パーパスとは|ビジネスにおける意味や経営事例について紹介

近年、企業の経営において「パーパス」が注目される機会が増えています。なぜ注目されているのでしょうか。また、似た概念であるビジョンやミッションとは、どのように異なっているのでしょうか。当記事で解説していきます。
- 01.パーパスとは
- 02.パーパスとMVV・企業理念・クレドの違い
- 03.パーパスが注目されている背景
- 04.パーパス策定のメリット
- 05.パーパス策定の方法
- 06.パーパス経営を実践する企業事例
- 07.まとめ
01パーパスとは
ビジネスの文脈において、パーパスとは「企業としての存在意義」を意味します。英単語のPurposeは「目的」・「目標」・「意図」などを意味しますが、ビジネスにおいては企業が目指す先を意味することが多いです。
ただし、パーパスに明確な定義は存在しません。グラハム・ケニーは、「会社が会社自体をどう展望すべきか、どのように行動すべきかを強調する」ものとパーパスを定義しています。また、ボストン・コンサルティング・グループは、企業が社会の需要に対して発揮する独自性のある提供価値を、パーパスと定義しています。
このように、パーパスの定義はそれぞれの企業や論者で異なるという点は留意しておきましょう。
▶︎参考:日本企業のパーパス制定の現状|野林晴彦金沢星稜大学経済学部
▶︎参考:Your Company’s Purpose Is Not Its Vision, Mission, or Values by Graham Kenny
▶︎参考:WINNING THE ’20s|BCG
02パーパスとMVV・企業理念・クレドの違い
この章では、パーパスを「企業としての存在意義」と定義した場合に、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)や企業理念、クレドとは、どのような点で異なるのかを解説します。
MVVとパーパスの違い
パーパスに類似した言葉として、ミッションやビジョンなどがあります。明確な使い分けや定義の違いはありません。企業によってはパーパスを定義しておらず、ビジョンがパーパスの役割を果たしている場合もあります。また、ミッションを存在意義と定義して、ビジョンを目指す姿とする企業もあれば、ビジョンを目指す姿とする企業もあります。
企業理念とパーパスの違い
企業理念もパーパスと同様に明確な定義はされていません。そのため、パーパスと経営理念を同義として扱っている企業もあれば、それぞれ定義している企業もあります。
このような前提の上で、あえてパーパスと経営理念の違いを考えてみます。パーパスは、社会にとっての企業の存在意義を意味しており、その企業が何を目指すのかという北極星を述べることが多いです。一方で、経営理念はパーパスやビジョンといった方向性にも言及をすることがありますが、行動指針まで含めたものを定義する傾向にあります。
クレドとパーパスの違い
クレドとは、ラテン語で「志」や「信条」を意味する言葉です。企業がクレドを設置する場合、ビジョンやミッションを実現するための従業員の行動指針として定義することが大半です。つまり、クレドはバリューと同義として問題ありません。したがって、社会に対しての存在意義を意味するうパーパスと、社員の行動指針を意味するクレドはそもそも混同されるものではないのです。
03パーパスが注目されている背景
なぜ今、企業のパーパスが注目されているのでしょうか。 それにはいくつかの理由が存在していますが、簡単にまとめると時代の要請による部分が大きく関係しています。この項では、パーパスが注目されている3つの理由について確認していきましょう。
消費者が企業に社会的意義を求めるようになった
社員に違法な労働を強いる「ブラック企業」や、法令違反を犯すことを意味する「コンプライアンス違反」といった考え方はすでに一般社会に広く浸透しています。 価値観の変化に伴って、これまでの日本社会と比較しても、企業の環境問題や労働環境などに対する姿勢がより厳しく見られる時代になってきています。 その流れで、「悪いものを是正または排除する」だけでなく、「より健全な企業を推していこう」という人が増えているのです。 社会の中でどのような存在意義をもつのかを調べ、その内容を元にして、どの企業を支援するか、どの商品を購買するかを消費者が選べるようになっています。 彼らの検討のテーブルに挙げてもらうためには、まずはしっかりとパーパスを設定し、掲げておく必要があるのです。
VUCAの時代を乗り越える礎にするため
VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉です。 さまざまな状況が刻一刻と変化し、複雑化し、想定外の事態が発生するため未来予測が難しい、現代の状況のことを表しています。
