公開日:2021/09/10
更新日:2023/12/26

ナラティブアプローチとは|職場における対立を解消する方法を解説

ナラティブアプローチとは|職場における対立を解消する方法を解説 | オンライン研修・人材育成 - Schoo(スクー)法人・企業向けサービス

職場ではさまざまな個性をもつ人が、それぞれの役割を果たすために仕事をしています。各人の役割を果たす上で、同じ社内であっても、部署間・従業員間に利害の対立が生まれることもあるでしょう。多様性・複雑性を増す現代のビジネス環境において、その傾向は強くなる一方です。当記事は、こうした職場での対立を解消する可能性を秘めた新しい手法「ナラティブアプローチ」について解説していきます。

 

01ナラティブアプローチとは?

ナラティブ(narrative)とは日本語に訳すると「物語」を意味します。元々は臨床心理学から派生した手法ですが、現在では医療だけでなくさまざまな分野で幅広く応用されています。 例えば、ある悩みや問題を抱えた相談者がいるとします。その悩みや問題を「私を主語」にした「物語」として語ってもらいます。その語りのなかから相談者の「考え方」「思い込み」を明らかにし、問題解決の方向性を探っていく対人支援の新しい手法がナラティブアプローチです。

相談者の物語とは

ナラティブアプローチにおける相談者が語る「物語」は、相談者の「主観そのもの」であり性格や置かれた環境に強く影響され形成されたものと捉えます。当然、その主観には相談者自身の「思考の癖」「思い込み」も含まれます。それらの「思い込み」は周囲から見れば事実と異なる「歪み」の可能性もあります。その「歪み」を正しい方向に導くことがナラティブアプローチの目的であるといえます。

ナラティブアプローチにおける支援者の役割

ナラティブアプローチにおいて相談を受ける支援者の立場は、従来のカウンセラーの立場とは大きく異なります。ナラティブアプローチにおける支援者は「専門家」の立場で、その悩みの判定や助言・指導を行いません。相談者が語る「物語」に耳を傾け、相談者に合った解決方法を対話により導き出そうとします。支援者は高い立場から指導するのではなく、「伴走者」のように相談者に寄り添い、問題解決に向かっていく役割を担います。

 

02ナラティブアプローチが活用されているシーン

ナラティブアプローチは医療だけではなく、ビジネスシーンでも活用されています。ここでは主に活用されているシーンの例を解説します。

マーケティング

マーケティング分野でもナラティブアプローチは効果的に活用されています。ブランドや製品に物語を組み込むことで、消費者との共感やつながりを生み出し、商品やサービスの魅力をより深く伝えることができます。ストーリーテリングを通じて、消費者は単なる商品やサービスだけでなく、その背後にある意味や価値を理解しやすくなります。このようなアプローチはブランドの認知度向上や顧客忠誠度の構築に効果を発揮します。

キャリアコンサルティング

キャリアコンサルティングにおいても、ナラティブアプローチは重要な役割を果たしています。個々のクライアントの人生や仕事にまつわる物語を理解することで、キャリアコンサルタントはクライアントの価値観や目標を把握しやすくなります。クライアントの過去の経験や将来のビジョンをナラティブとして捉えることで、適切なキャリアパスや成長戦略を提案することが可能になります。

 

03ナラティブアプローチの実践方法

ここからはナラティブアプローチを活用した支援の流れについて見ていきます。まずは相談者に「物語」として問題や課題を語ってもらいます。その語りのなかから支援者は相談者が抱えている問題を見つけ、相談者にとって最適な「解決」を探っていきます。

“ナラティブアプローチの実践方法
 

ドミナントストーリーを聴く

「ドミナントストーリー」とは相談者が「支配されている悩み」を物語化したものです。多くの場合、相談者は自己を否定し「この現状は変えることができない」という思考に支配されています。まずこのステップは、こうした相談者の悩みをありのまま受け止める段階です。 最終的には、この「ドミナントストーリー」を前向きなストーリーに置き換えることを目的とします。まずはこの段階で先入観を交えず、相手の抱える問題の深い部分を捉えるようにします。

