これってマタハラ?対象になり得る事例や防止措置の具体的な内容について解説

2017年にマタハラ防止措置が義務付けられるなど、国を挙げて対策が行われていますが、以前として多くの企業が対応に苦労しているのが現状です。この記事ではマタハラの定義、対象になり得る事例や防止措置の具体的な内容について解説します。
01マタハラの定義
マタハラは、「マタニティー・ハラスメント」の略で、妊娠や出産、育児をきっかけに職場で不利益な取り扱いが行われることです。不利益な取り扱いには、解雇、降格、減給をはじめ、雑務ばかりを行なわせて就業環境を害することなども含まれます。 また、上司や同僚から精神的、肉体的に苦痛になる言動を受ける場合も、マタハラに該当します。マタハラの被害者として、妻の妊娠や出産、そして育児にかかわることから、男性労働者も対象になります。
パタハラとの違いについて
マタハラは、妊娠や出産に関連する女性従業員が対象です。妊娠や出産を理由に不当な扱いを受けたり、退職を強要されたりするケースであるのに対し、パタハラは、育児休業や子育てを希望する男性従業員が対象です。育児休業の取得を妨げられたり、取得したことで職場で不利益な扱いを受けたりすることが典型的なケースです。また、男性が家事や育児に関わることを否定的に捉える職場文化もパタハラの一環とされています。どちらも、性別役割分担への固定観念や職場の理解不足が背景にあり、職場環境の改善が重要です。
02マタハラには2つのタイプがある
厚生労働省が平成29年7月に作成したパンフレット「職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策やセクシュアルハラスメント対策は事業主の義務です!!」の7~11ページによると、マタハラは制度等の利用への嫌がらせ型と状態への嫌がらせ型の2つのタイプに分けることができます。それぞれについて詳しく解説します。
制度等の利用への嫌がらせ型
第一に挙げられるものが、出産や育児に関する社内制度の利用を阻害する言動です。制度の例として、産前産後休暇や育児休暇、子供が病気になった時の看護休暇などが挙げられます。育児を理由とする時短勤務、時間外労働の制限なども、労働者の利用できる制度です。 これらの制度は、「男女雇用機会均等法」や「育児・介護休業法」により認められています。「業務が忙しく欠員が出ると困る」など、さまざまな理由があるかもしれませんが、無意識であっても制度等の利用を阻止するような言動は、マタハラになってしまうため注意が必要です。
状態への嫌がらせ型
妊娠や出産に伴い就業状況に変化が生じますが、それに対して嫌がらせをする行為もマタハラになります。例えば妊娠中は、いつ休むかわからないからと仕事を与えないことや、業務上の連絡を与えないこと、今まで参加していた会議から外すことなどが含まれます。 つわりなど体調を心配した言動、配慮はマタハラにはなりません。しかし、労働者が精神的・肉体的に苦痛を感じる言動が、「繰り返し」または「継続的に」行なわれる場合は、意図していなくてもマタハラになってしまうため、注意が必要です。
03マタハラの対象になり得る事例
マタハラが、依然として社会問題になっている理由のひとつは、先述したようなマタハラの定義が職場に浸透しにくいということです。そのため、無意識のうちに、マタハラになる言動をとってしまっているケースが少なくありません。ここでは、マタハラの対象になり得る事例を紹介します。
妊娠の報告に対してネガティブな反応をする
妊娠の報告に対して、「こんな忙しい時期に妊娠するなんて」「休まれると私たちにしわ寄せがくる」など、ネガティブな反応をするのはマタハラに該当します。また、急に仕事を与えなくなったり、配慮をせずに放置したりすることもマタハラのケースとしてよくあります。 妊娠の報告を受けた際は「おめでとう」の一言を忘れないこと、そして今後の状況の変化に備えることが大切です。
出産や育児のための休暇取得を認めない
