リスキリングとは|リカレント教育との違いや推進するための具体策を解説

DXの推進や事業環境の変化が加速するなか、従業員の学び直しを支える「リスキリング」が、企業の人材戦略の要として注目されています。本記事では、リスキリングの定義やリカレント教育・アップスキリングとの違いから、推進の具体策や活用できる助成金までを解説します。
- 01.リスキリングとは
- 02.リスキリングが注目されている背景
- 03.リスキリングのプロセス
- 04.デジタルスキル標準から考えるリスキリングの学習内容
- 05.リスキリングのメリット
- 06.リスキリングを推進する際の注意点
- 07.リスキリング推進のポイント
- 08.リスキリングに取り組んでいる企業の事例
- 09.リスキリングに活用できる助成金
- 10.リスキリング推進を支援|Schoo for Business
- 11.まとめ
01リスキリングとは
リスキリングとは、事業環境や技術の変化に対応するため、新しい仕事・職業や、大きく変化する業務に必要なスキルを身につけることです。
リクルートワークス研究所が経済産業省の検討会に提出した資料では、リスキリングを「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義しています。近年では特に、デジタル化に伴って生まれる新しい職業や、仕事の進め方が大きく変わる職業に必要なスキルの習得を指す場面が増えています。
また、Schoo for Businessの授業『Why編 リスキリングは何のため? 〜マインドセットの変革』に登壇する清水久三子先生は、リスキリングを単なるスキル習得にとどめず、環境変化に応じて自らのキャリアを適応させるプロセスとして捉えています。
清水先生は、リスキリングを進めるうえでは、学ぶスキルを決めるだけでなく、「なぜ自分が学ぶのか」を本人が納得できるキャリアストーリーとして意味づけることが重要だと説明します。会社から求められたから学ぶのではなく、これまでの経験や強み、今後実現したいことと学びを結びつけることで、リスキリングを自分の意思に基づく行動へ変えていく考え方です。
ここから、企業が従業員のリスキリングを推進する際にも、研修を提供するだけでなく、本人が学ぶ目的や将来のキャリアを考えられる対話の機会を設けることが重要だと考えられます。
▼参考:リクルートワークス研究所・石原直子(2021)「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」経済産業省 第2回デジタル時代の人材政策に関する検討会
リスキリングとリカレント教育の違い
リスキリングと混同されやすい言葉に「リカレント教育」があります。
リカレント教育とは、社会に出た後も、仕事に必要な能力・スキルや教養を身につけるために学び続ける考え方です。教育と仕事などを人生の中で繰り返すことを基本としますが、日本では現在、仕事を離れて教育機関で学ぶ場合だけでなく、働きながら行う学び直しも含む幅広い意味で使われています。
Schoo for Businessの授業『Why編 リスキリングは何のため? 〜マインドセットの変革』では、リカレント教育の特徴を、「Why(目的)」「What(学ぶ内容)」「How(学び方)」の3つの軸で以下のように整理しています。
- ・Why(目的):人生を豊かにするため。中長期的なキャリア形成
- ・What(学ぶ内容):これまでやってきた仕事に関する体系的な学問分野や、興味関心のある分野
- ・How(学び方):学校教育を受け、仕事に就いた後、一時的に仕事を離れて再び教育を受ける
リスキリングとの大きな違いは、学びの目的と、学んだ内容をどの仕事につなげるかにあります。リスキリングが新しい仕事や大きく変化する業務に必要なスキルの習得を重視するのに対し、リカレント教育は幅広いキャリア形成や教養の習得までを含む概念です。
ただし、両者は完全に区別されるものではありません。リカレント教育として学んだ知識が、新しい仕事への移行に活用されれば、結果としてリスキリングになる場合もあります。
リスキリングとアップスキリングの違い
アップスキリングとは、現在の仕事でより高い成果を上げるために、既存の能力を高めたり、関連する新しいスキルを身につけたりすることです。前掲の授業では、アップスキリングの特徴を以下のように整理しています。
- ・Why(目的):現在の仕事のスキルを熟練させたり、生産性を向上させたりするため
- ・What(学ぶ内容):現在の仕事・職を高度化するためのスキルやノウハウ
- ・How(学び方):現在の仕事をしながら、関連する研修やOJTなどで学ぶ
比喩的に表すと、現在の仕事を深める「縦の学び」がアップスキリング、新しい仕事や非連続な役割の変化に対応する「横の学び」がリスキリングといえます。ただし、職種名が変わらなくても、仕事内容や必要な能力が大きく変わる場合は、リスキリングに該当することがあります。
