2025年の崖とは?「経済産業省DXレポート」からわかりやすく解説

2018年に経済産業省は、日本におけるDX推進を目的とした文書、「DXレポート」を発表しました。レポートには「2025年の崖」という言葉が出てきます。 「2025年の崖」は、同レポートでは、国内のデジタル化の遅れに警鐘を鳴らす目的で用いられています。2025年に何が起きるのでしょうか。 本記事では、「2025年の崖」の概要を「DXレポート」をもとに解説します。
- 01.2025年の崖とは
- 02.2025年の崖が指摘する課題
- 03.経済産業省が提言するDX実現シナリオ
- 04.2025年の崖への対策
- 05.Schoo for BusinessのDX研修
- 06.まとめ
012025年の崖とは
2025年の崖とは、「日本企業がレガシーシステムの刷新を推進できず、DXの実現が遅れることによる2025年から2030年の間に最大毎年12兆円発生する経済損失」のことです。
2025年の崖という言葉は、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」で使われ、世の中に浸透しました。経済産業省は、2022年7月に「DXレポート2.2」を発表したり、DX認定制度による税制措置を講じたりと、定期的にDX推進に必要な提言や施策を実施しています。
しかし、経営や現場の抵抗、DX推進人材の不足などの課題に悪戦苦闘している企業が多いのが現状です。デジタル化は新型コロナの影響でリモートワークを余儀なくされたことによって進んだものの、本質的なDXに成功している企業は日本でも僅かと言って良いのではないでしょうか。
▶︎参考:経済産業省「DXレポート」
なぜ2025年なのか
2025年という期限には明確な理由があります。主な理由が以下の3つです。
- ・基幹系システムを21年以上利用している企業が6割に増加
- ・SAP社のERPのサポートが終了
- ・IT人材が約43万人不足
このように、2025年という理由は複合的な要因が絡み合っているのです。以下でに、それぞれの理由について詳しく紹介します。
基幹系システムを21年以上利用している企業が6割に増加
2025年に、基幹系システムを21年以上利用している日本企業が全体の約6割を超えるとされています。基幹系システムとは、企業経営と直結するシステムのことです。基幹系システムの代表例としては、生産管理や販売管理、在庫管理システムなどが該当します。
また、過去の技術や仕組みで構築されているシステムのことを、レガシーシステムと呼びます。まさに、21年以上も使用されている基幹系システムはレガシーシステムそのものなのです。仮に、このレガシーシステムが急に機能停止をした場合には企業の経営活動も止まることになりかねず、その結果として莫大な利益損失を起こすことになるのです。
また、そのような機能停止を起こさないように保守点検やメンテナンスをするにも費用がかかります。今ではあまり利用されていない技術で作成されているために、それを扱える技術者を探すことも難しいという課題もあれば、古いシステムゆえに保守点検の回数も増加し、人件費も圧迫するという課題もあるのです。経済産業省のDXレポートでは、これらのレガシーシステムを使い続けることになれば、将来的にIT予算の9割以上を保守点検やメンテナンスに割かなければならなくなると提言しています。
SAP社のERPのサポートが終了
2025年という理由には、SAP社のERPのサポートが2025年に終了することも関係しています。SAP社(エス・エー・ピー社)はドイツに本社を置く世界有数のソフトウェア企業です。また、ERPとは統合基幹業務システムの総称です。
経済産業省が最初のDXレポートを発表した2018年の段階では、2025年にサポートを終了するとアナウンスされていました。しかし、2020年2月に「SAP ERP」のサポートを2027年まで2年間延長すると発表。追加料金を払えば、最長30年末まで延長して保守を受けられると追加でアナウンスを出しています。そのため、2027年〜2030年までは猶予が伸びたとも言えます。
しかし、SAP社のERPを利用している日本企業は2,000社以上あると言われており、これらの企業にとっては2027年までにSAP社の最新システム「SAP S4/HANA」へと移行するか、新たなシステムを導入するかの対応をしなければなりません。
IT人材が約43万人不足
