アダプティブラーニングとは?導入メリットや注意点を企業事例とともに解説
アダプティブラーニングは、IT技術を教育分野に活用する「EdTech」のひとつとして注目されていますが、これを企業の人材育成にも導入する動きが加速しています。本記事では、アダプティブラーニングの概要と導入するメリットや注意点を企業事例とともに解説します。
01アダプティブラーニングとは
アダプティブラーニングとは、米国の1980年代高等教育のなかで盛んに用いられるようになった用語で、文部科学省によると、「学習データ等を活用した学習状況の「見える化」等による個に応じた指導」とされています。近年では、テクノロジーの進化により、AIや機械学習を用いて、学習者のデータを収集し分析することが可能になった影響で、さらに注目が集まっています。ここでは、アダプティブラーニングについて詳しく解説していきます。
▶︎参考:文部科学省 Society5.0におけるEdTechを活用した教育ビジョンの策定に向けた方向性
個に合わせた学習方法
アダプティブラーニングは英語の「Adaptive(適応性のある)」と「Learning(学習)」を合わせた言葉で、日本語では「適応学習」「個別最適過学習」などと訳されます。
アダプティブラーニングのプラットフォームを提供している企業であるKnewton社CEOのライアン・プリチャード氏は、日本で開催されたイベントでアダプティブラーニングを「Knewtonでの定義では、データをもとにパーソナライズされた経験を継続的に提供するもので、生徒がシステムを使うたびにコンテンツやモデルをアップデートし、最適な道筋をアップデートするもの」と定義しています。
▶︎参考:EdTechで注目される「アダプティブラーニング」にフォーカスしたイベント
教育現場において文部科学省も推進する学習方法
文部科学省の「Society5.0におけるEdTechを活用した教育ビジョンの策定に向けた方向性」によると、アダプティブラーニングはすぐにでも着手すべき課題として挙げられており、日本国内の教育現場において推進されている学習方法であることがわかります。 教育現場にテクノロジーの力を活用する「EdTech」にはさまざまなシステムがありますが、IT技術を用いて学習者ごとに個別最適化を可能にするアダプティブラーニングは、アナログで行っていた「家庭教師」「個人授業」に代わる最適なシステムとして期待されています。
教育現場から企業の人材育成にも導入されるようになった
学習者それぞれに合わせた学習方法は、教育現場だけでなく企業の人材育成にも効果的であると認識されています。アダプティブラーニングに関連する言葉として、オンライン講座の配信を行う「eラーニング」があります。すでに多くの企業がeラーニングを導入していますが、双方向のコミュニケーションを可能とするなど、eラーニングをより多様化させたアダプティブラーニングは、現代の人材育成にも適した方法として認識されるようになりました。 また、LMS(学習管理システム)を使うことで、人事担当者がカリキュラムを決めて、従業員の学習状況を把握することもでき、企業として導入するのに適したシステムであることも注目される理由になっています。
02アダプティブラーニングの関連用語
アダプティブラーニングと混同される用語として、「eラーニング」や「アクティブラーニング」などが挙げられます。 ここでは、アダプティブラーニングと関連する用語について、違いなどを解説していきます。
eラーニング
これまでの学習方法といえば、学校の授業やセミナーなど対面形式での座学での学習が一般的でした。 ですが、eラーニングではパソコンやタブレット、スマートフォンといったインターネットを利用して学ぶことができます。学習管理システムを用いて学習するため、CD-ROMといったメディアの配布が不要となり、受講者はいつでもどこでも学習できるのが特徴です。 また、進捗に合わせて学習形態を変更できるので、苦手な部分を伸ばすといったことも可能です。eラーニングでは受講者自身が学習を進めていく必要があるため、企業のOFFJTなどで積極的に活用される傾向にあります。
一方で、アダプティブラーニングは個別に解答や学習進捗、理解度などをデータとして蓄積できるため、受講者や講師が離れた場所にいても、コミュニケーションを取ることができます。 一方で、eラーニングは録画されたものや生放送の映像を見て学習していきます。したがって、一方的な学習となってしまうのが特徴です。Schooでは、生放送の授業で講師にチャットにて質問できるなど、一方的な学習ではなくなりつつあります。