02リスキリングが注目されている背景
リスキリングは企業や個人だけの課題にとどまらず、国際的な取り組みや各国の政策においても重視されています。
2020年1月、世界経済フォーラムは、ダボスで開催された年次総会において「リスキリング革命」を立ち上げました。技術革新による仕事やスキルの変化に対応するため、2030年までに10億人へ、より良い教育、スキル、仕事・経済的機会を提供する目標を掲げています。
日本国内でも、政策面での動きが相次いでいます。経済産業省は2020年に「人材版伊藤レポート」を公表し、2022年にはその内容の実践に向けた「人材版伊藤レポート2.0」を公表しました。これらの報告書は、経営戦略と人材戦略を連動させ、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出す人的資本経営の重要性を示すものです。
なかでも「人材版伊藤レポート2.0」では、「リスキル・学び直し」が人材戦略に求められる共通要素の一つとして明確に位置づけられました。事業環境の変化や経営戦略の実現に必要なスキルを洗い出し、従業員の学び直しを組織として支援することが、企業に求められているのです。
さらに2022年10月には、当時の岸田文雄首相が、リスキリングや成長分野への労働移動などを含む「人への投資」の施策パッケージを、5年間で1兆円規模に拡充する方針を打ち出しました。
こうした国内外の動きにより、リスキリングは、事業環境の変化に対応するための人材戦略として注目されるようになっています。
03リスキリングのプロセス
Schoo for Businessの授業『リスキリングのはじめ方』では、リスキリングを実践して仕事やキャリアにつなげるプロセスを、「マインドセット」「学習」「スキル」「職業(キャリア)」の4つに分けて解説しています。
マインドセット
リスキリングのマインドセットとは、リスキリングの必要性を理解し、自分の将来と結びつけて捉えることです。
授業では、リスキリングを「時代の変化に置いていかれないため」ではなく、「自分の未来をつくるための手段」として捉える必要性について解説しています。能力は学習や経験によって伸ばせると考え、すぐに成果が出なくても試行錯誤を続ける姿勢が重要です。
企業がリスキリングを推進する際には、本人に危機感を与えるだけでなく、学ぶ目的や、その先にある仕事・キャリアを理解できるよう支援する必要があります。
学習
マインドセットを身につけたら、次のステップとして、新しい知識を学び、実践につなげていきます。
授業では、学んだ内容を仕事で使う機会がない状態を「学びっぱなし問題」と表現しています。インプットで終わるのではなく、新しい知識を業務で試し、再現可能なスキルへ高めていくことが重要です。
そのためには、学習の目的を明確にし、自分の特性に合う方法を選んだうえで、継続できる仕組みをつくることが大切です。企業側は、就業時間内の学習時間、上司の理解、実践機会などを整えることが求められます。
スキル
学習を継続し、実務で活用する経験を重ねることで、知識を業務に生かせるスキルとして定着させやすくなります。ここで重要なのは、中長期的な視点で身につけるスキルを戦略的に設計することです。
授業では、スキルを「durable(耐久性がある)」か「perishable(陳腐化する)」かで捉える考え方を紹介しています。リーダーシップやコミュニケーションなどの汎用的なビジネススキルは比較的長く活用できます。一方、個別のテクノロジーやツールに関するスキルは変化が速く、継続的な更新が必要です。また、自身の年齢やキャリアのステージによっても、優先的に身につけるべきスキルは変わります。
だからこそ、外部環境の変化に応じて学び続ける力そのものが、今後ますます重要になります。
職業・キャリア
リスキリングのゴールは、学んだ知識やスキルを新しい仕事で生かし、成果や価値につなげることです。
授業では、自己評価と市場からの評価を照らし合わせながら、キャリアの方向性を見直すことの重要性を解説しています。また、スキルを身につけるだけで終わらせず、現在の部署で活用する、社内異動を希望する、副業やボランティアで試すなど、実践の機会を得ることが必要です。
職業人生が長期化するなか、50代以降も新しい知識やスキルを身につけることは、その後のキャリアの選択肢を広げます。リスキリングは、学習の終了をゴールとするのではなく、新しい仕事で価値を発揮し、次のキャリアにつなげるところまでを一連のプロセスとして捉えることが大切です。
04デジタルスキル標準から考えるリスキリングの学習内容
リスキリングの対象はデジタル分野に限らず、営業やマネジメント、各職種の専門知識など、幅広い領域に及びます。一方で、近年リスキリングが求められる背景には、DXの進展や、AI・IoT・データ活用などの技術革新、それに伴う産業構造や業務内容の変化があります。こうした変化に対応するうえで、デジタル分野は、企業がリスキリングを検討する際の主要な学習領域の一つとなっています。
