研修費を企業負担とする際の基準や原則とは?取り扱いの注意点について解説する
会社に勤めていると業務に必要な免許や資格更新を行う指示をうける場合があります。専門性の高い業種の場合には、この頻度が高いと言われていますが、その際の経費は会社が負担することになるのでしょうか。本記事では、研修費はどこまで企業で負担するべきかをテーマについて解説していきます。正しい会計処理、知識や技術の習得を実現していきましょう。
01研修費は基本的に会社負担が原則
研修費は会社負担が原則となります。ただし、基準が必要です。次に、研修費を会社負担にする場合の基準について解説していきまます。会社負担とする判断基準は、以下の2つになります。
業務に不可欠であるかどうかを要確認する
会社負担とする基本原則は「業務上に不可欠であるか」です。業務に必要な資格取得、業務を行う上で受けておかなければいけない研修や業務知識を習得するための研修参加は、業務の一環として解釈します。この判断は、容易につきます。この判断基準を原則として、研修の必要性を判断し研修費を会社負担とすることになります。自分自身のスキルアップのために、業務には直接的に関係がない研修を受ける場合には受講生自身の負担になるケースもあるでしょう。
強制的な参加である場合の取り扱いとは
業務に直接関係がないテーマの研修であっても、業務命令としての受講をする研修についても会社費用となります。企業には、指示命令権があり研修を受講する命令を下すことができます。この命令権を行使して受講させる研修は業務の一環の扱いとなります。業務の一環であれば、研修にかかる費用は当然に会社負担となることとなります。
02研修費を会社負担する場合の原則とは
研修費を会社負担とする場合に、会社が行うべきことは何が必要となるのでしょうか。次に、研修を会社負担で行う際に会社として行っておかなければいけない2つのことを解説していきます。業務命令として研修へ参加させることに関する事務的対応だと理解しておきましょう。
参加履歴を残しておく
研修に際しては、「いつ」「誰が」「どこで」「どんな研修」に参加したかの参加履歴を残す必要があります。それだけではなく、「いつ」「どういう手段」「どこからどこに」への移動履歴、「掛かった交通費」「宿泊先」「宿泊費用」までの記録も残す必要があります。研修に関する情報だけではなく、移動、宿泊に関する履歴も残し後日検索が可能にしておくことが必要です。研修終了には、研修に関するレポート提出をさせ履歴として合わせて残しておきます。研修といえども、業務の一環としての参加をさせていることで、通常の業務と同じように履歴を残しておくことが必要です。
経理処理でも明確にしておく
経理処理のおいても、「研修費」として全てを括ってしまいのではなく、その内訳が分かる仕訳を行っておく必要があります。国税調査などにおいて、詳細な内訳の提示を求められる場合や次年度の予算立案時の参考にする際に、明確化できる必要があります。参加履歴との紐づけも行い必要に応じて参加情報を閲覧可能にしておく必要もある点を理解して管理をしていきましょう。
03研修費を給与課税はしない場合の取り扱いとは
次に研修費の給与面での取り扱いについて解説していきます。研修費を給与課税として扱うかについては、経理処理上でも議論されるテーマです。研修費を給与課税としない場合の判断基準を明確にしていきます。
職務に必要な技術などを習得した場合
研修費を給与課税しない場合の条件は、以下の3つです。
- 【3つの条件】
- ・会社の業務遂行上必要であること
- ・職務に直接必要であること
- ・適正な金額であること
この原則に該当する場合には、研修費は給与課税対象にはなりません。あくまで、企業運営の中で必要なものとし、会社で負担することになります。専門的な知識や国家資格など、本人に権利が帰属する資格もありますが、あくまで職務に必要である、業務遂行上必要である場合には、会社負担での受講となる点を理解しておきましょう。
参考:No.2601 職務に必要な技術などを習得する費用を支出したとき
大事になるのはエビデンス
会社経費として扱う場合には、前述の「研修費を会社負担する場合の原則」で解説している通り、会社の経費を何に使ったかのエビデンスを残しておくことが必要になります。経費をどのような内容で使ったかは、参加する研修会社の請求書や宿泊施設の領収書などで記録を残し必要に応じて参照できるようにしておきましょう。
04研修費用を自己負担させる場合の留意点
研修費用を自己負担させる場合を想定し、準備をしておくことも必要です。従業員の意思でスキルアップなどを目的とした研修参加を希望する場合には、会社経由で申し込んだ方が割引などの適用が行われ安価に研修を受けることが可能な場合があります。このような場合には、会社が立替を行い研修に参加し後日、研修費を清算します。この様な方法を適用する場合には、研修費が自己負担であることを説明し承諾を得ておきましょう。
