人材育成の方針とは|経営戦略を達成するための人事戦略を作成する方法

人材育成の方針とは、企業にとって「どのような人材を育成していくか」を定めた羅針盤になります。このコラムでは、人材育成の方針をどのように作成するかを詳しく紹介します。
- 01.人材育成の方針とは
- 02.人材育成の方針を立てる目的
- 03.人材育成の方針を立てるメリット
- 04.人材育成の方針を作成する方法
- 05.人材育成方針を定めるときの注意点
- 06.人材育成の方針事例を紹介
- 07.人材育成を支援するSchoo for Business
- 08.まとめ
01人材育成の方針とは
人材育成の方針とは、社員に「どのような人材に育成するのか」、そしてそのために「どのような施策を講じるのか」といった内容を定義したものです。自社が求める人材像を見定めるためには、その企業のミッションやビジョン、企業方針など全体像を把握する必要があり、経営者としての視点も必要となるでしょう。
また、人材育成の方針は社会の変化なども踏まえて作成する必要があり、社会の変化を受けて変化していくものでもあります。そのため、作成した方針に固執することなく、常に変化が必要なものとして柔軟に対応しなければなりません。
約3割の企業が人材育成の方針を定めていない
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査によると、人材育成や能力開発について特に方針を定めていない企業は29.6%に上るとのことです。従業員が少ない企業ほど、人材育成を定めていない傾向にあります。また、人材育成の方針を定めている企業において約25%が、人材育成の方針が従業員に浸透していると感じられない旨を回答しています。これらの結果から、人材育成の方針を立てることも大切ですが、従業員に浸透させるための努力も必要であることが伺えます。
02人材育成の方針を立てる目的
人材育成の方針を立てる目的は、「やるべきことを選択するため」・「施策に一貫性を持たせるため」といった2つがあります。人材育成に限らず、工数や予算などリソースは限られているため、やるべきこと・やらないことを決めることが重要です。また、人材育成に関しては中長期で取り組むことが多いため、方針を立てることによって、軌道修正をしやすくするという目的もあります。
やるべきことを選択するため
人材育成の方針を立てる目的の1つは、やること・やらないことを明確にし、リソースをやるべきことに集中させるためです。方針は戦略とも言い換えることができ、戦略があってこその戦術であるため、方針を決めることは全ての指針になります。方針を決めることによって、何に注力するのかを決めることができ、その方針が合っていたのかどうかの振り返りをするスピードも早めることができます。
施策に一貫性を持たせるため
人材育成の方針は、各研修や育成プログラム、評価制度などを決める際の羅針盤になります。「どのような人材になってほしい」かという方針を作成し、その方針を具体的に落とし込むことで、どのような評価制度にするべきか、どのような研修を行うべきかなどが見えてくるのです。方針に則った研修や評価制度は一貫性を持っているので、各社員も自分がこの研修を受けている意味を理解しやすくなります。
例えば、「社会の変化に対して柔軟に対応できる社員を育成する」という方針を立てた場合、社会の変化をキャッチアップできるような研修を行う必要が出てくるでしょう。また、その変化に対して柔軟に対応できるように、自発的に行動できるような積極性も求められます。さらに評価制度も方針に合わせて改定する必要があるでしょう。自発的に考え、提案し、結果を出した社員を評価するような制度を作成し、会社として方針に則った社員を評価することを示す必要があります。
03人材育成の方針を立てるメリット
実際のところ、人材育成の方針を立てなくても研修などは行えます。では、方針を立てることにどのようなメリットがあるのか、ここで詳しく解説します。
従業員のモチベーション向上
人材育成の方針を立てることで、従業員のモチベーション向上が期待できます。まず、従業員に対してキャリア開発の機会を提供することで、自身の成長やキャリア目標を実現できる可能性が高まります。これにより、仕事に対する意欲が高まり、より高いパフォーマンスを発揮することが期待できます。
自社の価値観の明確化
人材育成の方針を通じて、経営陣やトップリーダーが自社のビジョンやミッションを示し、共有することで、組織全体で共通の方向性が明確になります。 従業員が自社の価値観を理解することは、組織の一体感を醸成する上で重要です。明確な価値観は、組織文化を形成し、共通の目標に向けて一丸となって取り組む原動力となります。従業員が価値観に共感し、それを胸に自分の仕事に対する意欲を高めることで、個々のパフォーマンスが向上し、組織全体の成果に寄与することが期待されます。
