成人教育とは?特徴やメリット、成功させるポイントを解説
成人教育とは、成人を対象とした主体的な教育です。当記事では、成人教育の定義を確認したうえで、特徴やメリットを解説していきます。 また、成人教育を成功させるために研修で気をつけるべきポイントも紹介していますので、人事担当者はぜひ参考にしてください。
- 01.成人教育の定義と歴史的背景
- 02.成人教育の特徴
- 03.成人教育のメリット
- 04.研修における成人教育を成功させるポイント
- 05.まとめ
01成人教育の定義と歴史的背景
成人教育は、ビジネスシーンでは登場が少ない用語かもしれません。 成人教育の特徴を詳しく見ていく前に、まずは成人教育の定義について解説します。 また、成人教育の起源や現代までの歴史的経緯、成人教育を解説する際に登場するペタゴジーとの違いについても紹介します。
成人を対象としたアンドラゴジー
成人教育は成人が対象の教育のことで、その教育理論をアンドラゴジーと呼びます。 この言葉は、「成人」と「指導」という意味の2つのギリシャ語を組み合わせた造語です。 アンドラゴジーでは、学びそのものよりも学ぶ際の姿勢や学びの先にある実践・結果を重視しています。 なお、成人教育と類似した言葉に生涯学習がありますが、これは人間の生涯を通して成人教育を継続する働きを指します。したがって、成人教育の概念のなかに生涯学習が内包されるイメージです。
ペタゴジーとの違い
アンドラゴジーが成人への教育であるのに対して、子どもを対象とした教育をペタゴジーと呼びます。 ペタゴジーの代表例は、学校での教師による教育で、この場合には学びそのものが目標とされています。 その結果、主体性を重視するアンドラゴジーとは異なり、他者に依存し与えられたものを受け取るという学習姿勢が中心となっています。
成人教育の歴史
成人教育の起源は19世紀前半のドイツで、教師のアレクサンダー・カップが教育方法について説明する際に提唱したと言われています。 その後、1958年にドイツ人のフランツ・ペゲラー教授執筆の「アンドラゴジー入門~成人教育の基本問題」という本によって、ヨーロッパ全体に成人教育が広まりました。 近年では、理論家のマルカム・ノールズが成人教育の理論を完成させて、全世界での認知度が高まりました。
02成人教育の特徴
成人教育の特徴
成人教育は、学校での受動的な学習とは異なり、主体的かつ自発的な学習姿勢が求められます。 ここでは、成人教育の学習スタイルにおける特徴を5つ紹介します。 ペタゴジーとの違いについても触れていますので、比較しつつ読んでみてください。
自発的に学習する
成人教育では、学習者自身の自発的かつ主体的な学習姿勢を重視します。 ペタゴジーのように他者から受ける受動的かつ依存的な学びとは異なり、学習者自身が学びの主導権を握り学習カリキュラムを進めていくことが必要です。 企業においては、自発的に学習を行う風土作りや学習モチベーションを促す仕組み構築が、成人教育の成否を左右します。例えば、企業のトップや経営層が常に新しいことを学ぶ姿勢を従業員に示し、現場ではそれに倣って自発的な学習を継続していくケースが挙げられます。
学習者の経験を活用する
成人教育では、学習者がこれまでの人生で蓄積してきた経験を学習に活用する工夫がなされます。 失敗や成功の体験、自分の肌で感じた事実など、人生のなかで獲得した知識やノウハウは人それぞれです。 こういった経験によって培ったものを学習者同士で共有することで、ペタゴジーのように知識がゼロの状態よりも高い学習効果を期待できるとされています。 この取り組みは、職場でのナレッジ共有という形で知らず知らずのうちに実践しているという企業は多いはずです。
内発的動機付けを重視する
内発的動機付けとは、内面にある関心や意欲による動機付けです。 反対に、報酬やご褒美といった外部からの影響によるものを外発的動機付けと言います。 成人教育では、外発的動機付けよりも学習者自身の意欲で学習に取り組む内発的動機付けが望ましいとされています。 企業においては、一定の成果を挙げた従業員に対して報酬を用意する場合もありますが、従業員教育の場面では報酬に頼らずに本人の意欲を向上させる工夫が必要です。
学習目的を明確にしてから取り組む
学習自体が目標のペタゴジーと異なり、成人教育の最終目標は、学習を通して何らかの目的を達成することにあります。 したがって、「学習内容を業務にどのように活かしたいのか」といった学習目的の設定が必要です。 設定した学習目的から逆算して、必要な学習プログラムや学習方法を検討し、実践するプロセスを取ります。
職務に基づいた学習カリキュラム
成人教育では、社会的な役割や職務内容といった学習者自身の状況に応じてカリキュラムを構築します。 具体的には、マネジメント職同士や営業職同士など同様の職務を行う従業員が集まって研修を行うことが多いため、参加する職種に合った学習課題を設定します。 反対に、ペタゴジーでは学習者の個別的な状況を加味せず、年齢に応じて一律の学習カリキュラムを設定する点が特徴です。
03成人教育のメリット