2025年に、約43万人のIT人材が不足すると経済産業省のDXレポートでは言及されています。AIやビッグデータ、IoTなどの最先端の知見を持つIT人材の需要は高まり続けており、この需要に対しての供給が追いつかないため、高度な専門知識を有する外国人の積極的な採用を推進する動きが加速しています。しかし、優秀なIT人材の獲得競争は世界的な規模で行われおり、ダイバーシティ推進が遅く、働き方にも多くの縛りがある日本企業の求心度は高くないのが現状です。
一方で、レガシーシステムを扱える人材の減少も課題です。基幹系システムを扱える人材は、退職・高齢化によって減少していきます。一方で、これからエンジニアになろうとする人は、わざわざ旧時代のシステムや言語を学びません。そのため、ますますレガシーシステムを早く刷新する必要性が高まっているのです。
022025年の崖が指摘する課題
「DXレポート」によると、多くの企業はDX推進の必要性を認識しているといいます。しかし、多くの企業では実現にいたっていないようです。DXレポートでは、DX推進が実現しない原因として以下の5つの課題を指摘しています。
- ・経営層がDX戦略を描けていない
- ・各関係者の役割分担が明確になっていない
- ・時間と費用のリスクがある
- ・ベンダー企業への過度な負担
- ・DX人材の不足
▶︎参考:経済産業省「DXレポート」
経営層がDX戦略を描けていない
2025年の崖を回避し、日本企業がDXを実現するためにはDX戦略が欠かせません。それには、まず既存システムの問題点を把握し、何を刷新すべきか、それらの優先度はどう付けるのかを経営層が主導して、トップダウンで押し進める必要があります。また、既存システムを刷新した先には、どのようなDX戦略があり、その未来に向けてどのような状態にすることが理想なのかも描く必要があります。
しかし、多くの経営者はDXという言葉の定義や必要性は理解しているものの、実際に自社がDXを実現して成長するイメージを持っている企業は少ないのが現状です。また、レガシーシステムが引き起こすセキュリティリスクやシステム障害などの課題に対しての見識も弱く、本腰を入れてDX戦略を描く必要性に関してはあまり感じていない可能性があるのです。
各関係者の役割分担が明確になっていない
レガシーシステムの刷新は、DX推進に欠かせません。しかし、組織全体でレガシーシステムの問題点を理解し、一枚岩となって対策を打てている企業は少ないでしょう。また、このようなシステムは現在は問題なく稼働していることが多く、現場のプロフィットセンターにとっては無関係のこと考えている怖れすらあります。
また、関係者が自身の役割を明確に理解していないことが課題であると、DXレポートでは言及しています。例えば、経営者はこの課題に対してトップダウンで力強く推進していく必要があるという役割を理解していなかったり、情報システム部門はベンダーと対等な関係を築けず、ベンダーからの提案を鵜呑みにしてしまっていたりと言った課題があると想定しています。
時間と費用のリスクがある
既存システムの刷新は、長期間にわたり、多額の費用もかかります。そのため、前述したように経営層の理解が乏しい場合、そもそも刷新に踏み切れないという課題もあるでしょう。
また、情報システム部門がベンダーの提案を鵜呑みにしている場合は、本当に優先度を上げて対応すべきところ以外も見積もりに入れられている可能性があり、それもあって経営層の意思決定を鈍らせているのかもしれません。
ベンダー企業への過度な負担
ベンダー企業に丸投げとなっており、責任はベンダー企業が負うという体制になっていることも散見されます。このような体制では要件定義が曖昧になり、契約上のトラブルを引き起こしやすくなります。また、発注者・受託者という関係性ではアジャイル開発を進めることが難しく、意思決定や報告に無駄なコミュニケーションコストが発生してしまうことも課題と言えるでしょう。
DX人材の不足
AI・ビッグデータ・IT・IoTによって何ができるのかを理解している人材がそもそも不足しているという課題もあります。これには複数の理由があり、1つは既存システムの保守・維持に人員や予算が大きく割かれていること、もう1つはDX人材育成への投資不足です。
