CSR調達を徹底解説!実現の手順を詳しく紹介
CSR調達は、自社だけでなくサプライチェーン全体で社会的責任(CSR)を果たそうとする活動のことです。今回は、CSR調達の重要性や実際に実現させるために必要な手順を詳しく解説します。CSR調達でお悩みの人事担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
- 01.CSR調達とは?
- 02.CSR調達のメリット2つ
- 03.CSR調達の実現に向けた5つのステップ
- 04.CSR調達3つの事例集
- 05.まとめ
01CSR調達とは?
「CSR」は、「Corporate Social Responsibility」の略語で「企業の社会的責任」と訳されます。企業はあらゆる利害関係者(消費者、取引先、投資家など)からの要求に対して適切な対応を取る義務があり、雇用条件や消費者、取引先への配慮、環境への配慮など、企業が果たすべき責任のことです。
そして、CSR調達は、CSRの考え方を「調達」に適用させたもので、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンでは、以下のように定められています。
「バイヤー(企業)が製品、資材および原料などを調達するにあたり、品質、性能、価格および納期といった従来からの項目に、環境、労働環境、人権などへの対応状況の観点から要求項目を追加することで、サプライチェーン全体で社会的責任を果たそうとする活動のこと
▶︎参照元:一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン サプライチェーン分科会「CSR調達入門書」
CSR調達が必要な理由
サプライチェーン(商品や製品が消費者の手元に届くまでの一連の流れ)のグローバル化とともに、調達における不法な森林伐採や環境問題などがピックアップされることが増えてきました。こうした問題に対して、企業が単体でCSR活動に取り組んだとしても、対応できる範囲は限られています。そのため、CSRの取り組みをサプライチェーン全体に広げ、一丸となってCSR(社会的責任)を果たす必要が出てきたのです。
CSRとSDGsの違い
CSRとSDGsは異なります。CSRは、企業が自社の活動を通して利益を上げるものではないため、慈善活動として捉えられることも多く、「社会をよくするためのボランティア」のような位置づけです。一方でSDGsは、持続可能な世界を実現するため、2030年までに達成する国際的な開発目標で、17の目標をかかげ、「ビジネスを用いて社会を良くしていこう」という考え方に基づいています。経済に関する目標の有無が大きな違いです。また、CSRは企業からの視点、SDGsは国際社会からの視点と見るとわかりやすいかもしれません。
CSR調達とグリーン調達の違い
CSR調達とグリーン調達も、混同しやすいでしょう。環境省によると、グリーン調達は以下のように定義されています。
納入先企業が、サプライヤーから環境負荷の少ない製品・サービスや環境配慮等に積極的に取り組んでいる企業から優先的に調達するものです。
つまり、自然環境のみに配慮した調達を指します。一方でCSR調達は、自然環境だけでなく、雇用条件などの労働環境、法令順守など様々なことを考慮した調達を指します。つまり、グリーン調達はCSR調達の一部といえます。
02CSR調達のメリット2つ
CSR調達は、企業にとってメリットのある取り組みです。大きく以下2つのメリットがあります。
- ・調達先から生じるリスク回避ができる
- ・ブランディングにつながる
詳しく見ていきましょう。
調達先から生じるリスク回避ができる
ある抗議活動では、企業に対して何十万通もの要請メールを送信するキャンペーンや、販売商品の不買運動など、企業の利益に大きな影響を与えるケースも出ています。また企業活動における社会的責任が問われるのはまれな事例ではなく、どの企業においても注意が必要なことです。実際に良く知られている以下のような大企業も、過去に調達問題が取り上げられ対応を行っています。
- ・人権・労働関連
- ディズニー、ウォールマート、ナイキ、イケア、Appleなど
- ・環境関連
- アディダス、ナイキ、H&M、ファーストリテイリングなど
- ・腐敗防止関連
- グラクソ・スミス・クライン、FIFAなど
また、2021年3月に、H&Mやナイキが中国・新疆地区の綿花生産でウイグル族が強制労働をさせられていると報じられていることへの懸念を表明したことで、中国国内で不買運動が行われました。このように、現代では情報の拡散が速く、企業に対する視線は非常に厳しいです。
CSR調達に取り組めば、調達の際のリスクを事前に洗い出しコンプライアンス、労働、環境、品質・安全性、事業継続管理、社会貢献などにおいて適切な対応をしていない調達先を事前に除くことができます。リスクヘッジをすることで、糾弾を受ける要素を事前に排除できるでしょう。
ブランディングにつながる
自社のブランド戦略と紐づいたCSR調達を行うことで、確かなブランドイメージを形成することができます。社会貢献を積極的に行っている会社であるとをアピールすることで、ファンの獲得につながる可能性もあるでしょう。 安全性のある取引先としてのアピールにもつながるため、取引相手や消費者からの信頼を得ることにもつながります。
03CSR調達の実現に向けた5つのステップ
ここからは、実際にCSR調達を実現するために必要な手順を解説します。以下の5つのステップに沿って行いましょう。CSR調達のガイドラインは、各企業独自で行っているため、明確なルールはありません。一つの例として、参考にしてください。
