人材ポートフォリオとは|目的や作り方などを解説

人材ポートフォリオとは、企業が保有する人材資源を適切に配置・活用するための管理手法です。近年、人的資本経営や伊藤レポートによって、人材の採用や育成、最適配置に活用できるとして注目を集めています。本記事では、人材ポートフォリオのメリットや効果的に作成するためのポイントについて解説します。
- 01.人材ポートフォリオとは
- 02.人材ポートフォリオが注目されている背景
- 03.人材ポートフォリオを可視化する目的
- 04.人材ポートフォリオの作り方
- 05.人材ポートフォリオを効果的に作るためのポイント
- 06.人材ポートフォリオの導入事例
- 07.まとめ
01人材ポートフォリオとは
人材ポートフォリオとは、企業が持つ人材資源を適切に配置・活用するための管理手法です。企業の経営戦略に基づき、社員のスキル、経験、適性、キャリア志向などを整理し、将来的な組織構造や、人材育成の方向性を計画します。これにより、必要なスキルを持つ人材を適切な役割に配置し、組織全体の生産性向上や、競争力強化を図ることが可能になります。
人材ポートフォリオを効果的に活用することで、将来的な組織のニーズに応じたリソース配分ができ、柔軟な人材育成計画を立てることができるのです。
02人材ポートフォリオが注目されている背景
人材ポートフォリオが注目されている背景には、伊藤レポートと人的資本経営への注目が挙げられます。伊藤レポートでは、企業の成長や競争力を高めるためには、多様な個人が活躍する人材ポートフォリオの構築が重要であると示されています。目指すべきビジネスモデルや経営戦略を実現するために、組織内の人材資源を適切に配置し、各個人の特性や能力を最大限活かすことが求められているのです。さらに、人的資本経営が企業経営の中核として注目される中、企業は人材の資本価値を可視化し、育成・活用することが重要であるとされています。
この流れを背景に、タレントマネジメントシステムの導入が加速しています。タレントマネジメントシステムは、企業が保有する人材データを統合し、スキルや適性、キャリア志向を分析・管理することで、最適な人材配置や育成方針を立てることを可能にします。これにより、企業は人材の潜在能力を引き出し、競争力を高め、持続可能な成長を実現することができるようになります。
03人材ポートフォリオを可視化する目的
人材ポートフォリオを可視化する目的は、以下の通りです。
- 1:適切な人材配置
- 2:主体的なキャリア形成の促進
- 3:人材の過不足を把握
人材ポートフォリオの可視化の目的は適切な人材配置を実現し、業務の効率化や組織の生産性向上を図ることです。また、社員が自分の能力を理解することで、主体的なキャリア形成を促し、成長意欲を高めると同時に、企業側も適切な育成支援が可能となります。さらに、組織全体での人材の過不足を把握することで、採用や育成、配置転換を最適化し、事業目標に合致した人材戦略を立案できるようになります。
適切な人材配置
人材ポートフォリオを可視化する目的の1つは、適切な人材配置を実現することです。各社員のスキル、経験、適性、志向性を把握することで、業務内容やプロジェクトのニーズに合った人材を迅速かつ効果的に配置できるようになります。これにより、社員がその能力を最大限に発揮できる環境が整い、業務の効率化や組織全体の生産性向上につながります。
また、適材適所を徹底することで、社員のモチベーションやエンゲージメントも向上し、結果として企業の競争力を高めることが可能です。さらに、業務の負担が均等に分配されることで、組織内のバランスも改善されます。
主体的なキャリア形成の促進
人材ポートフォリオの可視化は、社員の主体的なキャリア形成を促進する目的も果たします。社員が自分自身のスキルや、キャリアの状況を正確に把握することで、将来のキャリア目標を明確にし、必要なスキルや経験を積むための行動計画を立てやすくなります。
また、企業としても、個々の社員に適した成長機会やトレーニングを提供しやすくなるため、社員が自身のキャリアを積極的に切り拓く意識が醸成されます。このような仕組みによって、社員の成長が企業の成長と一致し、持続的な発展が可能となります。さらに、社員の自己実現が促されることで、エンゲージメントの向上にも寄与します。
人材の過不足を把握
人材ポートフォリオの可視化は、組織全体における人材の過不足を把握するために重要です。可視化されたデータをもとに、現在のスキルや役割がどの程度充足しているのかを分析することで、特定の分野での人材不足や余剰を早期に特定できます。これにより、採用や育成、配置転換などの人材戦略を、迅速かつ効果的に立案できるようになります。
また、将来の事業展開や市場変化に備えた人材計画も立てやすくなります。 結果として、企業はリソースの最適配分を実現し、無駄を排除しつつ、成長のために必要な人材を確保する仕組みを整えることが可能です。
04人材ポートフォリオの作り方
人材ポートフォリオは、以下の手順で作ります。
- 1:活用の目的を明確にする
- 2:基準の軸を決める
- 3:社内の人材タイプを分類する
- 4:理想の配置人数と比較する
- 5:人材の不足や過剰を調整する
