急速に拡大するDX市場の現状と今後の動向・対策を解説
DXは今やビジネスにおいて必須となっています。ビジネスに直結する業種や事業のデジタル化だけでなく、顧客との関係や組織運営や働き方、デジタルを活用したビジネスモデルの創出にまでDXの市場は拡大しています。そして、DX市場は今後も拡大していくと予測されています。現状の市場規模から将来の予測、将来に備えた対策まで解説します。
- 01.DXの市場規模
- 02.将来のDX市場の動向
- 03.拡大するDX市場に遅れないために必要なこと
- 04.Schoo for BusinessのDX研修
- 05.まとめ
01DXの市場規模
DXの正確な市場規模を定義することは非常に困難といわれています。なぜなら、DXは製品やサービスだけではなく、ビジネスモデルや業務プロセスなど多くの部分に関連しているからです。しかし確実にDXの市場規模は拡大しています。そして、DXがもたらす影響も同様に拡大していきます。 CiscoSystemsが実施したアジア太平洋地域の企業を対象とした調査「2020Asia Pacific SMB Digital Maturity Study」 によると、中小企業のデジタル化が進めば日本のGDPは2024年までに4兆円以上拡大すると予測されています。 また、今後日本の労働人口が不足するなか、人手不足などの経営課題の解決策としてのDXの導入が一層増加していくとも予想されています。
日本でのDX市場の規模
株式会社富士キメラ総研が実施した調査によると、2020年度にける国内のDX市場は1兆3,821億円でした。この調査によると、2030年度には5兆1,957億円と約3.8倍の規模に拡大するとされています。各業種ごとの成長予測は以下の表のとおりです。
2020年度 | 2030年度予測 | 2020年度比 | |
製造 | 1,620億円 | 5,450億円 | 3.4倍 |
流通/小売 | 441億円 | 2,455億円 | 5.6倍 |
金融 | 1,887億円 | 6,211億円 | 3.3倍 |
医療/介護 | 731億円 | 2,115億円 | 2.9倍 |
交通/運輸 | 2,780億円 | 1兆2,740億円 | 4.6倍 |
不動産 | 220億円 | 970億円 | 4.4倍 |
自治体 | 409億円 | 4,900億円 | 12.0倍 |
社会インフラ/建設/その他業界 | 499億円 | 2,078億円 | 4.2倍 |
営業・マーケティング | 1,564億円 | 4,500億円 | 2.9倍 |
カスタマーサービス | 410億円 | 802億円 | 1.9倍 |
コミュニケーション | 760億円 | 2,290億円 | 3.0倍 |
戦略/基盤 | 2,500億円 | 7,446億円 | 3.0倍 |
どのような業界であっても、2030年には2020年対比で2倍以上の市場成長が起こると予測されています。特に自治体は人口減少が現在進行形で課題となっています。自治体に勤めることを希望する人も少なくっているという声も多く聞かれます。これは人口が多い東京都の市役所でも起こっているようです。人口減少による予算の削減や職員数の減少が予想される中で、デジタル技術を活用した業務効率化や働き方の柔軟性の実現をしなければ、これまでのような公共サービスを維持することは難しいという裏付けなのでしょう。
日本のDXはアジアのなかでも遅れている
スイスの国際経営開発研究所(IMD)は、63カ国・地域を対象に、デジタル技術の利活用能力を、1.知識(Knowledge)、2.技術(Technology)、3.未来への対応(Future Readiness)から、世界デジタル競争力ランキング2022を発表しています。このランキングで、日本は過去最低の29位まで低下しているというのが現状です。1位〜30位までの順位は以下のとおりです。
順位 | 国名 | Score |
1 | Denmark | 100.00 |
2 | USA | 99.81 |
3 | Sweden | 99.81 |
4 | Singapore | 99.48 |
5 | Switzerland | 98.23 |
6 | Netherlands | 97.85 |
7 | Finland | 96.60 |
8 | Korea Rep | 95.20 |
9 | Hong Kong SAR | 94.36 |
10 | Canada | 94.15 |
11 | Taiwan, China | 94.11 |
