研修期間に解雇はできる?新入社員入社時に知っておきたい注意点
新入社員を本採用するかどうか見極める期間として存在する試用期間。不採用と判断した場合は、法的に問題があるのでしょうか。本記事では、試用期間中にどうしても従業員を解雇したいと思った場合の正当な解雇事由や、適切な手続き方法について紹介しています。
- 01.研修期間と試用期間の違いとは
- 02.試用期間の定義
- 03.研修期間時に解雇できる正当な理由
- 04.不当解雇とみなされる可能性が高い条件
- 05.研修期間の解雇で揉めないための注意点
- 06.従業員視点で解雇予告を受けたときの注意点
- 07.解雇に納得できない場合の対処法
- 08.まとめ
01研修期間と試用期間の違いとは
「試用期間」は本採用のためのいわばお試し期間であり、「研修期間」は仕事の基礎を学ぶ期間です。試用期間では、会社が本採用をするか、会社・業種へのマッチ度といった労働者の適正をチェックすることに焦点をあてていますが、研修期間では、既に本採用となった人の通常業務を行うためのスキルアップの時間となっています。
02試用期間の定義
試用期間とは、勤務態度や労働者の適性などを評価し、雇用先が本採用するか判断するための期間のことを指します。雇用形態を問わず人材を使用する場合に用いられ、企業における人材採用方法として最も有名な手法です。基本的に、雇用先が求める条件に合致すれば本採用となり、そうでなければ解雇となります。
試用期間の長さ
試用期間の期間設定については、労働基準法による定めはありませんが、3か月~半年ほどの試用期間を設けるのが一般的です。企業方針や、業務内容により業務適性を見極めるための時間が異なりますので、それらを考慮したうえで労働者への明示を行います。
労働条件
試用期間中であっても、基本的には、本採用後と労働者が持っている権利は同じです。特に契約等で制限されていない限り、給与・労働時間・休日などは試用期間前後で差異はありません。ただし、最低賃金を下回らなければ本採用前より低い賃金を設定することは認められているため、使用者と労働者との間で合意のうえ、調整を行いましょう。
03研修期間時に解雇できる正当な理由
試用期間であっても、解雇に関する会社の裁量には制限が設けられています。そのため、正当な理由なしに労働者を解雇することはできません。では、会社が求める条件に適合していない場合、具体的にどのようなケースであれば、試用期間に本採用を拒否して対象者を解雇できるのでしょうか。
病気やけがで職場復帰が困難なとき
不慮の事故、病気やケガが原因で一定期間の休業を要したのち、労働者の職場復帰が困難な場合、またはどうしても雇用を維持することが難しい場合は、やむを得ず解雇を選択可能です。 ここで企業が注意したいのは、休職を認めずにいきなり解雇することです。傷病のケースであっても、まずは負荷のかからない業務から与え、復職できるように企業はサポートしなければなりません。じきに元通り勤務できるのにいきなり解雇すると、不当解雇にあたる可能性があるため注意が必要です。
勤怠不良である場合
体調不良や交通機関の遅延などの正当な理由がない遅刻・欠席を繰り返し、企業が指導をしているにも関わらず改善しない場合は、社会人として最低限のルールが守れない者として解雇が認められます。 この際、まったく注意指導を行わず、突然解雇にすると不当解雇にあたってしまう可能性があります。まずは注意指導を行ったうえで、それでも改善しない場合に解雇するようにしましょう。
経歴詐称が発覚した場合
企業に応募する際に提出した履歴書や職務経歴書に嘘の記載をした場合は、経歴詐称として、正当な理由での解雇をすることができます。解雇ができる可能性が高い重要な経歴は、学歴・職歴・犯罪歴といった内容となっており、これらの詐称が発覚した際には、入社後の解雇が可能です。
協調性がない場合
上司や同僚に対して反抗的であること、または協調性がないことも解雇事由になりえます。 合理的な理由なく、明らかに風紀を乱すような行動を取り続け、勤務態度を改めるよう指導したとしても改善の見込みがない場合は、規則に沿って解雇の手続きを行えます。
整理解雇
会社の営業不振や、人員削減などによる、整理解雇も要件は厳しくなりますが、解雇可能です。試用期間中の場合、人選の合理性は認められやすいとも考えられますが、そもそも人員削減の必要性がない場合や解雇回避の努力が見受けられない場合には、整理解雇とはいっても不当解雇となります。
懲戒解雇
社員が極めて悪質な規律違反や非行を行った場合には、会社が一方的に懲戒解雇することができます。懲戒解雇の要件は、合理的理由及び社会的相当性を考慮した上で、就業規則に明記をし、適正な手続きを踏むことが求められます。