就業規則への記載と説明義務
研修費用を自己負担する場合についての取り決めは、就業規則にあらかじめ記載し説明をすることが必要です。就業規則においては、「自己啓発に伴う研修参加費用は原則、受講者本人の負担とする」などの明記とし、詳細なルールは内規などで記載しておきます。実際に想定されるケースや給与からの天引きなどの清算ルールを記載し、周知をしておきます。研修参加や申込時には、この内規の内容を再度、受講者に説明し同意をえる様にしましょう。
労働条件通知書への記載
労働条件通知書においても、就業規則と同様に研修に関する取扱いを記載する必要があります。労働契約書は通常2部作成し、双方で保管を行います。つまり、これによって労働者も同意した労働条件通知書を保管しているため、一方が知らないという状況を未然に防ぐことができるでしょう。ただし、労働条件通知書に研修費に関する取扱いを細かく記載することは難しいため、研修に関しては「就業規則第何条を適用する」などと記載し就業規則の説明を同時に行うことが重要です。
入社前の説明と同意書の提出
専門性の高い業務や国家資格など、業務を遂行する上で必要となる資格が想定される場合には、入社前に研修費用の関する取扱いを説明し同意書の提出を促す必要があります。入社すれば資格取得できるということではなく、自己負担と会社負担に関するルールを理解し同意した上での入社とすることで、入社後のトラブルを大幅に軽減することができます。
05退職者に研修費用を請求することは可能か
退職者に対して研修費用を請求するかについては、人事部門でも議論されるテーマです。社会通説的には、請求できないとされているため、退職後の清算は難しいと考えらえています。しかし、年間を通して高額な研修に参加し、研修終了後に即退職となれば企業側のリスクのみが大きくなると考えられるでしょう。こうしたリスク回避するために、研修参加時には「修終了、資格取得終了後3か年は業務に従事する」などの誓約書を提出する方法を取ります。この誓約書には法的拘束力はなく、従業員への牽制の意味合いを持つのみとなりますが、受講者への意識へ働きかけることには有効な方法です。
06研修費を無駄にしないための方法
研修費を無駄にしないためにも対策を講じる必要があります。業務遂行を目的としていても、従業員に知識や技術の習得機会を提供したことを業務に活かすための方法についても理解しておきましょう。
制度設計と就業規則記載に伴う目的の周知
研修については、人材育成の制度設計を年間や中長期単位で行っておくことで、計画的、段階的な育成を実現していきます。また、就業規則に人材育成に関する記載し周知を行います。人材育成の目的や目指すべき姿、研修制度の有無を記載し従業員全てに研修制度があることを周知しておきましょう。人材育成の制度の詳細を就業規則に記載することは難しいため「別紙に定める人材育成制度の準じる」などの記載を行います。
学んだことをアウトプットさせる場の構築
研修が終了した後には、学んだ内容とどう職務に活かすかについてのレポート提出や部内朝礼などの場で発表するなどアウトプットの場を準備しておきます。アウトプットを行うことで知識の定着化を促進させること、学んだことを整理することができます。
理解を深めるための実践の場の構築
研修終了後の一時的なアウトプットだけではなく業務中に知識や技術を使う場を提供する必要もあります。学んだだけにならず、日常の業務の中で活用することでこそ本当の意味での理解を深めることができます。参加しただけにならないため研修が終了した後にできるだけ早いタイミングで知識、技術活用を開始できるようにしておきましょう。
07就業規則記載時にはテンプレートを活用する
本記事では、就業規則に記載する文例を紹介しています。労働基準局のHP上にはモデル就業規則が掲載されています。本記事でご紹介している内容と合わせてモデル就業規則を参照することで法令を遵守した就業規則を作成することができます。就業規則の作成については、自社では難しいと考える場合もありますが、このようなテンプレートを利用すれば自社内での作成も可能になることを理解しておきましょう。就業規則の改訂においても同様に労働基準局のホームページにある文例を参考に作成してみてください。
参照元:労働基準局「モデル就業規則」
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08まとめ
本記事では、「研修費」を扱う際の注意点となる企業負担となるかの判断基準や注意事項について解説しています。研修費の取り扱いについては、企業独自のルールを整備することも必要ですが、法令違反になる対応はできません。従業員の知識、技術向上により企業の成長を叶える研修費は社内で予算化する必要がある予算であるため正しい会計処理が必要です。本記事を参考に社内の研修費について再確認していきましょう。