出産や育児のための休暇申請の際に、「今休まれると困る」「休むなら辞めてもらうしかない」など、休暇取得を困難にする発言もマタハラになります。また、定期的な妊婦健診に対して、「病院は休日に行くものだ」などと言われるケースもあるようです。 出産や育児のための休暇取得は、労働者の権利です。休ませないようにするのではなく、業務体制の見直しや、人員を増やすなど、従業員の休暇取得による欠員に備えるのが適切です。
個人的な価値基準を押し付ける発言
無意識のうちに、個人的な価値基準を押し付ける発言をしてしまうケースも多々あります。例えば、「女性は出産したら専業主婦になるべきだ」などといった、女性は家庭を優先すべきだという価値観を押し付けてはいけません。 また、立会い出産や育児休暇を希望した男性労働者に対して、「男のくせに」などの発言をすることもマタハラにあたります。
良かれと思って仕事内容や就業時間を一方的に変更する
妊娠中の女性労働者に対する配慮は大切ですが、良かれと思って仕事内容や就業時間を一方的に変更することもマタハラになるため注意が必要です。 例えば、妊婦にとってきついだろうと、業務の軽減をしようとする際には、妊娠中の状態に個人差があることを理解し、本人にとって不本意な配置転換を一方的に行うのではなく、相談しながら調整することが大切です。
04マタハラが生じた際の事業主や加害者の責任とは
職場でマタハラが発生した場合、事業主には、違反となる不利益な取り扱いを無効にする責任が生じます。一方的に解雇した場合は、地位確認請求、被害者を退職に追いやった場合は、未払い給与の請求や精神的苦痛などに対する損害賠償請求を受けることになります。 上司や同僚が加害者である場合は、マタハラの対象となる言動に応じた損害賠償の請求が行われます。会社から懲戒処分を受けたり、悪質な場合は刑事責任が生じたりする場合もあります。 このように、マタハラは「知らなかった」で済まされる問題ではありません。裁判になると企業イメージにもかかわるため、事業主は、マタハラ問題に真剣に取り組む必要があります。
05マタハラ訴訟の最新事例を2つ紹介
マタハラ訴訟がニュースとして話題になることも珍しくありません。ここではマタハラ訴訟の最新事例を2つ紹介します。
妊娠のタイミングが悪いと発言した大阪市住吉区の課長
2021年3月30日に、大阪市住吉区の男性課長がマタハラにより停職3カ月の懲戒処分を受けたことが発表されました。報道によると、妊娠を報告した女性職員に対して「タイミングが最悪。職場に迷惑がかかるのが分からないのか」などと発言していたとのことです。 同課長は、住之江区役所に勤務していた2017年から2018年にかけても、女性職員に対して妊娠して欲しい月を命令口調で伝えており、別の職員に対しては、パワハラも行っていたことが明らかになっています。
朝日新聞デジタル 「妊娠のタイミング最悪」マタハラした課長処分 大阪市
出産後の保育士を解雇した社会福祉法人
2021年3月4日に、出産後の保育士を解雇した社会福祉法人は、一審に続き二審でも解雇の無効と、慰謝料30万円の支払いなどを命じられました。 神奈川県の30代女性保育士は、育児休暇をとっていた2018年3月に保育園への復職を拒否され、同年5月に解雇されていました。出産後1年未満の女性労働者の解雇は、男女雇用機会均等法にも違反しているとし、育休明け後の賃金や賞与の支払い義務もあるとされています。
時事ドットコムニュース 二審も出産後の解雇無効 保育士マタハラ訴訟―東京高裁
06マタハラ防止に向けた厚生労働省の指針
2017年の、男女雇用機会均等法および育児介護休業法の改正に伴い、事業主には、マタハラ防止措置が義務付けられました。厚生労働省は、具体的な措置内容を交付しているので、事業主は、それらに基づいた社内体制の見直しを行わなければなりません。 職場でマタハラが行なわれると、会社や役員も損害賠償責任を負うことになります。また企業イメージダウンや、信用を落とすことにもなりかねません。そのため事業主は、マタハラを防止するための事前対策を積極的に行なう必要があります。 厚生労働省の指針を元に、マタハラ防止措置の具体的な内容を大きく5つに分けて見ていきましょう。