パーパスは、VUCA時代の企業の指針になりえるものだと期待されています。 パーパスは、企業のビジョンよりもさらに上位の概念であり、度々変更するようなものではありません。何が起こるか分からないVUCA時代では、少しの変化に動転して理念や目的を見失ってしまいがちですが、パーパスを決めておけば企業の「礎」や「軸足」にできるのです。 テクノロジーの進化や社会の変化に伴い事業戦略や計画は変わっていきますが、「会社が何のために存在するのか」という根本が定まっていると本質がブレない経営ができます。 また、こういったパーパスにしっかりと軸を置いた経営を行うことは、後述するパーパスドリブンの概念ともつながっています。
企業におけるダイバーシティーの推進が求められるため
パーパスを軸にした企業運営を行うことは、ダイバーシティの推進にも寄与することが期待できます。 現代社会では、企業は人々の多様性(ダイバーシティ)を認め、平等に雇用することが求められています。ダイバーシティは、パーパス同様に社会からの要請でもあるのです。 パーパスを設定すると、企業活動の根幹となる考えが社員間で共有されることに繋がります。また、パーパスは社の方向性を導くガイドラインであり、事業の戦略や戦術はその方針に沿った内容になります。そのためパーパスには、異なる環境や価値観の社員同士を結びつけ一体感を醸成するための機能を果たすことも期待できるのです。
04パーパス策定のメリット
パーパスを策定することは大きなメリットがあります。ここでは、代表的な3つのメリットについて確認していきましょう。
- ・1.パーパスブランディングができる
- ・2.パーパスドリブンにできる
- ・3.従業員のロイヤルティ向上につながる
1.パーパスブランディングができる
前述したとおり、消費者が企業に向ける目は厳しいものになってきており、従来の品質や値段だけでなく、「企業哲学」のようなものにも注意を払うようになってきています。 まずは自社でパーパスを決め、そしてそれを広く社会に認知してもらうことで、自社のブランディングにつながっていきます。 自社のパーパスが好みでなかったユーザーは離れていくのでは、と感じるでしょう。 その点はその通りです。そして、それは問題ないことです。 なぜなら、離れていくユーザーをつなぎ止めることよりも、パーパスに共感し、支持してくれるユーザーやファンになってくれるユーザーのほうが重要だからです。 こういったパーパスブランディングは、今後より必要になってくるでしょう。
2.パーパスドリブンにできる
パーパスドリブンとは、自社内におけるさまざまな判断が、パーパスを起点として語られ、パーパスを軸にして決定される状態のことです。 パーパスが、さまざまな事業や活動を動かしていく、という状況です。 状況に応じて対応や言動がブレてしまったり、同じ管理職でも聞く人によって下される判断が変わってしまったりすると、一貫性がなく、消費者や従業員の不満を招くでしょう。 統一的なブランディングもできませんし、経営者が考えるビジョンを実現するのも難しくなるのではないでしょうか。 そういった状況を、パーパスドリブンにすることで防ぐことができます。利益に直結するものの、企業理念に反するような行動が選択肢として示されたとしても、はっきりとNOと言うことができるようになります。 その代わりに、少しリスクがあるが経営理念に即している行動を、明確な意図をもって選び取ることもできるようになるのです。
3.従業員のロイヤルティ向上につながる
パーパスは、企業が目指すべきビジョンや行うべきミッションの上位に位置する概念だとお伝えしました。 パーパスを全社に浸透させることは、その先にあるビジョンやミッションの浸透にもつながります。パーパスを軸にしてさまざまなブランディングを行うことで、従業員の士気も上がっていくでしょう。 加えて、明確にパーパスを示しておけば、それに合致した人が入社を志望する割合が多くなり、反対に社内にいる合わない人は去っていくだめ、結果としてロイヤルティが高い組織になっていきます。 そのためには、例えば従業員の評価もパーパスドリブンで決める、といった手法が効果的です。 パーパスと合わない人が会社に残り続けるメリットを薄くし、合う社員がどんどん評価されて活躍していくような評価制度にすれば、従業員ロイヤルティの向上もさらに進んでいくでしょう。
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05パーパス策定の方法
パーパスを策定する場合は、以下のフローで実施します。
- ・1.経営陣と事務局で前提条件を明確にする