12 | Norway | 93.23 |
13 | UAE | 91.42 |
14 | Australia | 87.89 |
15 | Israel | 87.37 |
16 | United Kingdom | 86.45 |
17 | China | 86.42 |
18 | Austria | 85.35 |
19 | Germany | 85.17 |
20 | Estonia | 85.06 |
21 | Iceland | 84.97 |
22 | France | 81.42 |
23 | Belgium | 81.34 |
24 | Ireland | 79.56 |
25 | Lithuania | 79.32 |
26 | Qatar | 78.37 |
27 | New Zealand | 77.47 |
28 | Spain | 77.40 |
29 | Japan | 76.84 |
30 | Luxembourg | 76.47 |
1位がデンマーク、2位はアメリカとなっており、3位以下は欧州勢が多くランクインしています。このような状況で、アジア勢も上位に多く入っており、韓国が8位、香港が9位、台湾が11位となっています。一方で日本は29位とアジア勢と比較しても遅れているのがわかります。
世界のDX市場の規模
株式会社グローバルインフォメーションの調査レポートによると、世界のDX市場規模は、2021年の4,834億米ドルから、18.57%のCAGR(年平均成長率)で推移し、2027年には1兆3,492億米ドルの規模に成長すると予測されています。
特に投資額の多い分野として製造上の根本原因の把握、自立型オペレーションロボスティック製造が挙げられています。そのほかにも教育におけるデジタル技術を活用した視覚化、保険業での請求処理の自動化などの拡張も盛んです。全世界の総支出額の約3分の1を占めているアメリカではGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)がDX市場をけん引しています。またヨーロッパではSkypeやSpotifyなど世界でも多く知れ渡っている企業が牽引しており、バイオテックやITなどの分野でもEUへの事業拡大に伴った事業体制の見直しも進んでいます。
アジアのDX市場の規模
東南アジアでは2025年に3000億ドルにまで拡大すると予測がされています。特にインドネシアやベトナムのEC事業の拡大が与える影響が大きくなっています。また日本とASEAN(東南アジア諸国連合)の経済担当相がDXの推進を柱とする行動計画をまとめるなど、今後東南アジアの成長は世界的にも欠かせない存在です。
02将来のDX市場の動向
今後はより一層DX市場は拡大していくと考えられています。経済産業省が2018年9月に発表した「DXレポート」 内では「2025年までにシステム刷新を集中的に推進する必要がある」と強調されています。前述のとおり、日本はDX分野において世界から遅れを取っています。日本における課題は以下の通りです。
- ・既存基幹システムの老朽化
- ・高齢化による世代交代の必要性
- ・テクノロジーの進化に伴う先端IT人材の不足
もし、これらの課題に対策できなければ日本はデジタル競争で破れてしまうでしょう。そればかりか、システムの維持管理費が高額化し、技術的負債による業務基盤の維持・継承が困難になる危険性も高まります。また、高度化しているDX市場ではサイバーセキュリティやシステムトラブルもより高度になるでしょう。保守運用の担い手が不足すると海外からの攻撃などによるリスクも上昇してしまいます。では実際に今後世界ではどのような変化が想定されるのかを解説していきます。
2030年の国内市場予測
株式会社富士キメラ総研の調査によると2030年には国内のDX市場は5兆1,957億円にも及びます。特に製造や金融業界の成長が市場拡大を牽引していく予想です。
製造業におけるDX
製造業ではスマートファクトリーやサービタイゼーションへの投資が盛んです。 スマートファクトリーとはデジタルデータ活用によって業務プロセスの改革、品質や生産性の向上を実現する先進的な工場のことです。 サービタイゼーションとは製品を製造して販売するのではなく、製品を活用するためのサービスを含んで提供することで収益を上げていくことです。アフターサービスなどで付加価値を付けていくことを指します。
金融業におけるDX