DXに必要な知識・スキルや、育成すべき人材・役割を整理する際に活用できるのが、経済産業省とIPAが策定した「デジタルスキル標準 ver.2.0」です。同標準は、すべてのビジネスパーソンを対象とする「DXリテラシー標準」と、DXを専門的に推進する人材を対象とする「DX推進スキル標準」で構成されています。
▼参考:デジタルスキル標準 ver.2.0|IPA 独立行政法人 情報処理推進機構 |経済産業省
すべての従業員に求められるDXリテラシー
DXリテラシー標準では、すべてのビジネスパーソンが身につけるべき知識・スキルやマインド・スタンスを、「Why」「What」「How」「マインド・スタンス」の4つに整理しています。4つの区分で扱う内容は、次のとおりです。
- ・マインド/ スタンス:不確実性の高い時代において、新たな価値を生み出すために必要な意識・姿勢・行動
- ・Why:DXの重要性を理解するために必要な、社会、顧客・ユーザー、競争環境の変化に関する知識
- ・What:ビジネスの場で活用されているデータやデジタル技術に関する知識
- ・How:ビジネスの場でデータやデジタル技術を利用する方法や、その活用事例、留意点に関する知識
役割に応じて身につける専門スキル
DXリテラシーがすべてのビジネスパーソンに共通する土台であるのに対し、DXを具体的に推進する人材には、担当する役割に応じた専門スキルが求められます。
DX推進スキル標準では、DXの推進に必要な主な役割を6つの類型に整理し、それぞれが担う役割と習得すべきスキルを定義しています。各類型の主な役割・学習領域は、次のとおりです。
- ・ビジネスアーキテクト:DXの目的を設定し、関係者を巻き込みながら、ビジネスや業務の変革を一貫して推進する
- ・デザイナー:顧客・ユーザーの視点から製品やサービス、業務の体験を設計し、関係者との共通理解を形成する
- ・データサイエンティスト:データやAIを活用して課題を分析し、業務や事業の変革、新たな価値の創出につなげる
- ・データマネジメント:データの品質、定義、管理体制、流通基盤などを整え、組織的なデータ・AI活用を支える
- ・ソフトウェアエンジニア:デジタル技術を活用した製品・サービスやシステムを設計、開発、運用する
- ・サイバーセキュリティ:DXに伴うセキュリティリスクを評価し、必要な対策の企画、導入、運用を担う
これらの類型は、必要な学習内容を検討する際の手がかりになります。ただし、6類型をすべて一律に社内育成の対象とするのではなく、まずは自社がDXによって何を実現したいのかを明らかにすることが重要です。
そのうえで、事業戦略やDXの進捗、現在保有する人材・スキルを踏まえ、どの役割を社内で育成し、どのスキルの習得を支援するのかを検討します。必要に応じて、外部採用や社外人材との連携を組み合わせる視点も求められます。
05リスキリングのメリット
企業がリスキリングに取り組むことは、事業環境の変化への対応や、社内人材の有効活用につながります。主なメリットとして、生産性向上への寄与、従業員エンゲージメントの向上、人材確保にかかるコストの最適化、学習文化の形成などが挙げられます。
ただし、リスキリングのための研修を実施するだけで、これらの効果が得られるわけではありません。学習内容を事業戦略と結びつけ、習得したスキルを実務や配置、評価に反映することが重要です。
生産性向上への寄与
リスキリングでは、社会やテクノロジーの変化を踏まえ、今後の事業や業務に必要となる新たなスキルを身につけることを目指します。例えば、急速に普及する生成AIを業務で適切に活用するための知識やスキルを身につけることなどが挙げられます。
そして、このような新たな知識や技術をもとに業務効率化や自動化を推進することは、生産性向上にもつながります。一人あたりで対応できる業務量が増えたり、従業員がより付加価値の高い業務を担えるようになったりするためです。
一方で、技術を使えるようになることが、そのまま生産性向上につながるとは限りません。導入した技術を実際の業務に定着させるには、従業員がその特性を理解して使いこなすとともに、定型業務の自動化に合わせて業務プロセスそのものを見直すことが重要です。
▼参考:中小企業の生産性向上に向けて(令和7年5月)|中小企業庁 経営支援部 |イノベーションチーム
従業員エンゲージメント向上への寄与
リスキリングとは、ただ新しい知識を得ることではなく、新しい仕事に就くことや、現在の仕事で求められる役割やスキルの大きな変化に対応するための学びです。つまり、キャリア形成と密接に関係する取り組みであり、従業員のキャリア希望や業務上の課題に合った学習機会を提供することは、成長実感や仕事への前向きな意識を高める可能性があります。
また、習得したスキルや、それを業務で発揮した成果を配置や評価、報酬などに適切に反映することで、従業員は学びが自身のキャリアや処遇につながることを実感しやすくなるでしょう。
