公開日:2022/01/26
更新日:2023/01/13

裁量労働制とは?制度の概要や導入のメリット・デメリットをわかりやすく解説

裁量労働制とは?制度の概要や導入のメリット・デメリットをわかりやすく解説 | オンライン研修・人材育成 - Schoo(スクー)法人・企業向けサービス

裁量労働制は、働き方改革関連法が施行されたことで、長時間労働の是正や生産性向上に対応する勤務形態として注目されています。適切に運用することができれば、労働者と使用者の双方にメリットがある制度です。本記事では、裁量労働制の概要やメリット・デメリット、導入する際の注意点などをわかりやすく解説します。

 

01裁量労働制とは

業務の性質上、労働時間やその配分を労働者の裁量に委ねる必要がある場合に適用される制度が裁量労働制です。実労働時間にかかわらず、一定時間労働したものとみなすことから、「みなし労働時間制」と呼ばれることもあります。 裁量労働制を導入した場合、業務のやり方や時間配分などに関して、基本的に使用者が具体的な指示を行わないこととされています。そのため、労働者にとって自分の働き方を柔軟に決められる制度ともいえるのです。

 

02裁量労働制の仕組み

裁量労働制を理解するためには労働時間の仕組みを理解する必要があります。ここでは、裁量労働制に関する主な規定について解説します。

みなし労働時間と残業

裁量労働制の最も大きな特徴が、前述したみなし労働時間です。 みなし労働時間を8時間としている場合、実際の業務時間が4時間であっても8時間分の報酬を受け取ることができます。 実際に働いた時間に関係なく、あらかじめ取り決めた労働時間分の報酬を受け取るため、裁量労働制には時間外労働という概念がありません。そのため、時間外労働に対する割増賃金は原則発生しません。

36協定

労働基準法第36条「時間外および休日の労働」により、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超える労働については、あらかじめ労働者の代表と協定を結ぶ必要があります。 裁量労働制を導入する際には、会社側と労働者側とで労使協定をむすび、みなし労働時間などの内容を定めて労働基準監督署に届け出る必要があります。その中で、みなし労働時間が法定労働時間の1日8時間を超える場合には、36協定の締結が必要になるのです。 そのため、みなし労働時間の算出には、実際の労働時間が反映されるように検討する必要もあるのです。

 

03裁量労働制の対象業務

裁量労働制は誰にでも適用可能な制度ではありません。裁量労働制の種類は専門業務型と企画業務型の2種類あり、厚生労働省が指定したそれぞれに該当する業種に限って適用が可能です。ここでは、裁量労働制の対象業務について解説します。

専門業務型裁量労働制

厚生労働省の定める対象業務とは「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務」とされ、以下の19業務に限られています。これらは、労使協定を結ぶことで、専門業務型裁量労働制の導入が許可されます。

  • ①新商品もしくは新技術の研究開発、人文科学もしくは自然科学に関する研究業務
  • ②情報処理システム分析または設計業務
  • ③新聞もしくは出版の事業における、記事の取材もしくは編集業務、放送番組の制作のための取材もしくは編集業務
  • ④衣服、室内装飾、工業製品、広告などの新デザインの考案業務
  • ➄放送番組、映画などの制作の事業におけるプロデューサーまたはディレクター業務
  • ⑥コピーライター業務
  • ⑦システムコンサルタント業務
  • ⑧インテリアコーディネーター業務
  • ⑨ゲーム用ソフトウェアの創作業務
  • ⑩証券アナリスト業務
  • ⑪金融工学等の知識を用いた金融商品の開発業務
  • ⑫大学での教授研究業務(主として研究に従事するものに限る)
  • ⑬公認会計士の業務
  • ⑭弁護士の業務
  • ⑮建築士の業務
  • ⑯不動産鑑定士の業務
  • ⑰弁理士の業務
  • ⑱税理士の業務
  • ⑲中小企業診断士の業務

▶︎参考:専門業務型裁量労働制|厚生労働省

企画業務型裁量労働制

対象となる業務は、労働基準法第38条の4第1項にて、企画、立案、調査、分析の業務と定められています。したがって、そのための知識や経験を持っている労働者が対象となり、業務を大幅に労働者の裁量に任せることが適切であり、使用者が時間配分などについて具体的な指示をしないものであることが条件となります。 さらに、対象となる事業場も、事業運営上の重要な決定が行なわれる事業場(本社や本店またはそれに準ずる事業所)に限定されています。