問題を言語化する

相談者の悩みをありのまま受け止めたら、次のステップではその問題の本質に迫っていきます。相談者の多くは、この時点では「問題の原因は自分自身にある」と自己否定の感情に支配されています。これは問題が自己に内在化している状態です。 支援者は相談者に問いかけをするなかで、その問題に「適当な名前」をつけてもらうことで客観視できるように促します。これを外在化といいます。相談者の心中でまとまりがつかない問題を自己から切り離すことにより本質を見極め、別の角度から思考できるようにしていきます。

反省的な質問をする

反省的な質問とは相談者が関わる問題において「誰が」「どのような出来事が」「どのような経験が」関わっているのかを具体的に質問し思い出してもらうことです。 例えば、「部下に嫌われている」と悩む上司が相談者の場合、「具体的に部下の誰に嫌われているのか」「原因となった出来事」「どのようなことがあって嫌われていると感じているのか」を具体的に質問します。

例外的な結果を見出す

反省的な質問を踏まえ対話を進めていくと、相談者の思い込みにより構成された「ドミナントスリー」にそぐわない、「例外的なエピソード」が見つかる場合があります。これは自己否定により視野が狭くなり、相談者自身が見落としていた事実に気づいてもらうことでもあります。 「部下に嫌われている上司」の例でいえば、「自分は部下の相談にのることが多い」という事実があれば、それに気づいてもらうことです。

オルタナティブストーリーを構築していく

例外的なエピソードが見つかれば、さらに質問を重ねていきます。相談者が気づいていなかった事実をさらに引き出し、それをもとに新たなストーリーを構築していきます。 オルタナティブとは「代替」を意味します。相談者が抱えていた「ドミナントストーリー」を前向きな「オルタナティブストーリー」に「代替」し置き換えていくプロセスを経て相談者の悩みを解消していくのです。

 

04ナラティブアプローチのメリット

ここからはナラティブアプローチを意識した取り組みが職場風土の改善にもたらすメリットについて見ていきます。ナラティブアプローチを意識した対話が職場内に増えると、さまざまな利害の対立が解消する可能性があります。 ポイントは、前述の「専門家が専門性を手放す」のと同じように「自分の考える正しさ」を一旦手放し、相手の話を「正しいもの」としてありのまま受け入れることにあるといえます。

上司と部下の関係性の改善

例えば、「上司は自分の考えを理解してくれない」と悩みを抱える部下がいたとします。その悩みには「自分が正しい、上司が間違っている」という考えが根底にあります。このように自分の正当性ばかりを主張していては関係が良くなることはないでしょう。 ナラティブアプローチを意識した対話において、部下は上司の話を聴くときに、自分の正当性を一旦手放し、上司の話を受け入れます。上司の側も部下の「思い」をありのままに受け止める努力をします。こうした対話を重ねることで、相互の考えの接点を探ることができ、相手の立場や考えの背景を理解できます。これが関係性の改善に向けた最初の一歩となるのです。

課題の発見

ナラティブアプローチを意識した対話が増えることで新たな課題が発見できる可能性もあります。対話が少ない職場においては各人が目先の仕事に追われ、内在する複雑な問題に目を向けなくなります。これは仕事がスムーズに進まないという違和感を覚えながら、その原因を放置している状態であるといえます。 こうした状況を打開するには、「違和感の正体は何なのか」を対話により突き止めていく必要があります。こうした対話から新たな課題が発見され、その課題を解決することで職場の環境が良くなることも十分に考えられます。

新たなアイデアが生まれる

対話が増えることで相互理解が深まることは、これまで見てきたとおりです。ナラティブアプローチを意識した対話が浸透していくことで、部署間・従業員間の接点が増えていきます。それぞれの立場や置かれた状況を相互に理解した上で力を合わせ課題に向き合えば、以前とは違う視点のアイデアが生まれる可能性があるのではないでしょうか。

 

