アンドラゴジーとは|ペタゴジーとの違いや5つの特徴を紹介

アンドラゴジーとは、一般的に成人学習と呼ばれる概念であり、近年企業において重要視されるようになってきています。本記事ではアンドラゴジーの起源やペタゴジーとの違い、社内研修を行う上で意識するべきポイントについて解説していきます。
- 01.アンドラゴジーとは
- 02.アンドラゴジーとペダゴジーとの違い
- 03.アンドラゴジーが注目されている背景
- 04.アンドラゴジーの5つの特徴
- 05.アンドラゴジーを研修に取り入れるコツ
- 06.オンライン研修|Schoo for Business
- 07.まとめ
01アンドラゴジーとは
アンドラゴジー(Andoragogy)は、「成人」を意味するギリシャ語の「aner」と、「指導」という意味を持つ「agogus」が組み合わさってできた造語で、日本語では「成人学習」や「成人教育」として訳されることが多いです。 アメリカの成人教育に関する理論家である、マルカム・ノールズという人物によって体系化された学習理論であり、近年、企業の人材教育に活用していく流れが広まりつつあります。 アンドゴラジーは、「自己概念」「学習経験」「レディネス」「方向付け」「動機付け」という5つの観点からまとめられています。
アンドラゴジーの起源
アンドラゴジーは、19世紀前半のドイツが発祥と言われています。 当時、ドイツの教師であったアレクサンダー・カップという人物が、自身の担当である成人学生に対する教育方法について説明する際に用いたとされています。 しばらくはあまり広く普及されていきませんでしたが、1958年に同じくドイツ人のフランツ・ペゲラー教授によって書かれた「アンドラゴジー入門‐成人教育の基本問題」という本をきっかけに、ヨーロッパ全土に広がるようになりました。 その後、アメリカの成人教育に関する理論家であるマルカム氏によって理論立てられ、今に至っています。
02アンドラゴジーとペダゴジーとの違い
アンドラゴジーと対比される形でよく登場する言葉に、「ペタゴジー」という言葉があります。アンドラゴジーとペダゴジーの違いをまとめたものが、以下の表です。
アンドラゴジー | ペダゴジー | |
自己概念 | 能動的 | 受動的 |
学習経験 | 豊富な人生経験や専門知識 | 経験が限定的 |
レディネス | 自身の職務や役割の変化に応じた実践的なスキルや知識を必要と感じたときに学ぶ | 学習内容や目的は主に教師が決定し、子どもはその枠組みに従って学ぶ |
方向付け | 課題解決 | 基礎知識の習得 |
動機付け | 内発的な動機 | 外発的な動機 |
アンドラゴジーとペダゴジーの違いは、学習における能動性です。アンドラゴジー(成人教育)では、学習者である成人が自らの学習目標や方法を主体的に設定し、自律的に学ぶことが重視されます。成人は、自分の経験を学びに活用し、実際の課題解決に結びつく実践的な学びを求めます。このため、学習プロセスは双方向的であり、指導者はファシリテーターとしての役割を果たします。
一方、ペダゴジー(児童教育)では、学習者である子どもが教師の指導に依存する受動的な学びが一般的です。学びの目標や方法は教師によって設定され、カリキュラムに基づいた指導が中心となります。学習の主導権は教師にあり、学習者は教えられた内容を吸収することに重点が置かれます。
03アンドラゴジーが注目されている背景
ドイツ発祥の概念であるアンドラゴジーですが、企業になぜ求められるようになっているのでしょうか。 成人教育が重要になってきているという観点で、2つの背景をご紹介します。
1: 終身雇用の終焉
終身雇用制度が徐々に崩壊しつつある現代において、アンドラゴジーの重要性が増しています。かつては、企業が従業員のキャリアを終身にわたって保障し、必要なスキルは企業内での研修やOJTで身につけることが一般的でした。しかし、雇用の流動化や経済環境の変化に伴い、個人が自ら学び、自らのスキルを向上させる必要性が高まっています。
アンドラゴジーは、成人が主体的に学び、実務や現実の課題に直結するスキルを身につけることを目的としています。これにより、個人が変化の激しい職場環境や市場に対応する力を養い、自らのキャリアを切り開くことが可能となります。終身雇用の終焉が、成人教育を重視するアンドラゴジーの注目を高める一因となっています。