成人教育を実施すると、教育対象の従業員のスキルが大きく成長し本人の自信も高まると期待できます。 また、従業員本人だけではなく、企業にとっても生産性向上といったメリットがあります。 それでは、成人教育の実施によって具体的にどのようなメリットを期待できるのかを見ていきます。
課題解決能力が強化される
成人教育のメインテーマは、学習者による能動的な学びです。 そのため、何らかの課題を学習者に与えて自分自身で解決の手立てを検討してもらい、実際に検証を行ってもらいます。 このプロセスを繰り返すことで、学習者には課題の本質を見抜く力や、論理的に解決手順を考える力が身につくはずです。
実践的なスキルを育成しやすい
一方的に話を聞くペタゴジーとは異なり、成人教育では学習内容を実践したり自分の考えを述べたりといった能動的なアクションを行います。 その結果、学んだ知識の定着率が上がるうえに、学習内容を業務での実践的なスキルまで昇華できる可能性があるのです。
学習のモチベーションが上がりやすい
成人教育は、学習者自身の意欲や関心に軸を置いた内発的動機付けを重視します。 外発的動機づけは万人に効果的で成果が分かりやすい一方で、報酬がなくなった際にモチベーションが急激に低下するというリスクがあります。 成人教育では、「学習によってスキルアップをしたい」「知識量を増やして業務に活かしたい」といった内発的動機付けを行うため、中長期的に学習を継続してもらえるメリットがあります。
自信や自尊心が高まる
成人教育のプロセスにおいては、学習者自身が目的を設定して学習計画を策定します。 自ら考えた学習計画を達成することで、学習者は達成感が感じられて自信や自尊心が高まるはずです。 またその結果、次の学習への意欲が高まって、自発的な学習サイクルを継続できる可能性があります。
企業全体の生産性が向上する
成人教育で培った主体的な学習姿勢が活きるのは、研修や教育プログラムだけではありません。 急速に変化する昨今の社会情勢においては、業務のなかで未知の領域や新しい事柄に直面するケースが多くあります。 こういった場面で、問題意識をもって自発的に学べる従業員が増えることで、新規事業の成果が上がりやすくなって企業全体の生産性や利益が向上するはずです。
04研修における成人教育を成功させるポイント
成人教育には従業員と企業の双方にとって多くのメリットがありますが、実際に成人教育を成功させるにはどのような点に注意すべきでしょうか。 ここでは、研修において成人教育を実施する際に、気をつけるべきポイントを解説します。
参加者全員に発言の機会を与える
研修参加者の自発的な学びを促すためには、参加者自身に考えや意見を発言してもらうことが効果的です。 挙手制にしてしまうと限られた参加者のみ発言する事態になってしまうため、少なくとも一人1回は全員に発言の機会を与えてください。 また、答えが決まった質問よりは、参加者ごとに回答が異なるような課題がおすすめです。
参加者同士のディスカッションを設ける
成人教育には、学習者同士の経験を学習に活かす狙いがあります。 そのため、研修では参加者同士のディスカッションを設けて、これまでの経験や知識を共有するようにしてください。 特に、同じ職務や役職の参加者が集まる研修では、ノウハウを共有することで今後の業務の効率を上げる効果を期待できます。
座学だけではなく実践的な演習も行う
講師の話を一方的に聞くだけの研修では、受動的な学びしか得られません。 成人教育を成功させるために、座学に加えて実践的な演習やグループワークを取り入れて、能動的な学びを狙います。 また、演習を通して学習者自身が達成感や学習効果を実感できれば、次回の学習へのモチベーションが高まるはずです。
事前に研修の参加目的を考えてもらう
主体性を重んじる成人教育で重要なのが、学習者自身が学習の目的を明確にすることです。 したがって、研修の前に参加目的や研修で身につけたいスキルを参加者に考えてもらうようにしてください。 この際注意が必要なのが、参加目的が「上司に命令されたから」「業務上受けないといけないから」といった外発的動機づけになってしまわないようにすることです。 あくまで、学習者本人の学習意欲や興味に基づく目的という点がポイントです。
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05まとめ
学習者の自発的かつ主体的な学習姿勢を重視する、成人教育。 人材不足が問題となる昨今においては、従業員一人ひとりが自ら考え行動することが企業の生産性向上に欠かせません。 成人教育では、こういった主体性を育み継続的な学習意欲を促します。 企業の生産性を向上させるため、成人教育を重視した学習プログラムを検討してみてはいかがでしょうか。
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登壇者:越川 慎司様株式会社クロスリバー 代表取締役
ITベンチャーの起業などを経て2005年に米マイクロソフト本社に入社。業務執行役員としてパワポなどの責任者を経て独立。全メンバーが週休3日・リモートワーク・複業の株式会社クロスリバーを2017年に創業し、815社17万人の働き方と成果を調査・分析。各社の人事評価上位5%の行動をまとめた書籍『トップ5%社員の習慣』は国内外で出版されベストセラーに。