人材確保にかかるコストの最適化
前提として、人材採用には、求人広告や人材紹介、選考など、さまざまな費用がかかります。リクルート就職みらい研究所の「就職白書2020」によると、2019年度の中途採用1人当たりの平均採用コストは103.3万円でした。また、DX推進人材など、専門性が高く社会的な需要も大きい職種では、採用競争が激しくなりやすく、募集や選考にかかる負担が大きくなる可能性があります。
そこで、既存社員のリスキリングによって必要な人材を社内で育成できれば、外部採用への過度な依存を避けられる可能性があります。とはいえ、リスキリングにも、研修費用や学習時間、実践機会の提供などのコストがかかるため、外部採用と社内育成のどちらか一方に決めるのではなく、費用対効果や育成に必要な期間を比較することが重要です。
この判断に役立つのが、スキルを基準に採用・配置・育成を考える「スキルベース」の人材マネジメントです。
Schoo for Businessの授業『リスキリングのはじめ方|第3回 3.スキル編』に登壇する後藤宗明先生は、将来必要となるスキルと、従業員が現在保有するスキルとの差を「スキルギャップ」として可視化する重要性を説明しています。
スキルギャップを明らかにすることで、不足する能力を社内育成、外部採用、社外人材の活用のどの方法で補うかを比較しやすくなります。採用コストを単に削減するのではなく、人材確保にかかる費用と時間を全体として最適化する視点が重要です。
学習文化の形成
リスキリングを継続的な人材戦略として進めることで、学習した内容を共有し、業務改善に生かす習慣が生まれやすくなります。勉強会やナレッジ共有が活発になれば、組織全体で学び合う文化の形成にもつながります。
Schoo for Businessの授業『Re-skilling 〜人材市場で高い評価を得るために学ぶべきこと〜』に登壇する石原直子先生は、最初に学んだ従業員が、次の従業員を支援する側に回ることで、学びが組織内に広がる可能性について解説しています。年齢や役職にかかわらず、先に学んだ人が知識を共有し、小さな成功体験を周囲が認めることが、次の学習を促すきっかけになります。
こうした文化を形成するには、学習時間の確保、上司の支援、知識を共有する場、習得したスキルを評価・活用する仕組みが必要です。
06リスキリングを推進する際の注意点
前章で述べたように、将来必要なスキルと現在保有するスキルとの差である「スキルギャップ」を把握することは、リスキリングの出発点として重要です。
ただし、スキルギャップを埋める研修を用意するだけでは、従業員の学びを実務やキャリア形成につなげることはできません。学ぶ目的や動機、習得したスキルを実務で発揮する機会まで含めて、施策を設計する必要があります。
こうした、必要なスキルを特定し、研修で補おうとする発想の課題について、Schoo for Businessの授業『「なんとなく学んでない」のメカニズム』に登壇する小林祐児氏は、「工場モデル」という言葉を用いて説明しています。工場モデルとは、将来必要になるスキルと人数を「鋳型」のように定め、不足しているスキルを明らかにしたうえで従業員に学習を促し、不足する職務やポストへ配置する考え方です。
小林先生は、工場モデルの発想だけに頼ると、次の3つの点でつまずきやすいと指摘しています。
- ・必要なスキルを固定的に捉えてしまう
- ・学んだスキルを発揮する機会がない
- ・従業員の学ぶ動機が置き去りになる
いずれも、研修を用意するだけでは解消されない課題です。以下では、それぞれについて、何が問題となり、どう対応すればよいのかを見ていきます。
必要なスキルを固定的に捉えない
事業環境や技術が変化すれば、仕事に必要なスキルも変わります。例えば、生成AIをはじめとする新しい技術が登場するたびに、企業に求められる仕事や能力も見直されるため、将来必要となるスキルを固定的に定めることには限界があるでしょう。
そのため、必要なスキルを一度決めて長期的な育成計画を固定するのではなく、事業戦略や技術動向に応じて、定期的に見直すことが重要です。
スキルを発揮できる機会まで設計する
研修でスキルを身につけても、実務で使う機会がなければ、行動や成果にはつながりにくくなります。
リスキリングを研修の受講だけで終わらせないためには、現在の部署で新しいスキルを試す機会を設けるほか、社内公募や異動、副業などを通じて、学んだ内容を実践できる場につなげる必要があります。
また、上司の支援や目標管理、評価制度も含め、習得したスキルを発揮しやすい環境を整えることが重要です。
従業員の学ぶ動機を置き去りにしない
必要なスキルを提示するだけで、従業員が自発的に学ぶとは限りません。
パーソル総合研究所による「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」では、社外学習や自己啓発を「何も行っていない」と回答した人の割合は、日本で52.6%でした。調査対象となった国・地域の中で最も高い結果です。