一定期間の教育指導を実施し、配置転換も試みたにも関わらず、成績が明らかに悪い場合は、正当な解雇事由とみなされます。しかし、いくら試用期間と言っても、能力が足りないからといって安易に解雇することはできません。本採用を拒否するための基準が不明確だったり、適切な指導・教育がされていなかったりする状態での解雇であれば、不当解雇とみなされる可能性が高いため、採用基準を明確に設け、能力の測定を行いましょう。
参考:「労働基準法 | e-Gov法令検索」
04不当解雇とみなされる可能性が高い条件
本来会社が労働者を解雇するには厳格な決まりがあり、それらの条件をクリアしていなければ、解雇として認められません。ここからは不当解雇とみなされる可能性が高い条件について解説していきます。
適切な教育を行っていなかった
新入社員に対して十分な指導をせずに能力不足として解雇するのは、不当解雇としてみなされる可能性が高いです。達成不可能なノルマを課せたり、いじめなどにより仕事がしやすい環境を与えられてない場合には、能力不足が正当な解雇理由にはならず、違法解雇と判断されます。
ハラスメント行為があった
セクハラやパワハラといったハラスメント行為があった場合にも、解雇は不当とみなされます。例えば、「お前はクビだ!」「明日から会社にくるな!」といったような感情的かつ場当たり的な解雇が行われた場合には、客観的合理性や社会的相当性を欠いており、従業員を解雇することはできません。
正当な賃金が払われていなかった
試用期間の賃金は、本採用後と差を付けることが認められています。しかし試用期間中であることを理由に、給料や残業代の未払い、法律で定められた最低賃金以下の給与といった労働に対する正当な賃金が支払わないことは違法であり、従業員を解雇することは不当解雇にあたります。
学歴職歴犯罪歴以外の詐称
前述した通り、学歴・職歴・犯罪歴の詐称は解雇事由として認められていますが、年収や雇用形態、職位などの軽度の詐称や、詐称が就業について直接的な影響を与えたりしないような場合には、経歴詐称を原因に解雇することはできません。
数回程度の遅刻や欠勤
勤怠不良の従業員に対しては毅然とした対応を行う必要がありますが、数回程度の遅刻や欠席である場合には、解雇に相当すると判断されるケースは少なく、社会通念上相当であると認められないため、企業による一方的な解雇は行えません。
05研修期間の解雇で揉めないための注意点
労働者の解雇は慎重な検討が求められますが、勤怠不良や復職困難など致し方ない事情で解雇せざるを得ない場合もあるかと思います。ここからは、研修期間での解雇で揉めないために、企業がとっておくべき措置についてご紹介します。
解雇の予告をする
労働基準法第20条により、企業は労働者を解雇するときには解雇の予告を行うことが義務付けられています。そのため、従業員を解雇する際は、少なくとも30日以上前に解雇の通告を行わなければならず、即時解雇の場合には30日分以上の平均賃金として、解雇予告手当を支払わなければなりません。
参考:「労働契約の終了に関するルール ❘ 厚生労働省」
解雇の理由を本人に直接説明する
解雇の理由を解雇対象者本人に直接伝えることも大切です。会社の会議室など、普段の職場から離れた別室に対象者を呼び出し、解雇理由をきちんと説明したうえで、解雇が何日付であるか、「解雇した」という決定事項をしっかりと伝えるようにしましょう。
解雇理由証明書を発行する
会社がどのような理由で労働者を解雇したのか、解雇理由を証明する書類として用いられる解雇理由証明書の発行も行ったほうがいいでしょう。 決まった書式はありませんが、主に下記の内容を書面に記し、会社都合による不当解雇ではないことを証拠として残しておきましょう。 ・解雇する人の名前 ・解雇を通知した日付 ・発行した日の日付 ・職場の代表者・責任者の氏名と印鑑 ・解雇理由
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■資料内容抜粋
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06従業員視点で解雇予告を受けたときの注意点
解雇予告を受けた際、従業員の立場から注意すべき点について、特に「話し合いを録音する」ことと「解雇理由をヒアリングする」ことは重要です。ここではそれぞれについて解説していきます。
話し合いを録音する
解雇に関する話し合いや面談が行われる場合、会話を録音しておくことは非常に重要です。録音は、後から解雇の正当性や手続きの妥当性を確認するための証拠として使えます。解雇に関する発言や会社の説明が曖昧だったり、一貫性がなかったりする場合、後で法的手続きに発展する可能性があります。その際、録音した会話は証拠として大きな役割を果たすでしょう。また、日本では、自分が会話に参加している場合、その会話を録音することは違法ではなく、証拠として認められます。ただし、録音を他者に公開する際はプライバシーの観点から慎重に扱いましょう。
解雇理由をヒアリングする
解雇を告げられた際、必ずその理由を具体的に確認することが大切です。解雇が法律的に妥当であるかを判断するには、理由を明確にしておきましょう。ここでは、ケース別の解釈方法について解説していきます。