▶︎参考:企画業務型裁量労働制|厚生労働省

 

04裁量労働制と類似する制度との比較

裁量労働制やフレックスタイム制、高度プロフェッショナル制度、変形労働時間制は、労働時間に関して柔軟に運用する制度です。類似しているため、違いを理解しておくことが大切になります。それぞれの制度と裁量労働制との違いについて解説します。

フレックスタイム制

会社が定めた所定労働時間に就業していれば、労働者が出社および退社時間を自由に選択できる制度です。労働時間については、8時間を基準にしている企業が多い傾向にあります。出社および退社時間を労働者が決められる点は、裁量労働制と共通しています。ただし、フレックス制には、「みなし労働時間」が設定されていないので、所定労働時間を変えることはできない点が裁量労働制と異なるのです。

高度プロフェッショナル制度

高度の専門知識を持ち、一定の年収要件(年収1,075万円)を満たす専門職を対象に、残業代などの割増賃金が発生する労働時間の規制対象外とする制度です。また、労働基準法が適用されないため、労働者の裁量で出社および退社時間、休暇を自由に決めることができます。 労働者の裁量によって、労働時間が決められる点は共通しています。ただし、裁量労働制が深夜手当や休日手当など割増賃金の支払い対象である点が異なります。

変形労働時間制

週平均40時間以内の範囲で、割増賃金を支払うことなく、特定の日や週に法定労働時間の原則を超えて、労働させることができる制度です。一定期間内の業務の繁閑によって、労働時間を弾力的に配分することができます。1週間・1ヶ月・1年単位で適用する3種類に分けられています。なお、所定労働時間を超えて労働させる場合は、割増賃金の支払いが必要です。 繁忙期は労働時間を長く、閑散期には短くといった働き方ができ、柔軟性がある働き方という点で共通しています。裁量労働制には、労働時間や時間外労働の概念がないため、出社時間や退社時間を労働者の裁量で決められる点が大きく異なります。

 

05企業が裁量労働制を導入するメリット

裁量労働制は、労働者の裁量によって労働時間が変化することが特徴です。この制度を導入を検討する際は、まず、裁量労働制にどのようなメリットがあるのか押さえておきましょう。

労務管理の負担を軽減できる

実際の労働時間に関わらず、契約で定めた時間は「労働したもの」とみなして給与を計算します。休日や深夜といった時間外労働がある場合を除けば、みなし労働時間を固定給として算出できるため、人件費のコスト管理がしやすく、労務管理の負担を軽減できることで業務効率も高まるでしょう。

人件費の予測が容易になる

先述した通り、基本的にみなし労働時間を固定給で算出できるため、必要な人件費の予測が可能です。そのため、事業運営において固定費の大きな部分を占める人件費の概算を知ることができ、事業計画を立てるうえで重要なポイントになります。

業務の生産性が向上する

会社の定めた所定労働時間などにとらわれず、労働者が自律的に、効率良く働くことを可能にするのが裁量労働制です。労働者が、自分のライフスタイルに合わせた時間の使い方ができることで、モチベーションアップや成果につながり、生産性の向上が期待できるでしょう。

 

06企業が裁量労働制を導入するデメリット

裁量労働制にはメリットがある一方で、デメリットも存在します。ここでは、企業が裁量労働制を導入する2つのデメリットについて解説します。

導入手続きが煩雑

裁量労働制を導入するために、非常に煩雑な手続きを必要とすることがデメリットとして挙げられます。まず、労使委員会の設置や労使協定の締結などの手続きを行います。 具体的には、対象業務、みなし労働時間、健康・福祉を確保する措置など複数の項目について、使用者と労働者の双方が合意するまで話し合わなければいけません。また、労働条件など合意した内容は、所轄の労働基準監督署へ届け出を行う必要があります。さらに、導入後も就業規則に記載するなど、労働者に周知させる必要があります。

勤怠管理の徹底が必要

みなし労働時間の中で、企業が求める成果を上げられなければ、長時間の労働が必要になる場合があり、労働者の自己管理能力が求められる一方で、企業側も労働者の勤怠管理の徹底が必要になります。裁量労働制の導入条件でもある、「健康および福祉を確保するための措置」に定められているように、長時間労働による健康状態の悪化を防止しなければいけないからです。そのため、勤怠管理により労働者の労働時間を正確に把握することが重要です。