人材ポートフォリオを作成する際にまず行うのは、目的の明確化です。次に、スキルや役割など評価基準となる軸を設定し、これを基に社内の人材タイプを分類します。続いて、理想的な人材配置と現状を比較し、過不足を分析します。最後に、分析結果から、採用や育成、配置転換を通じて不足や過剰を調整し、事業目標に適した人材配置を実現しましょう。
活用の目的を明確にする
「人材ポートフォリオを活用して何を実現したいのか」を明確にしておく必要があります。目的を定めずに進めてしまうと、人材配置の際にミスマッチが発生してしまったり、最悪の場合は離職に至るケースもあります。したがって、人材ポートフォリオは中長期的な経営計画や企業戦略を元に目的を定めていきます。必要に応じて、経営層とのすり合わせをしていく必要があるため、目的の設定は念入りに行いましょう。
基準の軸を決める

まず、自社に必要な人材タイプを分類する前に、基準となる軸を決めます。凡庸性が高い一般的な軸に「個人と組織」「創造と運用」が挙げられます。個人単位で行うかチーム単位で行う業務か、新しい商品や事業を創造するか、既成のものを運用するかで判断します。
この軸を使って人材を4つに分類すると、「クリエイティブ」「マネジメント」「エキスパート」「オペレーション」に分けることができます。 業務内容や人材ポートフォリオ分析の目的に合わせて、自社に適した軸を決めます。他にも雇用形態で分類する例として、「総合職と専門職」「常時雇用と臨時雇用」を軸とすることもできます。
社内の人材タイプを分類する
基本の軸が決まったら、社内の人類タイプを分類します。分類の際に、人事担当や分類をする人の主観が入らないよう、客観的なデータを活用すると良いでしょう。例えば、能力や性格により分類する際は、適性検査の結果に基づいた分類を行います。 新卒採用で利用される「SPI3」や、測定項目数が豊富な「eF-1G」などの適性検査を全社員に受けてもらい、科学的かつ客観的に分類します。そうすることで、社員にとっても納得のいく結果となるでしょう。
理想の配置人数と比較する
人材タイプを分類したら、理想の配置人数と比較します。ここで、人材配置の課題が見えてくるでしょう。例えば、「マネジメント人材の人数は多いが、若手が少ないため数年後に不足するだろう」「オペレーション人材に対してマネジメント人材が少なすぎる」などです。 人材の過不足や、将来の見通しを可視化することで、次にやるべきことが明確になります。理想と現実のギャップをすぐに比較できるよう、企業が理想とする人材ポートフォリオを作成しておくのが効果的です。
人材の不足や過剰を調整する
人材ポートフォリオ分析で明確になった課題を調整するために、理想の人材配置となるよう不足や過剰を調整します。対策方法は基本的に以下の4つになります。
- ・採用(新卒、中途、アルバイト、派遣社員など)
- ・退出・解雇(早期退職の推奨や役職定年制度など)
- ・育成(研修や人事評価など)
- ・配置転換(部署異動や転勤など)
適材適所がされていない人材を減らして、組織としてのパフォーマンスを最大化するのがポイントです。
05人材ポートフォリオを効果的に作るためのポイント
人材ポートフォリオを、効果的に作るためのポイントは、以下の6つです。
- 1:全社員を対象とする
- 2:人材の分類に優劣を付けない
- 3:経営戦略を反映させる
- 4:作成には時間がかかることを理解する
- 5:社員の希望を考慮に入れる
- 6:採用の要件定義を見直す
人材ポートフォリオを効果的に作成するには、全社員を対象とし、公平性を保ちながら人材を分類することが重要です。また、経営戦略を反映させた設計を行い、企業の目標達成に寄与する内容にする必要があります。作成には時間がかかる点を理解し、丁寧に進めるとともに、社員の希望を考慮して意欲や能力を最大限引き出します。
さらに、採用時の要件定義を見直し、ポートフォリオと整合性を持たせることで、効果的な活用が可能となります。
全社員を対象とする
人材ポートフォリオ分析を行う際は、正社員だけでなく、派遣社員やパート、アルバイトも含めて全社員を対象としましょう。分析の目的は、企業の目標を達成するための人材配置の最適化であるため、雇用形態に関わらず、すべての社員を含める必要があります。 仮に、正社員のみを対象とすると、派遣社員や、パート社員が占めているオペレーション人材の不足が結果として出てしまうなど、正確な分析に繋がらないと考えられます。
人材の分類に優劣を付けない
人材ポートフォリオの分類に優劣を付けないことも重要なポイントです。これは、人材タイプを客観的に把握するためで、順位を付けたり優遇するために用いたりすることが社員に知れ渡ると、不満を抱いてモチベーションが下がることが考えられます。離職に繋がる場合もあるので、取扱いに注意が必要です。
経営戦略を反映させる
人材ポートフォリオの軸や理想とする人数を決める際は、経営戦略を反映させることが重要です。最終的には企業目標の達成を目指しているため、関係性のある項目を軸として設定しましょう。「何となく他の企業もそうしているから」という理由で軸を決めると、一貫性のない取り組みになると考えられます。
作成には時間がかかることを理解する