05ナラティブアプローチのコツ

そもそも、対話の少ない職場において生産性が上がることは稀であるといえます。対話を阻害するものは何でしょうか。それは「同じ会社なのにあの部署とは話が通じない」「あの人とは同じ目標を共有できない」といった思い込みの壁「ドミナントストーリー」であるのかもしれません。 組織においては「どちらの意見も正しいが故の対立」というものが存在します。それを解消するのがナラティブアプローチであるといえます。

まずは自分の正当性を手放す

意見の異なる相手と対話する上で、もっとも重要なポイントは「自分の正当性」を一度手放し、相手の話を先入観なくありのまま受け入れることです。ここがナラティブアプローチの重要なポイントです。この段階で相手を批判したり、反対意見を述べたりしてはいけません。まずは傾聴に徹します。

お互いが相手の立場を理解する

「自分の正当性」を手放し相手の話を聴き、さらに自分の考えを語ることでお互いに相手が抱える事情や立場を理解できるようになります。相互理解を深めることができないのは、このプロセスが欠けているからにほかなりません。ナラティブアプローチを意識した会話が浸透すれば、こうしたもどかしさは解消されていくでしょう。

妥協点を模索する

お互いに相手の立場を理解できれば、あとは双方の妥協点を探っていくだけです。対話による歩み寄りのなかで、「例外的なエピソード」がいくつも見つかるかもしれません。「同じ会社なのに話が通じない」「あの人とは同じ目標は共有できない」といった思い込みによる「ドミナントストーリー」は「オルタナティブストーリー」へと置き換わっていくのです。


 

研修をしてもその場限り」「社員が受け身で学ばない」を解決!
研修と自己啓発で学び続ける組織を作るスクーの資料をダウンロードする


■資料内容抜粋
・大人たちが学び続ける「Schoo for Business」とは?
・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など

Schoo_banner
 

06ナラティブアプローチも学べるSchooのオンライン研修

Schoo for Businessは、国内最大級8,000本以上の講座から、自由に研修カリキュラムを組むことができるオンライン研修サービスです。導入企業数は3,000社以上、新入社員研修や管理職研修はもちろん、DX研修から自律学習促進まで幅広くご支援させていただいております。


Schoo for Business
 
受講形式 オンライン
(アーカイブ型)
アーカイブ本数 8,000本
※2023年3月時点
研修管理機能 あり
※詳細はお問い合わせください
費用 1ID/1,500円
※ID数によりボリュームディスカウントあり
契約形態 年間契約のみ
※ご契約は20IDからとなっております
 

Schoo for Businessの資料をもらう

Schoo for Businessの特長

Schoo for Businessには主に3つの特長があります。

【1】国内最大級8,000本以上の講座数
【2】研修設定・管理が簡単
【3】カスタマーサクセスのサポートが充実

ナラティブアプローチに関するSchooの講座を紹介

Schooは汎用的なビジネススキルからDXやAIのような最先端のスキルまで、8,000本以上の講座を取り揃えております。この章では、ナラティブアプローチに関する授業を紹介いたします。

人生を肯定的に捉え直すコミュニケーション技法『ナラティヴファシリテーション』

人生を肯定的に捉え直すコミュニケーション技法『ナラティヴファシリテーション』
 

心理療法ナラティヴセラピーを応用したファシリテーション技法として、各所で注目を浴びています。 この技法のベースとなっている考え方は「人やその人間関係が問題なのではなく、問題が問題である」ということ。問題となっているものを「その人自身から起因する問題」とするのではなく、問題を客観視して、課題解決の方法を考えるように導くことを目的としています。 今回はナラティヴファシリテーションの先駆者である田中先生を講師としてお招きし、ナラティヴファシリテーションのベースとなっている考え方や、活用する際の実践的知識を学んでいきます。

  • ナラティヴ・セラピスト/産業カウンセラー

    2006 年、NPO 法⼈家族のこころのケアを⽀援する会(斎藤利郎主宰法⼈)に加わり、本格的に⼼理カウンセラーとしての活動を始める。2009 年、NPO 法⼈家族のこころのケアを⽀援する会・理事⻑に就任。2016年より、ナラティヴのより拡い普及を目的に、株式会社アトリエクロック・ナラティヴファシリテーションスーパーバイザーを務める。