 

07裁量労働制を導入する流れ

裁量労働制の導入は、前述した「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」で手順が異なります。それぞれどのような手順が必要かを解説します。

専門業務型裁量労働制の導入手順

専門業務型裁量労働制の導入は、原則として以下の7つの事項を労使協定により定めて所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要です。

  • 1. 制度の対象とする業務
  • 2. 対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
  • 3. 労働時間としてみなす時間
  • 4. 対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
  • 5. 対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
  • 6. 協定の有効期間
  • 7. 4及び5に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること

企画業務型裁量労働制の導入手順

企画業務型裁量労働制は以下の手順で導入します。

  • 1. 対象業務が存在する事業場かどうかを確認
  • 2. 労使委員会を組織する
  • 3. 労使委員会の設置に係る日程、手順等について話し合う
  • 4. 労使委員会の委員を選ぶ
  • 5. 労使委員会の運営のルールを定める
  • 6. 企画業務型裁量労働制の実施のために労使委員会で決議を行う
  • 7. 対象となる労働者の同意を得る
  • 8. 3の決議に従い企画業務型裁量労働制を実施

企画業務型裁量労働制では当てはまる業務では、労使委員会を設置し、以下の8つの事項について、委員の5分の4以上の多数による議決が必要となります。

  • ・ 対象となる業務の具体的な範囲
  • ・ 対象労働者の具体的な範囲
  • ・ 労働したものとみなす時間
  • ・ 使用者が対象となる労働者の勤務状況に応じて実施する健康及び福祉を確保するための措置の具体的内容
  • ・ 苦情の処理のため措置の具体的内容
  • ・ 本制度の適用について労働者本人の同意を得なければならないこと及び不同意の労働者に対し不利益な取扱いをしてはならないこと
  • ・ 決議の有効期間
  • ・ 企画業務型裁量労働制の実施状況に係る記録を保存すること(決議の有効期間中及びその満了後3年間)
 

08裁量労働制を導入する際の注意点

裁量労働制は、1日の勤務時間が8時間以上になっても、みなし時間分だけ働いたことになるため、原則として残業代が発生しません。しかし、全く発生しないことはないため、残業代が発生するケースを理解しておきましょう。

時間外手当

法定労働時間はみなし労働時間にも適用されるため、みなし労働時間が1日8時間以上で、休憩時間を除く労働時間が8時間を超える分は時間外労働となり、時間外手当が発生します。時間外手当による割増賃金は、従業員の1時間あたりの賃金に割増賃金率25%を加算して算出します。

深夜手当

裁量労働制であっても深夜時間の労働に対しては割増賃金を支払う必要があります。労働基準法37条では、夜22時から翌朝5時までの時間帯に深夜労働を行った場合には、労働時間に応じて割増賃金が発生するのです。深夜手当による割増賃金は、従業員の1時間あたりの賃金に割増賃金率25%を加算して算出します。

休日手当

日曜日などの法定休日において社員を出勤させた場合は、休日労働に対し割増賃金が発生します。裁量労働制が適用されている従業員であっても、労働時間数に応じて賃金に35%を割増して支払う必要があります。


 

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09まとめ

裁量労働制は、適切に運用ができれば、使用者・労働者双方にとって有益になる制度です。一方、長時間労働による残業代の対策や、労働者の自己管理の難しさから勤怠管理を徹底させることが求められます。正しく理解し、整備して導入を検討していきましょう。

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    株式会社壺中天 代表取締役

    立命館大学理工学部を卒業後、エンジニアとしてIT企業(SIer)に就職。疲弊した現場をどうにかするため人事部門へ異動、人事担当者、人事マネジャーを経験する。その後、リクルートマネジメントソリューションズ社で人事コンサルタントとなり50社以上の人事制度を構築、組織開発を支援する。2016年、人材マネジメントの領域に「夜明け」をもたらすために、アカツキ社の「成長とつながり」を担う人事企画室を立ち上げ、2020年「人事の意志をカタチにする」ことを目的として壺中天を設立し代表と塾長を務める。

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