04人材育成の方針を作成する方法
人材育成の方針とは、企業が社員に求める理想の社員像を言語化したものです。つまり、その方針は企業としてのビジョンやミッションを反映したものである必要があり、経営の視点も含めたものでなくてはなりません。
ここでは人材育成の方針を作成する方法を3つのフェーズに分けて解説します。
- 1:ビジョン・ミッションの深掘り(長期視点)
- 2:経営戦略の確認(中期視点)
- 3:経営戦略を達成するための人事戦略(短期視点)
1.ビジョン・ミッションの深掘り(長期視点)
人材育成の方針が社員に「どのような人材になってほしい」かを定義するものであるならば、ビジョン・ミッションは企業として「社会にどのような価値を還元していくか」を定義したもの、企業の方向性を示す羅針盤と言えます。つまり、企業として達成したいミッションを実現するためには、どのような人材が必要かという視点で、人材育成の方針を作成する必要があるのです。
多くの企業が、ミッションを実現するための行動指針を定めています。その行動指針が具体性を帯びている場合、それが人材育成の方針となる場合も時としてあるでしょう。
2.経営戦略の確認(中期視点)
ビジョン・ミッションを確認したら、次は経営戦略を確認しましょう。ミッションは「世界的なリーディングカンパニーになる」のような長期的な視点、一方で経営戦略は中期的な視点で作成されるものです。多くの場合、5年や10年といった期間で経営戦略は発表されるため、直近の採用や研修の方向性を決める上で重要な指標になります。
3.経営戦略を達成するための人事戦略(短期視点)
ミッションや行動指針を深掘りし、経営戦略で中期的に企業が向かう方向性を理解したら、そのミッションや経営戦略を達成するために、どのような人事戦略を打つべきなのかを考えます。この際に注意すべきなのが、戦略と戦術を混合してしまうことです。戦略と戦術と言う言葉はよく聞くが、あまり理解できていないという人のために具体例を交えて紹介していきます。
「多様性を尊重する組織を作る」という戦略を立てた場合、育休・産休に対する制度の作成や、リモートワークの許容範囲を作成するなどが戦術です。戦略が全体的なシナリオを意味し、戦術はシナリオを実現するための具体的な手段と言えます。人材育成という視点で言えば、どのような人材を育成するかが戦略、どのように育成するかが戦術となります。
05人材育成方針を定めるときの注意点
人材育成方針を定めるときの注意点は、主に以下の2つがあります。
- 1:実現可能なものか
- 2:定期的に見直す
1:実現可能なものか
人材育成方針は現実的なものでなければなりません。あまりにも高い目標や理想を掲げてしまうと、達成困難なものを追わなければならず現場の社員は疲弊してしまいます。また、無謀な目標を追うには時間とコストがかかるため、方針を立てたことが悪影響になることすらあるでしょう。
2:定期的に見直す
人材育成方針は定期的に見直す必要があります。VUCA時代とも言われ、テクノロジーは常に進化し続け、環境の変化も激しい昨今では、どれだけ入念に練った方針であっても、すぐに実情と見合わないものになってしまうでしょう。そのため、方針は常に見直しをかけていくものと考えておくべきなのです。 一般社団法人日本経済団体連合会が実施した『人材育成に関するアンケート調査結果』でも、「人材育成の方針や戦略の見直し」に取り組んでいる企業は約8割を超えています。 見直しが必要な要因としては、主に以下の3つが挙げられています。
- ・社員の就労意識の多様化(ダイバーシティ経営の推進)
- ・デジタル技術の進展
- ・社員の職業人生の長期化(人生100年時代への対応)
このように方針を見直している企業の方がマジョリティーであり、この時代に適した考え方であると言えるでしょう。
06人材育成の方針事例を紹介
人材育成の方針を作成する方法について、ご紹介しましたが具体例を知りたいという人もいるでしょう。そこで、この章では航空業界で日本を代表するANAグループを例にして、人材育成方針を見ていきましょう。
行動指針に対しての人事戦略
ANAグループは「ANA's Way」という行動指針を掲げています。

この「ANA's Way」という行動指針を理解・共感し、実践できる人財育成を行うというものがANAグループの大まかな人事戦略と言えるでしょう。
人事戦略に基づく施策(戦術)の一部を紹介
ANA's Day研修
「ANA's Day」とは、行動指針の1つでもある「安全」の重要性を再認識するとともに、グループの未来を主体的に考えることで、個々人の創造性や自立性を高め、他の多様な参加者との対話を通して、組織の壁を越えて信頼関係を醸成するために行う研修のことです。
ANA's Way AWARDS