金融業では業務効率化や省人化が進んでいます。FinTechを活用したロボアドバイザー資産運用や個人資産管理アプリなども増え、個人の投資も増えると考えられています。
情報通信業におけるDX
情報通信業は早くからIT技術に目をつけ、多くの企業が高い技術力を持っていることから、顧客企業のDXをサポートする立場にあります。特に最近では5Gの出現により、5Gを活用したスポーツ観戦など、社会に新しい価値を提供し続けているのです。
交通・運輸業におけるDX
交通・運輸業におけるDXとして、代表的なものがMaaSです。MaaSは、Mobility as a serviceの略称で、目的地までの経路検索から支払いに至るまでの移動に必要な行動を一括して行えるようにするサービスが該当します。代表的なものとしては、カーシェアやシェアサイクルなどが挙げられます。
医療・介護業におけるDX
医療・介護業におけるDXとして挙げられるのが、巡回に係る業務の効率化です。大規模な病院や介護施設では入居者が100人を超えるため、徘徊防止に向けて人感センサーなど、テクノロジーで人を監視したり、ウェアラブル端末を装着し、医療従事者が患者の健康を一括で管理できるような仕組みを作っているのです。
建設業におけるDX
離職率が高い建設業界では、測量データや設計図面などから3次元モデルを作成すると同時に、意匠表現や構造・設備設計、コスト、仕上げ等の情報を管理するなど、扱う情報が多くあるのも特徴です。業務効率化を実現するために、これらを一元で管理するクラウドサービスなどのDXツールの導入が進んでいます。
物流業におけるDX
物流では、人員不足や倉庫の空き不足といった課題が存在します。そのため、労働環境改善に向けたシステムの活用や倉庫内の作業効率化、配送状況の見える化による業務効率化など、さまざまなDXが推進されています。
今後の予想される動き
DXがもたらす影響は市場の拡大だけではありません。既存の産業の変化やビジネスそのものの根本的な取り組み方さえも変化していきます。
リーダーが入れ替わる
DX市場への投資が拡大することにより、企業のイノベーションが加速すると考えられています。投資を怠たりデジタル対応しない企業が脱落していき、新規参入してくるデジタル企業にシェアを奪われる現象があらゆるところで起きるでしょう。またクラウドシステムを活用したデジタル共同イノベーションも進みます。エコシステムのコラボレーションや競合他社との共同イノベーションが促進されることで2024年には顧客生涯価値が20%向上するとも考えられています。
クラウドファーストが実現
DXが浸透した経済では、ユーザーがどこでもデジタルサービスを利用できる環境を整える必要があります。そのために、クラウドによる各拠点でのアプリケーションやデータ管理の連携の向上が必要です。クラウドファーストとはシステムを構築する際に独自のインフラの構築を止め、誰もが利用できるパブリッククラウドサービスを利用することを第一に考えることです。政府が2018年に発表した 「政府情報システムにおけるクラウドサービス利用に係る基本方針」 でもクラウド・バイ・デフォルト原則という言葉が使われています。政府の情報システムでもクラウドサービスを利用することを第一候補にすると決められました。
デジタル投資が伸びる
今後もDXやAIへの巨額の投資は続きます。新しいインテリジェンス技術の活用と、全世界で2,650億ドル以上の投資が予測されています。DXのためのビジネス意思決定分析とAIが今後は投資の中心となり、加速度的に伸びていくことが予測されます。
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03拡大するDX市場に遅れないために必要なこと
前述のとおり日本国内でDXを推進している企業は36.5%しかありません。そして、今後DXの導入が遅れれば遅れるほどに時代に取り残されてしまうでしょう。今までデジタルを導入してこなくても生き残って来られた既存産業も、将来いつまで安泰でいられるかわかりません。ですが、DX推進は一朝一夕で行えるものではありません。新しい技術を導入することは今までのやり方を壊す必要があります。そのために必要なポイントを、いくつかご紹介します。
レガシーシステムから抜け出す
