推論のはしごとは|意思決定の過程を見える化する仕組みを解説
「推論のはしご」とは意思決定の思考のプロセスを梯子の段に見立てて、段階ごとに理解しやすく見える化したモデルのことです。なぜこの結論になったのかということを理解するために、思考の背景や傾向を明確にするツールといえます。 この記事では、「推論のはしご」とはどのようなものかを、7つのプロセスなどを含めて紹介し、どのように活用すればいいかを解説します。
- 01.推論のはしごとは
- 02.推論のはしごを理解する重要性
- 03.推論のはしごの7段階
- 04.推論のはしごを使うメリット
- 05.推論のはしごの使い方
- 06.推論のはしごの活用例
- 07.推論のはしごをビジネスに活かすポイント
- 08.まとめ
01推論のはしごとは
「推論のはしご」とは、意思決定の段階をはしごの段に見立てて、選択に至った過程を見えるようにしたモデルのことです。 ビジネス理論家のクリス・アージリスが 1970年に初めて提唱した概念で、社会の人々が世の中のことをどのように推測して行動しているかを解説しました。 この中でアージリスは、人々の物事に対する推測のしかたを「メンタルモデル」と呼び、固まったメンタルモデルが、事象の見え方や思考に影響を与え行動を決定していると述べています。 その後、MIT のピーター・センゲ教授がアージリスの主張をもとに、推論のはしごの仕組みを解説し理解を広めました。
アンコンシャスバイアスとの違い
アンコンシャスバイアスとは、誰もが持っている「無意識の偏見・思い込み」のことです。 例えば、「男性だから力仕事が得意だ」「給料が高い人のほうが偉い」「たくさん残業しているのは仕事を頑張っているからすばらしい」といったことです。 これは、「AだからBだろう」「AなのはBだからに違いない」と決めつける無意識のものの見方や考え方に影響されています。これがアンコンシャスバイアスです。人間の行動の7~8割は無意識に行われています。 推論のはしごを自分の思考に当てはめることで、自分がアンコンシャスバイアスにとらわれていたことに気づき、改善のきっかけを得ることができます。
02推論のはしごを理解する重要性
推論のはしごを理解することはなぜ重要であるのか、主に2つの観点から解説します。
- 人によって違う推論をして行動してしまう
- 人のメンタルモデルを理解するため
人によって違う推論をして行動するため
同じ事象を目にしたとしても、人によって違う推論をし、違う行動をしてしまうことがあります。これは、事象に対する推論のしかたが異なるからです。人それぞれ違ったメンタルモデルを通して物事を見ているため、同じものを見たとしても、そこから導き出される結論が変わってきてしまいます。 私たちは、人には推論した根拠や背景の違いがあり、決めつけや考えの押し付けにならないように、一つの見方が正解ではないと理解しておかなければなりません。
人のメンタルモデルを理解するため
人の頭の中には前提や思い込み(メンタルモデル)が出来上がっており、人の行動の7~8割はメンタルモデルをもとにして無意識で行われています。 そのため、ひとつの事象に対して出した答えがメンタルモデルを通して出てきたものであったとしても、そのことに気が付かないことが多くあるのです。推論のはしごを理解し活用することによって、私たちがメンタルモデルで思考し行動していることが理解できるようになります。
03推論のはしごの7段階
推論のはしごは 7段階でモデル化されています。7つのプロセスを順に紹介していきましょう。
- 1.現実を観察する
- 2.データを選択する
- 3.データに背景情報を加える
- 4.推測する
- 5.結論を出す
- 6.結論に基づく信念を持つ
- 7.行動する
1. 現実を観察する
目の前の事実に対して何の解釈もせず観察します。ただ現実を受け止めている状態です。
2. データを選択する
現実に対して個人的な考え方や過去の体験に基づいて、特定の事実を選択する段階です。人間は、根拠になりそうな全てのデータを引き出すことは不可能ですので、好みや志向が反映されます。
3. データに背景情報を加える
引き出したデータを、自分の経験というレンズを通して見ることで、データに意味づけをしていきます。
4. 推測する
意味づけした情報をもとに、自分が正しいかどうかを考えずに推測をしていきます。この段階では、別の視点があることは考えない傾向があります。
5. 結論を出す
推測をさらに進めて、この状況が何を意味し、どう行動すべきか、という結論を導き出します。
6. 結論に基づく信念を持つ
ここで出た結論は、自分の信念になっていきます。そして、この先に同じような状況が発生した場合に、同じように考えて結論を出すことで信念を強化していきます。
7. 行動する
自分の信念に基づいて、自分が正しいと思う行動をします。自分では正しく判断したつもりであっても、実際にはすべての事実を考慮しておらず、自分の推測に基づいて行動しているということです。
04推論のはしごを使うメリット
推論のはしごを活用するメリットとしては、以下の2つが考えられます。
- ・思考の過程を共有できる
- ・思考の背景を理解できる
思考の過程を共有できる
