HRビジネスパートナー(HRBP)とは?戦略人事についてわかりやすく解説
「HRビジネスパートナー」(HRBP)という言葉を聞いたことはありますか。HRBPとは、事業のパートナーとしての戦略的な人事職のことで、その仕事内容は多岐にわたります。当記事では、今なぜHRBPが注目されているのか、HRBPとは具体的にどのような仕事で、どのような能力が求められるのか、解説します。
- 01.HRBPとは
- 02.HRBPを導入するメリット
- 03.HRBPに必要な能力
- 04.HRBP求人情報からみる具体的なイメージ
- 05.HRBPの導入において気をつけたいこと
- 06.HRBPと既存の人事・労務との違い
- 07.まとめ
01HRBPとは
本章では、HRビジネスパートナー(HRBP)の必要性と、具体的な仕事内容について解説します。 人事の仕事としては、採用活動や人事異動、労務管理などが思い浮かぶでしょう。これらの従来の人事業務は、事業と切り離されて存在するか、もしくは事業の意思決定の後追いで対応するイメージが強いと思います。 一方、HRBPは人事や組織の戦略を立案、実行するこで、事業を前進させることがもっとも重要なミッションです。事業経営の視点で、人と組織を最適化するために積極的な事業への介入や支援を行います。 事業目標の達成と、人材/組織のマネジメントには深い関係があるという前提に立つのが、HRBPのスタンスだと言えます。
HRBPは人事の役割の一つ
そもそもHRBPとは、「Human Resources Business Partner」の略です。 その起源は、1997年に出版されたデイビッド・ウルリッチ氏の「Human Resource Champions」(邦訳『MBAの人材戦略』)という著書において提唱された概念で、これからの人事部門が果たすべき役割として、以下の4つを定義しました。HRBPは、その一つひとつにあたります。 1:HRBP(HR Business Partner) →事業戦略に基づき、人事戦略を構築する、事業のパートナー 2:OD & TD(Organization Development & Talent Development) →組織風土づくり、幹部人材の育成 3:CoE(Center of Excellence) →採用、評価・報酬制度など、専門的な社内コンサルティング 4:OPs(Operations) →各オペレーションとともに、アウトソーシングやシェアードサービス化の検討
HRBPがなぜ必要なのか
事業と人材/組織マネジメントを密接に関連づけることで、事業運営そのものを前進させるHRビジネスパートナーの重要性が増しています。 日本においては、従来の人事政策(雇用・社内異動・年功序列)では、立ち行かない可能性が指摘されています。既に、終身雇用/年功序列といった日本型の雇用制度は崩壊しつつあります。 加えて、少子高齢化により人材確保がより難しくなることが予想されます。 従来の画一的な人材管理ではなく、能力を最大限発揮してもらうことが企業の競争力を高める上で重要になっているのです。 このように、事業の経営戦略と関連づけた人材マネジメントが必要で、それを担うのがHRBPなのです。
HRBPは何をするのか
HRBPは、事業戦略の実行、そして達成のための人材/組織マネジメントを企画・実行します。 HRBPの3つの具体的な業務には次のようなものが挙げられます。
1.事業戦略の実行と目標の達成のための人事戦略の立案
HRBPは事業に必要な人材要件を定義し、さらには事業推進に最適な組織体制を検討します。 具体的には、目標達成のためにどのような人材が必要なのか、どのような組織体制であるべきなのかを思考して、事業経営側に提案します。
2.社員への展開
HRBPは、大きな人材戦略の変更の際は、矢面に立って社員に説明し、それを実行します。 具体的には、例えば評価の在り方について大きく変える必要があるとすれば、その重要性を現場の社員に理解してもらうなど、その後の円滑な組織運営に対して責任を負います。
3.現場の支援
HRBPは戦略が実行されるよう、現場を支援します。 事業戦略と一体化した人事戦略は、社員が適切に実行しなければ価値がありません。実行されない戦略はただの理想論で、絵に描いた餅となってしまいます。 戦略実行上、必要な支援があればあらゆる支援を行います。
