイント
- 04.KYT(危険予知訓練)
- 05.職場の事故を防ぐ安全教育とは
- 06.安全管理ならSchooのオンライン研修
- 07.まとめ
01ヒヤリハットとは?
「ヒヤリハット」とは、労働の現場において重大な事故につながる可能性のある事象のことです。今回は事故には至らなかったが、重大事故につながる危険をはらんだ「ヒヤリ」としたり「ハッとする(ハット)」出来事のことをいいます。こうした事象は収集・分析されて事故を未然に防ぐ取組みに活用されます。
ヒヤリハットはなぜ起きる
そもそも「ヒヤリハット」はなぜ起きるのでしょうか。大別して次の二通りに分類されます。
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- ・設備等の不具合により生じるもの
- ・人間に要因があるもの(ヒューマンエラー)
設備等の不具合は整備不良や老朽化により発生します。これは定期的なメンテナンスや交換により防げます。 作業への慣れ、不慣れ、油断や思い込み、パニックなどヒューマンエラーから生じるものは、事例を共有するといった安全教育を実施することが、防止のための有効な手段となります。
ハインリッヒの法則
重大な事故を未然に防ぐには「ヒヤリハット」の段階で対処することが有効です。その裏付けに「ハインリッヒの法則」というものがあります。 これは、「1件の重大事故の背景には、軽微な事故が29件、さらにその背後には300件のヒヤリハットが潜んでいる」という法則です。「1:29:300の法則」ともいわれます。ヒヤリハットを労働災害防止に役立てる取組みは、この「300の事象」に戦略的にアプローチしていくことといえます。
02ヒヤリハットの事例
ヒヤリハットの事例を見ていきます。厚生労働省が運営する『職場のあんぜんサイト』には、さまざまな労働災害の事例が紹介されています。ヒヤリハット事例についても、イラスト付きで丁寧に解説されているので、その中から典型的なものを紹介します。
建築現場でのヒヤリハット
工事現場において、足場の解体作業中に足場材(腕木材)を取り外そうとしたところ、地上に落下してしまったという事案がありました。落下防止ネットが完全に固定されていなかったために、足場材は道路まで落下したそうです。この事案は、腕木材が架台に固定されていると勘違いしたことが要因で発生しました。また、落下防止ネットの設置が適切に行われていなかったことも被害の拡大に繋がっています。
工場など製造現場のヒヤリハット
工場で起きたヒヤリハットの事例を紹介します。ベルトコンベアを停止させることなく、清掃を行ってしまい、危うく巻き込まれそうになったという事案があります。こちらは、ベルトコンベアを停止せずに作業を行ったことが要因です。他にも機械が作動している中で作業を行なったことによるヒヤリハットの事例も多く紹介されているので、他の事例を知りたい方は厚生労働省のページをご覧ください。
医療現場のヒヤリハット
医療現場におけるヒヤリハットの事例を紹介します。手術で使用した点滴用具をお盆に入れ、廃棄しようとした際に、誤って盆をひっくり返し危うく手指に針を刺しそうになったという事案です。お盆をひっくり返さないようにするためには注意するしかないですが、例えば、移動する際はお盆ではなく蓋がついている容器を使用したり、注射針に何かしらの蓋をすることで、回避できる事案です。
03ヒヤリハット報告書作成のポイント
ヒヤリハット事例の共有には、報告書を作成し記録として蓄積することが有効な手段となります。ここでは報告書作成のポイントについて解説していきます。
いつ
ヒヤリハットが発生した日付と時刻を可能な限り詳細に記録します。時刻まで正確に記録する理由は、同じ発生時刻でも冬と夏では明るさが違うといった状況の違いを把握するためです。詳細に記録することで、検証と分析の精度を上げることにつながります。
どこで・なにをしたとき
「足場の組立て工事で足場を歩行中」「作業場でプレス機を作業中」というように、発生場所と作業内容、状況について簡潔かつ詳細に記入します。
どうなったか
「転落しそうになった」「はさまれそうになった」というように起きたかもしれない事故が明確に分かるように記入します。
原因と自身の状況について
原因については「作業方法や手順に間違いはなかったか」「機械や設備の劣化はなかったか」など、考えられることを記録します。またそのときの自身の状況「ぼんやりしていたのか」「焦っていたのか」「体調が悪かったのか」といったことも記入していきます。
起きたかもしれない重大な事故について
今回はヒヤリハットで終わりましたが、最悪の場合どうなっていたか、あらゆる可能性を想定し記録します。ここがヒヤリハット事例から潜在リスクを洗い出す重要なプロセスとなります。
提案や要望を盛り込む
最後に改善提案や要望を記入します。自分の体調や不注意が原因の場合は今後どのように対処していくか、設備や環境が原因の場合は「照明を明るくしてほしい」といった具体的な要望を記入し改善を提案します。
04KYT(危険予知訓練)
「ヒヤリハット報告書」と並び、安全衛生の分野で活用されているものに、「KYT」があります。K=危険、Y=予知、T=トレーニング(訓練)とそれぞれのローマ字の頭文字をとったものです。危険予知訓練は、作業や職場に潜む危険要因を発見し、解決する能力を高める有効な手法として採用する企業も増えています。
KYTの手法
KYTは次の4つの段階で行われます。自由なディスカッションを促すため、5~6人のチーム編成で行うと良いとされています。
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- 1.業務中のワンシーン描いたイラストを用意し、そこに潜む危険を各自が想定して自由に発言します。