特に、後者のDX人材育成は大きな課題と言えるでしょう。これまで日本企業は終身雇用かつ新卒一括採用を続けてきていたため、OJTが人材育成の根幹を担っていました。OJTは現在の業務を通じて人を育成する人材開発の手法であるため、DXのような現在の業務外のことはOJTでは学べないのです。さらに、人材開発を主に担う人事部が研修(Off-JT)という手段でDX人材を育成しようにも、人事がDXやIT技術のことを全く理解していないため、何を研修で学ばせればよいかわからないという課題もあります。それに加えて、課題感がないままでの研修や実務に直結しない研修は、社員からすると「意味のないもの」と思われてしまうため、研修を行なっても知識だけが積み重なり、DXを推進する人材の育成には繋がらないというジレンマもあります。
03経済産業省が提言するDX実現シナリオ
DXレポートは悲観的な見解ばかりではありません。DX実現により2030年には、実質GDP130兆円以上の押し上げを実現するといったシナリオも記載されています。 資金面と人材面のDX実現シナリオを見ていきましょう。
資金面のシナリオ
資金面ではシステム関連予算の配分比率を変えることで、GDPに占めるIT投資額を1.5倍にまで押し上げるとしています。 保守にかかる費用の比率を下げ、投資効果の高い分野に資金をシフトさせるというものです。 具体的には保守予算と投資予算の比率を現状の「8:2」から「6:4」までシフトさせるとしています。
人材面のシナリオ
人材面のシナリオは、IT人材の分布比率に着目しています。 ユーザー企業とベンダー企業におけるIT人材の分布比率を「3:5」から「5:5」へと変え、欧州並みの水準を目指すとしています。ユーザー企業内で人材を育成し、IT人材の絶対数を増やすという考えです。 また、IT人材の年収平均を2017年時点の600万円から、アメリカ並みの水準である2倍まで押し上げるとしています。
042025年の崖への対策
ここでは、DXレポートに記載されたDX推進対応策を紹介します。 DX推進に向けた対策は、経営層が主導し目指すべきビジョンを明確に示すことが欠かせないようです。また、DX推進の担い手となる人材へのアプローチも並行して行う必要があります。
ガイドラインの策定
DXレポートでは、「DX推進システムガイドライン」の策定を推奨しています。 ガイドラインの目的は、レガシーシステムを刷新し、DX実現のためのシステム構築を実現することです。DX実現に向けた意思決定のポイントを経営者が把握、株主など利害関係者が取り組みをチェックすることに活用すべきとしています。
指標の「見える化」
ユーザー企業が自社のITシステムの現状と問題点を正しく把握し、対処するための分かりやすい指標を作成し、進捗確認を推奨しています。 この指標と進捗評価の診断スキームが明確になることで、DXの推進状況が把握できます。 経営層の意思決定の根拠となるでしょう。
システム構築コスト・リスク低減のための対応策
レガシーシステムを刷新し、新たなシステムを構築するには相応のコストとリスクがともなうものです。コスト・リスクの低減には、システム刷新後の実現すべきゴールイメージを共有することが欠かせないとしています。 また、コストを低減する効果的な方法として廃棄の重要性についても触れており、不要な機能を廃棄することで規模と複雑性を軽減できるとも述べています。
DX人材の育成・確保
DXレポートには、「DXの推進を担える人材の育成と確保は各社にとって最重要事項である」と記載されています。人材育成・確保の施策としては、事業部門の人材をIT人材にシフトすることや、スキル標準の作成、講座認定制度の活用を挙げています。
外部ベンダーとの関係の見直し
新たなデジタル技術や方法を最大限活かすためにはベンダー企業との関係性も新たなものにする必要があります。前提として、ベンダー企業は最新のテクノロジーを常にキャッチアップし顧客に還元し、発注者側はその価値を正しく評価できるようになる必要があります。
また契約に関しても見直しが必要です。DXレポートでは、ウォーターフォール型の開発に関する既存の契約はスクラッチ型の新規開発が前提になっているケースが多く、既存システムの再構築を前提にした内容にするべきと指摘しています。また、アジャイル型で契約する場合においてもプロジェクトに関わるメンバーの役割や進行方法を見直し、トラブルがあった時の対応やプロフィットシェアの方法を検討することを勧めています。
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■資料内容抜粋
・大人たちが学び続ける「Schoo for Business」とは?