人材ポートフォリオの作成には、時間がかかることも理解する必要があります。作成にあたっては、人事担当だけでなく、企業の経営陣や管理職も含めて話し合い、企業目標や取り組みの方向性を決定することになります。また、軸の決定は人材ポートフォリオの完成度を左右する大切なポイントなので、時間をかけて決める必要があると言えるでしょう。その他、適性検査の実施や人材の分類、分析にも時間がかかると考えられます。
社員の希望を考慮に入れる
人材ポートフォリオの分析結果に基づいて人材配置を行う際は、社員の希望を考慮に入れるようにしましょう。本人の希望を聞かずに一方的に配置を決めてしまうと、モチベーションの低下や離職にも繋がる可能性があります。そのため、社員の希望をヒアリングする機会を設けることも忘れないようにしましょう。
採用の要件定義を見直す
人材ポートフォリオを作成していく中でそもそも自社が求める人材と実際に採用している人材のズレがある場合があります。ズレが生じたまま、採用を進めていくと人材ポートフォリオの均衡が崩れてしまいます。したがって、人材ポートフォリオを作成していく段階で、自社の採用における要件定義とズレがないかはチェックしていきましょう。
06人材ポートフォリオの導入事例
人材ポートフォリオを導入した企業は以下の通りです。
- ・株式会社電通国際情報サービス
- ・花王株式会社
- ・株式会社サイバーエージェント
- ・旭化成株式会社
- ・三井情報株式会社
- ・東京海上ホールディングス株式会社
各企業において、人材ポートフォリオの導入を通じて、経営戦略に基づいた必要な人材の可視化や育成、配置の最適化を図っています。電通国際情報サービスや旭化成は、人材のギャップ分析を活用して採用や育成を強化し、花王や三井情報は社員の成長促進や多様な人材の確保に注力。東京海上やサイバーエージェントは能力重視の配置やリーダー育成を進め、組織全体の成長力を高めています。
▶︎参考:人的資本経営の実現に向けた検討会
株式会社電通国際情報サービス
ITバブルの崩壊で、情報サービス業界は事業環境の厳しさに直面するようになりました。そこで、「事業ポートフォリオの再構築」の計画に対応して「人材ポートフォリオの再構築」にも着手することになりました。目的は、強化するべき人材の質と量を見極めて、確保と育成を図るためです。 あるべき人材ポートフォリオと、スキルチェックの結果で把握した現状の人材ポートフォリオのギャップ分析と対策検討を行い、人材育成への展開に活用しました。また、毎年度制作される人材ポートフォリオで、人材リソースの見える化が可能になりました。
花王株式会社
大手消費財メーカーの花王では、社員が自ら大きな目標掲げて挑戦していくことで、一人ひとりが成長し、結果的に会社の成長や社会に貢献すると考え、KPIに基づいた目標管理・評価制度を改定。「ありたい姿や理想に近づくための高く挑戦的な目標」としてOKR(Objectives & Key Results)を導入しました。
株式会社サイバーエージェント
インターネット広告の代理店を軸としてさまざまな事業を行うメガベンチャーのサイバーエージェントでは、広告事業で培った「結果を出す」というカルチャーのもと、新卒1年目を子会社社長に抜擢したり、経営部門への若手起用、社外人材を活用した研修などを実施しています。これにより、メディアやゲーム、テレビといった継続的な事業拡大を実現しています。
旭化成株式会社
旭化成は経営戦略と連動した人材ポートフォリオを基盤に、必要な人材を事業軸と機能軸の両面で年1回精査し、新卒・キャリア採用や社内育成を計画的に行っています。また、採用や育成だけで補えない人材は、M&Aや投資を活用して獲得しています。これにより、戦略に沿った人材確保と組織強化を実現し、持続的な成長を目指しています。
三井情報株式会社
三井情報はグローバル規模で人材戦略を再構築し、各地域の人事部門と連携しながら人材の可視化や基盤作りを進めています。特にリーダー育成に注力し、MBA級プログラムやエグゼクティブコーチングを活用。事業変革を推進するため、キャリア採用を増やし、多様な価値観を持つ人材の獲得を強化。2025年度まで年間採用250人中6割をキャリア人材とする方針で、長期的な成長を支える人材戦略を展開しています。
東京海上ホールディングス株式会社
東京海上ホールディングスは、グループ全体の経営を支える人材育成を目的に、年齢や在籍年数に関係なく管理職へ能力重視で配置する制度を導入。評価体系や報酬制度も市場競争力を考慮し、中長期的なキャリア形成を可能にしています。これにより、トップタレントの獲得とグローバル経営人材の育成を促進し、組織全体の成長力を強化しています。
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07まとめ
人材ポートフォリオの概要やメリット、効果的に作るためのポイントをまとめました。多様な働き方の実現や、企業の目標達成のためには、既存の人材の見直しと改善が必要不可欠です。この点で、理想とする人材ポートフォリオと現実の人材ポートフォリオを比較して、適材適所の人材配置とパフォーマンスの最大化を目指すことが効果的であると言えるでしょう。