- 2.1の段階で洗い出された項目を選別し、重大事故の可能性があるもの、対策に緊急を要するものに絞りこみます。
- 3.メンバーは1の段階で絞り込まれた項目に対し「自分ならこのように対策する」と意見を述べあいます。
- 4.3の段階で出された対策のうち、チームとして「必ず実施する対策」を決めチームの行動目標とします。
- 最後に「〇〇のときは、〇〇しよう! ヨシ!」というように行動目標を指差し呼称で確認します。
KYTの意義
KYTを実施する意義は、危険に関する感受性を高め、安全を確認してからの行動を習慣化することにあります。業務に精通した複数のスタッフで実施することで、職場に潜む危険要素をすべて洗い出し、対策を練ることが可能になります。そして顕在化した危険要素を、日常的に指差し呼称で確認して潜在意識に叩き込み、安全な行動を習慣化するものです。
05職場の事故を防ぐ安全教育とは
職場における事故を防ぐために、企業はさまざまな対策を実施する必要があります。そのなかでも重要なものが安全教育です。労働安全衛生法において事業者の義務として、次に挙げる3つの安全教育は必ず実施しなくてはならないと定められています。 ・従業員を雇い入れたとき ・作業内容を変更したとき ・職場リーダーへの教育 この3つは適時、実施しなくてはなりません。
会社として取り組んでいることを明確にする
労働災害を起こさないためには、管理職をはじめ、従業員一人ひとりの安全意識を高める機会を作る必要があります。たとえば、リスクアセスメントを実施する際の「危険の洗い出し」や「リスクの見積」は、すべての従業員の意見を集約するといった取組みが有効です。そして従業員から集約したリスクに対し、会社はどのような対策を講じたかを周知することで取組む姿勢を明確に示すと良いでしょう。
ヒヤリハットの事例が重要であることを認識してもらう
企業として安全への取組みに注力していることを示したうえで、「今、あなたが体験したヒヤリハットが、明日起きるかもしれない重大事故を防ぐ」というメッセージを発し、職場で起きる、一見些細と思われるヒヤリハットが重要であることを認識してもらいましょう。
ヒヤリハット事例を報告しやすい環境を整える
事例を報告しやすい環境を整えることも大切です。たとえば、朝礼や終礼で発表する機会を作ったり、ヒヤリハットメモやノートを作成するなど、職場に合った方法で事例を収集します。これをヒヤリハット報告書の作成材料に活用すると良いでしょう。
06安全管理ならSchooのオンライン研修
Schoo for Businessは、国内最大級8,500本以上の講座から、自由に研修カリキュラムを組むことができるオンライン研修サービスです。導入企業数は4,000社以上、新入社員研修や管理職研修はもちろん、DX研修から自律学習促進まで幅広くご支援させていただいております。
Schoo for Businessの特長
Schoo for Businessには主に3つの特長があります。
【1】国内最大級8,500本以上の講座数
【2】研修設定・管理が簡単
【3】カスタマーサクセスのサポートが充実
安全管理に関するSchooの講座を紹介
Schooは汎用的なビジネススキルからDXやAIのような最先端のスキルまで、8,500本以上の講座を取り揃えております。この章では、安全管理に関する授業を紹介いたします。
製造現場で働く人のための安全衛生管理
この授業では、製造業や運送業などの現場で働く人たちのための労働災害の防止、安全衛生の重要性について学びます。
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社会保険労務士法人・行政書士こばやし事務所 代表社員
青山学院大学 大学院 法学研究科修了20年以上に渡り、人事労務管理全般について、多面的に追究しています。 特に、パワーハラスメント防止やモチベーション・マネジメントに関しては、学術、実務の両面で掘り下げており、 公益財団法人21世紀職業財団の客員講師職を拝命しております。 保有資格として、第一種衛生管理者、キャリアコンサルタント、健康経営アドバイザーなど。 (著書) 『新版 ここからはじまる早わかり労働安全衛生法』(東洋経済新報社) 『現場監督のための早わかり労働安全衛生法』(東洋経済新報社) 『パワハラ防止のためのアンガーマネジメント入門』(東洋経済新報社)
※研修・人材育成担当者限定 10日間の無料デモアカウント配布中。対象は研修・人材育成のご担当者に限ります。
オフィスの安全管理
この授業は、これから企業内で業務を始める方を対象として、健康被害を未然に防止できるように安全衛生管理について学びます。
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産業医
医療法人社団同友会 産業保健部門 産業医。産業医科大学医学部医学科卒業。産業医実務研修センター、ジョンソン・エンド・ジョンソン統括産業医を経て現職。専門は産業医学実務。現在日系大手企業、外資系企業、ベンチャー企業、独立行政法人など約30社の産業医業務に従事。
※研修・人材育成担当者限定 10日間の無料デモアカウント配布中。対象は研修・人材育成のご担当者に限ります。
07まとめ
ヒヤリハット事例は、明日発生するかもしれない労働災害を未然に防ぐ貴重な情報です。収集しやすい環境を整備し、確実に活用することが重要です。従業員の安全意識が高く、活発に意見交換がなされることが理想といえます。そのためには、「雇い入れ時の安全教育」のあり方を工夫し、入社時から安全意識を高める取組みを検討してみてはどうでしょうか。