能力不足の場合
「能力不足」を理由に解雇される場合、単に期待に達していないという理由だけでは、解雇の正当性を主張するには不十分です。会社は従業員の業務内容や職務に求められる具体的な能力基準を示し、それに従業員がどの程度達していないかを説明する必要があります。また、能力不足が問題視されている場合、まず会社はその改善のための支援や教育を提供する義務があります。適切なサポートを受けていないのに能力不足を理由に解雇することは、不当とみなされるでしょう。
病気や怪我の場合
病気や怪我を理由に解雇される場合、従業員が長期間にわたって職務を遂行できない状況にあることが原因とされることがあります。しかし、病気や怪我による解雇は慎重に判断されなければならず、不当解雇として争われるケースも少なくありません。病気や怪我の状態が一時的なものであれば、会社は従業員が回復するまでの配慮や休職制度を提供するべきです。解雇前に、従業員の回復の見込みや職務への復帰可能性について確認し、適切な対応を求める必要があります。
整理解雇の場合
整理解雇は、会社の経営状況悪化や事業縮小を理由に行われる解雇で、会社の都合によるものです。整理解雇は「人員削減の必要性」「解雇回避の努力」「合理的な選定基準」「十分な説明と協議」の4条件が満たされなければ正当な解雇とは認められません。この4要件が満たされていない場合、整理解雇は不当とされ、法的に争うことが可能です。
懲戒解雇の場合
懲戒解雇は、従業員が重大な規律違反や不正行為を行った場合に行われる最も重い解雇です。この場合、解雇理由が極めて明確でなければならず、会社はその正当性を厳密に証明しなければなりません。懲戒解雇は従業員に対する最終的な処分であるため、その理由が労働規則に明確に記載されている必要があります。理由が曖昧だったり、懲戒の手続きに不備がある場合、不当解雇として争うことができるでしょう。
07解雇に納得できない場合の対処法
解雇に納得できない場合、従業員にはいくつかの対処法があり、「労働組合に相談する」「労働基準監督署に相談する」「労働審判を申し立てる」の3つが主な選択肢です。ここでは、それぞれの対処法について解説します。
労働組合に相談する
労働組合は、労働者の権利を守るための団体であり、解雇に納得できない場合、まず労働組合に相談することが有効です。労働組合は、従業員が不当な扱いを受けないように、会社と交渉を行ったり、アドバイスを提供したりする役割を果たします。労働組合は従業員の代理として、会社と直接交渉を行うことが可能です。解雇理由の妥当性や解雇手続きに問題がある場合、労働組合を通じて和解や再交渉の機会を得られることがあるでしょう。また、労働組合は法律により「団体交渉権」を持っています。これにより、会社は労働組合との話し合いに応じる義務があります。労働者個人では難しい交渉も、労働組合が介入することで強力なサポートを得ることができるのです。
労働基準監督署に相談する
労働基準監督署は、労働基準法や労働契約法など、労働者の権利を守るための法律が遵守されているかどうかを監督する公的機関です。解雇が不当であると感じた場合、労働基準監督署に相談することで、行政の立場から助けを得られる場合があります。働基準監督署は、解雇が法律に違反しているかどうかを調査し、違法な解雇があった場合には指導や是正勧告を行います。特に労働基準法違反が明確な場合、監督署の介入によって会社に対する是正措置が行われます。また、労働基準監督署は、解雇が法律上の基準を満たしているかどうか、労働契約や規則が適切に運用されているかをチェックし、違法な解雇であれば会社に対して改善を指導することができます。
労働審判を申し立てる
労働審判は、労働問題を迅速かつ簡便に解決するための手続で、裁判所を通じて行われます。通常の裁判よりも短期間で解決できるため、解雇に対して法的に争いたい場合には有効な手段です。労働審判は、通常3回以内の審判期日で解決を目指すため、通常の裁判よりも早く結論に達することができます。また、裁判よりも手続きが簡単で費用も少なく済むため、従業員にとって負担が軽い方法です。注意点として、労働審判は個人でも申し立て可能ですが、専門知識が必要な場合や会社側が弁護士を立てている場合には、弁護士を依頼することが有効です。法的に争う際には、弁護士のサポートを受けて証拠集めや戦略を立てることが推奨されます。
08まとめ
試用期間は、従業員の適性を判断するための「お試し期間」という性質を持っていますが、正当な理由なく自由に解雇できるというものではありません。研修期間中といえども労働者の解雇は慎重に行わなければならず、適切な手続きを踏むことが極めて重要となります。 試用期間を設ける場合には、労務担当者と共に、試用期間の目的、採用者への指導を行う担当者、定めた規則に違反性はないかといった項目を社内できちんと確認し、適切な運用を行いましょう。