ホーソン実験とは?人間関係が生産性に及ぼす影響を解説

ホーソン実験は、現在では当たり前に認知されている職場の人間関係が生産性に及ぼす影響をはかろうとした実験のことです。 当記事では過去に行われたホーソン実験の内容、導き出された効果、またその実験を行う背景となった労働システム、それらを受け現在の組織にどう活用すればよいかまでを解説していきます。
- 01.ホーソン実験とは
- 02.ホーソン実験の実験内容と結果
- 03.ホーソン効果と類似した効果について
- 04.ホーソン実験以前に用いられた管理手法とは
- 05.ホーソン実験から得られる組織活動への流用
- 06.まとめ
01ホーソン実験とは
ホーソン実験は、生産性を高めるためにも、環境要因と生産性がどのように関連しているかを確認するための実験です。ここでは、ホーソン実験の概要と実施された背景について解説していきます。
ホーソン実験の概要について
ホーソン実験は、1920年代後半から1930年代にかけて、アメリカのウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われた実験です。研究の目的は、労働環境の物理的条件(照明や休憩時間、作業時間の長さなど)が労働者の生産性に与える影響を調べることでした。しかし、実験の結果、作業環境の変化そのものよりも、「観察されている」という意識が生産性に大きく影響することが分かりました。ホーソン実験は、労働者の社会的・心理的要因が仕事の成果に影響することを示し、人間関係論の発展に大きく貢献しました。この研究は、組織心理学やマネジメントにおいて、人間の行動を理解する重要な基盤とされています。
ホーソン実験を実施した背景について
ホーソン実験が行われた背景には、20世紀初頭の工業化と労働管理の変化があります。当時、アメリカでは大量生産が進む中で、科学的管理法(テイラー主義)が広まり、効率性を重視した労働管理が主流でした。この方法では、労働者を機械の一部とみなし、作業を細分化することで生産性向上を図っていましたが、労働者の満足感やモチベーションを軽視する傾向がありました。その結果、生産性が必ずしも向上しないという課題が浮上していました。このような状況を受け、ウェスタン・エレクトリック社は、労働者の生産性に影響を与える要因を科学的に解明することを目指し、ホーソン実験を開始しました。当初は「照明の明るさや作業条件などの物理的環境が生産性を左右する」という仮説を検証しようとしましたが、実験を進める中で、労働者の心理的要因が大きな影響を与えることが判明しました。ホーソン実験は、労働者の心理や人間関係が生産性に与える重要性を明らかにし、その後の組織論や人間関係論の発展に多大な影響を与えるきっかけとなりました。
02ホーソン実験の実験内容と結果
ホーソン実験では、いくつかの実験が行われ、労働者の生産性に影響を与える要因を探りました。代表的な実験には、照明実験、組み立て実験、面談実験、バンク配線実験があり、これらの実験は、労働者の生産性における心理的要因の重要性を強調しました。ここでは、それぞれについて解説していきます。
照明実験
ホーソン実験でまず初めに行われた実験は労働環境が生産性に影響するかどうかを調べるために行われた、「照明実験」です。 実験内容は、「照明が暗い状態で作業すると生産性が下がり、明るい状態だと生産性が上がる」という仮説のもと、それぞれの環境での生産性を測定しました。 多くの研究者が仮説の通りになるだろうと想定していましたが、結果は彼らの予測から大きく外れるものでした。 明るさが一定でも変化しても、一定時間が経過すると作業効率が徐々に上がったのです。 つまり、照明と生産性は関係しないという結果となりました。
組み立て実験
続いて行われた実験は、環境要因と作業能率の関係を調べるために行われた「組み立て実験」です。 実験内容は、「物理的な労働環境が悪くなれば、作業効率も悪化する」という仮説のもと、無作為に女性6名を選び出しそのうち5人を作業員、1人を世話役にし、賃金や休憩時間、部屋の温度などの環境要因を変化させながら、リレーの組み立ての生産性をみて、作業能率を計測するという内容でした。 またしても、実験の結果は仮説に反するものでした。 当初は賃金や休憩時間の条件を改善することで作業効率も上がりましたが、その後、労働条件をもとに戻しても効率は悪くなりませんでした。 これらの結果をふまえ状況を整理したところ、影響を与えているのは内部的な環境要因ではないかという推測が出ました。 この結果から共通の友人や、日々コミュニケーションをとることでチームの連携が強化され、モチベーションの向上やパフォーマンスの発揮につながっていると考えられます。