小林先生は、この背景を個人の意欲だけの問題として捉えるのではなく、従業員が自ら将来の職務を選び、そのために学ぶ動機が生まれにくい組織やキャリアの仕組みにも目を向ける必要があると説明しています。
学びへの動機を高めるには、本人が将来担いたい仕事やキャリアについて対話し、学習後の選択肢を見通せるようにすることが重要です。また、社内外の人との対話や、同じテーマを学ぶ仲間との交流など、「誰と学ぶか」を設計することも求められます。
07リスキリング推進のポイント
※画像引用:「なんとなく学んでない」のメカニズム
研修や学習支援への投資は、リスキリングを進めるうえで欠かせません。しかし、予算を増やして研修を用意するだけでは、従業員の継続的な学びや、実務でのスキル活用にはつながりにくいでしょう。
パーソル総合研究所の小林祐児先生は、リスキリングを組織に根づかせるために必要な要素として、「キャリアの仕組み」「目標管理の仕組み」「学習支援の仕組み」「学びのコミュニティ化の仕組み」の4つを挙げています。
キャリア形成の仕組みと連動させる
キャリア形成の仕組みと連動させるとは、リスキリングによってスキルを身につけた従業員が、そのスキルを生かせる仕事や役割に挑戦できる仕組みを整えることです。
「自分のキャリアは運や偶然に左右される」という認識は、従業員の学習意欲や学習行動を低下させる要因になります。そこで従業員と組織が対話しながら、本人の希望やスキルと社内の仕事を結びつける仕組みを作ることで、リスキリングを主体的なキャリア形成の手段として位置づけやすくなります。小林先生は、この仕組みを「対話型ジョブマッチング」と表現しています。
具体的な手段としては、公募型異動や社内副業などが挙げられます。ただし、こうした制度は、設けるだけで十分に機能するとは限りません。制度を機能させるには、事業部と人事の双方が役割を果たす必要があります。
事業部には、募集する仕事の内容や、その先に想定されるキャリアパスを示すことが求められます。一方、人事には、従業員のスキルやキャリアに関する希望を把握し、対話の機会を設ける役割があります。
こうした取り組みが連動することで、従業員は学習後の仕事やキャリアを具体的に描きやすくなるでしょう。その結果、学ぶ目的が明確になり、リスキリングに取り組む動機の形成にもつながりやすくなります。
目標管理の方法を見直す
新しいことを学んだり、学んだ内容を実務で試したりしても評価されない職場では、従業員の学習意欲を維持することは難しくなります。また、リスキリングは本来、環境の変化に対して新しい取り組みをするための学びです。新規性の高い取り組みには失敗のリスクも伴うので、前例踏襲や失敗の回避を過度に重視する評価制度のもとでは、新たな挑戦が生まれにくくなります。
リスキリングを目標管理の観点で支えるには、現在の業務成果だけでなく、新しい知識・スキルの習得や、学習内容を活用した挑戦についても対話できるようにすることが重要です。さらに、上司と部下が目標設定や振り返りを行うなかで、学びと業務、今後のキャリアを関連づける仕組みが求められます。
学習支援の仕組みを整える
小林先生は、リスキリングを支える仕組みの一つとして学習支援を挙げ、過密な業務を見直して学ぶ余白をつくることや、費用面を支援することの必要性について言及しています。
時間面では、業務量や業務の進め方を見直し、勤務時間内にも学習に取り組める環境を整えることが重要です。特に、事業戦略の実現に必要なスキルの習得を企業が求める場合、就業時間外の自主学習だけに委ねるのではなく、業務の一部として学べる時間を確保する必要があります。
そのためには、経営層、人事、現場の管理職が学習の目的を共有し、従業員が業務との優先順位に迷わず取り組める状態をつくることが求められます。
費用面では、受講料や教材費、資格試験の受験料などを補助する方法があります。ただし、費用を補助するだけで学習が促進されるとは限りません。本人が学ぶ目的を理解し、学習時間や実践機会を確保できるよう、他の支援と組み合わせることが重要です。
学びのコミュニティを形成する
従業員個人の意欲だけに頼るのではなく、仲間とともに学び、互いに刺激を受けられる場をつくることも重要です。
他者との対話や協働を通じて、知識を共有できるだけでなく、学び続けるための動機も得やすくなります。小林先生は、大人の学びでは「何を学ぶか」だけでなく、「誰と、どのように学ぶか」を設計することが重要だと説明しています。
具体策としては、コーポレート・ユニバーシティ(企業内大学)のほか、社内勉強会、読書会、ピアラーニング、社内講師制度、課題解決型研修、越境学習などが挙げられます。
学習プログラムを提供するだけでなく、参加者同士が継続的に交流し、学んだ内容を共有・実践できる環境を整えることで、組織内に学び合う文化が形成されやすくなります。
「研修をしてもその場限り」「社員が受け身で学ばない」を解決!
