エバンジェリストとは?仕事内容から求められるスキルまで詳しく解説
DXが推進され、企業活動においてITの活用は重要です。しかしIT技術は複雑化してきているため、ユーザーにわかりやすく内容を伝えられる人材、エバンジェリストが今注目されているのです。この記事ではエバンジェリストの仕事内容から求められるスキルまで詳しく解説します。
- 01.エバンジェリストとは
- 02.エバンジェリストの仕事内容
- 03.エバンジェリストに求められるスキル
- 04.企業にエバンジェリストがいるメリット
- 05.エバンジェリストの育成方法
- 06.有名な日本のエバンジェリスト
- 07.まとめ
01エバンジェリストとは
エバンジェリストとは、主にIT業界で自社商品の技術力や価値を世間に広めることを役割に持つ職種のことです。ただし、本来のエバンジェリストとは、キリスト教における伝道者のことを指します。大衆に向けて啓蒙普及活動をする人という類似点から、新しい職種の名前として用いられるようになりました。
エバンジェリストが職種として呼ばれ始めたのは1984年からと言われています。米国のApple社が個人用PCの必要性や他社製品と比較した際の優位性などを説明、宣伝するための役職として、テクニカルエバンジェリストという役職を新設したのが始まりです。その後、Microsoft社でもエバンジェリストの役職を新設したことで認知度が高まり、2000年ごろから一般化してきました。
エバンジェリストと営業・広報・インフルエンサーとの違い
企業の持つ技術を啓蒙するという役割から、エバンジェリストは営業・広報とよく混同されます。 それぞれの違いを表にまとめてみました。
役割 | 対象 | 必要なスキル | |
エバンジェリスト | ITに関する技術や知識を中立的な立場からわかりやすく伝える | IT技術やIT知識に興味をもつ不特定多数のユーザー | ・ITに関する専門知識 ・プレゼンテーション力 |
営業 | 顧客に自社の商品やサービスを提案し購入を促す | 自社の商品やサービスに興味を持っている見込み客 | ・ヒアリング力 ・課題解決力 ・提案力 |
広報 | 企業や商品、サービスなどの認知度を上げブランドイメージを高めるための情報発信を行う | メディア、株主、投資家、従業員 | ・コミュニケーション力 ・プレゼンテーション力 ・文章力 |
インフルエンサー | ユーザーの購買意思決定に大きな影響を与える | フォロワー | ・コミュニケーション力 ・信用、信頼獲得 ・情報拡散力 |
上記の表からもわかるように、営業や広報、インフルエンサーと異なり、エバンジェリストが情報発信を行う際は、「中立性」「公益性」を意識して行う必要があるのがわかります。
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02エバンジェリストの仕事内容
エバンジェリストの仕事内容は多岐に渡りますが、イベントの登壇は特に重要な業務となります。公益性や中立性を重視しながら、自社の技術や製品の長所・短所を伝え、他社の製品や技術においても公平に論じることが、エバンジェリストに求められる役割です。また、イベントの登壇をするための情報収集や資料作成、技術者とのコミュニケーションなども、エバンジェリストの仕事内容となります。
イベントでのプレゼンテーション
自社の新製品発表会、IT技術者やシステム開発者向けのセミナー、ITエンジニア向けのイベントなどでプレゼンテーションを行い、自社の商品やサービス、使用されている技術などについて解説します。顧客に自社の商品やサービスの価値や使用するメリットをわかりやすく伝え、購買に繋げるのが仕事です。
Apple社の故スティーブ・ジョブズCEOによる「iPhone」のプレゼンテーションでは、Apple社の技術が世界をどのように変えてきたかを前段として語り掛けて期待値を高め、それが最高値に達した時にiPhoneを発表するという巧みな展開が、見ている人の心を惹きつけています。冗談も交えて明るい雰囲気作りに心がけながらも、iPhoneを強烈に印象づけることに成功した好事例と言えるでしょう。
個別のデモンストレーション
営業担当者やカスタマーサポート部門と共同で、提案先や顧客企業向けのセミナーや勉強会を開催し、自社の商品やサービスのデモンストレーションを行います。 顧客の持つ課題を、営業担当者や技術担当者と協力して解決したり、商品やサービスの効果的な活用方法を提案したりするのがエバンジェリストの仕事です。
