ドイツ発祥のマイスター制度とは?日本で広がっている背景や導入事例をご紹介

日本の多くの企業は後継者不足の問題を抱えています。そんな中でドイツ発祥の概念である「マイスター制度」というものが日本においても注目を集めるようになっています。マイスター制度とはどういった制度なのか、メリットや導入事例をご紹介しますのでぜひ参考にしてください。
- 01.マイスター制度とは
- 02.ドイツにおけるマイスター制度の成り立ち
- 03.日本におけるマイスター制度の成り立ち
- 04.マイスター制度のメリット
- 05.マイスター制度のデメリット
- 06.マイスター制度の導入事例
- 07.まとめ
01マイスター制度とは
マイスター制度とは、優れた技術や技能を持つ人材を認定・育成するための仕組みです。マイスターとはドイツ語で「巨匠」や「大家」を意味し、専門的な知識と豊富な経験を兼ね備えた職人に対して尊敬を込めて用いられる言葉です。企業や教育機関では、技能伝承や人材育成を目的にマイスター制度を導入することが多く、手当支給や表彰制度を通じて従業員のモチベーション向上にもつながります。
日本では少子高齢化や後継者不足の課題に対応するため、ドイツ発祥のマイスター制度が注目されています。例えば工業高校では「ジュニアマイスター顕彰制度」が導入され、生徒が資格取得や技能習得を通じて評価される仕組みがあります。全国工業高等学校長協会が実施しており、若いうちから専門技術を学ぶ支援として活用されています。
▶︎関連記事:ジュニアマイスター顕彰制度について|全国工業高等学校長協会
さらに厚生労働省は「ものづくりマイスター制度」を制定し、優れた技能を持つ人材を「ものづくりマイスター」として認定しています。この制度では、中小企業や教育機関において若手人材へ実践的な指導を行い、技能伝承を進めています。対象には製造業に限らず、IT分野の「テックマイスター」や「ITマイスター」も含まれ、幅広い分野で活用が広がっています。
02ドイツにおけるマイスター制度の成り立ち
ドイツのマイスター制度は、中世ヨーロッパのギルド制度を基盤とし、長い歴史の中で職業訓練制度として確立されてきました。熟練者による技能継承を通じて産業発展を支え、今日では高い技術力を維持する仕組みとして機能しています。
中世ギルド制度が基盤
マイスター制度の起源は中世のギルド制度にあります。ギルドは職人同士の組合であり、品質管理や価格調整だけでなく、徒弟制度を通じて若手育成を担っていました。この仕組みが後に制度化され、マイスターという称号が確立されました。
職業訓練制度としての確立
近代以降、ドイツでは産業の高度化に伴い、体系的な職業訓練制度が必要とされました。そこで、実務経験を積んだ職人が試験を経てマイスター資格を取得し、次世代に技術を伝える制度が整備されました。これにより、教育と実務が連動した強固な人材育成基盤が形成されました。
技能の継承と産業発展の促進
マイスター制度は、技能を世代を超えて継承する役割を果たしてきました。高度な技能を持つ人材が安定的に育成されることで、製造業や工芸分野の発展を促進し、ドイツが世界有数の工業国として成長する原動力となりました。
03日本におけるマイスター制度の成り立ち
日本のマイスター制度は、ドイツの仕組みを参考に導入され、技能継承と人材育成を目的として発展してきました。少子高齢化や後継者不足といった社会課題に対応するために活用され、現在では公的な制度も整備されつつあります。
ドイツ制度の導入
日本では、高度な技能を持つ人材の確保と育成が重要視される中で、ドイツのマイスター制度が注目されました。特に製造業を中心に制度の考え方が取り入れられ、技能伝承の仕組みとして日本独自の形で展開されるようになりました。
技能継承と人材育成
戦後の高度経済成長期には、大量生産と同時に高品質な製品づくりが求められました。そこでマイスター制度の考え方が取り入れられ、熟練技能者が若手を直接指導する仕組みが広がりました。これにより技能継承が促進され、現場に根差した人材育成の基盤が築かれました。
公的な制度の整備
近年では、厚生労働省による「ものづくりマイスター制度」など、公的な支援制度が整備されています。これにより優れた技能を持つ人材が正式に認定され、教育機関や企業で若手を指導する仕組みが広がっています。制度化によって、技能の社会的評価と人材育成の促進がより一層進んでいます。
04マイスター制度のメリット
日本国内においても普及の進んでいるマイスター制度には、以下のようなメリットがあります。
- 1.後継者育成に適している
- 2.マニュアル化しづらい技術を継承できる
- 3.技術力が向上し生産性が向上する
上記についてここで詳しく解説していきます。
後継者育成に適している
