ダイナミックケイパビリティとは?激しく変化する世界で求められる経営理論を解説
変化が激しい現代、どうすれば企業は生き残っていけるのでしょうか。そのためには、政府も注目するダイナミックケイパビリティという考え方が役立ちそうです。当記事ではダイナミックケイパビリティについて、その内容を成り立ちも含めて解説していきます。
01ダイナミックケイパビリティとは
ダイナミックケイパビリティとは、あまり聞きなれない言葉かもしれません。 これが日本で比較的知られるようになったのは、経済産業省、文部科学省、厚生労働省が共同で発表した製造基盤白書(通称、ものづくり白書)の2020年版で言及されてからではないでしょうか。
不確実性が著しく高まっている世界で、日本の製造業はどう進むべきか。非常に難しい課題ではあるが、この課題を考えるに当たって注目すべき戦略経営論がある。 それは、ダイナミック・ケイパビリティ論である。
引用元:製造基盤白書(ものづくり白書)2020年版:第1部第1章第2節 不確実性の高まる世界の現状と競争力強化 企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)の強化より
ダイナミックケイパビリティとは、戦略経営論の一つです。ものづくり白書のなかでは、「ダイナミックケイパビリティとは企業変革力である」と定義されています。 すなわちダイナミックケイパビリティとは、変化が激しい現代において、いかに自分たちも変化して対応していくか、という企業の対応力や変革力のことを示しています。 この記事では、そんなダイナミックケイパビリティが意味するところを解説していきます。
02ダイナミックケイパビリティを取り巻く2つの理論
ダイナミックケイパビリティを理解するためには、その提唱経緯に関係している2つの理論について知ることが不可欠です。 この項では、それぞれの理論について解説していきます。
競争戦略論
1980年代、ハーバード大学のマイケル・ポーター氏が展開したのが「競争戦略論」で、これが戦略経営論の出発点とも言われています。 「新規参入があるか、代替品はあるか、企業同士の競争はどうか、などの業界の状況や産業構造によって企業の戦略が決まる」とされた理論で、業界内のポジショニングを重視することから「ポジショニング派」と呼ばれています。 しかし、同じ業界の似た外部環境下にありながら企業ごとに異なる戦略を採用して成功しているケースは多くあります。また、逆に同じポジショニングで競争を行った結果、成功する企業と撤退する企業に分かれることもよくあります。 考え方として取り入れられるものが多い理論ではありますが、「外部要因」に大きく注目した競争戦略論には、ある程度の限界が指摘されています。
資源ベース論
同じく1980年代、マサチューセッツ工科大学のワーナーフェルト氏が展開したのが「資源ベース理論」です。 こちらの理論では、企業の業績を決定しているのは、前述の競争戦略論にあったような業界の状況や産業構造ではなく、企業が保有している資源である、という見方をしています。 企業の内部的な資源をベースに企業の業績が決定されるため、「資源ベース論」と呼ばれるのです。 さらに資源ベース論では、企業がもつ「自社の強みとなる固有資源を利用する能力(=ケイパビリティ)」こそが、企業の競争力であるという考えをもっていました。 しかし当然ながら、いくら企業内部に固有の資源があったとしても、それがどのように活用できるかは周囲の環境や状況に大きな影響を受けてしまいます。 また、既存の資源に固執するあまり、企業の変化する力を削いでしまうのでは、という批判もありました。 「内部要因」に大きく目を向けた資源ベース論も、有用な知見ではありましたが、一定の限界が指摘されたのです。
03ダイナミックケイパビリティを構成する3要素
ダイナミックケイパビリティは、前述の、外部要因に大きく注目した競争戦略論と、内部要因に大きく注目した資源ベース論のお互いの弱みを補うような形になっています。 すなわち、外的要因を加味しつつ、それにあわせて企業内部の資源を活用する、という考え方です。 ダイナミックケイパビリティ論は、カリフォルニア大学のデイヴィッド・J・ティース氏が提唱しました。
- 1.感知(Sensing)
- 2.捕捉(Seizing)
- 3.変革(Transforming)
ここでは、ティース氏が提唱した、ダイナミックケイパビリティを構成する3つの要素について確認していきましょう。
1.感知(Sensing)
感知は、「脅威や危機を感知する能力」とされています。 自社が変革していくためには、環境や状況の変化、あるいは産業構造の変化など、企業活動において危機になりそうな変化を敏感に感知できるという前提があります。 自社が現在置かれている状況が、変革を求められるような危機的状況なのだと正しく感知できなければならないのです。
2.捕捉(Seizing)
捕捉は、「機会を捉え、既存の資産・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力」とされています。 変革すべき機会を感知できたら、次はどのように変革するかを決めます。 状況に合った変革の仕方を見極め、自社が保有する物的・技術的なさまざまな資源を再構成する必要があります。
3.変革(Transforming)