02HRBPを導入するメリット
日本型の雇用制度が崩壊しつつある昨今、HRBPは企業の競争力を高めるものとして注目が集まっています。HRBPを導入することで得られるメリットには「社会環境の変化に対応できる」「優秀な人材を確保できる」といったものが挙げられます。ここでは、それぞれのメリットについて具体的に解説していきます。
社会環境の変化に対応できる
変化の激しい世の中において、社会環境の変化に対して、企業は柔軟な対応を求められています。たとえば、コロナ禍におけるテレワークなどでは、スムーズに導入できた企業とそうではない企業で二分化されました。このように社会環境の変化が激しい時代において、人事は常に柔軟に対処していくことが求められます。HRBPは経営視点で人事戦略を立案、実行、推進していくことができるため、社会環境の変化においても適切なアクションを取ることができるのです。
優秀な人材を確保するため
これまでの人事業務は、事務処理作業が中心となっていました。ですが、昨今は人事労務関連のツールが多く生まれ、人事業務においてもDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されています。そのため、人事は人材育成に注力することができるようになり、優秀な人材の育成などが企業の競争力を高める手段となってきているのです。このような状況下において、HRBPは専門性を持って、組織内で人材の管理、指導、育成がスムーズかつ効率的に行えるよう、必要な制度やプランなどを考案して整備することができるため、優秀な人材を確保することができるようになるのです。
03HRBPに必要な能力
本章では、HRビジネスパートナーとして必要な能力を解説します。 HRBPとして、人事業務に精通していることは重要ですが、それだけでは十分ではありません。HRBPの業務内容に照らし合わせて、3つの観点でHRBPに必要な能力を確認しましょう。
経営のパートナーとしての側面からの必要能力
HRBPには、事業経営の観点からの戦略的視点(戦略立案能力)が求められます。 事業経営戦略に基づいて、人材/組織マネジメント戦略を提示し、実行するためには事業経営の視点を持ち合わせることが必要です。 具体的には、HRBPは事業経営の戦略(中長期ビジョン/目標/施策)について理解するのみならず、外部環境や内部環境を分析したうえで、なぜその戦略を選択するべきなのか、その背景についても理解することが必要です。 このようにHRBPには「人事」だけではなく「経営」の視点が求められるのです。
人材/組織マネジメントのエキスパートとしての必要能力
HRBPには、人材/組織マネジメントのエキスパートとしての専門的な能力が求められます。 HRBPは、事業の目標達成のための人材/組織マネジメントの在り方を提示しますが、人材や組織が目標に向かって力を発揮しているかどうかを絶えず確認することが必要です。 また、力が発揮できていなければ側面からサポートし、活性化させます。要するに、人材育成や組織開発の手法に通じていることが必要なのです。
経営層と従業員の橋渡し
規模が大きい企業では、経営者と従業員が気軽に話せるような機会を持つことが難しくなってきます。そのため、従業員が経営層に対して意見や考えを伝えていくことはなかなかできず、経営層からの発信などは一方通行のコミュニケーションになりがちです。そのような環境下において、HRBPは経営層に近い立場として、人事施策を立案、実行していきます。経営者の意見や考えを従業員に伝え、従業員から意見を聞き、不満を解消していきながら、人事施策を実行していく必要があるのです。そのため、従業員の意見などを聞くヒアリング能力や適切に不安や悩みを解消していく力が求められるのです。
組織改革能力
HRBPは組織改革のリードも求められます。改革を実現するために、経営方針に基づいたビジョンの設定やコアメンバーの選定などを実施していく必要があります。また、さまざまな部署との連携が必要な場合は、それぞれの意見を尊重していきながら、横断的に活動していくことが求められます。
事業推進のための必要能力