Ed Tech
Ed Techは、テクノロジーを活用して教育を向上させるための取り組みです。一方で、アダプティブラーニングは、学習者の個別のニーズと進度に合わせて教育をカスタマイズする手法です。アダプティブラーニングは、Ed Techに内包される学習法と考えると良いでしょう。アダプティブラーニングでは、学習者のデータや情報を収集し、それを基に教材や課題を個別化します。学習者は自分のペースで進めることができ、教材やフィードバックは彼らの進捗に合わせて調整されます。これにより、効果的で効率的な学習が可能となります。Ed Techとアダプティブラーニングの組み合わせは、教育現場において個別の学習ニーズをサポートし、学習結果を最大化するための有力なツールとなっています。
アクティブラーニング
似た言葉として混同されがちなのが、アクティブラーニングです。アクティブラーニングとは、受講者が能動的に学べるように設計された学習方法を指します。具体的には、グループワークやグループディスカッション、ディベートなどがあげられます。
ゲーミフィケーション
ゲーミフィケーションとは、ゲームではないサービスに対して、アイテムの獲得や競争、レベルアップなどゲーム要素を追加して、利用者の意欲を高めることを言います。日本ではあまり浸透していませんが、ソーシャルゲームなどの普及により、近年注目を集めています。
LMS
LMSとは、学習管理システムのことでLearning Management Systemの略です。eラーニングの実施に必要な、学習教材の配信や成績などを統合して管理するシステムのことです。LMSがあることにより、eラーニングでは受講者の学習ペースやテストの得点、強みや弱みなどを管理することができ、eラーニングで学習機会を提供している管理者はLMSを用いて、個人の指導を管理することが容易になりました。
03アダプティブラーニングの代表的な教育サービス8選
アダプティブラーニングサービスは多数ありますが、ここでは、代表的な教育サービスを8つ紹介します。
Knewton
Knewtonは2008年に創立されてから、人間の学習の仕組みに関する数十年にわたる研究をもとに、アダプティブラーニングのシステムを開発してきました。ニューヨーク、ロンドン、東京にオフィスを持ち、学習者数は全世界で約4,000万人以上を誇ります。日本ではZ会や学研とパートナーシップを結び、学習プロダクトを開発しています。
すらら
すららは、株式会社すららネットが提供する、アダプティブな対話式ICT教材です。小学生から高校生までの5教科を中心に扱い、国内の約2,171校の塾や学校にサービスを提供しています。また、家庭学習や海外、放課後のデイサービスなどにおいても広く活用されるようになっています。
Cerego
Ceregoは、アメリカに拠点を置くCerego社が開発したアダプティブラーニングのプラットフォームです。脳科学や認知心理学の研究を活かした、記憶定着特化型の学習エンジンを提供しています。
Core Learn
Core Learnは、印刷会社大手の凸版印刷株式会社が提供する、社会人向けの完全習得型デジタル教材です。業務に必要な知識を理解し、記憶に定着させることで、完全習得を目指します。当初は、金融機関向けのデジタルドリルを販売していましたが、現在では業種を問わずに100社以上の導入実績を持ちます。
Z会Asteria
Z会Asteriaは、通信教育サービスを提供するZ会が提供する、アダプティブラーニングのプラットフォームです。内容理解・問題演習・添削指導、すべてがタブレット内で完結します。問題演習では、添削指導者による1人ひとりに向けた丁寧な指導をオンラインで受けることが可能です。Z会が持つ85年の指導実績とテクノロジーで、学習効果を最大限に高めることができるサービスです。無学年学習を採用しているので、学年・年齢を問わず受講できます。
Brightspace LeaP
Brightspace LeaPは、学習者の習熟度に応じて、カリキュラムを組むことができるアダプティブラーニングツールです。例えば、「内容理解のための動画を見たら、問題演習に進むことができる」といったように、学習者ひとりひとりに対して各学習オブジェクト(内容理解の動画・問題演習・評価シートなど)へのリリース条件を設定できます。
atom
