嘱託社員とは?モチベーションを維持する処遇のポイントについて解説
嘱託社員という言葉に明確な定義はありませんが、一般的には定年後に再雇用された社員のことを指します。 定年退職後も引き続き勤務しますが、それまでに就いていた役職がはずれ、給与も下がることも多いためモチベーションの維持が課題です。 当記事では、こうした嘱託社員のモチベーションを維持し、活躍し続けてもらうためのポイントについて解説します。
- 01.嘱託社員とは
- 02.定年後再雇用制度とは
- 03.5年ルールで無期雇用に転換しなくてはならないのか
- 04.嘱託社員の企業側のメリット
- 05.嘱託社員の従業員側のメリット
- 06.嘱託社員の企業側のデメリット
- 07.嘱託社員の従業員側のデメリット
- 08.嘱託社員のモチベーションを下げない処遇のポイント
- 09.嘱託社員は若手社員の良き相談役に
- 10.まとめ
01嘱託社員とは
企業に雇用されているが、正社員ではなく、一定の期間や業務範囲に基づいて契約を結んで働いている従業員のことを指します。嘱託社員は、雇用形態や労働条件が正社員とは異なることがありますが、一般的に、特定のプロジェクトや業務に対する一定期間の雇用を目的としています。彼らは一定の業務を担当し、給与や福利厚生などの待遇も契約内容に基づいて決定されます。嘱託社員の雇用形態は、プロジェクトの一時的な需要に対応したり、特定のスキルや専門知識を持つ人材を柔軟に活用するために採用されることがあります。彼らの雇用期間や労働条件は契約内容によって異なりますが、通常は正社員と比べて柔軟性が高く、プロジェクトや業務の変化に対応しやすい特徴があります。
契約社員との違い
嘱託社員は契約社員の一形態であるといえます。企業と有期の雇用契約を結んでいる労働者で、自社を定年後に再雇用、もしくは60歳を超えて雇用された社員を指して、嘱託社員という呼称を使うことが多いようです。 契約社員は原則フルタイムの勤務になる場合がほとんどですが、嘱託社員は年齢や体力的な配慮から、週に4日、3日の勤務というように勤務形態を柔軟に設定することもあります。
業務委託との違い
業務委託と嘱託社員も混同しやすい言葉です。業務委託は会社が個別に業務を発注し、成果物に対して報酬を支払う契約です。業務を発注する側と、受託側には雇用契約が発生していません。 嘱託社員は、事業主と有期の雇用契約を結んでおり、従業員の立場を有している点が違いとなります。
02定年後再雇用制度とは
定年後再雇用制度とは、定年を迎えた従業員が希望する場合、企業が再度雇用契約を結んで雇用を継続する制度です。現在、ほとんどの企業で定年後の社員が嘱託として引き続き勤務をしています。それは高年齢者雇用安定法という法律により、企業に義務が課せられているからです。これにより、高齢者の労働力を活用しつつ、本人が希望する働き方を尊重し、生活の安定を図ることができます。
高年齢者雇用安定法
2013年に改正された高年齢者雇用安定法により、企業には「高年齢者雇用確保措置」として次に挙げる3つの取り組みのうち、1つを必ず実施することになりました。
- ・定年制の廃止
- ・定年年齢の引き上げ
- ・継続雇用制度の導入(再雇用制度・勤務延長制度)
継続雇用制度を導入した場合、企業は65歳まで就業機会を提供することが義務付けられています。 3つの措置のうち、定年制の廃止や定年年齢の引き上げは、ハードルが高く感じる企業が多いようです。そのため再雇用制度を採用する企業が多いのでしょう。
【参考】高年齢者雇用安定法|厚生労働省
高年齢雇用継続給付金
定年により一旦雇用契約は終了し、新たに嘱託社員としての契約を結ぶ形になります。嘱託社員としての契約は、定年前の給与額から3割程度低下することが一般的です。 こうした収入の減少を補う制度として、「高年齢者継続雇用給付金」があります。受給要件は以下の通りです。
- 60歳以上65歳未満の一般雇用保険者
- 継続雇用時の給与が以前の給与の75%以下になる者
- 雇用保険に5年以上加入していた者
いずれかの場合に、ハローワークで手続きをすることにより受給できます。給与の減少を補う措置として、労働者と企業の双方に再雇用を促進させる効果をもたらしています。
【参考】高年齢雇用継続給付金|厚生労働省
035年ルールで無期雇用に転換しなくてはならないのか