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■資料内容抜粋
・大人たちが学び続ける「Schoo for Business」とは?
・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など

08リスキリングに取り組んでいる企業の事例
ここでは、経済産業省の「DX銘柄」や、人材育成に関する事例集で取り上げられた企業を中心に、6社の取り組みを紹介します。
各社に共通するのは、研修を提供するだけでなく、事業戦略や職種転換、配置、人事制度などと学びを結びつけている点です。
SCSK株式会社
SCSKは、従来の受託型ビジネスに加え、顧客との協業を通じた業務変革や新たな事業の創造を目指しています。その実現に向け、事業戦略と人材育成を結びつけ、ビジネスをデザイン思考で捉える力や、提案力を持つ人材の育成を進めています。
同社は、リスキリングを学びの内容や目的に応じて「リカレント型」「アップデート型」「アンラーニング型」の3つに整理しています。リカレント型は、業務に必要なリテラシーや基礎知識を習得する学びです。アップデート型では、より実践的な内容を学び、既存の知識やスキルを最新化します。アンラーニング型は、職種転換などの変化を伴うプロフェッショナル人材の育成と位置づけられており、ビジネスデザインやサービスマネジメントに関する育成などが進められています。
基礎知識の習得、専門性の更新、職種転換を伴う育成を分けて設計し、事業戦略の実現に必要な人材を段階的に育成している点に、SCSKの取り組みの特色があります。
▼参考:イノベーション創出のためのリカレント教育 事例集|経済産業省
アスクル株式会社
アスクルは、DXを重要な経営課題と位置づけ、「最高の顧客体験の創造」と「革新的なバリューチェーンの構築」に取り組んでいます。
人材育成の中核となるのが、全社員のリスキリングを推進する「ASKUL DX ACADEMY」です。同アカデミーでは、エンジニアなどを対象とした専門教育に加え、一般社員向けの「データサイエンス教室」を実施しています。
データサイエンス教室では、社内のデータ基盤「ASKUL-EARTH」に蓄積されたデータを、自部門の業務で活用するための知識や分析スキルを学びます。対象者に応じて、専門人材の高度化と全社員のデータ活用力向上を並行して進めている点が、同社の人材育成施策の特色です。
▼参考:DX銘柄2023|経済産業省
コニカミノルタ株式会社
コニカミノルタは、デジタル人材の育成を、職種転換を見据えた「Re-skill」と、現在の職種で専門性を高める「Up-skill」に分けて体系化しています。いずれもIT教育を基礎に位置づけたうえで、幅広い従業員のデジタルスキル向上に加え、開発部門や営業部門を対象とした専門的なIoT人材の育成にも取り組んでいます。
職種転換を目的とする学びと、現在の職種で専門性を高める学びを分けて設計することで、事業戦略や人材の役割に応じた育成を進めています。
▼参考:イノベーション創出のためのリカレント教育 事例集|経済産業省
コニカミノルタジャパン株式会社
コニカミノルタのグループ会社であり、国内の販売・サービスを担うコニカミノルタジャパン株式会社では、全社員のDXリテラシー向上と意識変革に向けてSchoo for Businessが活用されています。
同社は、製品の販売にとどまらず、顧客とともに課題解決に取り組むパートナーへの転換を目指していました。そのためには、特定の職種だけでなく、幅広い社員がDXを理解し、自身の業務と結びつけて考えられる状態をつくる必要がありました。
その取り組みの一つとして、Schoo for Businessを用いて、全社員を対象とした「DXスキル診断」を実施しています。診断によって一人ひとりのDXリテラシーを可視化し、その結果を踏まえて、各自の課題に応じた学習講座を案内しています。
▼参考:社員のスキル習得だけでなく、全社のDX意識の底上げに活用|Schoo for Business
株式会社クレディセゾン
クレディセゾンは、「CSDX VISION」のもと、社内公募制度「オープンチャレンジ」などを活用し、社員が希望する職務に挑戦できる環境を整えています。
経済産業省の「DX銘柄2023」では、未経験者を含む社員がエンジニアやデータ人材への職種転換に挑戦し、学んだ内容を実務で活用する取り組みが紹介されています。
研修だけでなく、社内公募や配置と結びつけることで、社員の主体的な学習と職種転換を支えている点が特徴です。
▼参考:DX銘柄2023|経済産業省
KDDI株式会社
KDDIは2021年、DXを推進する人材を2023年度までにグループ全体で約4,000名へ拡大する目標を掲げました。