HRBPには、事業推進のために多方面に働きかける「課題設定能力」と「コミュニケーション能力」が求められます。 事業経営者に適切に働きかけるためには、適切な課題提起を行ったうえで、課題に対するアクションについて合意を得なければなりません。 課題分析能力や交渉力が重要です。
04HRBP求人情報からみる具体的なイメージ
本章では、HRビジネスパートナーの具体的なイメージを、求人情報から確認します。 なお、本章で参照している求人情報は、実際の求人情報を確認しつつ、業務内容にフォーカスできるよう情報加工を行っています。 いくつかの求人情報を見ると、下記の2通りの求人パターンが多いようです。 ・制度設計も含めて対応する、広範囲のHRBP ・人材開発/組織開発中心のHRBP
広範囲のHRBP
当記事で説明してきたような、典型的なHRBPの求人内容は下記のとおりです。 <HRBPの業務内容> HRBPは、各事業の責任者とともに、組織設計・採用・人材開発・労務・制度設計など、あらゆる人事領域における「人事戦略」を計画し実行する。 <HRBPの背景> ユーザーのニーズに合わせて都度サービスを改めそのプロジェクトを効率的に実行するために、柔軟な組織変更を頻繁に行う。
人材開発/組織開発中心のHRBP
どちらかというと、人材開発/組織開発に重きを置いた求人内容もあります。 <HRBPの業務内容> 部門ごとの組織開発、人材育成、評価・配置などの人事制度の運用を担当。 <HRBPの背景> HRBPの体制を開始し立ち上げ期。各部門とコミュニケーションを取りながら、人事観点とビジネス観点の両面で事業成長をサポートする役割を担ってほしい。
05HRBPの導入において気をつけたいこと
HRBPの導入において押さえておくべきポイントとして、次が挙げられます。
- ・信頼関係の構築
- ・他部署との連携
- ・トライアルから始める
- ・本社や人事の言いなりにならない
HRBPは各部署と一体となって目標に向かっていく必要があります。周囲と信頼関係を構築して、まずはスモールスタートから始めていきましょう。また、規模が大きい会社では、経営層などが手動でHRBPを導入することで反発が起きてしまう場合もあります。経営者と従業員の橋渡しとなるように、しっかりと中立の立場となれる人物を選定していきましょう。ここでは、それぞれの要素について、具体的に解説していきます。
信頼関係の構築
HRBPは、組織内の従業員と直接関わり、彼らのニーズや課題を理解し、解決策を提供する役割を果たします。そのため、信頼関係の構築が不可欠です。従業員はHRBPに自分の問題や懸念を打ち明ける必要があります。そのためには、HRBPは信頼を築くために透明性、公平性、機密性を重視し、従業員とのコミュニケーションを積極的に取ることが必要です。
<コミュニケーションについてのSchooおすすめ授業>
HRBPは従業員の声を汲み取り、解決策を提示していくため、良好な人間関係を築くためのコミュニケーションは必要不可欠です。 そこで今回、2021年5月20日に発売された『一流のメンタル 100の習慣』(朝日新聞出版)の著者で、6000人ものCAを育てた日本航空の元管理職教官の山本洋子さんをお迎えし、「人間関係が上手くいく双方向コミュニケーション」について教えていただきます。
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株式会社CCI 代表取締役
短大卒業後、日本航空に入社。国際線客室乗務員として25年間在籍。その間、客室訓練部にて教官をつとめ、CA採用面接官も経験する。海部元首相や皇太子時代の天皇陛下特別便を乗務。チーフパーサーとしてファーストクラスを担当し、国内外のVIPを接客する。管理職に昇格後は、CAの模範となるサービスアドバイザーとして、機内サービスの企画立案、実施並びに約6000人のCAの指導育成、査察に携わる。退職後は、外資系保険会社にて7年間コンサルティング営業に従事する。接遇と営業の経験を活かし、研修会社CCIを設立。国土交通省を始めとした企業研修や経営者ビジネスサロン「エグゼクティブSTYLE」を主宰、女性向け講座も多数開催している。
他部署との連携
HRBPは単なる人事部門の一員ではなく、組織全体をサポートする役割を担います。そのため、他部署との連携が重要です。組織全体の目標や課題を理解し、他部署との協力関係を築きながら、人事の視点から支援や提言を行うことが必要です。このような連携により、組織全体の効率性やパフォーマンスが向上します。