変革は、「競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し、変容する能力」とされています。 感知で変革機会を察知し、捕捉で自社の変革方針を決めたら、次はそれを組織全体に浸透させ、実際に組織変革を行う必要があります。 これは、一度の変革だけで終わるものではありません。別の危機を感知したら別の変革が必要となるように、継続的に続けていく必要があるものです。
04ダイナミックケイパビリティが注目されている背景
なぜ今、ダイナミックケイパビリティが注目されているのでしょうか。2020年に政府のものづくり白書で提案されたから、というのは、きっかけに過ぎません。 その背景の多くは、企業各社の「変革を必要とする実感」にあるのではないでしょうか。 この項では、ダイナミックケイパビリティが注目されている背景について解説していきます。
- ・1.DXをはじめとしたデジタル技術の革新
- ・2.新型コロナウイルスの流行で急激な変化が現実に
- ・3.働き方改革への対応
- ・4.グローバル化の促進
- ・5.ダイナミックケイパビリティは発展中の理論
1.DXをはじめとしたデジタル技術の革新
特に変化が早く、次々と新しい技術が生まれているのがデジタルの領域です。 既に、世界の企業時価総額ランキングではIT企業がトップ常連となりました。 日本政府もDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しており、IT関連の技術革新に追従することは必要不可欠となっています。 今までの社会変化に耐えてきた伝統的な企業が、今後も生き残るとは限らなくなっています。アナログでやってこれたから、これからもITは不要である、とは言えないのです。 そして、既にIT技術を経営や事業に取り入れている企業も、昨今の急激な進歩の速さには危機感を覚えています。 そういった技術的な変化に、いかに対応していくかが問われているのです。
2.新型コロナウイルスの流行で急激な変化が現実に
前述したデジタル領域の変化は、対応しないと遅れていきいずれ企業は消えていくが、今すぐに効果が見られるものではない、というタイプの変化でした。 しかし、それよりも大きく急激で、かつ、対応しなければすぐにでも企業活動が立ち行かなくなる変化を我々は経験しました。 それが、新型コロナウイルス感染症の大流行です。社会の形態が大きく変化し、「急激に、大きく、一気に変化しなければならない」という状況が現実のものになりました。 これは、デジタル領域の変化よりも、さらに急激でダイナミックな変化です。 このような、対処しなければ企業にとって致命傷になりえる大きな変化が起こりえるのだ、と示されてしまったのです。
3.働き方改革への対応
政府も推し進めた働き方改革でしたが、感染症流行による在宅勤務推進などによって一気に加速しました。 感染症流行が収まっても、この働き方改革の流れは止まらず、ある程度の影響は残ると考えられています。 特に、エンジニアやデザイナーなどの在宅でも作業環境があれば業務ができる人々のうち、優秀な一定層が郊外や地方に移住したという点は注目すべきポイントです。 彼らは在宅でも勤務できることを知り、なおかつスキル的にも優秀であるため、転職も容易なのです。 もちろん、全員が働き方の多様性に魅力を感じて会社を選ぶわけではありません。しかし、一定の人々は確実に考え方が変わったのだ、ということを知っておく必要はあります。 優秀な人材確保のためには、これまでとは異なる考え方をしなければならなくなっているのです。
4.グローバル化の促進
一度は感染症の流行によって、物理的なグローバル化は停滞しました。 しかし、いまだに企業のグローバル化と日本への参入は続いています。 もちろん、感染症の流行が収まり日本と海外の渡航が通常に戻れば、ユーザーになりうる観光客や、従業員になりうる外国人労働者が大勢日本に流入してくるでしょう。 そしてその間も、際限なく海外企業は日本に進出してきますし、国境の垣根が低いインターネット上では、その動きはさらに顕著になります。 グローバル化の促進も相変わらず、産業構造や市場に大きな影響を与え続けているのです。
5.ダイナミックケイパビリティは発展中の理論
実は、ダイナミックケイパビリティはまだまだ発展中の理論なのです。 例えば、変革のために自社内で使える資源に目を向けていますが、自社が保有する資源は基本的に有限です。一方で、環境や状況の変化などの対応すべき周囲の変化は、いつでも、何度でも、予告なく起こります。 その都度、感知して対応しつづけることは事実上不可能でしょう。 また、そもそも「変化に対応して自社内を変える」というのは、当然といえば当然です。それをいかに論理的かつ、間違いのない理論として構築するかが求められていますが、ダイナミックケイパビリティは道半ばなのです。 まだ発展中だからこそ、逆にどう発展していくのかにも注目されているのだ、と理解しておいて良いでしょう。
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05まとめ
今までもダイナミックケイパビリティに相当する概念があったとは思いますが、はっきりと言語化されたことで、今まで以上に企業内で共通認識をもちやすくなったのではないでしょうか。 これからの社会を生き抜き、さらに発展していくためには、ダイナミックケイパビリティに照らした変化と変化に向けた努力は必要不可欠です。 ぜひこの機会に、自社内の変革力について考えてみてください。