atomは、学習塾向けアダプティブラーニング教材です。問題の丸つけ・採点、次に解くべき問題や解き直すべき間違えた問題の指示、生徒の苦手分野の発見と出題、学習進捗の管理などを行うことができます。生徒の得意不得意・進度に合わせた個別指導や、生徒のモチベーション維持への注力、少ない講師による多人数の個別指導などを可能にします
Qubena
Qubenaは、AI (人工知能)を活用したアダプティブラーニングツールです。児童・生徒によって間違え方はそれぞれであり、解決方法もそれぞれですが、Qubenaでは搭載している数万問から一人ひとりに個別最適化された問題を出題します。対象は小1〜中3で、「算数・数学」「英語」「国語」「理科」「社会」の5教科が一つにまとまっています。
04アダプティブラーニング活用のポイント
アダプティブラーニングは対象となる社員によって、活用方法は異なります。ここでは、「新入社員」「専門職」というそれぞれでどのように活用していくべきか、ポイントを解説していきます。
新入社員
アダプティブラーニングは新入社員の教育プロセスを効果的に改善するために活用することができます。まず、アダプティブラーニングプラットフォームを導入し、新入社員のスキルレベルや学習ペースに合わせた個別の学習経路を提供します。個別の学習経路を提供することで、各新入社員が自身の能力に合わせたスピードで学習できるため、効率的かつ効果的な教育が可能となります。また、アダプティブラーニングは、リアルタイムな進捗管理も可能であり、新入社員の学習状況や弱点を把握し、適切なサポートを提供することができます。さらに、アダプティブラーニングはインタラクティブな学習体験を提供するため、新入社員がより主体的に学習に取り組むことができます。
専門職
専門職の場合、アダプティブラーニングは継続的な専門知識の向上に役立ちます。アダプティブラーニングプラットフォームを活用することで、専門職のスキルセットを迅速かつ効率的にアップデートすることが可能です。また、アダプティブラーニングでは、個々の専門職のスキルレベルや弱点を把握し、それに基づいてカリキュラムをカスタマイズすることができます。この個別化された学習アプローチによって、専門職は自身のニーズに合わせたトピックに集中的に学習し、スキルの向上を図ることができます。また、アダプティブラーニングは実践的な学習体験を提供するため、専門職は理論的な知識だけでなく、実際の業務に即したスキルも習得できます。さらに、アダプティブラーニングは常に進化する専門知識に追いつくための継続的な学習を支援し、専門職の成長と競争力を高めることができます。
04アダプティブラーニングを導入するメリット
IT技術を活用したアダプティブラーニングは、企業と学習者の両者に多くのメリットをもたらします。ここでは、アダプティブラーニングを企業として導入することのメリットを解説します。
個々の習熟度に合わせた効率的な学習ができる
アダプティブラーニングを導入するメリットには、従業員個々の習熟度に合わせた効率的な学習ができることが挙げられます。従業員一人ひとりには、それぞれ異なる得意分野と苦手分野がありますが、個々で学習することで、得意分野はテンポよく、苦手分野は繰り返し徹底的に学習することが可能です。 また、個々の習熟度に合わせた課題提供になるため、一律での学習のように、理解できずに先に進んだり、習得したポイントを無駄に繰り返したりすることも避けられます。
指導者の力量に左右されない均質的な学習ができる
アダプティブラーニングでは、分析データに基づいた学習プログラムが提供されるため、指導者の力量に左右されない均質的な学習ができるメリットもあります。従来の学習法では、指導者の経験や感覚的な判断に頼らざるを得ませんでしたが、データによる課題提供となるため、スキルの習得において指導者の差が生まれることはありません。 また、指導者がマンツーマンで教える必要がなくなり、貴重な時間を他の有用な活動に振り分けることが可能になります。学習者は、仲間同士で情報を共有し、ゲーム要素を取り入れるなど、学習意欲を向上させることにも繋げることができます。
学習状況の「見える化」でフォローがしやすい
従業員の学習状況の「見える化」でフォローがしやすいのもメリットとして挙げられるでしょう。アダプティブラーニングの学習履歴は、システム上で管理することが可能です。従業員の学習内容やかかった時間、正解率などを知ることができるため、管理者は学習履歴をもとに、的確なフィードバックやアドバイスに繋げることができるでしょう。