インナーマーケティング
インナーマーケティングとは、新商品やサービスなどの発売に合わせて行う、社内向けの啓蒙活動やプレゼンテーションを指します。 社内の営業・広報・カスタマーサービス担当者等に向けて行い、機能やスペックだけではなくブランドイメージやサービスの価値など、幅広く周知するのが仕事です。
自社製品やサービスの研究・資料作成・情報収集
プレゼンテーションやデモンストレーション、インナーマーケティングを適切に行うためには日々のIT業界についての情報収集や、自社の商品やサービスについての研究が欠かせないでしょう。 技術的なことだけではなく、商品やサービスを導入するとどのような課題が解決できるのかやユーザー目線でのメリットなどさまざまな角度から分析し、知識を蓄えておくのです。
03エバンジェリストに求められるスキル
エバンジェリストは、イベントへの登壇が主な業務となるので、高いプレゼンテーション能力が求められます。また、他者に自社の技術力・製品の良さを知ってもらうためには、自分自身もIT・テクノロジーに対しての見聞を深める必要があります。
IT・テクノロジーに関する知識
エバンジェリストが、専門性の高いIT・テクノロジーに関する知識を正しく企業の内外に向けて発信するためには、まず自分自身がそれを理解しなければなりません。 自社の商品やサービスに関する深い知識はもちろんのこと、IT業界全体の動向やトレンドなど幅の広い最新知識を持つことを求められます。 現在活躍するほとんどのエバンジェリストがエンジニア出身であるのは、このスキルが必要であることから来るのでしょう。
プレゼンテーション能力
エバンジェリストが新製品発表会、イベント、セミナーなどの場でプレゼンテーションを行う時、もしも作った資料を読んでいるだけだとしたら聴いている人の心を動かすことができるでしょうか。 エバンジェリストは情報を自分の言葉で正しく伝えながらも、効果的な所作や振る舞いで聴き手に何らかの感情を起こさせ、購入行動へと繋げるような高いプレゼンテーション能力が必要とされます。 また一方的に話すのではなく、聴き手の理解度を踏まえて話し方を変えていく臨機応変さも重要なスキルだと言えるでしょう。 さまざまな場面で人の心を惹きつけるプレゼンを行う必要があるため、聴き手の興味をどのようにして引き出すかを考えることが求められます。
コミュニケーション能力
個別のデモンストレーションやインナーマーケティングを行う際は、コミュニケーションを通して相手の課題は何かを察知し、適切なアドバイスをする必要があります。 相手との信頼関係を作り、自分の話を受け入れてもらえるようにするためにも、コミュニケーション能力はエバンジェリストにとって欠かせないスキルだと言えるでしょう。
経営者の視点
エバンジェリストは、自社の商品やサービスを紹介するだけではなく、ブランドイメージを向上させる役割も担うため、自社の経営戦略に基づくマーケティング戦略や業界全体の流れを理解しておく必要があります。 対外的には経営者に代わってプレゼンテーションを行うという意識を忘れず、自信を持ちつつも自社の商品やサービスに対して冷静な視点も持っておかなければなりません。
向上心
IT業界の進歩は加速しているため、常に最新のテクノロジーや技術に触れ、それに精通している状態を維持するのはなかなか難しいことです。 しかしこの難題に向上心を持って果敢に取り組むことこそ、エバンジェリストにとって必要なスキルだと言えるでしょう。
04企業にエバンジェリストがいるメリット
企業にエバンジェリストがいるメリットとはどのようなものでしょうか。 3つご紹介します。
自社製品やサービスの価値が向上する
エバンジェリストが社内にいるということは、それだけIT技術や最新のテクノロジーについての知識が蓄積されるということです。 これをナレッジマネジメント(社員が持つノウハウや経験、また企業が持つ情報や知識を組織全体で蓄積・共有して、企業全体の生産性や市場での競争力、また企業価値を高めていく手法)で適切に共有できれば、付加価値が高く市場競争力の強い商品やサービスを生み出すことができるでしょう。 知識を高め合う中心的な存在としてエバンジェリストがいることで、従業員も安心して商品やサービスの開発、マーケティングなどに取り組むことができます。
企業の認知度アップにつながる
