科学的管理法とは?定義からビジネスでの活用方法まで詳しく解説

現在の大量生産方式の礎となる考え方と言える科学的管理法は、飛躍的な生産効率の改善をもたらしたことから称賛された反面、非人道的など批判されるなどの問題点もありました。この記事では科学的管理法の定義からビジネスでの活用方法まで詳しく解説します。
- 01.科学的管理法とは?
- 02.科学的管理法が生まれた背景
- 03.科学的管理法の原理
- 04.科学的管理法のメリット
- 05.科学的管理法のデメリット
- 06.科学的管理法を導入している企業
- 07.まとめ
01科学的管理法とは?
科学的管理法とは、工場労働者の主観的な経験や技能によって成り立っていた作業を、客観的・科学的な視点で分析、整理して管理することで労働効率を向上させ、雇用者には低い労働費負担を、労働者には高い賃金支払いを実現した生産性の改善手法です。 1900年代の始めに、アメリカの技術者であり経営学者のフレデリック・テイラー(Frederick Taylor)によって提唱されたため、テイラー主義、テイラーリズム、テイラーシステムとも呼ばれます。 フレデリック・テイラーが人間は組織の中でどのように感じ、振る舞うのかを徹底的に観察した結果、科学的管理法が生まれたと言われています。
02科学的管理法が生まれた背景
1900年代の初頭においては、アメリカにおける経営や労使関係にいくつかの問題がありました。 経営の問題としては、経営者があまり生産の現場に関わろうとしないこと、経験や習慣などに基づいた経営方法を実行するためしわ寄せが労働者に向かうこと、統一性のある一貫した管理が行われていないことなどがありました。 また、労使関係の問題としては、経験の深い労働者に管理を任せる内部請負制度が、非効率な生産や組織的な怠業を引き起こすという問題があったのです。 これらのことから経営者・労働者双方が互いに不信感を持つようになってしまったため、フレデリック・テイラーは、管理についての客観的な基準を作ることで、労使協調体制を作り生産性を上げようとします。 その結果生まれたのが科学的管理法というわけです。
03科学的管理法の原理
科学的管理法の原理とは大きく分けて3つあり、さらにその中でも細分化されます。 それぞれの内容をご紹介します。
課業管理
課業管理には5つの要素があり、目標に基づいて労働者を適切に管理していくことを指します。 フレデリック・テイラーは、明確な目標を労働者に提示することで、組織の引き締めを図ったと言えるでしょう。
課業の設定
課業とはノルマを指し、一日のノルマは模範的な労働者であれば達成可能な仕事量を基に設定されます。 達成が見込めないノルマは、労働者のモチベーションを下げてしまいますが、フレデリック・テイラーは適切な目標を設定することで労働者の仕事に対する意欲を高めようとしたのです。
諸条件と用具等の標準化
工場で使用する工具や手順を統一化し、労働者は熟練工か未熟練工かにかかわらず同じ条件で働きます。 フレデリック・テイラーは、このようにして工場で最も効率的な「唯一最善の方法」を確立し、その方法を労働者全員に習得してもらうようにしました。 現在で言うならマニュアルを作成し、浸透させる段階だと言えるでしょう。
成功報酬
ノルマを達成した労働者に対し、単位時間当たりの賃金を割り増しして支払うことで、出来高制の賃金システムに似ています。 労働者の労働意欲を高めるための賃金システムだと言えるでしょう。
不成功減収
成功報酬とは逆に、ノルマを達成できなかった労働者に対し、単位時間当たりの賃金を割り引いて支払うことです。 このように一律の賃金ではないことが、労働者の意識や行動を変えていったと言えます。
最高難易度の課業
ノルマを設定する際に、優秀な労働者が達成可能な仕事量を基に設定するということです。 これにより、生産効率はさらに向上するというわけです。
作業の標準化
作業の標準化には2つの要素があり、働く時間に対して意識を高めるための管理方法だと言えるでしょう。
時間研究
生産工程において標準的作業時間を設定し、これに基づいて1日の課業を決定するための研究です。 優秀な労働者の仕事量が1つの基準となりますが、フレデリック・テイラーは生産工程における動作を「要素動作」と呼ばれる細かい動作に分解し、その1つ1つにかかる時間をストップウォッチで計測することで標準的作業時間を算出しました。
動作研究
作業に使用する工具や手順などを標準化するための研究です。 フレデリック・テイラーは優秀な労働者の効率の良い動作を基に、最適な工具は何かや作業手順を明らかにしていきました。
作業管理のために最適な組織形態
1900年代の始めには、生産現場内で熟練工が「内部請負制」に基づいて生産計画を決定し稼働する仕組みでした。 科学的管理法ではこの「内部請負制」による組織の形態を変えたのです。
計画と実行の分離
フレデリック・テイラーは、生産計画の立案と管理を行う部署を現場とは別に作り、実務として生産を担当する労働者がこれらの仕事を行わなくても良いようにしました。 いわゆる「計画と実行の分離」で、これにより論理性のある生産計画や管理を行うことができるようになったのです。
