減給とは?違法な減給をしないための知識と減給可能額の計算方法を解説

賃金に関する法律は数多くあります。減給は労働基準法により定められていますが、適切に減給を行うためには労働契約法の知識も必要になります。また就業規則に関する法律についても知っておく必要があるでしょう。そのような減給について法的制限や注意点などを解説します。
- 01.減給とは?
- 02.減給が許されるケース
- 03.減給する際の注意点
- 04.減給と言われた際の対応
- 05.減給可能額の計算
- 06.まとめ
01減給とは?
減給とは懲戒処分の一つで、一定の期間において一定の割合で賃金を減額する処分を指します。主に「労使の合意による場合」と「合理的な理由に基づく措置による場合」があります。一般的に多いのは後者で、勤務態度や規律違反などに対して行われるケースです。ただし、合意を必要としない減給には注意が必要です。合理的な理由がない限り、使用者の判断だけで一方的に賃金を減らすことはできません。
減給と賃金カットの違い
減給と賃金カットはいずれも給料を減らす点では同じですが、性質が異なります。賃金カットは「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、労務を提供しなかった分を差し引くものです。欠勤や遅刻など、働かなかった時間に応じて支給額を調整します。一方で減給は懲戒処分の一種であり、勤務をしていても就業規則に反する行為などがあった場合に科される処分です。
減給の法的制限
減給には法的な上限が定められています。金額や期間、懲戒処分としての有効要件など、厳格なルールが存在します。労働基準法第91条では、「一回の減給額は平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、総額は1賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない」と規定されています。さらに、懲戒処分として減給を行う際は、あらかじめ就業規則に処分の種類と事由を明示しておく必要があります。定めがないまま処分を行った場合、無効と判断される可能性もあります。
▶︎参考リンク:労働基準法(e-Gov法令検索)
02減給が許されるケース
減給は懲戒処分の1つとして行われることが多いものの、それ以外の理由で実施される場合もあります。ここでは、代表的な減給が認められるケースを紹介します。
懲戒処分
前述のとおり、減給は懲戒処分の一手段です。懲戒処分による減給を行う際は、「就業規則への明記」「事実確認」「就業規則に沿った手続きの実施」という手順を踏む必要があります。ただし、就業規則に記載していれば自由に処分できるわけではありません。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効と判断されます。さらに、減給額には労働基準法第91条による上限規定が適用されます。
降格人事
降格に伴って減給を行うケースもあります。企業には人事権があり、合理的な範囲での降格人事は認められます。ただし、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用と判断される場合には無効となります。降格自体に法的な明記義務はありませんが、降格と減給が連動する制度であれば、就業規則上にその連動性を明示しておくことが求められます。
就業規則の変更
会社の経営状況や制度改定などにより、就業規則を変更して減給を行う場合があります。労働契約法第9条・第10条では「不利益変更の禁止」が定められており、従業員に不利益となる変更を行う際は原則として個別の合意が必要です。ただし、変更の必要性が高く、不利益の程度が軽微である場合、かつ合理的な内容であれば例外的に認められることもあります。変更内容を社員に十分に周知することも重要です。
人事評価の変動
人事評価制度に基づく減給も認められます。業績や勤務態度などの評価が下がった結果として給与が減るケースです。ただし、評価基準が不透明であったり、恣意的な判断が加えられたりするとトラブルに発展する可能性があります。公平な評価基準を設定し、従業員が納得できる形で運用することが求められます。
職務内容の変更
異動や配置転換などにより職務内容が変更され、それに伴って給与体系が変わる場合もあります。たとえば管理職から一般職に戻る際などが該当します。この場合も、労働契約や就業規則に基づく合理的な根拠が必要です。本人の同意を得ずに一方的に職務や給与を変更することは、労働契約法の趣旨に反する行為となります。
経営悪化
経営悪化に伴う人件費削減のために減給を行う場合、明確な法的根拠は存在しません。経営難であっても、従業員の合意なしに給与を下げることは原則として認められていません。労働契約法第9条および第10条で定める「不利益変更の禁止の原則」により、企業は合理的な理由と社員への十分な説明・同意を得なければなりません。合理性が認められ、変更後の就業規則を適切に周知している場合に限り、例外的に有効とされる場合があります。