事業主の方針を明確化し周知・啓発する
事業主は、マタハラの内容やマタハラが行われた場合の処分などについて、明確な方針を定めなければなりません。特に意図せずに行われるマタハラのケースが多いため、マタハラに該当する行為は何かを、管理者を含む全労働者に周知・啓発する必要があります。 就業規則への明記はもちろん、社内報や会社のホームページを通して、労働者全員が事業主の方針を目にすることが推奨されています。定期的な社内ミーティングやセミナー開催によりマタハラに関する理解を深めることもいいでしょう。
相談や苦情に適切に対応するための体制を整備する
マタハラの相談や苦情に対応するための窓口を設置することも求められています。マタハラの被害者は、どこに相談していいか分からずに、結局泣き寝入りをするというのが今までの実情でした。そこで、相談窓口があることで、妊娠中の女性労働者も安心して働くことができます。 相談窓口の担当者が適切に対応できるように、マニュアルを整備することも大切です。窓口を設定しても、労働者が気軽に足を運べなければ意味がありません。プライバシーに配慮したスペースを作ることや、相談内容が人事評価に影響しないことを就業規則に含めるなどの対策も必要です。
マタハラが生じた場合に迅速かつ適切に対応する
マタハラが生じた場合に、事業主は迅速に事実確認をしなければなりません。そのためには、関係者や目撃者が事実を語れる環境を作る必要もあるでしょう。不当な処分を恐れて、事実が語れないような環境は望ましくありません。 事実確認ができたらすぐに被害者のケアをし、加害者には適切な措置を講じます。社内で問題を扱うのが難しい場合は、第三者機関に委ねることもできるでしょう。相談された内容の事実確認ができなかった場合も含めて、改めて社内報やホームページなどを通して、再発防止措置を取ることも必要です。
マタハラの原因や背景となる要因を解消するための措置を講ずる
マタハラの原因や、背景となる要因を解消する必要もあります。妊娠中の労働者は、つわりなど体調不良のため、通常通りに業務を遂行できない場合があります。周囲の労働者の業務負担が増えることで不満が出ることがないよう、業務分担の見直しが必要です。 妊娠した労働者にも、体調に応じて周囲とコミュニケーションを取りながら業務を行うこと、必要に応じてさまざまな制度が利用できることなどを周知するようにできます。さらに、普段から個々の労働者がさまざまな業務に対応できるようにするなど、欠員をカバーできる体制を作っておくことも効果的です。
その他併せて講ずべき措置
他にも、マタハラ問題の当事者のプライバシー保護のための措置も必要です。相談窓口の担当者には、守秘義務を徹底するための研修を行ない、プライバシーが保護されることを全労働者が理解するように講ずるとよいでしょう。 事実確認に協力することで不利益な取り扱いがされないことを明記し、全従業員に周知することも大切です。
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07マタハラ防止に向けて押さえておくべきポイント
マタハラ防止に向けては、従業員の復帰直後の対応が重要です。マタハラ防止に向けて押さえておくべきポイントとして、次のようなものが挙げられます。
- 1:産休や育休に対して、不利益な取り扱いの禁止
- 2:育休からの復帰は原職もしくは、現職に相当する職務への復帰が原則
- 3:転勤への一定の配慮
ここでは上記の詳細と防止策について、詳しく解説していきます。
産休や育休に対して、不利益な取扱いの禁止
産休や育休を取得した従業員に対し、不利益な取り扱いを行うことは禁止されています。たとえば、産休や育休を理由に降格させたり、給与を減額したり、職場環境を意図的に悪化させることは法的に認められません。また、産休や育休の取得を妨げるような発言や態度もハラスメントに該当する可能性があります。これを防ぐため、企業は就業規則や研修を通じて従業員全体に法律や権利についての周知を徹底する必要があります。さらに、上司や管理職が適切な対応を取れるよう、特別な研修を実施することが推奨されます。この取り組みによって、安心して休業を取得できる職場環境が整備されるといえます。