職能別組織
計画と実行の分離を行うために、機能別に部署を分けた組織が職能別組織です。 現在においても、職能別組織の仕組みはさまざまな企業で活用されています。
04科学的管理法のメリット
科学的管理法のメリットとはどのようなものなのでしょうか。 2つご紹介します。
生産効率の向上
科学的管理法を活用することで、工場における生産現場に管理の概念と、それを専門に担当する別部署が生まれ、内部請負制が解体されました。 これにより生産効率が大きく向上し、大量生産方式へと移行していきます。 1903年にアメリカで創業したフォード社では、科学的管理法をいち早く導入して大成功を収めました。 1900年代の始めにおいて、自動車はまだ高級品として位置付けられていましたが、フォード社では、科学的管理法を応用して流れ作業を発案し、大量生産方式を確立したのです。 これによりアメリカの機械産業において科学的管理法はなくてはならないものとなり、産業の近代化の礎となって現代へと受け継がれてきました。
産業の近代化
科学的管理法の確立により、生産現場を適切にマネジメントできるようになったことも大きなメリットと言えるでしょう。 フレデリック・テイラーはそれまでの内部請負制による、計画性や論理性のない経験に任せた経営手法に疑問を抱き、仕事を3つの原理という要素に分解して分析を加え、客観的に改善をしていきます。 そこから適切な目標を定めて生産性を高めたことから、科学的管理法は現代の経営管理論や生産管理論の源流の1つとされているのです。 科学的管理法は産業の近代化への道筋を作ったと言えるでしょう。
05科学的管理法のデメリット
科学的管理法はその革新的な考え方で企業に多くの成果をもたらしましたが、デメリットも存在するので2つご紹介します。
人間性の軽視
科学的管理法は生産性を向上させ、労働者の賃金を増加させるなど多くのメリットをもたらしましたが、1910年代には労働組合が、労働強化や時間研究による人権侵害につながるとして、反対運動を展開するようになりました。 特に1913年と1914年には、当時200万人ほどの組合員が所属していたアメリカの大規模な労働組合であるAFL(アメリカ労働総同盟)が、科学的管理法を拒否する決議を行ったのです。 この時、科学的管理法には心理学や社会学の立場からの考察がなく、生産効率を重視するあまり労働者の人間性を軽視し、労働者を命令を受けて作業をするだけの機械のように扱っているという批判が多くありました。 そのため、この批判の内容について後の学者や経営者によって改善が行われ、現在の経営学や経営管理論、生産管理論の発展へと繋がっているのです。
ホワイトカラーとブルーカラーの二極化
科学的管理法において「計画と実行の分離」を行ったことにより、労働者間にホワイトカラーとブルーカラーの二極化を引き起こし、対立構造ができてしまいました。 計画と実行の分離は生産管理の近代化を促しましたが、このような対立は望ましくないものとされたため、学者や経営者によって改善が行われ現在へと繋がっています。
06科学的管理法を導入している企業
科学的管理法についてフレデリック・テイラーが1903年に著した「Shop Management」は、横河民輔により翻訳され「科学的経営法原理」として日本でも刊行されました。 これをきっかけに日本では、フレデリック・テイラーの科学的管理法関連の書籍が多数翻訳され、出版されるのです。 その後1910年代には、鐘淵紡績、新潟鉄工所、東洋紡績などの企業において科学的管理法の導入が進んだため、日本企業に科学的管理法が馴染むのは比較的早かったと言えるでしょう。 現在の日本でも、科学的管理法を参考にした経営管理手法を用いている企業が見られるのでご紹介します。
マクドナルド
作業を担当するのが誰であっても、同じ品質の商品やサービスを行うのが科学的管理法の原則と言えますが、マクドナルドではどの店舗においても同じ商品やサービスが提供できるよう厳しい品質管理とマニュアルの徹底が行われています。 例えば、アルバイトクルーの教育が統一化されていて、マクドナルド独自の教育機関「ハンバーガー大学」でのプログラム受講と店舗での実践を通じて、ステップアップすることとなっています。 このような徹底した情報共有とプログラム化された教育の実践は、科学的管理法の発想を活かしたものと言えるでしょう。
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07まとめ
科学的管理法とは1900年代の始めにフレデリック・テイラーによって提唱された生産性の改善手法ですが、生産性を大きく向上させ産業の近代化を推し進めた手法のため日本にも早くから取り入れられ、改善されながら現在の企業経営にも活かされていることがわかりました。 もし自社の経営改善を進め、生産効率をさらに高めたいと感じているなら、科学的管理法の長所を活かし、短所は改善しながら導入することをおすすめします。