エバンジェリストの社外活動の場が多くなれば、自社の商品やサービス、そして企業の認知度を高めることにも繋がるでしょう。 直接アプローチをするのが難しい顧客に対しても、エバンジェリストが間接的にアプローチすることができるので、ブランドイメージの向上や新しいビジネスチャンスにも繋がっていく可能性があります。 エバンジェリストの活動を通じて企業の認知度が高まり、商品やサービスの価値が浸透すれば、業界内でも一定のポジションを得ることになるでしょう。
従業員の成長につながる
エバンジェリストが社内でインナーマーケティングを積極的に行うことで、社員の知識やモチベーションが向上し、企業全体の成長に繋がります。 エバンジェリストの活動が普段は顧客との接点を持ちにくいエンジニアなどにも伝われば、高い向上心で業務に取り組む人も増えて来るでしょう。 また、エンジニア出身のエバンジェリストが多いことから、エンジニアのキャリアプランの参考の1つとなるロールモデルとしての存在にもなりうるでしょう。
05エバンジェリストの育成方法
エバンジェリストを社内から選出するために、自社で育成していきたいという企業も多いかと思います。ここではエバンジェリストの育成方法を解説していきます。
活躍している人材から選出する
エバンジェリストはIT技術に関する専門的な知識やスキルを有していることが前提として必要となります。そのため、自社のエンジニアやプログラマーから選出することが望ましいでしょう。また、冒頭で解説したようにプレゼンテーション能力も求められるため、社外などで技術に関するセミナー講師などを実施している人も望ましいと言えます。社内での選出が難しい場合は、外部からの採用もおすすめです。自社の要件に加えて、エバンジェリストとしての要件も採用要件として盛り込んでいきましょう。
経営方針を理解してもらう
エバンジェリストは経営視点を求められます。そのため、経営方針への理解もエバンジェリストの育成において必要不可欠です。経営方針をもとに、新しい技術や製品をどのように社会・顧客に対して提案していくのか、経営層と共に考えられる人物が望ましいでしょう。
育成プログラムの導入
エバンジェリストは技術以外にさまざまなスキルが求められるため、育成プログラムの導入が必要不可欠です。そのため、エバンジェリストとして求められるスキルやマインドセットを習得していくためには、社外の研修やeラーニングによる学習などがおすすめです。
06有名な日本のエバンジェリスト
日本にも多くのエバンジェリストがいますが、その中でも有名な3名についてここでは解説していきます。
西脇資哲
日本を代表するエバンジェリストの1人が日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員である西脇資哲氏です。日本オラクルでプロダクトマーケティング業務に従事後、IT業界屈指のプレゼンターとして頭角を現し、日本マイクロソフトに入社。マイクロソフト製品全てを扱う唯一の日本人エバンジェリストとして活躍しています。
玉川憲
株式会社ソラコムの代表取締役を務める玉川憲氏も日本を代表するエバンジェリストの1人です。日本IBM基礎研究所でウェアラブルの研究開発、ソフトウェア事業部での技術営業・コンサルティングを経験後にアマゾンデータサービスジャパンにエバンジェリストとして入社し日本のAWS事業の立ち上げを指揮。その後は技術部長などを歴任し、2015年に株式会社ソラコムを創業して、現在に至ります。IoT通信プラットフォーム「SORACOM」を展開させ、起業家としてForbes JAPANの起業家ランキングにもランクインしています。
野水克也
異色の経歴をもつエバンジェリストが野水克也氏です。大学卒業後、テレビカメラマン・ディレクター、家業である建設業の代表を経験し、サイボウズに入社。広告宣伝・販売促進をはじめ、マーケティング部長やクラウド販売責任者などを歴任し、サイボウズ製品のエバンジェリストとして活躍しています。
07まとめ
エバンジェリストとは、IT業界における職種で、高度で複雑なIT技術やそのトレンド、最新のテクノロジーなどをわかりやすく社内外に伝える役割を果たし、自社の商品やサービスのアピールだけではなくブランドイメージの向上なども担っているとわかりました。 DXの波に乗って、IT技術は企業の成長のために不可欠な存在です。 その進歩とともに、エバンジェリストという役職もさらに注目され、さまざまな役割を今後も果たしていくこととなるでしょう。 この記事も参考にして、ぜひエバンジェリストに対する理解を深めてみてください。