- ・2.推進チームを選抜する
- ・3.パーパスを言語化する
企業が目指す北極星とも言えるパーパスは、経営陣だけで決めるべきものではありません。絵に描いた餅にならないように、社内への浸透も含めて推進チームを組成する必要があります。
1.経営陣と事務局で前提条件を明確にする
まず、パーパスを策定する準備として前提条件の認識を揃えておきましょう。パーパスを策定する目的や、どのような経営課題を解決したいのか、どのような効果を期待するのかなどを、経営陣と事務局で擦り合わせます。このプロセスを無視して、いきなり言語化から始めてしまうと、議論が発散して、キャッチーなコピーライティング合戦になってしまう可能性が高いです。
2.推進チームを選抜する
パーパスは策定して終わりではありません。社内に浸透させて、全員が同じ方向性を向くようにする必要があります。そのため、浸透活動の中心を担う責任者クラスの人材を推進チームにすると良いでしょう。時には次世代リーダー候補となりうる課長クラスも含めても良いかもしれません。選別の基準は、社内への浸透を促進する旗印になれるかどうかで決めると良いでしょう。あの人が推進しているのだから一緒に神輿を担ぎたいと周りから思ってもらえる人材を選ぶと効果的です。
3.パーパスを言語化する
パーパスを言語化する際は、常に目的に立ち返りましょう。策定されたパーパスを掲げて、新卒や中途の採用活動も行われます。つまり、このパーパスに共感してくれる人が今後の同僚となるのです。そのため、目的に沿っていることはもちろんのこと、自分自身がそのパーパスに腹落ちしているかどうかも非常に重要です。
06パーパス経営を実践する企業事例
パーパス経営を実践している企業の事例を紹介します。
SOMPOホールディングス
SOMPOホールディングスのパーパスは、「“安心・安全・健康のテーマパーク”により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」と定義されています。具体的には、「社会が直面する未来のリスクから人々を守る」・「健康で笑顔あふれる未来社会を創る」・「多様性ある人材やつながりにより、未来社会を変える力を育む」といった価値を社会に提供するとしています。
▶︎参考:SOMPOのパーパス
花王株式会社
花王は「豊かな共生世界の実現」というパーパスを掲げています。Vision(ありたい姿)は「未来のいのちを守る」と定義しており、パンデミックや高齢化、自然災害、深刻さを増す環境問題などの社会課題に対して、地球環境や人の生命にも目を向け、生きとし生けるすべての「未来のいのちを守る」企業として、社会に欠かすことのできない存在を目指しています。
▶︎参考:花王のパーパスと価値創造
SONY
SONYグループは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを掲げています。SONYの特筆すべき点は、パーパス策定にあたって全世界の社員に呼びかけた点にあります。CEO自らが「ソニーグループらしさとはなんだろう」と意見を求めたり、社員と対話を重ねたりしながら策定したパーパスだからこそ、社員の多くが北極星として目指すものとなっているのです。
07まとめ
パーパスとは、変化の激しい現代社会を企業が乗り切るために必要となるものです。 その出発点は社会的な要求から策定を求められたものかもしれませんが、決して面倒なものではなく、むしろ設定することには多くのメリットが存在しています。 ぜひこれを機に、自社のパーパスを確認してみてください。
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従業員エンゲージメントを高める組織作りついてのウェビナーアーカイブです。なぜ、自律的な組織を作る上で働きがいのある環境が必要なのか。どういうプロセスを経れば働きがいのある会社を作れるのか。人的資本時代のスタンダードとなり得る働きがいのある会社と組織づくりの方法を深掘りします。
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登壇者:荒川 陽子 様Great Place to Work® Institute Japan 代表
2003年HRR株式会社(現 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業職として中小~大手企業までを幅広く担当。顧客企業が抱える人・組織課題に対するソリューション提案を担う。2012年から管理職として営業組織をマネジメントしつつ、2015年には同社の組織行動研究所を兼務し、女性活躍推進テーマの研究を行う。2020年より現職。