そのうち、中核を担う人材を「DXコア人財」と定め、「KDDI DX University」で約1年間、200時間に及ぶ育成プログラムを実施しています。また、成果や挑戦、能力を評価して処遇へ反映する「KDDI版ジョブ型人事制度」も導入しています。育成プログラムと人事制度の両面から、社員の学習とキャリア形成を支援している点が特徴です。
▼参考:KDDIグループのDX人財を2023年度までに4,000名規模に拡大|KDDI
株式会社日立製作所
日立製作所は、事業構造の転換とデジタル事業の強化にあわせて、人材育成の仕組みを整備してきました。
2019年には、グループ内の研修機関を統合して「日立アカデミー」を設立しています。また、データサイエンスやデザイン思考など、デジタル事業に必要な能力の育成を進めています。
2022年には、従業員一人ひとりのキャリア志向に応じた自律的な学びやリスキリングを支援する学習体験プラットフォームの整備を進めました。学習機会の提供に加え、社内でのキャリア選択や実践機会との接続も重視されています。
▼参考:DX銘柄2023|経済産業省
09リスキリングに活用できる助成金
リスキリングの推進は、産業基盤を強化する観点から政府も支援しています。そのため、リスキリング実施にあたっては国や自治体が提供する助成制度を活用できる場合があります。ここでは代表例として、国の「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」と、東京都の「DXリスキリング助成金」について紹介します。
※制度内容や申請期限は変更される場合があるため、申請前に必ず公式の募集要項をご確認ください。
事業展開等リスキリング支援コース
事業展開等リスキリング支援コースは、新規事業の立ち上げや、社内のDX・グリーン化、今後従業員が担う職務への転換などに必要な専門知識・技能の習得を支援する制度です。対象となる訓練を実施した場合、訓練経費と訓練期間中の賃金の一部が助成されます。
▼参考:新規事業展開やDX推進等の人材育成に「人材開発支援助成金」が活用できます ~ 「事業展開等リスキリング支援コース」のご案内~|厚生労働省
主な支給要件
主な対象は、雇用保険適用事業所の事業主が、雇用保険被保険者である従業員に訓練を受講させるケースです。
対象となる訓練は、職務に関連する10時間以上のOFF-JTで、次のいずれかに該当する必要があります。
- 1.事業展開に伴い、新たな分野で必要となる専門知識・技能を習得する訓練
- 2.社内のDX化やグリーン・カーボンニュートラル化に必要な専門知識・技能を習得する訓練
- 3.人事・人材育成計画に基づき、今後従事する予定の職務に必要な専門知識・技能を習得する訓練
このほか、職業能力開発推進者の選任や事業内職業能力開発計画の作成、訓練実施計画の事前提出などが必要です。詳細は厚生労働省の最新資料を確認し、管轄の都道府県労働局またはハローワークへお問い合わせください。
助成額
| 企業規模 | 経費助成率 | 賃金助成額(1人1時間当たり) |
| 中小企業 | 75% | 1,000円 |
| 大企業 | 60% | 500円 |
通学制などの訓練における、受講者1人当たりの経費助成限度額は次のとおりです。
| 区分 | 中小企業 (1人あたり) |
大企業 (1人あたり) |
| 受講時間 10時間以上100時間未満 | 30万円 | 20万円 |
| 受講時間 100時間以上200時間未満 | 40万円 | 25万円 |
| 受講時間 200時間以上 | 50万円 | 30万円 |
DXリスキリング助成金
DXリスキリング助成金は、都内の中小企業などが、自社のDX推進に必要な研修を従業員へ実施する場合に、その経費の一部を助成する制度です。
▼参考:DXリスキリング助成金
主な支給要件
対象となるのは、都内で事業を営み、都内に本社または主たる事業所がある中小企業や個人事業主です。資本金または従業員数について、業種ごとに定められた基準のいずれかを満たす必要があります。
対象研修は、自社のDX推進に必要な知識・技能の習得または専門資格の取得を目的とするOFF-JTです。主な要件は次のとおりです。
- ・教育機関による既存の公開研修(レディメイド研修)、または教育機関に委託するオーダーメイド研修である
- ・受講者1人・1研修あたりの経費があらかじめ定められていること
- ・1研修当たり3時間以上10時間未満である
- ・企業が研修費の全額を負担する
- ・業務命令として労働時間内に実施し、所定賃金を支払う
- ・受講者が総研修時間の8割以上を受講する
- ・同一研修について、国や自治体の他の助成を受けていない
- ・受講者の受講状況について、教育機関の証明が受けられる
対象となる受講者は、申請企業の従業員で、常時勤務する事業所が都内にある人です。