・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など

05Schoo for BusinessのDX研修
Schoo for Businessでは約8,000本を超える数の授業をご用意しており、様々な種類の研修に対応しています。その上、自己啓発にも効果的な内容の講座を毎日配信しているため、研修と自己啓発の両方に対応することができるシステムになっています。研修と自己啓発を掛け合わせることにより、誰かに要求されて学ぶのではなく、自発的に学び、成長していく人材を育成することが可能になります。ここでは、Schoo for Businessの具体的な活用方法と、特徴、さらにはどのようなメリットがあるのかを解説します。
1.研修と自律学習推進を両方行うことができる
Schoo for Businessは社員研修にも自律型学習にも利用できるオンライン学習サービスです。通常の研修動画は、研修に特化したものが多く、社員の自律型学習には向かないものも少なくありません。しかし、Schooの約7000本にも上る授業では、研修系の内容から自己啓発に役立つ内容まで幅広く網羅しているため、研修と自律型学習の双方の効果を得ることができるのです。
SchooのDX研修カリキュラム
Schooの数多くの授業の中にはDXが学べる授業も多くあります。ここでは、SchooのDX研修カリキュラムを紹介します。
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DXを推進する上で、ベースとなるビジネススキルの習得を目的とした研修パッケージです。
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DX人材となるために必要な基礎的なスキルや知識を学ぶことができる研修パッケージです。
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インターネットの仕組みから、情報セキュリティに関する知識を習得することを目的としたパッケージです。
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ただ数値を見てボトルネックを発見するのではなく、課題の本質を見抜くという点に焦点を当てた研修パッケージです。
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与えられた課題に対してそのまま実行に移すのではなく、一歩引いた状態で“与えられた課題の目的・背景”=Whyを考えられる能力を養うことを目的としたパッケージです。
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問題解決を目的としたデータ分析の方法や批判的思考法を学び、デジタル技術を組み合わせながら課題解決をどのように実施していくかを導き出す能力を養うことができます。
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DXを推進する上でのデジタル技術の基礎を学ぶことができます。IoT導入の担当者やDX推進プロジェクト担当者におすすめの授業です。
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DXを進める上で欠かすことのできない顧客理解・インサイトの見つけ方を習得することを目的としています。
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DXのプロジェクトを実際に推進していく人におすすめの研修パッケージとなっています。
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DXは1人では実現できず、チームとして着実に前に進めていく必要があります。この研修パッケージでは、チームとして生産性高く、イノベーションを起こしていく方法を学ぶことができます。
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デジタライゼーションに留まらず、本質的なDXを推進したいという方におすすめの研修パッケージです。
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プロジェクトマネジメントに必要なスキル・知識を体系的に学べる授業をまとめました。PMだけでなくチーム全員で研修を受けておくと、それぞれの視座も上がり、さらにコミュニケーションが円滑になるかもしれません。
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「じゃらん」や「ホットペッパー」などの事例を用いて、CRMの基礎からデータ分析の方法まで学ぶことができる研修パッケージです。
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DXを用いた新事業創造や、事業戦略の立案についてを学ぶことができるパッケージ
3.管理画面で受講者の学習状況を可視化できる
Schoo for Businessには学習管理機能が備わっているため、研修スケジュールの作成を容易に行うことができます。さらに、社員の学習進捗度を常に可視化することができる上に、レポート機能を使って学んだことを振り返る機会を作ることも可能です。ここでは学習管理機能の使い方を簡単に解説します。
まず、Schoo for Businessの管理画面を開き、「研修を作成するという」ページで作成した研修の研修期間を設定します。ここで期間を設定するだけで自動的に受講者の研修アカウントにも研修期間が設定されるため、簡単にスケジュールを組むことができます。
この、管理者側の管理ツールでは受講者がスケジュール通りに研修を受けているかを確認することができます。もし決められた研修をスケジュール通りに行っていない受講者がいれば注意したり、話を聞くことができるなど、受講者がしっかりスケジュールを守っているかを確認することができます。
06まとめ
本記事では、経済産業省の「DXレポート」をもとに、「2025年の崖」について解説してきました。 このままDXが推進されなければ、企業は競争力を失うだけでなく、重大なシステム障害により、根幹を揺るがす事態に見舞われるかもしれません。 企業事例からも分かる通り、DXの推進には、自社におけるDX人材の育成が欠かせないようです。早急に取り組むべき課題といえるでしょう。
▼【無料】経済産業省が取り組む デジタル人材育成プラットフォーム|ウェビナー見逃し配信中

経済産業省の商務情報政策局 情報技術利用促進課でDXリテラシー標準化の検討会を行っている同課の金杉 祥平氏をお招きし、「経済産業省が取り組むデジタル人材育成プラットフォーム」について語っていただいたウェビナーのアーカイブです。デジタル人材要件の定義や、リスキリングするための構造化された項目、さらに経済産業省で構想している人材育成プラットフォームについてもお話しいただいております。
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登壇者:金杉 祥平様経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長補佐(企画)
2006年に経済産業省に入省。過去には、再生可能エネルギーの推進、家電製品の安全基準の整備、電気事業制度のルール整備、福島第一原子力発電所の廃炉推進に従事し、2021年5月から現職。情報技術利用促進課では、地域企業・産業のDXの実現に向けて、デジタル人材の育成を推進するため、デジタル知識・能力を身につけるための実践的な学びの場を提供する「デジタル人材育成プラットフォーム」の制度設計を担当。