面談実験
続いての実験は、賃金制度や就業時間よりも、管理体制のあり方が作業効率に影響を与えるのではないかという仮説のもと管理体制を強化すべく行われた「面談実験」です。 実験内容は2万人の従業員に対して1人ずつ不平不満などの聴取を目的とした面談を行うというものでした。 面談した結果、従業員の満足度は賃金や就業時間などの客観的な労働条件よりも、個人の主観的な好みや感情に左右されやすいということが判明しました。 同じ条件であっても満足と不満足の人々は存在しました。 特定の外部環境に関して誰もが共通した不平を述べるという事実は見出せませんでした。 この実験の結果、従業員の態度や行動は感情によるところが大きく、満足度は単に相互関係や社会組織内の居場所だけでなく、その人の感情や欲求を考慮した上で測らなければならないものだという結論に至りました。
バンク配線実験
最後に行われた実験は、これまでの照明・組立・面談の3つの実験結果から、現場の小グループが社会統制機能を果たしているのではないか、という仮説のもと行われました。 実験内容は従業員を職種でグループ分けにし、バンクの配線作業を行わせ、その共同作業の成果を観察する「バンク配線実験」というものです。 利害関係のない者同士の関係や、従業員同士の関係が、作業にどのような影響を与えているかを観察対象としたこの実験では、仮説の通り小さな集団が自然と発生することがわかりました。 しかしわかったのは、それだけではありません。一般的な上司や部下の関係、担当作業を行う上での関わりの有無に関係なく、小さな集団が形成されていたのです。 この実験結果から 労働者は、自分の持てる力をすべて出し切るのではなく、状況や場面に応じて労働量をコントロールしていることがわかりました。 これは、労働量を増加すると、今後の作業水準が引き上げられたり、賃金単価が下がったりして、人員削減で仲間の誰かが犠牲になるからです。 つまり組織の人間関係は、生産性や製品の品質に影響を及ぼすことが判明しました。
03ホーソン効果と類似した効果について
ホーソン実験では、環境要因と生産性がどのように関連しているかを目的として行われましたが、数々の実験の結果、組織の人間関係は、生産性や製品の品質に影響を及ぼすということが解りました。 また、良質な人間関係は所属する組織での接触に加え、周囲からの承認や注目を浴びることでより築かれていくということも同様に判明しています。 このような、人から期待されることで、よりよい効果を生み出すことをホーソン効果と呼びます。 また、似ている心理的行動もありますので少しご紹介します。
ピグマリオン効果
ピグマリオン効果は、他者が持つ期待が対象者の行動や成果に影響を与える現象です。例えば、教師が生徒に高い期待を持つと、生徒がその期待に応えようと努力し、実際に成果が向上する例が知られています。この効果は「期待が行動を変える」点が重要です。ホーソン効果が「注目されること」による影響であるのに対し、ピグマリオン効果は「他者の期待」による影響である点にあります。
ゴーレム効果
ゴーレム効果は、他者が抱く低い期待が対象者の行動や成果に悪影響を及ぼす現象です。例えば、上司や教師が「この人は期待に応えられない」と考え、その態度を示すと、対象者も自信を失い、実際に成果が低下します。この効果は「ネガティブな期待が行動を制限する」ことに焦点を当てています。ホーソン効果は注目を受けることによるポジティブな変化を示すのに対し、ゴーレム効果はネガティブな期待が行動に悪影響を与える点で対照的です。
04ホーソン実験以前に用いられた管理手法とは
ホーソン実験が行われる以前のアメリカでは、生産性は徹底した管理により向上するものであり、作業員たちを厳しい監視下において厳しく働かせるのがベストであると信じられていました。 その結果、過酷な労働環境などから製造職の離職率が高いといった状況が発生してしまうのですが、当時どのような管理手法が取られていたのかをここではご紹介します。
テイラーの科学的管理法
