公開日:2022/01/26
更新日:2022/08/24

タフアサインメントとは?飛躍的な能力開花を促すための取り組み方を解説

タフアサインメントとは?飛躍的な能力開花を促すための取り組み方を解説 | オンライン研修・人材育成 - Schoo(スクー)法人・企業向けサービス

現在の実力では達成が難しい課題をあえて課し、短期間での成長を促す人材育成の手法をタフアサインメントと呼びます。対象者の飛躍的な能力開花が期待できる一方、一定の負荷がかかることは避けられないため、マネジメントを行う側にも力量が求められる手段です。 当記事ではタフアサインメントの概要と、実際に行う際のポイントについて解説します。

 

01タフアサインメントとは

タフアサインメントとはマネジメント手法の一種で、ストレッチアサインメントともいいます。 簡単に言うと、本人の実力以上の仕事をあえて任せることで、通常の業務からは得られないような飛躍的な成長を促すという手法です。容易に達成できないチャレンジングな目標に取り組むことで、対象者の能力開花を狙います。また、本人に自信や達成感を与え、モチベーションを向上させる効果も望めます。

日常業務のなかでのタフアサインメント

マネージャーが普段から実践できることとして、日常業務のなかでタフアサインメントを実施していくやり方があります。メンバーの力量を見極めつつ、「背伸びをすればなんとか届く」レベル感の業務をアサインすることで、成長を促すことができます。

ポジションへのタフアサインメント

プロジェクトリーダーやラインマネージャーといった、ポジションへのタフアサインメントを行う方法もあります。単に業務の難易度を上げるというだけでなく、裁量の広がりも伴うため、よりストレッチングな手法と言えるでしょう。 組織全体へ及ぼす影響が大きく、対象者への負荷も高くなるため、一組織の運営として行うのではなく人事や経営の目線から戦略を立てて行う場合が多いようです。

 

02タフアサインメントが社員の成長を促す理由

なぜ、タフアサインメントは社員の成長を促進させるのでしょうか。肌感覚として納得できる部分も多いかと思われますが、理解を深めるために心理学や人的資本管理の観点から整理します。

成長の過程を理解するための「3つのゾーン」

タフアサインメントの原理と関連性の深い心理学的概念が、同心円状に表される3つの心理空間です。

コンフォートゾーン

コンフォートゾーンとは、comfort(快適)という言葉が示す通り、居心地がよくリラックスできる、安心感のある心理領域のことを指します。 職業生活で言えば、慣れ親しんだ環境・人間関係のなかで、既に習熟して失敗の可能性の少ない業務をこなしている状態がコンフォートゾーンです。 本人としては安心感があり、一概に悪い状態とは言えません。しかし、そこにとどまり続けると、物足りなさを感じてモチベーションが下がってしまったり、現状以上の成長がなかなか望めなかったりといったデメリットがあります。

ストレッチゾーン

コンフォートゾーンの外側にあるとされるのが「ストレッチゾーン」です。コンフォートゾーンに比べ、やや負荷のかかる環境に置かれた際の心理領域を指します。 職業生活でいえば、これまでと違う環境や人間関係のなかで仕事をしたり、大きなプロジェクトを任せられたりといった、少し背伸び=ストレッチをしないと目標に届かない状態です。 ストレッチゾーンに身を置き「背伸び」をすることで、社員は今まで届かなかった目標に到達できます。別名「ラーニングゾーン」とも呼ばれる、学びには非常に有益な心理領域です。 タフアサインメントが目指すのも、このストレッチゾーンに身を置き成長を促すことだと言えるでしょう。

パニックゾーン

人の成長は多くの場合、コンフォートゾーンとストレッチゾーンの反復により実現します。実力よりも少し難しい課題に挑戦し、習熟して落ち着いたらもっと難しい課題へ挑戦する、といった繰り返しによって段階的に成長していくのです。 ここで避けたいのが、ストレッチゾーンを飛び越えて「パニックゾーン」に入ってしまうことです。どう努力しても届かないような高すぎる目標を強いられたり、理不尽に困難な環境に置かれたりといった状況は、対象者に過度なストレスを与え、目標へ向かって冷静に進む力を失わせます。成長を促すには、ストレッチゾーンとパニックゾーンの境を見極め、適切なレベル感の課題を与えることが大切です。

「経験学習」の視点から見るタフアサインメント

北海道大学大学院 経済学研究科の松尾 睦教授が提唱する「経験学習」の概念も、タフアサインメントの有用性を裏付けています。 実際の業務経験とそれに対する内省・振り返り、そこから得た教訓が成長へとつながるというのが経験学習の骨子ですが、そこで重要視されているステップのひとつが目標への挑戦=ストレッチです。 松尾教授は経験学習を、人材育成・マネジメントの手段として提唱しています。部下に「背中から学ばせる」のではなく、アサインから振り返りまでの並走によって成長を促すという経験学習の手法は、タフアサインメントを行う上で頭に入れておきたい要素です。

 

03タフアサインメントが注目されている背景

近年、単なるいち所属内でのマネジメント手法ではなく、人事施策としてタフアサインメントを行う企業も増えているようです。なぜそのような傾向が見られるのか、主要な理由を解説します。

企業における「人材」の重要度の高まり

人材はもともと企業において非常に重要な資産ですが、近年はその重要性がますます高まってきています。 少子化による労働人口の減少や労働市場の流動性の高まりにより人材の確保が難しくなる一方で、仕事の高度化などの要因により、企業が人材に求める「質」はさらに高まっています。確保した貴重な人材をいち早く求める水準へと成長させるため、戦略的にタフアサインメントの手法を取り入れる企業が増えてきていると言えるでしょう。