60歳の定年後5年間、企業は就業の機会を提供しなくてはなりません。ここで問題になるのが、有期雇用契約を5年継続した場合、本人の申し出があれば期間の定めのない無期雇用に転換しなくてはならないという制度です。 改正労働契約法による、通称「5年ルール」「無期転換ルール」と呼ばれるものです。 この制度が適用されると、嘱託社員が65歳まで勤務した場合、希望すればそれ以降は無期雇用として勤務できることになります。 しかしこの点は、都道府県労働局の認定を受けることにより、定年後の再雇用社員については適用を除外できます。自社が認定を受けているかどうか、一度確認しておいたほうが良いでしょう。
04嘱託社員の企業側のメリット
長らく自社で働いた社員を定年後も再雇用することは、企業にとって多くのメリットをもたらします。主なメリットとして、次が挙げられます。
- ・ベテラン社員の経験を活かせる
- ・定年後も安定した収入を得ることができる
ここでは、これらの点について、それぞれが解説していきます。
ベテラン社員の経験を活かせる
これまで、自社で培ってきたスキルや知見を、引き続き発揮してもらえることは大きなメリットです。新規採用が困難な現状において、嘱託社員は会社にとって貴重な戦力となります。 ゼロから新しい人材を雇い育成するよりも、はるかに高い生産性を期待できます。
企業にとっては人件費を削減できることもメリットです。多くの場合は、定年前の給与の6割から7割くらいの契約になる場合が多いようです。勤務日数を減らすなど柔軟な契約を結ぶこともできます。人件費を抑制しつつ労働力を確保で
定年後も安定した収入を得ることができる
嘱託社員制度は、定年退職後の従業員に対して、引き続き収入を得る機会を提供します。企業側にとっても、年金制度や生活費の補助が必要な退職者に対し、一定の収入源を提供することで、社会的責任を果たすことができ、従業員の生活の安定に寄与します。
結果として、定年後も安定した収入を得られるため、企業への感謝や忠誠心が向上し、モチベーションを持った状態で引き続き働いてもらうことができます。
05嘱託社員の従業員側のメリット
嘱託社員は、従業員の側にもさまざまなメリットをもたらします。主なメリットとして、次のようなものが挙げられます。
- ・慣れ親しんだ職場で勤務できる
- ・責任から解放される
- ・働き方を調整できる
- ・社会保険や有給休暇などの福利厚生がある
これらのメリットにより、嘱託社員として働くことは、従業員にとって非常に魅力的な選択肢となります。ここではそれぞれについて、具体的に解説していきます。
慣れ親しんだ職場で勤務できる
慣れ親しんだ環境で勤務できることは、嘱託社員にとっての大きなメリットです。これまでの経験を活かせるだけでなく、新たに人間関係を構築するストレスもありません。別の企業に再就職した場合と比較して、かかる負荷は限りなく少ないといえるでしょう。 また、職場の文化や業務プロセスに精通しているため、スムーズに業務を遂行できる点も大きなメリットです。
責任から解放される
給与額は下がるかもしれませんが、多くの場合はそれまでの役職を後進に譲ります。そうすることで、責任から解放されて伸び伸びと働けるでしょう。 短時間勤務や日数を減らした勤務体系を選択すれば、プライベートの時間を確保することもできます。これにより、よりリラックスした状態で仕事に取り組むことができ、仕事とプライベートのバランスを取りやすくなります。
働き方を調整できる
嘱託社員は、働き方の自由度が高いという特徴があります。勤務日数や勤務時間をフルタイムからパートタイムに切り替えるなど、個人のライフスタイルや健康状態に合わせた働き方が可能です。これにより、定年後の生活リズムに合った柔軟な働き方ができ、無理なく長く働き続けることができます。
社会保険や有給休暇などの福利厚生がある
嘱託社員でも、社会保険や有給休暇などの福利厚生が適用される場合があります。これにより、嘱託社員はアルバイトやパートタイム労働者に比べて、雇用形態の安定性が高くなる可能性があります。健康保険などの社会保障も継続して受けられるため、安心して働き続けることができます。
06嘱託社員の企業側のデメリット
一方で嘱託社員の再雇用は企業側のデメリットとなる点もあります。
- ・更新手続きが必要になる
- ・世代交代の妨げになる
嘱託社員を雇用する場合、これらのデメリットを考慮する必要があり、企業が嘱託社員の活用を検討する際には、長期的な人材戦略とのバランスを取ることが重要です。
更新手続きが必要になる
多くの場合は1年単位の雇用契約を更新していくことになります。更新に関わる事務手続きや管理が煩雑になることは避けられません。 また、更新のたびに労働条件の交渉をしなくてはならない場合もあります。こうした負担が増えることは企業にとってのデメリットです。