人生を肯定的に捉え直すコミュニケーション技法『ナラティヴファシリテーション』を無料視聴する

伝わるための言語化トレーニング

伝わるための言語化トレーニング
 

自分の言語化の癖を知って、相手に伝える際にどのようなパターンで話しているのかを自覚してみましょう。 そもそもなぜ言語化に苦手意識を持っているのかの要因を探り、要点を伝える際の言葉の整理方法を学びます。

  • 株式会社アットリーチェ 代表取締役

    8 年間局アナとしてのキャリアを積んでフリーアナウンサーに。現在は、一瞬で人を魅了する伝え方を約 800 人の経営者・起業家・会社員に直接指導。 局アナ流の相手をファンにする“スピーキング技術”と心理的アプローチから思考や行動を変える“言葉の選択”を組み合わせたオリジナルメソッドを伝える。

伝わるための言語化トレーニングを無料視聴する

 

07まとめ

ナラティブアプローチの根幹は「対話」にあるようです。まずは相手の話を先入観なくありのまま受け入れること、そして自分の主張もありのまま受け入れてもらうことが重要です。職場において「対話」の少なさに課題を感じているのであれば、まず自分の「考え」を語ることから始めてみてはどうでしょうか。その「語り」が人と人を結ぶ接点となり、組織が良い方向に向かうきっかけになるのかもしれません。

【無料】他責型組織からの脱却〜対話と合意形成でつくる自律型組織開発〜|ウェビナー見逃し配信中

他責型組織からの脱却〜対話と合意形成でつくる自律型組織開発〜
 

組織開発の全体像から実践できる具体的な方法まで、体系的な組織開発の全貌をテーマにしたウェビナーのアーカイブです。テレワークの拡大も進む中、組織に広がる「他責のムード」に悩まされる人事責任者は多いのではないでしょうか。組織開発のフレームワークを活用して、組織の中で必要な「対話と合意形成」を生み出すことで、他責型組織から自律型組織への変革を実現する方法についてお話します。

  • 登壇者:小金 蔵人 様
    株式会社ZOZO 技術本部 技術戦略部 組織開発ブロック ブロック長 / 組織開発アドバイザー STANDBY 代表

    1998年に大学卒業後、味の素株式会社に入社し、営業マーケティングに従事。2006年にヤフー株式会社へ転職し、新規ビジネス開発・サービス企画のリリースを経験するかたわらで各種組織活性プロジェクトを推進。2016年に希望して人事部門に異動後、全社の人材開発・組織開発を担当。1on1ミーティングをはじめとしたピープルマネジメントツールの推進や管理職のマネジメント支援と並行して、現場の組織課題解決をサポート。2019年に個人での組織開発アドバイザリー事業と組織開発エバンジェリストとしての情報発信を開始。2020年に株式会社ZOZOテクノロジーズ(現・株式会社ZOZO)へ転職し、現在は全社およびクリエイター部門の人事企画・人材開発・組織開発に携わっている。

アーカイブを無料視聴する

  • Twitter
  • Facebook
  • はてなブックマーク
  • LINE
この記事を書いた人
Schoo編集部
Editor
Schooの「世の中から卒業をなくす」というミッションのもと活動。人事担当や人材育成担当の方にとって必要な情報を、わかりやすくご提供することを心がけ記事執筆・編集を行っている。研修ノウハウだけでなく、人的資本経営やDXなど幅広いテーマを取り扱う。
執筆した記事一覧へ

20万人のビジネスマンに支持された楽しく学べるeラーニングSchoo(スクー)
資料では管理機能や動画コンテンツ一覧、導入事例、ご利用料金などをご紹介しております。
デモアカウントの発行も行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

お電話でもお気軽にお問い合わせください受付時間:平日10:00〜19:00

03-6416-1614

03-6416-1614

法人向けサービストップ