03減給する際の注意点
減給を行う際には、法律上の制限や社内規程との整合性を十分に確認する必要があります。誤った対応をすると懲戒処分の無効や労働トラブルに発展するおそれがあります。ここでは、減給時に注意すべきポイントを解説します。
減給できる額には上限がある
減給には金額の上限が定められています。労働基準法第91条では「1回の減給額は平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、総額は1賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない」と規定されています。これは、労働者の生活を守り、使用者の恣意的な処分を防ぐ目的があります。上限を超える減給は違法となる可能性があるため、注意が必要です。
1回の問題行動に対して懲戒処分が行えるのは一度だけ
懲戒処分では「二重処分」が禁止されています。同一の行為について複数回懲戒処分を行うことは、憲法上の「二重処罰の禁止」と同様の理念に基づき無効とされます。過去の行為に対して再度処分を科すことはできませんが、同じ従業員が別の行為で懲戒対象となった場合は、再度の処分が認められます。
降格人事でも職務内容に変化がなければ認められない
降格人事による減給は、社会通念上著しく妥当性を欠く場合には権利の濫用として無効となります。特に、次のようなケースでは違法と判断されるおそれがあります。
- 判断に上司の私情が含まれている場合
- 経営悪化を理由に一方的に降格した場合
- 役職が下がっても職務内容が変わらない場合
形式上の役職変更だけで実際の業務が変わらない場合は、名ばかり降格とみなされることがあります。このような場合に減給を行うと、労働契約法違反として無効とされる可能性があります。
原則として労働者の同意が必要
経営上の理由などで減給を行う場合でも、原則として労働者本人の同意が必要です。労働契約法第9条・第10条で定められる「不利益変更の禁止の原則」により、企業は従業員に不利益となる変更を一方的に行うことはできません。合理的な理由があり、かつ労働条件変更の必要性が高いと認められる場合に限り、例外的に認められるケースもあります。
妊娠を理由とする減給は原則禁止
男女雇用機会均等法第9条第3項では、妊娠や出産、または労働基準法第65条に基づく産前産後休業を理由とした不利益な取り扱いを禁止しています。不利益な取り扱いには、減給や賞与の不当な減額も含まれます。つまり、妊娠を理由として減給を行うことは原則として違法です。
ただし、以下のような合理的な理由がある場合に限り、例外的に減給が認められる可能性があります。
- 休業や時短勤務によって実労働時間が減少した場合
- 業務遂行能力や労働能率の低下が明確に認められる場合
このように、妊娠そのものではなく、労働実態に基づく合理的な理由がある場合のみ、減給が例外的に許されます。
▶︎参考リンク:労働基準法(e-Gov法令検索)
04減給と言われた際の対応
会社から減給を通告された場合、感情的に反応せず、まずは冷静に事実関係を確認することが大切です。安易に同意してしまうと、後から撤回できない可能性があります。減給には法的な制限があり、企業側の一方的な判断で決定できるものではありません。ここでは、減給を言い渡された際に取るべき基本的な対応を解説します。
すぐに同意しない
減給を提示された際は、すぐに同意するのではなく、まずは理由と根拠を確認しましょう。企業側が提示する減給が、懲戒処分や業績評価など正当な理由によるものかを見極める必要があります。特に懲戒処分に基づく場合は、就業規則に該当する明確な事由があるかを確認します。同意してしまうと、後から不当な減給だったとしても撤回が難しくなります。納得できる説明が得られるまでは署名や押印を避け、冷静に対応することが重要です。
不利益変更の事実を確認
減給の背景が経営上の都合や人事制度の見直しなどの場合、労働条件の不利益変更に該当する可能性があります。労働契約法第9条・第10条では、労働者に不利益となる変更は原則として労働者本人の同意が必要とされています。減給が合理的な理由のない不利益変更にあたる場合は、同意せずに対応を保留しましょう。また、就業規則の改定や評価制度の変更など、減給に至った経緯を明確に確認することが大切です。
証拠を集める
減給の不当性を主張するためには、客観的な証拠を集めることが欠かせません。たとえば、減給を通告された際の文書やメール、会話の録音、評価結果の記録などです。口頭での通達のみの場合、後から内容が曖昧になるおそれがあります。証拠を確保することで、社内での申し立てや外部機関への相談時に有利になります。また、日々の勤務実績や業務内容も記録しておくと、正当な評価を受けていないことを立証しやすくなります。