グループ行動指針「ANA's Way」を実践した事例を広く募集し、社内の選考委員により、「ANA's Way」の各項目の部門賞、社長賞などを選定・表彰し、各職場での好事例を全社で共有しています。
ANA's Way Survey(ANAグループ社員意識調査)
社員の仕事へ臨む想いや姿勢、職場満足度などを定点観測、分析・改善することで、「ANA's Way」の実践強化を目指する「グループ社員意識調査(ANA's Way Survey)」を実施しています。調査実施後は会社・部署ごとの調査結果表を配布し、専門家による説明会とグループディスカッションを実施して、各職場でのコミュニケーションに活かしています。
ANA's Way 遂行度評価制度
一人ひとりの行動が経営ビジョン実現の原動力となることから、求める人財像と経営ビジョンの実現を今まで以上に推進する人事制度への変革を図り、人的競争力向上に取り組んでいます。「ANA's Way」の5つの視点を基に、日常業務の中での発揮・実現状況を、各役職層に求められる期待役割とともに確認しています。
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■資料内容抜粋
・大人たちが学び続ける「Schoo for Business」とは?
・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など

07人材育成を支援するSchoo for Business
Schoo for Businessでは約8,000本の授業をご用意しており、様々な種類の研修に対応しています。その上、自己啓発にも効果的な内容の講座を毎日配信しているため、研修と自己啓発の両方に対応することができるシステムになっています。研修と自己啓発を掛け合わせることにより、誰かに要求されて学ぶのではなく、自発的に学び、成長していく人材を育成することが可能になります。ここでは、Schoo for Businessの具体的な活用方法と、特徴、さらにはどのようなメリットがあるのかを解説します。
1.研修と自己啓発を両方行うことができる
Schoo for Businessは社員研修にも自己啓発にも利用できるオンライン学習サービスです。通常の研修動画は、研修に特化したものが多く、社員の自己啓発には向かないものも少なくありません。しかし、Schooの約8,000本にも上る授業では、研修系の内容から自己啓発に役立つ内容まで幅広く網羅しているため、研修と自己啓発の双方の効果を得ることができるのです。
2.自発的に学ぶ人材を育成できるSchooの講座
上記でも説明したように、Schooでは約8,000本もの動画を用意している上に、毎日新しいトピックに関する動画が配信されるため、研修に加えて自ら学び、成長する人材の育成が可能です。近年の社会のグローバル化やテクノロジーの進化などにより、企業を取り巻く環境が刻々と変化しています。それに伴い、社員の業務内容や求められるスキルも早いスパンで変化しています。このような予測のつかない時代の中で会社の競争力を維持するためには、社員一人一人が自発的に学び、成長させ続けることができる環境、いわば「学び続ける組織」になることが必要です。
Schoo for Businessの講座では、体系的な社員研修だけでなく、自己啓発を通じて自発的に学び、成長できる人材を育成することが可能です。この記事では、人材育成に関して学ぶことのできるSchoo for Businessの講座をご紹介します。
社員研修のあるべき姿
この授業では、社員研修の必要性や役割についてインストラクショナルデザイン(ID)を軸に学びます。研修担当者として「何のために社員研修を行うのか」「研修の役割と担当者としての立ち位置」など、研修の根本的な考え方をまず問い直すために、インストラクショナルデザイン(ID)をもとにした研修のあるべき姿について学んでいきましょう。
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熊本大学教授システム学研究センター 教授
1959年生まれ。Ph.D.(フロリダ州立大学教授システム学専攻)。ibstpi®フェロー・元理事(2007-2015)、日本教育工学会監事・第8代会長(2017-2021)、教育システム情報学会顧問、日本教育メディア学会理事・第7期会長(2012-2015)、日本医療教授システム学会副代表理事、日本イーラーニングコンソシアム名誉会員など。主著に「学習設計マニュアル(共編著)」、「研修設計マニュアル」、「教材設計マニュアル」、「教育工学を始めよう(共訳・解説)」、「インストラクショナルデザインの原理(共監訳)」、「学習意欲をデザインする(監訳)」、「インストラクショナルデザインとテクノロジ(共監訳)」などがある。
