コーピングとは?ストレスから従業員を守る企業の取り組みについて解説
コーピングとはメンタルヘルスに関する用語です。人がストレスを感じたときに、そのストレスに対し上手く対処しようとすることをストレスコーピングといいます。当記事ではコーピングの概要と、さまざまなストレスにさらされる従業員のメンタルを守る企業の取り組みについて解説します。
- 01.コーピングとは?
- 02.コーピングが求められる背景
- 03.従業員のストレスを放置することのリスク
- 04.コーピングの種類
- 05.ストレスから従業員を守る取り組み
- 06.コーピングに取り組むメリット
- 07.まとめ
01コーピングとは?
コーピングとは英語のcope(対処する・対応する)に由来する言葉で、メンタルヘルスの領域で「ストレスへの対処」を指す言葉です。近年、働く人々のストレスが社会問題となっています。精神疾患をはじめとした健康被害や自殺など、ストレスを原因としたさまざまな問題が発生しています。こうした問題を防ぐためには、コーピングの技術を身につけ、自分自身で上手にストレスに対処する必要があります。
コーピングリストとは
コーピングリストとは、自分がストレスを感じたときに行うとストレスを軽減できる行動や言動をリストアップしたものです。具体的な行動を100個ほどリストアップしてもらいます。例を挙げると、ストレスを感じたら「甘いものを食べる」といった具体的な行動から、「宝くじの高額当選を想像する」といった妄想まで含め、自分の機嫌が良くなる気晴らしをできるだけ多くリストアップしてもらいます。そして、普段からそのリストをもち歩き、ストレスを感じたときに実践するというものです。 この方法はストレスの芽がまだ小さいうちに気がつき対処する習慣を身につけるのに有効です。リスト化した行動は、自分自身で完結し手軽に行えるものであればより効果を発揮するでしょう。
ストレスの仕組み
一般的にストレスとは、心にかかる負荷のことを指します。その負荷の原因を「ストレッサー」といい、ストレッサーにより引き起こされる心身への影響を「ストレス反応」と呼びます。 ストレッサーはストレスの原因ではありますが、直接的に作用してストレス反応を引き起こすのではありません。ストレス反応は「ストレッサーの受け止め方」や「心の状態」と作用しあって生じます。つまり、同じストレッサーであっても、人によりストレス反応は違うということです。このことは、ストレッサーの受け止め方を対処(コーピング)することで、ストレス反応をコントロールできることを示唆しています。
02コーピングが求められる背景
近年、コーピングはストレスマネジメントの手法として注目を集めています。2015年にストレスチェック制度が導入され、企業の従業員に対するメンタルヘルス管理の重要性が広く社会に認識されました。高ストレス状態にある従業員を放置し対策を怠ることは、安全配慮義務の観点からも見過ごすことができなくなっています。こうしたことから従業員に対するメンタルヘルス対策の一環として、コーピングが求められるようになりました。
職場のストレスの実態
現代における職場のストレスの実態はどのようなものでしょうか。厚生労働省が実施した「令和2年、労働安全衛生調査結果の概況」によると、「現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある」とする労働者の割合は54.2%にのぼっています。 強いストレスを感じたと回答した労働者について、その内容の内訳は「仕事の量」が42.5%ともっとも多く、次いで「仕事の失敗・責任の発生等」が35.0%、「仕事の質」が30.9%となっています。 調査結果によると、実に半数以上の労働者が仕事量や仕事内容、生じる責任から強いストレスを感じているようです。
ハラスメント防止
近年ハラスメントの防止の施策として、ストレスマネジメントの手法を取り入れる企業が増えています。改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が2020年6月より施行され、企業としてのハラスメント対策が世間から注目されるようになりました。都道府県の労働局に対する「職場のいじめ・嫌がらせ」の相談は年々増加傾向にあり、いじめや嫌がらせを原因とした精神疾患の労災認定も増えています。 こうしたことを背景に、コーピングやアンガーマネジメントが注目され、ストレスマネジメントの手法を取り入れ、対策を講じる企業が増えているのです。
03従業員のストレスを放置することのリスク
社会的に従業員のメンタルヘルスに関する企業の取り組みが注目されるなか、従業員のストレスを放置することはさまざまなリスクをもたらします。 ここでは、考えられる主なリスクについて3つ解説します。
生産性の低下
従業員のストレスを放置することは、企業の生産性に大きな影響を及ぼします。ストレスが蓄積すると、従業員は集中力を失い、効率が低下します。さらに、ストレスが原因でミスが増える可能性があり、これが業務の質を損ないます。また、ストレスを抱える従業員はモチベーションが低下し、新しいアイデアや改善提案が出にくくなります。その結果、組織全体のイノベーション力も弱まります。
離職率が高まる
ストレスが原因で職場環境が悪化すると、従業員は仕事に対する満足度が低下し、他の職場を探すようになります。特に、優秀な人材ほどストレスの影響を受けやすく、早期に転職を決断することが多いです。離職率が高まると、採用活動や新人の教育に多大な時間とコストがかかり、組織の安定性が揺らぎます。また、経験豊富な従業員が離職することで、知識やスキルの蓄積が失われ、組織全体のパフォーマンスが低下するリスクもあります。
訴訟を受けることがある