工場の作業者を効率的に管理するためのマネジメントシステムのことを、提唱者のフレドリック・テイラーの名前をとり「テイラーシステム」と名づけられました、またこのシステムを総称して科学的管理方法とも呼ばれています。 テイラーは、非効率な業務遂行問題を解決するため、1日の標準的な作業量を定め、どのような人材でも課業を達成できるよう、作業方法の標準を定めました。 この方法の確立により経営者側は作業を管理することが可能となりました。 目標基準に達していない従業員に関しては、より効率的な動きができるようなトレーニングを行ったり、基準に達した場合と達していない場合での賃金を変動させることも行われています。 この金銭的な報酬の増減によるモチベーションの向上を狙った行動は、現代でもインセンティブ制度などとして利用されています。
科学的管理法をもとに考えられた手法とは
テイラーシステムを活用し、より作業を効率化させようとした結果生まれた手法が「フォードシステム」です。 難しい作業が難しくなくなるように、単一の作業だけを集中して行わせる分業を取り入れることでより育成工数を下げ、作業の生産性を向上させることに成功しました。 またベルトコンベヤーの導入による流れ作業の実施などにより、作業は分割するものの分割した作業間の連携がスムーズに行えるため結果的に生産性が飛躍的に向上しました。 当時のアメリカの自動車の生産台数の半分はフォード社だったというところからも、このシステムの生産性の高さが伺い知れます。 しかしながら、あまりにも効率的すぎるため働く人の人間性を無視した方法であるという非難の声も出ていました。 このような声も、当時ホーソン実験を実行した背景と言えるでしょう。
05ホーソン実験から得られる組織活動への流用
ホーソン実験では様々な実験を行っていますが、導き出された結果として組織の人間関係は、生産性や製品の品質に影響を及ぼすと言われています。 この結果は、心理的安全性がチームの生産性を高める重要な要素であるといった直近の組織学の動きと関連性があると言えます。 職場の人間関係の向上のために、私たちはなにに注力すべきかをここでは3点お伝えします。
リーダーが積極的に動く
職場の人間関係向上のために、まずはリーダーが積極的に動くことで規範となり、基準となる必要があります。 メンバーとの普段の接し方もそうですが、メンバーはリーダー以上の行動を行うことはなかなかできません。 まずはリーダーが積極的に人間関係の向上に動く必要があります。
信頼関係を築く
良い人間関係の構築には、信頼関係が欠かせません。 お互いに認め合い、承認することでチームの生産性は向上していきます。 発言をしやすい環境を構築するためにも、面談や交流会などを設け、話ができる環境を提供することが信頼関係の構築に役立つでしょう。
表彰制度などを設ける
表彰をされて、注目を浴び認められたいと思う社員は少なからずいます。 また、表彰されるのが苦手だとしても、自分の成果を認められることは嬉しく感じます。 企業内で表彰制度を設け、優秀者などを表彰して大々的に扱うことで、社員のモチベーションがアップし自分も続こうといった良い面での競争効果が狙えます。
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06まとめ
本記事では、ホーソン実験の概要から導き出された結論、当時の状況や現在の組織学に当てはめ、どう活かせるかの解説を行いました。 職場の人間関係が組織の生産性に及ぼす影響について、現在では数多くの人が当然のように重要だと理解しています。 しかしながら、ほんの百年ほど前までは存在しない概念でした。 時代背景まで踏まえ理解を行うことで、より効果的に活用が行えます。 是非この記事を参考に、ホーソン効果を活用してみてください。
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1998年に大学卒業後、味の素株式会社に入社し、営業マーケティングに従事。2006年にヤフー株式会社へ転職し、新規ビジネス開発・サービス企画のリリースを経験するかたわらで各種組織活性プロジェクトを推進。2016年に希望して人事部門に異動後、全社の人材開発・組織開発を担当。1on1ミーティングをはじめとしたピープルマネジメントツールの推進や管理職のマネジメント支援と並行して、現場の組織課題解決をサポート。2019年に個人での組織開発アドバイザリー事業と組織開発エバンジェリストとしての情報発信を開始。2020年に株式会社ZOZOテクノロジーズ(現・株式会社ZOZO)へ転職し、現在は全社およびクリエイター部門の人事企画・人材開発・組織開発に携わっている。