世代交代の妨げになる
定年後も戦力として自社に残ってもらえることは、労働力確保の面では非常にありがたいことです。反面、世代交代の妨げになることも考慮しておく必要があります。 かつての部下が上司になることで、モチベーションが下がることもあるかもしれません。反対に現役社員の側が、やりにくさを感じることもあるでしょう。双方のモチベーションの維持に配慮が必要となります。
07嘱託社員の従業員側のデメリット
再雇用され、嘱託社員として働く従業員には、メリットだけではなく、いくつかのデメリットも存在します。
- ・給与が下がる場合が多い
- ・モチベーションの維持が難しい
- ・長期間働きづらい
これらのデメリットを考慮し、嘱託社員として働くかどうかの判断を行うことが重要です。ここでは、それぞれについて解説していきます。
給与が下がる場合が多い
給与が下がることをデメリットと感じる嘱託社員は多いようです。多くの場合は定年前の6割から7割に下がります。嘱託社員は賞与支給の対象外とする企業もあります。 定年前とまったく同じ立場で、同じ業務を担当するような場合は、理不尽さを感じることもあるでしょう。
モチベーションの維持が難しい
モチベーションの維持に苦労する嘱託社員は、多いのではないでしょうか。責任から解放されることで緊張の糸が切れることもあるかもしれません。 また、かつての部下が上司になることで面白くないと感じたり、給与や処遇の面で納得できなかったりということもあるでしょう。 嘱託社員として勤務する上で、モチベーションを高く保つことは大きな課題であるといえます。
長期間働きづらい
嘱託社員としての雇用契約は、通常、期間が限定されています。多くの場合、1年ごとに契約を更新する形式が取られていますが、更新される保証がないため、長期的な雇用の安定性が欠けることがあります。また、年齢や健康状態の変化によって、長期間働き続けることが難しくなることもあります。このような不安定な雇用状況は、将来の計画を立てる上での障害となる可能性があります。
08嘱託社員のモチベーションを下げない処遇のポイント
定年退職者を嘱託社員として再雇用することは、企業に課せられた社会的な義務です。 嘱託社員には、可能な限り能力を発揮してもらい、会社に貢献してもらわなくてはなりません。そのためには、嘱託社員のモチベーションを下げないことが重要なポイントとなります。 すべての嘱託社員の給与・賞与を、定年前と同水準に保つことは現実的ではありません。 嘱託社員のモチベーション維持のポイントは、やりがいを感じてもらえる職務内容の検討にあるといえます。
スキルが活かせる業務に携わってもらう
長く勤務することで培ったスキルや知見を、存分に活かせる業務に携わってもらうと良いでしょう。 その際、嘱託社員自身がプレイヤーとして成果を出すのではなく、若手社員が成果を出せるようにサポートする役割を担ってもらうことが理想です。 そのためには、期待する役割やふるまいをしっかり伝え、理解してもらうことが大切です。またそうした働きに対する感謝は、会社が言葉にして明確に伝える必要があります。
人材育成に関わってもらう
若手社員の指導役としての活躍が理想であることは、前述の通りです。そこからもう一歩踏み込んで、会社としての人材育成に関与してもらうことも、モチベーションアップに効果を発揮します。 現場OJTの推進役として活躍してもらえるように、嘱託社員に対する定期的な研修機会を提供する必要があります。嘱託社員同士の意見交換の場を設けて、若手育成についての議論をしてもらうといった取り組みも有効です。
09嘱託社員は若手社員の良き相談役に
嘱託社員には若手社員の良き相談相手となってもらうことが、もっとも会社にとって理想的な状態であるといえます。 長く培ったスキルや知見を後進の社員にどれだけ継承できるかが、企業力向上のカギを握るといっても過言ではありません。 モチベーションを高く保ち、若手社員に積極的に関わってもらいましょう。
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10まとめ
嘱託社員は貴重な戦力として、会社にとってありがたい存在です。周囲に良い影響を与える「良いお手本」として活躍してもらわなくてはなりません。 嘱託社員に期待する役割を熱意をもって伝え、会社が積極的な関わりをもつことが必要です。自社の取り組みを検討してみてください。