まず挙げられるメリットが、マイスター制度を導入することで後継者の育成を行えることです。日頃の業務の中で、熟練者が若手に対してマンツーマンで時間をかけて指導をしっかりと行うことは難しく、後継者育成が進みにくいのが現状です。その中でマイスター制度を導入すれば、育成を担うマイスターに対して組織が支援できるため、後継者を計画的に育てやすくなります。
マニュアル化しづらい技術を継承できる
マイスター制度を導入することにより、マニュアル化が難しかった技術も丁寧に伝承できるようになります。製造業や建築業などでは、属人的なノウハウが多く存在します。そのため技術の継承は課題になりやすいですが、マイスター制度を活用することで正確な技術伝承が可能になります。
技術力が向上し生産性が向上する
マイスター制度を用いて熟練者のノウハウや経験が継承されると、能力の高い人材が社内に増えます。従来は一部の人しか対応できなかった業務を複数人がこなせるようになり、生産性の向上につながります。技術力不足で生産性に課題を抱えている企業にとって、マイスター制度は有効な解決策となります。
05マイスター制度のデメリット
マイスター制度には、メリットだけでなく以下のようなデメリットも存在します。
- 1.適用対象の選別が必要になる
- 2.イノベーションの発生を阻害する
- 3.モチベーションの低下につながる
上記についてここで詳しく解説していきます。
適用対象の選別が必要になる
まず挙げられるのが、マイスター制度を全技能に一度に適用しようとすると、多くの費用と時間がかかることです。それだけでなく、技能継承が中途半端になり、結果として育成が失敗に終わる可能性もあります。導入する場合は優先順位を定め、効果が高い領域から順に取り組むことが重要です。
イノベーションの発生を阻害する
マイスター制度は既存技術の継承には効果的ですが、新しい技術や発想の創出にはつながりにくい点があります。場合によっては、革新的な発展を阻害する可能性も否定できません。したがって、制度の活用と並行してイノベーションを促進する取り組みも必要です。
モチベーションの低下につながる
制度の導入によって、逆に従業員のモチベーション低下を招く場合もあります。後継者育成の対象に選ばれなかったり、認定試験に不合格が続いたりすると意欲を失う恐れがあります。また、指導側に過度な負担がかかれば業務への支障も生じます。報酬や対価を十分に与え、適切な動機付けを行うことが必要です。
06マイスター制度の導入事例
最後に、マイスター制度を導入し効果的に活用することに成功した企業の事例を4つご紹介します。導入を検討している企業の方はぜひ参考にしてください。
高島電機株式会社の事例
高島電機株式会社は、1949年創業の電設資材やFA機器、制御機器を製造する企業です。従業員の設計理解を深め、営業活動に付加価値を与える目的でマイスター制度を導入しました。外部から認定資格を持つマイスターを招き、営業担当全員に実技指導を実施した結果、設計知識が深まり、取引先とのコミュニケーションが改善し、売上向上に貢献しました。
▶︎参考:機械・プラント製図 髙島電機 株式会社|厚生労働省
白崎コーポレーションの事例
白崎コーポレーションは、再生トナーカートリッジを製造販売する福井県の企業です。派遣社員や契約社員のモチベーション向上を目的に2010年4月にマイスター制度を導入しました。スキルを細かく定義し、習熟度ごとに3ランクに分け資格者を表彰する仕組みを導入した結果、生産性が向上し、作業工程や作業時間が2004年比で半減する効果が得られました。
富士興業株式会社の事例
富士興業株式会社は、1957年設立の建設業の会社です。プラントエンジニアリングに必要な専門技術を担える人材育成に課題を抱えていました。マイスター制度を導入し、従業員を5段階で評価する仕組みを整えたことで、公平な評価と技術継承が進み、従業員のモチベーションと生産性の向上につながりました。
株式会社アシストの事例
株式会社アシストは、1972年設立のコンピューターパッケージ販売や教育サポートを行う企業です。次世代を担う人材育成を目的にマイスター制度を導入し、技術職のキャリアパスを明確化しました。トップ技術者にマイスター称号を付与し表彰したことで誇りを持たせ、指導力の強化と全社的なスキルアップを実現しました。
▶︎参考:マイスター制度|株式会社アシスト
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07まとめ
マイスター制度は、ドイツで発展した職人育成の仕組みを基盤に、日本でも技能継承や人材育成の解決策として活用されています。熟練者から若手への技能伝承を体系化できるため、後継者不足の解消や組織全体の技術力向上に寄与します。一方で、制度の適用範囲や導入方法を誤ると、負担増やモチベーション低下につながる可能性もあります。導入を検討する際は、メリットとデメリットを理解したうえで、自社の課題に適した形で制度を活用することが重要です。