カーブアウトとは?実施するうえでの留意点や成功事例を紹介
カーブアウトとは、企業が事業の一部分を切り出して、その事業を社外事業のひとつとして独立させる経営手法のことを指します。本記事ではカーブアウトのメリット・デメリット、また具体的な実施方法について紹介します。これからカーブアウトを実施したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
- 01.カーブアウトとは?
- 02.カーブアウトの2つのスキーム
- 03.カーブアウトのメリット
- 04.カーブアウトのデメリット
- 05.カーブアウトを実施するうえでの留意点
- 06.カーブアウトの成功事例
- 07.まとめ
01カーブアウトとは?
「カーブアウト」とは、社内の事業価値がマーケットから低く評価されているときに、当該事業を会社から切り出し、社外の別組織として独立させることをいいます。 切り出された事業は、分離元の親会社との資本関係が継続されるため、技術者をはじめとする人材や技術、資金などの外部資本の受け入れを行いながら事業価値を向上や会社の上場を目指します。 組織のフラット化が強く見直されている昨今、カーブアウトは事業ポートフォリオの再編や成長産業・新規事業への「選択と集中」が実施できる、優れた経営戦略として認識されているのです。
スピンアウトとの違い
カーブアウトと似た言葉で、「スピンアウト」があります。 このスピンアウトも独立する新会社に事業の主体をもたせる経営手法のことを指しますが、こちらは資本関係を継続させず、完全な独立企業とする点がカーブアウトと異なります。 技術やビジネスアイディアを持った社員が、事業としての発展を目指して退職し、それを基に起業する場合や、不採算事業が独立という形をとって売却される例がスピンアウトにあたります。
スピンオフとの違い
「スピンオフ」もカーブアウトと混同されやすいビジネス用語のひとつです。 スピンオフとは、親会社が事業を別会社として切り出す際に、親会社から出資を受けて独立化し、資本関係を継続させる経営手法のことを意味します。そのため、スピンオフにより分社化した企業は、親会社の現物出資による運営が実施され、外部からの融資を受けることができません。 独立後も子会社としてグループ関係に入ることになり、カンパニー制や社内ベンチャー制度など、親会社の中で活動させる例がスピンオフにあたります。
02カーブアウトの2つのスキーム
ここからは、カーブアウトの2つのスキームについて紹介します。 カーブアウトの実施には、対象事業の会計情報を点検・調整し、事業部から新企業に継続させるメリットとデメリットの両方を精査することが重要です。企業や事業の規模にあわせて、どちらの方式を取るか選択してください。
会社分割
1つ目の方法は、新たに会社を作って元会社が出資する会社分割の方法です。会社分割の場合、独立前の契約関係は包括承認となるため権利関係、契約関係、許認可関係などの取り扱いが簡便です。 個別に事業を承継することが手間になる一定規模の事業所であれば、こちらの方法が適しているといえるでしょう。
事業譲渡
2つ目の方法は、設立した新会社に事業譲渡する方法です。関連する契約関係は個別承認となるため、法律上は販売先や取引先に個別同意を得る必要があります。 事業規模がまだ小さく、組織化されていない中小企業のカーブアウトでは、この事業譲渡が多く採用されています。
03カーブアウトのメリット
ここまでカーブアウトの概要や、具体的な実施方法について見てきました。ハードルが高いように感じられるカーブアウトですが、実行するメリットはもちろんあります。ここからは、カーブアウト実施のメリットについて見ていきましょう。
事業促進を見込める
カーブアウトを実施することで、切り出された子会社は親会社の経営資源を活用しつつ、事業推進が図れます。また親会社にとっても、不採算事業を切り離して自社の重要な事業にを注力することができるため、結果的に効率的な経営が可能となり、大幅な事業促進を見込めます。
融資や技術供与を得られる
カーブアウトされた新会社は、親会社だけでなく、外部の企業などから融資を受けられるようになります。 それによって、資金調達だけでなく、協業などで技術や人材獲得を行うことも可能になります。さらに、元会社が出資して新会社を立ち上げ、必要な研究開発に注力させるなどして思惑が果たされれば、元会社自身の企業価値も大きく向上します。
04カーブアウトのデメリット
優れた経営戦略といわれるカーブアウトですが、実施にはいくつかのデメリットもあります。ここでは、カーブアウトのデメリットを「実務での懸念」「経営的視点での懸念」「従業員との雇用関係における懸念」の3つに分けて解説します。
実体的な分離が困難である
まず挙げられるのが、会計上は分離可能でも、実体的な分離が困難である点です。 例えば、部品製造が必要な事業において、独立した新企業が独自に製造工場を持っていない場合、会計上の分離が行えても、実際の業務まで則すことはできません。 そのため、カーブアウトを検討する際には、経営資源の整理や、物流の把握など、会計から離れて事業の実体を調査する必要があります。