次世代リーダー育成へのニーズ

企業を取り巻く環境の変化は年々激しくなり、経営者に求められる資質がこれまでに比べてさらに多岐にわたるようになってきています。これを深刻視し、次の経営を担う次世代リーダーの育成に早期から取り組みたいと考え、タフアサインメントで社員の育成を加速させようとする企業が増えています。 なおこの文脈において、タフアサインメントは「早期抜擢」とセットで考えられることが多いようです。つまり、一律に行うマネジメント手法としてではなく、リーダー候補を早い段階で選抜したうえでそこにある程度リソースを集約し、チャレンジングな業務やポジションを与えて成長を促すという戦略です。

 

04タフアサインメントを行うマネージャーに必要な「3つの見極め」

社員の実力に対してやや重い課題を与えるタフアサインメントは、マネージャーの手腕が問われる育成方法でもあります。実施にあたって注意すべき点を3つご紹介します。

対象となる人材の見極め

過度にストレスに弱かったり、極端にモチベーションが低かったりといった特性をもつ部下に対しては、タフアサインメントが逆効果となる可能性があります。 また、通常であればタフアサインメントに適した資質をもつ部下であっても、タイミングによっては、そのとき担当している業務の状況や業務外で抱えている事情などが原因で、適性が失われている可能性もあります。 すべての部下に対してやみくもに実施するのではなく、日ごろの業務で特性を見極めながら、効果が見込めるかどうかを判断しましょう。

与えるポジションや業務の見極め

タフアサインメントで重要なのは、与えるポジションや業務のレベル感です。単に難しい課題を与えればよいというものでもなく、部下の能力に照らして「がんばれば届く」水準であることが大切です。

手を差し伸べるタイミングの見極め

部下が課題に取り組んでいるときに上司が手助けをしすぎてしまうと、創意工夫の機会や「自分で達成できた」という自信を奪ってしまうことがあります。 かといって難しい課題に臨ませる以上、完全に放置してしまうことも好ましくありません。 過保護にはならず、かつここぞというタイミングにはすぐに相談に乗れるよう、適度な距離間で辛抱強く部下の挑戦を見守りましょう。

 

05タフアサインメントの実施において人事部門が意識したいポイント

企業戦略としてタフアサインメントの実施を行いたい場合、人事部門が主導して下地を整える必要があります。どのような点を意識すればよいか、主要なポイントを解説します。

適切な評価を行える下地は整っているか

必ず確認したいのが、チャレンジングな課題に挑戦した社員に対して、適正な評価を行える仕組みが整っているかという点です。 例えば現制度が非常に成果主義的で、目標達成度を重視しているとします。 このような制度のもとでは、自分の実力以上の課題に挑戦したことで思うように成果を出せなかった社員に対して、チャレンジしたことそのものへの評価を十分に行えない可能性があります。すると、難しい課題に挑戦するよりも確実に達成できる課題をこなすほうがよいということになり、社員のチャレンジへのモチベーションを下げてしまうことにつながってしまいます。 社としてタフアサインメントを推奨するのであれば、社員のチャレンジへの姿勢を適正に評価できるよう、評価制度を今一度確認しましょう。

等級・任命制度が枷となっていないか

いわゆるポジションへの早期抜擢も念頭に置いてタフアサインメントの手法を取り入れたいのであれば、等級・任命制度も確認しましょう。 次の等級へ上がるために滞留年数が条件となっている場合や、等級と任命が厳格に紐づいている場合は、それらが今後実施したい施策の枷となっていないかの検証が必要です。

抜擢する人材について現場と合意はとれているか

異動や任命を伴うタフアサインメントに関しては、人事と所属の意図が相反するケースもあり得ます。人事主導で優秀な人材を選抜してタフアサインメントを実施する場合、現場が「その人材に抜けられては困る」と主張することは十分想定されることだからです。 全社戦略としてタフアサインメントを実施する場合、どういった人材を対象とするかという点、そしてそれによりどのような会社のあり方を実現したいのかという点について、上層部および現場と一貫した合意を形成することが大切です。

抜擢されなかった人材に対するケアをどう考えるか

人材を選抜してタフアサインメントを行う場合、抜擢されなかった人材に対するケアが論点となります。 チャレンジの対象として用意できるポジションや案件には限りがあるため、早期抜擢を行う場合は社員から一部を選抜し、ある程度集中してリソースを割くことになります。 ここで注意したいのは、選抜されなかった社員のモチベーションの低下です。 彼らは、決して企業にとって重要でないというわけではありません。企業活動を営む上で一人ひとりが欠かせない役割をもっている存在なのですが、それを伝えたとしても「選ばれなかった」という事実が社員の意識に影響を与えてしまう可能性は大いにあります。 戦略的にタフアサインメントを行う場合は、そのような社員感情への配慮が必要です。例えば最初の選抜ですべてが決まるのではなく、節目節目で大きなチャレンジへ手を挙げられるというように、育成体系を工夫することも有効な手段でしょう。


 

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06まとめ

タフアサインメントは社員の成長を促すうえで非常に有用なマネジメント手法ですが、運用には一部注意が必要です。 タフアサインメントの実施によって目指すところを明らかにしたうえで、場合によっては人事制度の根本的な見直しも検討し、効果の発揮を狙いましょう。

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