トライアルから始める
HRBPの導入は大きな変化であり、一度に全てを変えようとすると抵抗や混乱が生じる可能性があります。そのため、トライアルから始めることが重要です。小規模なプロジェクトや部署レベルでの導入を行い、その効果を評価しながら段階的に展開していくことが有効です。トライアルから始めることで、組織内での受け入れや適応がスムーズになります。
本社や人事の言いなりにならない
HRBPは組織内の従業員を代表し、彼らの利益を最大化する役割を果たします。そのため、本社や人事部の方針や要求に盲目的に従うのではなく、従業員の立場やニーズを常に考慮しながら行動することが重要です。時には本社や人事部との意見の相違が生じることもありますが、その場合でも従業員の利益を第一に考える姿勢が求められます。
06HRBPと既存の人事・労務との違い
当記事の冒頭で説明したように、HRビジネスパートナーは従来の人事業務とは異なり、事業に貢献する人材/組織マネジメントを事業責任者に提案し、実行する「能動的」「ディレクティブ」な業務遂行が大きな特徴です。 誤解を恐れず言うと、HRBPを置こうという意思決定を行っている企業は、人材/組織マネジメントが事業を進める中心であると認識していることが多いと言えます。 そういう意味で、人材や組織の活力や可能性を活かすことを本気で目指すには、HRBPはとても魅力的な仕事だと言えます。
HRBPの市場価値
HRBPの需要は高まっています。 外資系企業への採用支援を行っているロバートウォルターズによると、HRBPの需要が高いことが示されています。
HRBPは、従業員の満足度やエンゲージメントがビジネス成功に直結することが認識され、組織内の人材戦略の中心的な役割を果たします。昨今では、多様性とインクルージョンの重要性が強調され、組織が多様な人材を活かすためには、HRBPのリーダーシップが不可欠です。これらの要因により、組織はHRBPの導入を通じて戦略的な人材管理を実現し、競争力を高めることが求められています。 HRBPは、これから需要が高まる可能性が高いと言えるのではないでしょうか。
人事との違い
人事の仕事は、人事制度の整備です。そのため、各部署における人材や制度の管理や整備をおこなうことが主な仕事です。一方で、HRBPは業績を拡大していくために、人材の採用や引き抜き、育成、異動などが求められます。人事が人材に対して守りの仕事をするのに対して、HRBPは攻めの仕事をすると考えるとイメージしやすいでしょう。
労務との違い
労務の仕事は、従業員が働きやすいように職場の環境を整えることです。勤怠や給与の管理、福利厚生などが主な仕事です。これらは従業員のモチベーションに繋がることも多いものです。HRBPの役割として、評価制度の整備などが含まれますが、あくまでこれらは経営戦略や組織改革を実現させるための手段なので、目的の視点が異なります。
これからHRBPを目指すには
これからHRBPを目指す際には、以下の3点がポイントとなります。
- 1.人事業務を経験すること(採用・育成・評価)
- 2.事業戦略立案を実施できる実力をもつこと
- 3.思考力とコミュニケーション力を身につけること
まず、何らかの人事業務経験があったほうが良いでしょう。HRBPを目指す入口に立つには、やはり人事業務について知見があると有利です。 加えて、今まで見てきたようにHRBPには人事業務だけではなく、能力としての経営観点、そしてコンサルタント並みの思考力とコミュニケーション能力が必要です。 すべてを身につけなければ挑戦できないことはありませんが、上記の3つのポイントで自分自身の評価ができれば、目指すための具体的な筋道をイメージしやすいでしょう。
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07まとめ
当記事では「HRビジネスパートナー(HRBP)」について解説しました。 積極的な事業への貢献をめざすHRBPは、今後、需要が高まる職種であると言えます。 画一的な人事しかできていないと思っている方、あるいは個人としてHRBPを目指したいと思う方は、当記事をきっかけに、HRBPについてさらに深く調べてみてはいかがでしょうか。