意思決定が煩雑になる
次に、カーブアウトを行うことで、意思決定が煩雑になる点が挙げられます。 カーブアウト実施後の元会社と新会社は、完全に別の法人組織となるため、それぞれで事業計画や意思決定が必要です。新会社が第三者から株式などによる出資を受ければ、新たな出資者からの要望も受け入れねばなりません。 組織が分散される分、意思決定のスピードは遅くなるため、元会社の思惑通りの結果を手に入れられない可能性も否めません。
従業員の離職増加
新会社を設立することで、そちらに人材を割かなければならず元会社が人材不足に陥る可能性もあります。 同時に、新会社への転籍にともなって業務のモチベーションが下がったり、描いていたキャリアプランとのズレから離職を希望する社員も出てきます。 カーブアウト実施によって一時的に離職率が高まる可能性があるため、リスク軽減のためにも社員のモチベーションを向上させる施策も併せて実施することが大切です。
05カーブアウトを実施するうえでの留意点
カーブアウト実施時には下記で紹介するいくつかの留意点に注意しなければなりません。きちんと整備がなされていない状態で実施してしまうと法的問題に発展するおそれもあるため、ここで、カーブアウトを実施するうえでの留意点について理解を深めておきましょう。
株主総会で決議を得る必要がある
カーブアウトでは、通常株主総会の実施が必要です。スケジュール通りにカーブアウトを進めるためには、適切なタイミングで株主総会を開催して決議を得ておく必要があります。 出資の割合によっては株主総会が不要な場合もあるため、自社の運営状況によって株主総会の実施を検討してください。
事業許認可及び契約の承継について
カーブアウトを行う際は、特定事業における許認可を行政機関から受けなければなりません。これは包括承継となる会社分割方式でカーブアウトを行う場合でも、許認可の取得が必要な場合があります。 またこの際、重要な契約が自動的に承継されるかどうかも併せて確認しておきましょう。 事業譲渡の場合には必ず契約の巻き直しが必要となります。会社分割で自動的に契約者が代わる場合であっても、契約において「契約当事者の無断変更を許さない」とされているケースは少なくありません。事前に契約内容を確認し、重要な契約を残せるように個別に相手と協議しておきましょう。
従業員との雇用契約を検討する必要がある
会社分割方式では、労働継承法によって現状の雇用契約の継続が規定されています。 しかし、事業譲渡方式の場合は、雇用契約を継続できない可能性もあるため、従業員の雇用形態を見直さなければなりません。人事担当者を含め、社内で従業員との雇用契約を検討してください。
知的財産の取り扱いについて
元会社と新会社が特許などの知的財産を共有したい場合、会社分割で特許を共有する方法と、事業譲渡を行って元会社に権利を残したまま新会社にライセンスのみ与える2つの方法があります。どちらが自社の運営に適しているのか、ケースごとに検討するようにしましょう。
06カーブアウトの成功事例
ここからは、カーブアウト実施企業の成功事例について紹介します。近年、M&AやAWSを上手く利用して、事業を進める企業が増えています。ぜひ自社でカーブアウトを実施する際の参考にしてみてはいかがでしょうか。
株式会社NTTドコモ
大手携帯電話事業の株式会社NTTドコモは、日本電信電話株式会社が設置した移動体通信事業本部が、カーブアウトによる事業分離を導入して設立した承継会社です。 分離後は順調に事業を拡大し、1998年に東証一部に上場。その後、携帯電話IP接続サービスやFOMAなどの新たなサービスやシステムを順調に展開しています。
株式会社セブンイレブン・ジャパン
コンビニエンスストア最大手の株式会社セブンイレブン・ジャパンは、株式会社イトーヨーカ堂からカーブアウトした企業のひとつです。 小規模小売店の生産性向上のために設立したセブンイレブンは現在全国の店舗数が21,000軒を突破し、コンビニ業界をけん引する存在として、国内最多の店舗数を誇っています。
和光純薬工業
試験研究用試薬・抗体の製造販売および各種受託サービスの展開を行っている和光純薬工業株式会社は、武田薬品工業株式会社がカーブアウトで設立した子会社です。 カーブアウト当時は和光純薬の事業発展ではなく、武田薬品の採算が取れない事業の整理のひとつであると、指摘する声もありました。しかし、現在では富士フイルム和光純薬株式会社と社名を変更し、AWSなどのグローバルネットワークを活用した事業を目指しています。
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07まとめ
カーブアウトは実施することによって、事業の成長を促進させるとともに、企業価値を高めることができます。そのため、これから集中的に注力したい事業がある場合や、採算が取れずに主力事業に影響を及ぼしている場合は特に最適な経営手法だといえるでしょう。 ぜひ、本記事を参考にカーブアウトの実施を検討してみてください。