裁量の意味とは|権限との違いや裁量権を持つために必要なことを紹介
裁量という言葉は、日頃何気なく利用していますが、正しい意味を理解しながら活用できているでしょうか。今回は裁量とは何か、裁量があることで、企業や組織にはどのような影響があるのかを詳しく見ていきましょう。
- 01.裁量の意味とは
- 02.裁量権とは
- 03.裁量労働制とは
- 04.裁量を持つために必要なこと
- 05.まとめ
01裁量の意味とは
裁量とは、その人自身の考えに基づき、物事を判断し決定することです。元々は行政や法律の場面で利用されていましたが、近年ではビジネスシーンでよく利用されるようになりました。かみ砕いて言うと、裁量があることは自身で自由にできる範囲が大きいことを表します。
ビジネスにおける裁量の使い方
ビジネスシーンにおいて、「裁量」という言葉は以下のような使い方をされます。
- ・裁量の大きさが弊社の魅力です。
- ・判断に関しては個人の裁量に任せています。
- ・大きな裁量権を得るためには出世しないといけない。
- ・経営は社長の裁量に委ねられている
このように意思決定の自由度を指す言葉として、ビジネスシーンで「裁量」という言葉は用いられています。
裁量と権限の違い
裁量と似たような言葉に、権限があります。権限とは「その立場のものの権力、権利などの範囲」のことです。
したがって、ビジネスの場において「裁量」と「権限」の違いは、権力の有無であることが多いです。例えば、「このプロジェクトにおいて裁量権はあるが、決裁権はない」という場合、アサインする人選の権利はあるが、最終的な稟議承認の権利は持ち合わせていないということもあり得ます。
つまり、裁量という自由に意思決定ができる範囲の中に、人事権や決裁権などの権限が内包されているということです。もちろん、権限の与えられている範囲が大きいほど、裁量という意思決定の自由度は高まります。
02裁量権とは
裁量権とは、自身で意思決定をすることのできる権利のことです。例えば、採用では「弊社は若手から裁量権を与えられる職場です」のように使用されます。
仕事は意思決定の連続です。そして、意思決定によって人は成長するとも言われているため、成長意欲の高い人は企業を選択する際に裁量権を重視する傾向が増えています。成果主義の企業は裁量権が大きいことが多く、外資系企業やベンチャー企業への入社希望者が増えている理由には、この裁量権も影響していると思われます。
裁量権があるメリット
ビジネスにおいて、意思決定をする機会は人を成長させる重要な要素です。そのため、裁量権の大きさは自身の成長速度に大きく影響するとも言えるでしょう。また、組織という視点でも裁量権を与えるとメリットが多くあります。
決断する経験を積める
裁量権を持つということは、自身の責任で何かを決断する機会が増えるということです。自ら思考して決断したことで、仮に失敗したとしても学びを得ることができ、自身の成長につながります。
ビジネスにおいて、決断する経験は非常に多くの学びを得ることができます。そして、その決断の影響が大きければ大きいいほど、得られる学びも比例して大きくなるでしょう。
意思決定の速度が上がる
裁量権が与えられている職場では、意思決定の速度が上がります。上司への承認を取るための資料作成や根回しなどの時間が不要になり、状況を見つつ迅速な判断を社員の判断で取ることができます。
VUCAと呼ばれる時代において、素早い意思決定は事業成長の重要な鍵となることと認識されているため、権限委譲という言葉が盛んに叫ばれるようになってきているのです。
主体的な人材を育成できる
裁量権を与えるということは、自分で判断して決めてもらうということです。そのため裁量権を与えることで、社員は主体的に業務に取り組まざるを得なくなります。
反対に、裁量権は与えないが主体的な人材を育成したいという願望は、矛盾している行為とも言えるでしょう。
裁量権があるデメリット
裁量権を持つことは、メリットだけではありません。裁量権には責任が伴います。全ての人が意思決定をすることが得意というわけではなく、その責任に耐えきれずに精神を病んでしまう人も中にはいます。
ストレスが溜まる
ストレス耐性は人それぞれ異なります。裁量権が与えられることで楽しく働ける人もいれば、それがプレッシャーとなりパフォーマンスを発揮できない人もいるのです。会社にとって重要な意思決定を任されれば任されるほど、そのプレッシャーは大きなものとなり、ストレスの度合いも高まります。そのため、裁量権を与える側も受け取る側も、ストレス耐性はどのくらいかを注意しなければなりません。
裁量権が給与に比例しないこともある
裁量権の大きさは給与と比例しない可能性もあります。多くの企業ではグレードや役職が明確に分かれており、給与水準はそれらのランクによって概ね決まります。課長職以上であれば600~800万円の間、部長職以上で800万円〜1,000万円の間といったように、給与は役職によって目安が決まるものです。
一方で、裁量権の大きさは役職と関係がないのです。一般社員でも、特定のプロジェクトにおいては課長職と同等の裁量を与えられることは珍しくありません。そのため、裁量権を大きく持ち、会社にとって重要な意思決定をしている人でも、その裁量に見合った給与はもらえない可能性があります。給与に直結しないと文句の1つでも言いたくなる気持ちもわかりますが、裁量権は自身の成長につながることを忘れてはいけません。会社が自身の成長のために裁量権を与えて、成長機会を提供してくれているという視点も常に持っておきましょう。
03裁量労働制とは