職場での過度なストレスが原因で従業員が心身の健康を害した場合、労働環境が適切でないとして法的な責任を問われることがあります。日本でも労働基準法や労働安全衛生法に基づき、従業員の安全と健康を守る義務が企業には課されています。これを怠ると、従業員からの訴訟や労働基準監督署からの指導・罰則を受ける可能性があります。
04コーピングの種類
それではストレスコーピングの概要について触れていきます。ストレスコーピングは大別して「問題焦点型」「情動焦点型」「ストレス解消型」の3種類に分類されます。それぞれストレスの内容や原因に応じて使い分けると良いとされています。
問題焦点型コーピング
問題焦点型コーピングとは、ストレス反応の原因となっているストレスそのものに働きかけ解決を図るコーピングの手法です。例えば「上司との関係が悪くて仕事がしにくい」というストレスを感じているのであれば、その原因となっている「上司との関係そのもの」にアプローチをして問題解決を図ります。 ストレスの原因に直接働きかけて、ストレス状態を改善しようとするのが問題焦点型コーピングです。
情動焦点型コーピング
問題焦点型コーピングは、ストレスの原因となっている相手に直接働きかけるため、比較的ハードルが高く感じられます。情動焦点型コーピングは、ストレッサーに働きかけるのではなく、ストレスを受けた自分自身の考え方や感じ方を変化させ、ストレスを軽減しようとする対処方法です。 ストレッサーへのアプローチが困難で、容易に変えることができない場合や、長期間にわたりストレッサーと向き合わなければならないときに有効な、現実的なコーピング手法であるといえます。
ストレス解消型コーピング
ストレス解消型コーピングとは、ストレスを感じた際に「旅行に出かける」といった気晴らしとなる行動をとったり、軽い運動やヨガなどでストレスの緩和に取り組んだりする手法です。 ストレスの原因を直接取り除くことはできず、対症療法的な要素が強いのですが、簡単に実施できる点では、非常に有効なストレス対処の方法であるといえます。 自分なりの気晴らしのパターンを掴んでおくと、ストレスをため込むことなく日常的に発散できるので、心の健康を保つ上で有効な手段であるといえます。
05ストレスから従業員を守る取り組み
2015年のストレスチェック制度の導入や、2020年のパワハラ防止法(通称)の施行により、職場で発生するストレスから従業員を守る取り組みは義務化されたといえます。 それ以外にも企業は独自に従業員のメンタルヘルスに配慮した、さまざまな取り組みをする必要があります。こうした取り組みを熱心に行うことは、健全な職場環境を維持し結果として生産性の向上や、好調な業績となって企業に恩恵をもたらすでしょう。
メンター制度の導入やカウンセリング窓口の設置
ストレスを抱えている現状は、誰かに相談したり、愚痴として話したりすることでかなりの部分が軽減されるものです。企業の取り組みとして、従業員が気軽に相談できる環境を整備することは、ストレスマネジメントの基本であるといえます。 年次の浅い若年層に、メンターとして先輩従業員を相談相手として専任したり、気軽に相談できるカウンセリング窓口を設置したりという対策は、比較的取り組みやすいものです。 上司との定期的な「1on1面談」の機会を設けることも、従業員のストレス状態を把握する上で有効な手段となるでしょう。
定期的な研修
定期的な研修や勉強会を開催し、従業員にストレスマネジメントの教育をすることも有効な手段であるといえます。ストレスコーピングをはじめ、ストレスマネジメントの手法を紹介し演習により身につけてもらいます。知識として知ってもらうことはもちろん、日々実践してもらうことにより、従業員のストレス対処能力は向上します。 ストレスマネジメント研修のカリキュラムの一つとして、コーピングリストを作成する演習を紹介します。
06コーピングに取り組むメリット
企業がコーピングに取り組むメリットとして、以下が挙げられます。
- ・ストレス対処が上手な人材を育成できる
- ・従業員のパフォーマンス向上
これらのメリットについて、この章で詳しく解説します。
ストレス対処が上手な人材を育成できる
効果的なストレス管理方法を学ぶことで、従業員は仕事に対する集中力を保ちやすくなり、生産性が向上します。具体的には、ストレスが軽減されることで、ミスの減少や効率の向上が期待できます。また、ポジティブなマインドセットが養われるため、創造性や問題解決能力も高まります。さらに、ストレスが減少することで、欠勤や病欠が減り、継続的な業務遂行が可能になります。これにより、個々の従業員だけでなく、チーム全体のパフォーマンスも向上し、組織の目標達成がスムーズに進むようになります。
従業員のパフォーマンス向上
従業員がストレス対処方法を学び、実践することで、職場全体の雰囲気がポジティブになります。ストレスの少ない職場は、コミュニケーションが円滑に行われ、協力体制が強化されるため、チームワークが向上します。また、ストレス管理に関する取り組みを行うことで、従業員は会社が自分たちの健康と福祉に関心を持っていると感じ、エンゲージメントが高まります。これにより、従業員のモチベーションや満足度が向上し、離職率の低下にもつながります。結果として、職場環境が改善され、従業員が安心して働ける環境が整います。
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■資料内容抜粋
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・自己啓発への活用方法 など
07まとめ
従業員のメンタルケアの取り組みは、企業の義務として行うものであるといえます。さまざまな法改正もあり、企業としての取り組み姿勢は、社会的な注目を集める関心事となっています。人材確保や育成の観点からも従業員のストレスマネジメントは重要な意味をもちます。今一度、自社の従業員の状態と取り組み内容を検証してみてください。