専門家への相談
自分だけで対応するのが難しいと感じた場合は、労働問題に詳しい専門家へ相談しましょう。社内の人事部や労働組合のほか、外部の「総合労働相談コーナー」(厚生労働省)や「労働基準監督署」、弁護士などが相談先として挙げられます。専門家に相談することで、会社側の対応が法的に妥当かどうかを判断できます。減給が不当であると認められた場合、是正勧告や訴訟によって救済を受けられる可能性もあります。
05減給可能額の計算
前述のとおり減給を行える金額と期間については上限があります。
一回当たりの減給額の制限
基本の考え方は「一回当たりの減給限度額」=「平均賃金の日額分」×0.5(2分の1)です。 平均賃金の一日分の半額を超えてはいけないという原則から計算をします。ここでいう平均賃金日額とは「減給処分の直前の賃金締切日から3カ月間に支払った賃金の総額」÷「その3カ月間の総日数」で求めます。 例えば月給40万円の場合、7月1日に減給処分としたときは以下の通りです。 40万×3か月=120万円 120万円÷(30日(4月)+31日(5月)+30日(6月))=13,186円(平均賃金の日額分) 13,186×0.5=6,593円 上記の6,593円が一日の減給の限度額です。例え100万円の損害を出したとしても懲戒処分に当たる行為が一度だけであれば、一日につき6,593円しか減給できません。
減給額の総額の制限
度重なる懲戒処分に当たる行為を起こしたとしても、一賃金支払い期における減給総額は賃金総額の10分の1を超えてはいけません。 つまり、前述の例で十回の懲戒処分に当たる行為が判明したとしても、ひと月で減給できる金額は40,000円が上限になります。残りの25,930円は翌月にもたらされます。 一回当たりの減給額と一賃金支払い期における減給総額と二重懲罰の禁止の原則により、減給される期間が長期に渡ることはありません。
最低賃金を下回っても違法ではない
最低賃金で雇用している労働者に懲戒処分による減給を行うと、最低賃金を下回ってしまいます。最低賃金法第4条には「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金以上の賃金を支払わなければならない」と定められています。しかしこの規定は労働契約上において最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないことを意味しています。減給は所得税などと同様で、法令による控除に該当します。そのため、減給により手取り額が最低賃金を下回ったとしても違反となりません。
賞与にも減給額の制限は適用される
そもそも賞与の支給は事業主の裁量によって決定します。賞与を支給しないことは違法ではありません。賞与の金額をあらかじめ確定していない場合には、個々の勤務成績などを基に増減することが認められています。そのため、懲戒処分としての減給ではなく評価査定結果による減額は可能であり、不支給にすることもできます。この際には懲戒処分としての扱いにならないため上記の減給の上限は適用されません。 ですが賞与を制度として設け、算定期間や支給基準、支給額、支給日などを就業規則に記載している場合には労働基準法上では「賃金」に該当するとされます。この場合の「賞与」は「賃金」であるため、減給の上限規制が適用されるため注意が必要です。
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06まとめ
減給にはさまざまなケースがありますが、いずれの手段をとっても労働者を保護する法律が存在します。使用者の都合だけで簡単に給与額は変更できません。減給は慎重に行うべきでしょう。 また、社員の成績が良いからといって簡単に昇給させすぎることも危険です。昇給は簡単でも減給にはハードルがあり、一度上げた給与を下げることは簡単ではないからです。給与は労働者にとっても使用者にとっても重要で繊細な問題です。この記事を機に、給与関連の決定には慎重を期することが求められると、改めて認識しておきましょう。
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登壇者:坪谷 邦生 様株式会社壺中天 代表取締役
立命館大学理工学部を卒業後、エンジニアとしてIT企業(SIer)に就職。疲弊した現場をどうにかするため人事部門へ異動、人事担当者、人事マネジャーを経験する。その後、リクルートマネジメントソリューションズ社で人事コンサルタントとなり50社以上の人事制度を構築、組織開発を支援する。2016年、人材マネジメントの領域に「夜明け」をもたらすために、アカツキ社の「成長とつながり」を担う人事企画室を立ち上げ、2020年「人事の意志をカタチにする」ことを目的として壺中天を設立し代表と塾長を務める。