2: キャリア自律
キャリア自律が求められる現代では、アンドラゴジーが注目されています。キャリア自律とは、個人が自らのキャリアを計画し、進めていく能力を指します。企業は、従業員に対してスキルアップやキャリア開発の機会を提供しますが、その責任は個人に委ねられる傾向が強まっています。
このような背景の中で、アンドラゴジーは成人が自己の興味やニーズに基づいて学びを進めるプロセスを支援します。自己概念や過去の経験を活かしながら、具体的な目標に向けて学ぶことで、個人のキャリアの方向性が明確になります。また、アンドラゴジーのアプローチは、実践的で現場に即した学びを重視するため、キャリア自律を推進するための有効な手段となります。
04アンドラゴジーの5つの特徴
アンドラゴジーには以下の5つの特徴があります。
- ・自己概念
- ・経験
- ・レディネス
- ・方向付け
- ・動機付け
アンドラゴジーは、「自己概念」「学習経験」「レディネス」「方向付け」「動機付け」の5つの特徴によって構成されます。この理論に基づき、成人教育では、学びの目的を明確にし、実務に役立つ内容を提供することが求められます。以下に、それぞれの特徴を具体的に紹介します。
自己概念
自己概念とは「自分がどのような人間であるか」という問題に対し、自分自身が持っている回答のことです。一般的に、人間は成長するにつれて、自分自身を自分で管理することができているという自己概念が強くなっていくと言われています。 したがって、成人教育においては自己概念に基づき、与えられるだけの受動的な学習ではなく、自ら積極的に求めていく能動型の学習設計が重要になるのです。 一方、ペタゴジーでは自分のことを自分で管理するという概念が弱く、教えられるがままに学ぶという受動的な学習が中心になります。
経験
人間は生きた年数が長くなればなるほど成功や失敗など様々なことを経験し、成長していきます。 成人教育においては人生経験が豊富な人はその分知識やノウハウも豊富であるということを前提とし、各々が経験によって培ってきたものを活用することで、0から学習を行うよりも効果的になると言われています。 グループ学習を行う際は各自の成功体験とそれを元に学んだ知識やノウハウを共有し、お互いの理解を深めていくようにしましょう。 一方、ペタゴジーではまだ十分な経験がないことが多いため、経験を活用して学習するといったことはほとんどありません。
レディネス
レディネスとは心理学における概念で、学習のための準備状態を示す言葉です。物事を学習するにあたって必要となる条件や心身の準備、環境などが整っていて学習に対する準備ができている状態を指します。 このことにより、成人教育においては職業や役職、職位に焦点を当てて学習者の課題を捉えることが重要になっています。 一方、ペタゴジーでは年齢にフォーカスし学習のカリキュラムが決められることが多いため、個別の状況とは関係なく年齢に応じて一定の学習内容が決められます。
方向付け
方向づけとは「なんのためにその学習を行うのか」といった目的を重視する概念です。 成人教育においては、学習によって学んだ知識を活用してどうしたいのか、何に活かせるのかという目的が非常に大切になります。直面している課題を解決したり、自分の市場価値を向上させたりするという目的を持ち、そこから逆算して必要な学習を行うことが重要になります。 一方、ペタゴジーではテストでいい点を取りたい、学習内容を正しく理解したいという単純な目的で学習をすることが一般的です。
動機付け
アンドラゴジーには、「成人学習は外発的動機よりも内発的同期に基づいている」という前提の考え方があります。 内発的動機とは、趣味や関心といった人々の内面にある動機付けのことを指します。一方で外発的動機とは、お金や報酬、罰則などの外部による動機を指します。 成人教育においては外発的動機ではなく、内発的動機によって学習をさせる方が、より効果的に教育を進めることができるでしょう。 一方、ペタゴジーでは先生や親に褒められたい、間違えて叱られたくないといった外発的動機から学習に参加するようになることが多いです。