※研修・人材育成担当者限定 10日間の無料デモアカウント配布中。対象は研修・人材育成のご担当者に限ります。
ビジネスパーソンの『学習設計マニュアル』
この授業では、学校教育の勉強とは異なるおとなの「学び方」について学びます。日本人の多くは「学び」や「学習」と聞くと、誰もが経験してきた学校教育での先生から生徒に授業を行ったり、テキストや問題集に沿って予習復習を行う「勉強」をイメージするのではないでしょうか。しかしながら、大学および社会に出てからの「学び」とは、そうした学校教育での「勉強」とは言葉は似ていますが、まったく異なる行動なのです。そこで、「学び方」を学ぶことによって、今の自分に適した学習を設計できるように、インストラクショナルデザイン(ID)の研究者である熊本大学・鈴木克明教授からおとなの「学び方」について学んでいきましょう。
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熊本大学教授システム学研究センター 教授
1959年生まれ。Ph.D.(フロリダ州立大学教授システム学専攻)。ibstpi®フェロー・元理事(2007-2015)、日本教育工学会監事・第8代会長(2017-2021)、教育システム情報学会顧問、日本教育メディア学会理事・第7期会長(2012-2015)、日本医療教授システム学会副代表理事、日本イーラーニングコンソシアム名誉会員など。主著に「学習設計マニュアル(共編著)」、「研修設計マニュアル」、「教材設計マニュアル」、「教育工学を始めよう(共訳・解説)」、「インストラクショナルデザインの原理(共監訳)」、「学習意欲をデザインする(監訳)」、「インストラクショナルデザインとテクノロジ(共監訳)」などがある。
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研修の組み立て方 ‐ 設計・実施・評価
この授業では、研修の設計から実施、評価までの一連の組み立て方について学びます。研修担当者のために研修の設計・実施・評価がデザインできるように、インストラクショナルデザイン(ID)をベースにヒューマンパフォーマンスインプルーブメント(HPI)、プロジェクトマネジメント(PM)の考え方を掛け合わせたビジネスインストラクショナルデザイン(BID)を基に研修の組み立て方について、講師2名のデモンストレーション形式で学んでいきます。
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サンライトヒューマンTDMC株式会社 代表取締役社長
熊本大学大学院 教授システム学専攻 非常勤講師。製薬業界での営業、トレーニング部門を経て、起業。HPIやIDを軸とした企業内教育のコンサルティングやインストラクショナルデザイナー、インストラクターを育成する資格講座の運営を行っている。IDの実践方法を提供してきた会社は100社、4,000名を超える。 主な著書:『魔法の人材教育(改訂版)』(幻冬舎、2017年)、『ビジネスインストラクショナルデザイン』(中央経済社、2019年)
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3.受講者の学習状況を把握し、人材育成に役立てることができる
Schoo for Businessには学習管理機能が備わっているため、社員の学習進捗度を常に可視化することができる上に、受講者がどんな内容の講座をどれくらいの長さ見ていたのかも把握することができるため、社員のキャリアプランの傾向を掴むことも可能です。ここでは学習管理機能の使い方を簡単に解説します。

管理画面では受講者それぞれの総受講時間を管理者が確認できるようになっており、いつ見たのか、いくつの講座を見たのか、どのくらいの時間見たのか、ということが一目でわかるようになっています。

さらに、受講履歴からは受講者がどのような分野の動画を頻繁に見ているかが簡単にわかるようになっており、受講者の興味のある分野を可視化することが可能です。これにより、社員がどのようなキャリアプランを持っているのかを把握できるだけでなく、社員のモチベーションを高めながら人材育成するためのヒントを得ることができます。
さらに、社員に自己啓発を目的として受講してもらっている場合、社員がどのような内容の授業を受講する傾向があるのかを把握できるため、社員のキャリアプランを把握することができます。
08まとめ
人材育成の方針とは、社員に「どのような人材になってほしい」かを定義するために作成するものです。その方針を具体的に落とし込むことで、どのような評価制度にするべきか、どのような研修を行うべきかなどが見えてきます。
人材育成の方針を作成するためには、企業のビジョンやミッション・経営戦略などから、どのような人材が必要なのかを考える必要があります。