助成額
助成額は、助成対象経費の4分の3です。ただし、助成対象受講者1人・1研修当たり7万5,000円、1申請企業等当たり年間100万円が上限です。
対象経費には、受講料、教材費、研修に付随する登録料・管理料などが含まれます。消費税、交通費、宿泊費、通信料、パソコンなどの購入費は対象外です。
10リスキリング推進を支援|Schoo for Business
オンライン研修/学習サービスのSchoo for Businessでは約9,000本以上の講座を用意しており、DXに関する講座も多く取り揃えています。また、DXスキル診断という機能も提供しており、社員のデジタルスキルを測定し、学習効果を測定することも可能です。
| 受講形式 | オンライン (アーカイブ型) |
| アーカイブ本数 | 9,000本 (新規講座も随時公開中) |
| 研修管理機能 | あり ※詳細はお問い合わせください |
| 費用 | 1ID/1,650円 ※ID数によりボリュームディスカウントあり |
| 契約形態 | 年間契約のみ ※ご契約は20IDからとなっております |
Schoo for Businessの資料をダウンロードする
大企業から中小企業まで幅広く導入
Schoo for Businessは、大企業から中小企業まで4,000社以上に導入いただいております。用途はDX研修や階層別研修、自律学習の促進など多岐にわたります。導入事例も豊富に掲載しているため、気になるものがあればぜひご確認ください。
リスキリングに関するSchooの講座を紹介
Schooは汎用的なビジネススキルからDXやAIなど先端分野のスキルまで、9,000本以上の講座を提供しています。ここではリスキリングに関連する授業を紹介します。
「なんとなく学んでない」のメカニズム
この授業では、より良いリスキリングを実践するための仕組みについて学ぶことができます。本記事で紹介した「リスキリングの工場モデル」や「リスキリングを進める具体策」について、『リスキリングは経営課題』の筆者でもある小林祐児先生に、ご講演いただいています。
※研修・人材育成担当者限定 10日間の無料デモアカウント配布中。
リスキリングのはじめ方
従業員が「リスキリングをどう実践するか」を具体的に学べる講座です。「マインドセット」「学習」「スキル」「キャリア」の4つの視点から、成果につながるリスキリングの進め方を整理します。
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一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事
銀行、研修事業、社会起業家支援を経て40歳で自らリスキリングを開始。フィンテック、通信、外資コンサルティングを経験後、ABEJAでAI研修企画を担当。リクルートワークス研究所で「リスキリングする組織」を共同執筆。2021年より現職。SkyHive Technologies日本代表も兼任。
※研修・人材育成担当者限定 10日間の無料デモアカウント配布中。
あなたのキャリアを導く3つの「リスキリングマップ」
リスキリングを「やらされ感」でなくポジティブに捉え、キャリアを切り拓く力に変える講座です。3つのマップを活用し、成果につながるリスキリングを成功させる実践的なノウハウを学べます。
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株式会社アンド・クリエイト 代表取締役社長。元IBMコンサルタントとして変革プロジェクトを多数リード。その後、人材育成に専門を移し独立。著書『一流の学び方』など執筆多数。企業研修や講演でも活躍。
あなたのキャリアを導く3つのリスキリングマップを無料視聴する
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11まとめ
リスキリングは、事業環境や技術の変化に対応し、新しい仕事や大きく変化する業務に必要なスキルを身につける取り組みです。DXの進展や政策的な後押しを背景に、企業の人材戦略における重要なテーマとなっています。
一方で、研修を用意するだけでは、学びを業務上の成果やキャリア形成につなげることはできません。「なぜ学ぶのか」という目的や本人のキャリアとの結びつきに加え、習得したスキルを実務で試し、配置や評価に反映できる仕組みまで含めて設計することが重要です。
企業には、事業戦略を踏まえて必要なスキルの仮説を立て、環境変化に応じて見直しながら、学習時間、実践機会、キャリア支援、学び合う場を一体的に整えることが求められます。助成金なども活用しつつ、まずは対象となる業務や人材を絞った小規模な取り組みから始め、効果を検証しながら展開していくことが有効です。