05アンドラゴジーを研修に取り入れるコツ
アンドラゴジーは5つの特徴から成る成人教育の概念ですが、これらを実際の社内研修に活かす際には具体的にどうすればいいのでしょうか。 3つのポイントをご紹介します。
ワークショップなどを活用し参加者に主体性を持たせる
自己概念という特徴に基づき、成人学習においては参加者が主体性を持って学ぶことが重要とされています。 それを研修に活かすためには講義形式の座学を行うのではなく、ワークショップ形式で参加者が主体的に参加できるような研修の方が効果的です。 実際に手や頭を動かし参加者同士で発言し合い、体験を通して学びにつながるような研修を用意するようにしましょう。
役職やポジションが同じ人同士をディスカッションに参加させる
アンドラゴジーの経験という特徴から授業員への教育では、参加者それぞれの経験を活用して行うことで、より効果的に進めることができるとされています。 これを企業で活かすためには、役職やポジションが同じ人同士で過去の成功体験から得られた学びなどについてディスカッションを行わせることが有効でしょう。同じ立場であっても、それぞれ経験したことは異なるため、お互いの経験を共有することは深い学びにつながります。
研修に目的意識を持たせるための事前説明を行う
成人教育においては外発的動機ではなく内発的動機が重要視されます。そういった中で研修を行う場合は、参加者にしっかりと目的意識を持たせるように意識しましょう。 なんの前触れもなく、全社員に対して一斉に行われる研修に従業員を強制的に参加させても、目的意識を持たせることはできません。なぜその研修が必要なのか、参加することによってどういった効果が見込めるのかといった説明を事前に行うようにしましょう。 研修内容が自分にとって有意義であることが事前に分かれば、目的意識をもった上で従業員が研修に参加することができます。
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■資料内容抜粋
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・自己啓発への活用方法 など

06オンライン研修|Schoo for Business

Schoo for Businessでは、約9,000本の授業をご用意しており、様々な種類の研修に対応しています。階層別研修やDX研修なども実施でき、さらにアセスメント機能も標準で備わっています。また、自律学習の支援ツールとしても活用いただいており、「主体的に学び、成長する人材」の育成を目的にして、ご導入いただくことが多いです。
受講形式 | オンライン (アーカイブ型) |
アーカイブ本数 | 9,000本 ※2023年3月時点 |
研修管理機能 | あり ※詳細はお問い合わせください |
費用 | 1ID/1,650円 ※ID数によりボリュームディスカウントあり |
契約形態 | 年間契約のみ ※ご契約は20IDからとなっております |
Schoo for Businessの資料をダウンロードする
研修に関するSchooの講座例
Schooでは9,000本以上の動画をすべて自社で作成します。この章では、人材育成・研修に関するSchooの講座を紹介します。研修担当者の方であれば、10日間限定でSchooの全授業をお試し視聴できるデモアカウントを発行可能ですので、気になるものがあれば、お気軽にお問い合わせください。
社員研修のあるべき姿
この授業では、社員研修の必要性や役割についてインストラクショナルデザイン(ID)を軸に学びます。研修担当者として「何のために社員研修を行うのか」「研修の役割と担当者としての立ち位置」など、研修の根本的な考え方をまず問い直すために、インストラクショナルデザイン(ID)をもとにした研修のあるべき姿について学んでいきましょう。
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熊本大学教授システム学研究センター 教授