育休からの復帰は原職もしくは、現職に相当する職務への復帰が原則
育休からの復帰に際し、従業員は原職(元の職務)またはそれに相当する職務に戻ることが原則とされています。これは、育休取得によってキャリアや職務に影響を与えないよう保護するためです。たとえば、復帰後に業務内容が大幅に変更されたり、昇進機会が制限されたりする場合、それが不合理であれば違法となる可能性があります。企業は復帰者との面談を通じて希望や状況を確認し、公平な職務復帰を計画することが重要です。また、復帰後のフォロー体制を整備し、従業員がスムーズに職場に再適応できる環境を提供することも大切といえるでしょう。この取り組みが、従業員の意欲向上と企業への信頼に繋がるのです。
転勤への一定の配慮
妊娠中や育児中の従業員に対しては、転勤について一定の配慮が求められます。これは、妊娠や育児による家庭環境の変化により、従業員が物理的・精神的な負担を抱えやすくなるためです。たとえば、通勤が困難な遠隔地への異動や、育児支援が得られない地域への転勤を命じることは、個別の事情に応じて慎重に判断されるべきです。企業は、従業員の家庭環境や健康状態を把握し、本人と十分な話し合いを行う必要があります。これにより、職務遂行と家庭生活のバランスを保ちながら、従業員が安心して働ける環境を維持できます。配慮の欠如はハラスメントや法令違反のリスクを伴うため、企業側の対応が鍵となり得るのです。
08企業が実施するべきマタハラへの具体的な対応策
マタハラを防止するために企業が実施するべき具体的な対応策として、大きく「相談窓口の設置」「経営層から方針や取り組みを発信していく」の2つが挙げられます。これらは、企業が法令遵守を実施していく上で必要不可欠な取り組みです。ここでは、具体的な施策内容について解説していきます。
相談窓口の設置
マタハラへの対応として、企業が相談窓口を設置することは非常に重要です。相談窓口は、妊娠や出産を理由とする不当な扱いや、職場でのハラスメントを抱えた従業員が安心して相談できる場を提供します。この窓口は、信頼性を確保するため、外部機関の活用や専門の担当者を配置することが望ましいです。また、匿名での相談が可能であることや、相談内容が守秘義務に基づいて扱われることを明確にする必要があります。さらに、相談があった場合には迅速かつ適切な調査と対応を行い、問題解決を図ることが求められます。相談窓口の設置は、従業員の不安を軽減し、職場環境の改善に寄与します。同時に、企業としての法令遵守やリスク管理の観点からも、不可欠な施策です。
経営層から方針や取り組みを発信していく
マタハラ防止には、経営層から明確な方針や取り組みを発信することが鍵です。経営層が防止対策へのコミットメントを表明することで、企業全体に対する強いメッセージとなり、従業員の意識を変えるきっかけとなります。具体的には、社内でのメッセージ発信、従業員向け研修の実施、ハラスメント防止の方針を記載した行動規範や就業規則の整備が効果的です。また、経営層が実際に取り組みの推進役となることで、現場での対応がより効果的に進む環境を作れます。このようなトップダウンのアプローチは、職場文化の変革や、従業員が安全に働ける環境の構築に大きく寄与します。経営層の積極的な関与が、信頼される組織の基盤となります。
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10まとめ
マタハラ対策は、快適な職場環境をつくるため、さらには優秀な人材の流出を防止するために必須です。また、うっかりした言動が、マタハラの対象になることもあるデリケートな問題でもあります。まずは事業主、管理者の意識を高め、無意識のうちにマタハラの加害者にならないように気をつけましょう。