推論のはしごを用いて、思考のプロセスを段階に分けて見える化することによって、なぜそうした結論になったのかを共有できるようになります。 結論だけをぶつけ合っていては分かり合えないままですが、どの段階までが同じでどの段階から違っているのかがわかれば、相互理解につながるでしょう。
思考の背景を理解できる
推論のはしごを使って結論に至る背景が理解できるようになれば、過去の経緯や思考の傾向などが明確になります。 なぜそう考えるのかという思考の背景を理解することで、お互いの意見を尊重しあうようになるでしょう。思い込みから生まれた結論を押し付け合うような論争から脱却し、建設的な議論がしやすくなります。
05推論のはしごの使い方
思考のプロセスを確認できる推論のはしごは、どのような場面で使うことができるでしょうか。自分で問題解決を考えているときや相手との議論をしているときに、自分が推論のはしごのどの段階にいるのかを考えるだけで、結論は大きく変わってきます。
どこの段階にいるのかを知る
意思決定の中で、自分の思考プロセスがどの程度まで進んでいるか、どの位置にいるのかを確認するのに使うことができます。 これまでのプロセスが適切であったか、次のプロセスに進むために何を注意すればいいのかが明確になり、考えがまとまりやすくなります。
一段降りて考えてみる
自分の思考を振り返ってみて、なぜこの行動を選んだのか、他に取りうる行動はなかったかなど、はしごを一段降りて考えてみると自分の思考がよく理解できるでしょう。 前のプロセスに戻って、推論を調節したり、異なる結論を出してみたり、追加データを検討してみたりして、改めて考えるためのヒントが得られます。
06推論のはしごの活用例
推論のはしごは、意思決定を行った際になぜその結論に達したのか、思考のプロセスを見える化します。このツールが、どのような場面で活用できるのか、いくつか例をあげて解説します。
- ・会議の意思決定を行う
- ・新しい解決方法を探る
- ・ビジネスの戦略を決定をする
- ・業績の評価をする
会議の意思決定を行う
意思決定の会議などで、参加者の意見がかみ合わない場面はよく見られます。お互いに自分の意見を主張するばかりでは進展しません。 推論のはしごを使って、なぜその結論になったのか、どこで認識がずれたのかを確認できれば、お互いの結論の違いがよく理解できます。 相互に理解ができれば、その理解をもとに調整が可能になるでしょう。
新しい解決方法を探る
推論のはしごは、課題解決の方法を検討する場合にも有効な手法です。 これまでの解決の考え方を分析し、なぜそうなるのかを段階ごとに検証していきます。段階ごとに違った前提条件を当てはめたり、別の視点を持ち込んでみたりすることで、今までにない新しい方法にたどり着く可能性があります。
ビジネスの戦略を決定をする
ビジネス戦略の決定には多様な立場の人が関わってきます。それぞれ違った見方をする関係者の意見を調整し決定するには、推論のはしごを用いて違いを明確化していくといいでしょう。お互いの立場が明確になり理解しやすくなります。
業績の評価をする
業績や人材に対して複数の人間が一緒に評価をする場合、評価の基準がずれていれば、当然評価の結果も違ってきます。それぞれが無意識のうちに固定概念を通して評価をしていることも少なくありません。なぜ評価のずれが生じているのか、段階を追って確認しあうことで、ずれを矯正し正しい評価にたどり着きます。
07推論のはしごをビジネスに活かすポイント
推論のはしごを学んだあと、ビジネスの現場でどのように活かしていけばいいのか、ポイントを解説します。
- ・短絡的に結論づけない
- ・思考の背景の違いを理解する
短絡的に結論づけない
推論のはしごを学ぶことで、相手の言動を短絡的に結論付けないことの重要性がよく理解できます。決めつけや考えの押し付けは、ハラスメントを生む要因の一つになります。 お互いの意思決定プロセスを理解し、なぜそう思うのか段階的に考えてみる。また、違った視点やデータをもとに思考して議論することで、建設的な結論に近づいていきます。 お互いを尊重した話し合いには、こうした姿勢が必要です。
思考の背景の違いを理解する
組織には多様な考え方のメンバーが存在しています。それぞれお互いの思考の違いがどこから来るのかが理解できれば、相互理解も進み多様化への対応につながるでしょう。 多様性を尊重する社会では、こうした思考が求められています。
「研修をしてもその場限り」「社員が受け身で学ばない」を解決!
研修と自己啓発で学び続ける組織を作るスクーの資料をダウンロードする
■資料内容抜粋
・大人たちが学び続ける「Schoo for Business」とは?
・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など
08まとめ
私たち人間は、無意識のうちに固定概念や偏見、無用なこだわりに影響されて物事をとらえて判断をしています。 このことで、意見が食い違ったり、間違った判断をしていることも少なくないでしょう。 推論のはしごは、思考のプロセスを7段階に分けて確認することで、どこで違いが生じたのか、なぜこう判断したのかがよくわかるツールです。 相互理解や意思決定に役立つモデルですので、組織内の意見の食い違いがあった場合などに活用してみてはいかがでしょうか。