1959年生まれ。Ph.D.(フロリダ州立大学教授システム学専攻)。ibstpi®フェロー・元理事(2007-2015)、日本教育工学会監事・第8代会長(2017-2021)、教育システム情報学会顧問、日本教育メディア学会理事・第7期会長(2012-2015)、日本医療教授システム学会副代表理事、日本イーラーニングコンソシアム名誉会員など。主著に「学習設計マニュアル(共編著)」、「研修設計マニュアル」、「教材設計マニュアル」、「教育工学を始めよう(共訳・解説)」、「インストラクショナルデザインの原理(共監訳)」、「学習意欲をデザインする(監訳)」、「インストラクショナルデザインとテクノロジ(共監訳)」などがある。
ビジネスパーソンの『学習設計マニュアル』
この授業では、学校教育の勉強とは異なるおとなの「学び方」について学びます。社会に出てからの「学び」は、学校教育での「勉強」とは言葉は似ていますが、まったく異なる行動です。そこで、「学び方」を学ぶことによって、今の自分に適した学習を設計できるように、インストラクショナルデザイン(ID)の研究者である熊本大学・鈴木克明教授からおとなの「学び方」について学んでいきましょう。
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熊本大学教授システム学研究センター 教授
1959年生まれ。Ph.D.(フロリダ州立大学教授システム学専攻)。ibstpi®フェロー・元理事(2007-2015)、日本教育工学会監事・第8代会長(2017-2021)、教育システム情報学会顧問、日本教育メディア学会理事・第7期会長(2012-2015)、日本医療教授システム学会副代表理事、日本イーラーニングコンソシアム名誉会員など。主著に「学習設計マニュアル(共編著)」、「研修設計マニュアル」、「教材設計マニュアル」、「教育工学を始めよう(共訳・解説)」、「インストラクショナルデザインの原理(共監訳)」、「学習意欲をデザインする(監訳)」、「インストラクショナルデザインとテクノロジ(共監訳)」などがある。
研修の組み立て方 ‐ 設計・実施・評価
この授業では、研修の設計から実施、評価までの一連の組み立て方について学びます。研修担当者のために研修の設計・実施・評価がデザインできるように、インストラクショナルデザイン(ID)をベースにヒューマンパフォーマンスインプルーブメント(HPI)、プロジェクトマネジメント(PM)の考え方を掛け合わせたビジネスインストラクショナルデザイン(BID)を基に研修の組み立て方について、講師2名のデモンストレーション形式で学んでいきます。
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サンライトヒューマンTDMC株式会社 代表取締役社長
熊本大学大学院 教授システム学専攻 非常勤講師。製薬業界での営業、トレーニング部門を経て、起業。HPIやIDを軸とした企業内教育のコンサルティングやインストラクショナルデザイナー、インストラクターを育成する資格講座の運営を行っている。IDの実践方法を提供してきた会社は100社、4,000名を超える。 主な著書:『魔法の人材教育(改訂版)』(幻冬舎、2017年)、『ビジネスインストラクショナルデザイン』(中央経済社、2019年)
※研修・人材育成担当者限定 10日間の無料デモアカウント配布中。対象は研修・人材育成のご担当者に限ります。
導入実績

Schoo for Businessは、大企業から中小企業まで幅広い企業にご導入いただいております。利用用途も各社さまざまで、階層別研修やDX研修としての利用もあれば、自律学習としての利用もあり、キャリア開発の目的で導入いただくこともあります。
導入事例も掲載しているので、ご興味のあるものがあれば一読いただけますと幸いです。以下から資料請求いただくことで導入事例集もプレゼントしております。そちらも併せて参考にいただけますと幸いです。
07まとめ
アンドラゴジーは成人教育に対する概念ですが、企業における社員研修においても非常に役に立つ考え方です。 アンドラゴジーの5つの特徴を意識し、従業員がより研修を通してより深い学びにつながるよう、社員研修を設計していきましょう。