- 1.CSR調達の目的・目標の決定
- 2.調達業務/調達プロセスの可視化し自社基準を定める
- 3.CSR調達の実施計画を作成する
- 4.CSR調達の実施計画を第三者目線で確認する
- 5.CSR調達の実施と社外への発信
1. CSR調達の目的・目標の決定
最初に、CSR調達の目的と目標を決定しましょう。自社の理念と併せて、CSR調達を行うことで、どのようなことを達成するのか、長期的な目的と、目的を達成するための短・中期的な目標を設定します。以下のようなイメージです。
- ・長期の目的:ステークホルダーを尊重し、健全で持続可能な社会づくりに貢献する
- ・短・中期の目標:取引先企業へCSR調達の状況確認やサポートを実施する
2. 調達業務/調達プロセスの可視化し自社基準を定める
目的、目標を設定したら、調達プロセスの可視化を行います。自社でどのような調達業務・調達プロセスがあるのかを整理しましょう。プロセスを洗い出したら、それぞれのプロセスで、どのような分野の取り組みが行えるかを考えます。以下6つの分野を参考に、どのような取り組みをするか考えてみてください。
- ・コンプライアンス
- ・コーポレートガバナンス
- ・顧客・消費者に関連する取り組み
- ・従業員に関する取り組み
- ・環境保全活動
- ・社会貢献活動
他社のガイドラインが参考になるので、どのような取り組みをしているのかを確認しながら作成するとよいでしょう。
3. CSR調達の実施計画を作成する
ここまでに決定した「CSR調達の目的・目標の設定」と「自社基準」に対して具体的な行動計画を立てていきます。
例えば、環境保全に対して「温室効果ガスの排出削減」を目的とし、「サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を把握する」といった短・中期的な目標を立てたとしましょう。その場合、全体温室効果ガスを計算するために必要な計画を具体的に立てる必要があります。
このように、立てた目標に対して、どう実施していくか、実施期間はどれくらいか、などの具体的なプランを作成します。
4. CSR調達の実施計画を第三者目線で確認する
実施計画を作成したら、第三者の目線で確認を行いましょう。計画が自社の企業理念とかけ離れていないか、事業内容との乖離はないか、本当に実現可能かをチェックします。また、CSRとして設定した考え方が公正であるかも、改めて確認しましょう。自社や取引先の会社だけでなく、社会にとっても適したものであるかといった視点から見極めることが重要です。
5. CSR調達の実施と社外への発信
ここまで、目的・目標、自社基準、見直しを行ってきました。決定した内容を整理・言語化して、ガイドラインを作成しましょう。その後、社内外へと発信し、実施を進めていきます。ただし、一度発信して終わりではありません。発信・実践をして様子を見つつ、定期的に更新してください。実際に運用してみると、社内外から様々な意見が上がってきます。それぞれの意見を取り入れながら、「実際にガイドラインが機能しているか」といった観点から適宜見直しをすることが大切です。
04CSR調達3つの事例集
ここまで、CSR調達の実現方法(ガイドライン作成)の手順を解説しました。実際に作成するとなると、イメージできない所もあるかもしれません。その場合は、他社のガイドラインを参考にしながら作成することをおすすめします。他社が既に展開している、CSR調達のガイドラインを3つご紹介します。
富士電機
大手電気メーカーである、富士電機は、人権・労働や安全衛生から、事業継続計画管理体制の構築、社会貢献の計9項目に対してガイドラインを作成しています。取引先を対象にCSR調達セルフアセスメントを実施することで、取引先との課題を発見しやすい仕組みが作られています。
NTT
NTT は、人権・労働、安全衛生、環境、公正取引・倫理、品質・安全性、情報セキュリティの計6つに対してガイドラインを作成しています。同社は2022年にCSR調達ガイドラインの改定を行いました。環境に応じて柔軟に対応する姿勢は、サステナビリティ推進に積極的であることが伝わります。
▶︎参考:NTT サプライチェーン CSR 推進ガイドライン
大日本印刷
印刷技術と情報技術を強みとした大日本印刷のCSR調達ガイドラインは、計8つの項目に対してガイドラインを設けています。DNPの企業理念は「人と社会をつなぎ、新しい価値を提供する。」です。CSRは、この理念と強い結びつきを持っており、取引先にとっても説得力のあるものとなっています。
▶︎参考:大日本印刷(DNP グループ CSR 調達ガイドライン)
各会社、ガイドラインを設ける項目はほとんど共通です。細かな位置づけや内容は、各会社の特徴に合わせて調整されています。本記事で紹介した手順と、それぞれの会社のガイドラインを参考にCSR調達を実現しましょう。
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・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など
05まとめ
CSR調達は、企業にとって「リスク回避」や「ブランディングにつながる」メリットがあります。サプライチェーン全体でCSR調達を達成することは、マネジメントやガイドライン作成、取引先への説明など、時間が必要かつ難しい側面も多々あります。 会社全体で協力しながら、ガイドラインをアップデートしていき、社内だけでなく、取引先にも積極的に共有することで共に成長を目指しましょう。