レガシーシステムとは、古くなったコンピューターのシステムや技術のことです。導入時から相当な時間が経過し、最新テクノロジーの恩恵を受けられなくなったシステムを使い続けることで、時代の波に乗り遅れてしまいます。しかし多くの国内企業はレガシーシステムを抱えています。過去のビジネス成長のために既存のシステムを改修し複雑化してしまっているため、新しいシステムを導入することが困難となっているのです。 DXの推進には最新のシステムが欠かせません。いつか脱却しなければいけないレガシーシステムを捨てる勇気が必要になります。
DX専門人材の育成
DXを推進するためにはデジタル人材が鍵を握ります。デジタル人材とひとことで言っても「プロデューサー」「DXマネージャー」「ビジネス・サービス担当」「システム・技術担当」と役割はさまざまです。新しいシステムが開発されても、それを活用するのは結局は「人」です。顧客価値を見直して、課題を発見して実行手段を決定できる「人」がいなければ優れたシステムも意味をなしません。 DX推進上の課題で一番大きいのはDX全体工程を管理する人材が不足していることです。55.3%もの企業が専門人材の不足を感じています。また2030年には170万人もの専門技術人材が不足すると予測されています。 しかしながら、各社でDX人材が不足している状況下では、外部から人材を調達することも困難です。国を上げて専門知識をもった人材の育成を行っていますが、もはや自社で新たな人材を育成する以外に解決策はない状況です。
時代に合わせた柔軟な変化
DX市場の成長は早く、日ごとに新しいサービスやシステムが生れていきます。そのため、常日頃から現在の状況をしっかり学び、新しい技術に対してアンテナを張り続けなければなりません。いつどこでイノベーションが起こり、業界地図が再編されてもおかしくない時代において、変化に柔軟であるということは生き残るうえで必須の条件といえるでしょう。
経営層の理解
DX推進はどの企業でも喫緊の課題ですが、DXが進まなくても一定、仕事が進められることも事実です。むしろ、目下対応しなければいけない別の課題があり、社内で足並みが揃っていない企業も多くあります。このような場合に必要なのが、主導できる人物の存在です。海外では、CEOやCIOなど経営層が主導しているケースも多いことから、国内でも経営層によるDXへのコミットの必要性が叫ばれています。
04Schoo for BusinessのDX研修
オンライン研修/学習サービスのSchoo for Businessでは約8,500本の講座を用意しており、DXほか様々な種類の研修に対応しています。
受講形式 | オンライン (アーカイブ型) |
アーカイブ本数 | 8,500本 ※2023年5月時点 |
研修管理機能 | あり ※詳細はお問い合わせください |
費用 | 1ID/1,650円 ※ID数によりボリュームディスカウントあり |
契約形態 | 年間契約のみ ※ご契約は20IDからとなっております |
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05まとめ
技術の進歩やDXの浸透により、我々の生活はより良く、便利になっていくでしょう。ですが、そのなかで生き残れる企業は変化に対応した企業だけです。今後加速度的に伸びていく技術革命に遅れを取らぬようにしなければなりません。これを機に自社のDX推進を試み、レガシーシステムを見つめ直してみてはいかがでしょうか。
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経済産業省の商務情報政策局 情報技術利用促進課でDXリテラシー標準化の検討会を行っている同課の金杉 祥平氏をお招きし、「経済産業省が取り組むデジタル人材育成プラットフォーム」について語っていただいたウェビナーのアーカイブです。デジタル人材要件の定義や、リスキリングするための構造化された項目、さらに経済産業省で構想している人材育成プラットフォームについてもお話しいただいております。
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登壇者:金杉 祥平様経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長補佐(企画)
2006年に経済産業省に入省。過去には、再生可能エネルギーの推進、家電製品の安全基準の整備、電気事業制度のルール整備、福島第一原子力発電所の廃炉推進に従事し、2021年5月から現職。情報技術利用促進課では、地域企業・産業のDXの実現に向けて、デジタル人材の育成を推進するため、デジタル知識・能力を身につけるための実践的な学びの場を提供する「デジタル人材育成プラットフォーム」の制度設計を担当。