裁量労働制とは、働いた時間にかかわらず、仕事の成果・実績などで評価を決める制度のことです。企業視点では、「実働時間を問わず、事前に合意を得た時間を労働時間としてみなし、その労働時間に対する給与を支払う雇用形態」を指す言葉として使われます。いわゆる、「みなし労働時間制」の1つです。
例えば、事前に合意を得た時間が8時間の場合、5時間で業務を終えても、10時間で業務を終えても、支給される給与は事前に合意を得た8時間分となります。また、働く時間帯に関しても自身で裁量を持つ事ができ、深夜に働いても早朝に働いて昼には仕事を終えても問題ありません。
また、裁量労働制は「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2つがあります。いずれも業務遂行の手段や時間配分等を大幅に労働者の裁量に委ねる制度ですが、対象者や労働時間の決め方、手続きの方法に違いがあります。
▶︎参考:厚生労働省|裁量労働制
▶︎参考:厚生労働省|裁量労働制について
裁量労働制の種類
裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。それぞれの違いは以下のとおりです。
対象
専門業務型裁量労働制の対象者は、「業務の性質上、業務遂行の手段や時間配分等を大幅に労働者の裁量に委ねる業務として、厚生労働省令及び大臣告示で定められた専門的な業務に従事する労働者」と定められています。具体的には以下の19業務が該当します。
- 1.新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
- 2.情報処理システムの分析又は設計の業務
- 3.新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法の制作のための取材若しくは編集の業務
- 4.衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
- 5.放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
- 6.広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
- 7.事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
- 8.建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
- 9.ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
- 10.有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
- 11.金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
- 12.学校教育法に規定する大学における教授研究の業務
- 13.公認会計士の業務
- 14.弁護士の業務
- 15.建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
- 16.不動産鑑定士の業務
- 17.弁理士の業務
- 18.税理士の業務
- 19.中小企業診断士の業務
▶︎引用:厚生労働省|専門業務型裁量労働制
一方で、企画業務型裁量労働制の対象者は「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、業務の性質上、これを適切に遂行するために、業務遂行の手段や時間配分等を大幅に労働者に委ねる業務に従事する労働者」と定められています。対象となる業務の例として、厚生労働省は以下のような具体例を挙げています。
- 1.経営企画を担当する部署における業務のうち、経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務
- 2.経営企画を担当する部署における業務のうち、現行の社内組織の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな社内組織を編成する業務
- 3.人事・労務を担当する部署における業務のうち、現行の人事制度の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな人事制度を策定する業務
- 4.人事・労務を担当する部署における業務のうち、業務の内容やその遂行のために必要とされる能力等について調査及び分析を行い、社員の教育・研修計画を策定する業務
- 5.財務・経理を担当する部署における業務のうち、財務状態等について調査及び分析を行い、財務に関する計画を策定する業務
- 6.広報を担当する部署における業務のうち、効果的な広報手法等について調査及び分析を行い、広報を企画・立案する業務
- 7.営業に関する企画を担当する部署における業務のうち、営業成績や営業活動上の問題点等について調査及び分析を行い、企業全体の営業方針や取り扱う商品ごとの全社的な営業に関する計画を策定する業務
- 8.生産に関する企画を担当する部署における業務のうち、生産効率や原材料等に係る市場の動向等について調査及び分析を行い、原材料等の調達計画も含め全社的な生産計画を策定する業務
つまり、一般的にホワイトカラーと呼ばれる職業で、調査や計画、分析、企画などの業務を対象とした制度と言えるでしょう。
▶︎引用:労働省告示第149号
労働時間