eラーニングのメリットが享受できる
さらに、eラーニングのメリットが享受できることも挙げられます。eラーニングのメリットには、時間と場所を選ばず学習できること、従業員の使い慣れたデバイスを使用できることなどがありますが、アダプティブラーニングの導入により、これらのメリットをすべて享受できることになります。 従来のように研修のための会場の予約や、外部講師を招く必要がなくなり、膨大な手間や人的、時間的コストを抑えることにも繋がります。
05アダプティブラーニングを導入する際の注意点
メリットの多いアダプティブラーニングですが、導入の際の注意点もありますので、ここで解説します。
学習者のモチベーション維持が難しい場合がある
アダプティブラーニングは、基本的にeラーニングによる自発的な学習方法であるため、学習者のモチベーション維持が難しい場合があります。集団研修のような強制力がないため、「業務が忙しい」「やる気が出ない」などを理由に、学習に取り組むことが困難な従業員も出てくることが考えられます。 そこで、企業としても従業員に丸投げするのではなく、締め切りの設定や社内キャンペーン、ゲーム感覚で学習が進められるような取り組みを行うことがポイントになります。
導入コストがかかる
アダプティブラーニングを導入するには、導入コストがかかることも考慮する必要があります。導入にあたっては、学習教材を豊富に揃えたeラーニングサービスを選ぶことになります。システムやツールだけでなく、それらを管理する人的コストも発生するでしょう。また、自社のニーズに特化したプログラムの作成を、外部に依頼する必要が生じることも考えられます。
不向きな分野がある
アダプティブラーニングは、分析データに基づいた学習プログラムであるため、不向きな分野があることにも注意しなければならないでしょう。例えば、医療現場の技能習得や、ディスカッション形式で学習するようなコミュニケーション能力の向上など、非言語領域の学習には不向きです。 アダプティブラーニングはすべての分野で万能というわけではないため、従業員に学習させたい内容や導入目的に照らし合わせて導入の検討をすることが大切です。
06アダプティブラーニングを導入した企業事例
最後に、アダプティブラーニングを導入した企業事例を2つ紹介します。
Ceregoを導入した「西日本旅客鉄道株式会社」
西日本旅客鉄道株式会社では、Ceregoの導入後、運輸関係指令員が対応業務に関するマニュアルを覚えるために活用しています。業務の中には、乱れたダイヤの修正が含まれますが、そのための多岐にわたる知識を習得する必要があります。また、昼夜問わず業務に忙しく携わる運輸関係司令員にとって、隙間時間を有効活用できる最適な学習方法になっています。
Core Learnを導入した「株式会社三菱UFJ銀行」
株式会社三菱UFJ銀行では、金融機関向けの完全習得型デジタル教材「Core Learn」をベースにして作成された、独自の教材「骨太ドリル」を活用しています。銀行員にとって、業務上必要な知識は完全に理解する必要がありますが、アダプティブラーニングの導入により、効率的な学習が可能になっています。
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■資料内容抜粋
・大人たちが学び続ける「Schoo for Business」とは?
・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など
07まとめ
アダプティブラーニングを導入するメリットや注意点、企業事例をまとめました。EdTechのひとつとして教育現場における導入が急がれていますが、人材育成や社員教育にも効果を発揮することが分かりました。人材育成には人的、時間的コストがかかりますが、アダプティブラーニングの導入により、効率的かつコストを抑えて育成効果を得ることが可能です。
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登壇者:越川 慎司様株式会社クロスリバー 代表取締役
ITベンチャーの起業などを経て2005年に米マイクロソフト本社に入社。業務執行役員としてパワポなどの責任者を経て独立。全メンバーが週休3日・リモートワーク・複業の株式会社クロスリバーを2017年に創業し、815社17万人の働き方と成果を調査・分析。各社の人事評価上位5%の行動をまとめた書籍『トップ5%社員の習慣』は国内外で出版されベストセラーに。