専門業務型裁量労働制の労働時間は、「労使協定で定めた時間を労働したものとみなす」と定められています。労使協定とは、使用者と過半数労働組合又は過半数代表者との協定のことです。つまり、会社(使用者)と社員(過半数労働組合又は過半数代表者)の合意によって定められた時間と言えるでしょう。
一方で、企画業務型裁量労働制の労働時間は、「労使委員会の決議で定めた時間を労働したものとみなす」と定められています。労使委員会とは、賃金、労働時間その他の労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し意見を述べ、使用者及びその事業場の労働者を代表する者が構成員となっている委員会のことです。つまり、労働者の代表によって定められた時間を労働時間としているのです。
▶︎引用:厚生労働省|専門業務型裁量労働制
▶︎引用:厚生労働省|企画業務型裁量労働制
手続き
専門業務型裁量労働制の手続きは、「労使協定において、以下の事項を定め、労基署へ届出」と定められています。
- ・その事業場で対象とする業務
- ・みなし労働時間
- ・対象労働者の健康・福祉確保措置
- ・対象労働者の苦情処理措置 等
▶︎引用:厚生労働省|専門業務型裁量労働制
一方で、企画業務型裁量労働制の手続きは、「労使委員会において、以下の事項を決議(4/5以上の多数決)し、労基署へ届出」と定められています。
- ・その事業場で対象とする業務
- ・対象労働者の範囲
- ・みなし労働時間
- ・対象労働者の健康・福祉確保措置(6か月に1回労基署に定期報告)
- ・対象労働者の苦情処理措置
- ・本人同意を得ること及び不同意の労働者に対する不利益取扱いの禁止 等
▶︎引用:厚生労働省|企画業務型裁量労働制
裁量労働制のメリット
では、裁量労働制にはどのようなメリットがあるのでしょうか。 労働者側のメリットとしては、自分の好きな時間に働きやすいということが挙げられます。朝が苦手な人は夜に長く働くことができるほか、夜が苦手な人は早めに始業し、早めに業務を終了することもできるでしょう。 また、裁量労働制が適用される業務内容は、必ずしも長い時間を掛けたからと言って、良い成果が現れるとは限らない業務が多くなっています。労働者自身が効率的な時間配分を行うことで、良いアイディアが生まれたり、良い分析結果が出たりするなど、プラスとなる効果を期待できるでしょう。このことが結果的に雇用者にとってもメリットとなるでしょう。
裁量労働制のデメリット
裁量労働制を適用するにあたり、もっとも苦労する可能性があるのは人事担当者だと言えます。問題が無いということをかなり詳細に労使協定で取り決める必要があります。取り決めた内容に大きな問題が無い場合でも、労使委員会を設置して、決定する事項について委員の5分の4以上の賛成を得なければ決議されません。さらに、業務内容によっては裁量労働を行う労働者本人が長時間労働を行ってしまい、疲弊してしまう可能性があります。時間の裁量は労働者に委ねられることになるため、長時間労働を防ぐための監視が行き届きにくいという点もデメリットです。
裁量労働制を適用するにあたり、もっとも苦労する可能性があるのは人事担当者だと言えます。問題が無いということをかなり詳細に労使協定で取り決める必要があります。取り決めた内容に大きな問題が無い場合でも、労使委員会を設置して、決定する事項について委員の5分の4以上の賛成を得なければ決議されません。 さらに、業務内容によっては裁量労働を行う労働者本人が長時間労働を行ってしまい、疲弊してしまう可能性があります。時間の裁量は労働者に委ねられることになるため、長時間労働を防ぐための監視が行き届きにくいという点もデメリットです。
04裁量を持つために必要なこと
裁量を求めて転職する人も多い中で、具体的に裁量を持つためにはどのようなことが必要かを紹介します。
能力を高める
裁量を持つには、適切な判断をして意思決定をする能力が必要です。そのためにも、まずは目の前の業務を期待以上に遂行できる能力を高める必要があります。能力がないのに裁量を与えるような危ない橋を渡る企業は、外資系企業にもベンチャー企業にも無いでしょう。
まずは、自身に与えられた業務を上司の介在なく完璧にこなす事ができるようになり、その業務の裁量を掴み取るところから始めると良いです。
実績をつくる
結果を出せない人には、大きな裁量は与えられません。より大きな裁量をもらい、会社にとっても自身にとっても影響力の強い意思決定をするのであれば、まずは結果を出すことが重要です。
安定して結果を出せていたり、期待以上の結果を出せていたりすると、自然と裁量は与えられてきます。
主体的に提案をする
能力が高く、実績があっても受動的であれば裁量は渡しにくいでしょう。特に誰も挑戦したことのないようなものにチャレンジする場合は、主体的に業務に取り組んで、困難が起きても乗り越えてくれる人材でなければ裁量は渡せません。
そのため、裁量を手に入れるためには常に主体的に提案をし、自らが会社の成長を牽引するという姿勢を見せる必要があります。
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・自己啓発への活用方法 など
05まとめ
社員が大きな裁量をもつメリットは、社員個人だけでなく、組織にとっても非常に重要ものです。すぐに大きな裁量を扱える社員を増やすことはできなくとも、裁量権を上手く与えることができれば、社員の成長や組織活性化につながります。 社員個人に与える適切な裁量権の大きさを見極めながら運用し、社員のモチベーションやエンゲージメントを高めていくのが良いでしょう。