公開日:2022/01/26
更新日:2023/08/20

ナッジとは?従業員サポートに役立つテクニックを紹介

ナッジとは?従業員サポートに役立つテクニックを紹介 | オンライン研修・人材育成 - Schoo(スクー)法人・企業向けサービス

ナッジとは、より良い選択を自発的に行うための仕掛けや手法を意味します。本記事ではナッジの概要や企業での活用方法、企業で期待できる変化などについて紹介します。これからナッジを導入したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。

 

01ナッジとは?

ナッジ(nudge)は、直訳すると「ひじで軽く突く」「背中を押す」などの意味を持つ単語です。2017年に、アメリカのリチャード・セイラー教授が提唱しました。行動経済学・経済心理学のひとつであり、選択の余地を残しつつ、強制することなく行動変容を促す理論を指します。選択した本人は誘導された自覚がなく、自発的に選んだという感覚を持っています。そのため、「強制された」と不快感を感じることがありません。人々が自発的に意思決定するための環境づくりができるかどうかが、ナッジを進めるうえでの重要ポイントと言えるでしょう。

ナッジの代表的な事例

ナッジの事例にあげられるもののひとつとして、消費税率が上がった際のスーパーの取り組みがあります。3%から5%へ上がった際、5%オフにするセールを「消費税還元セール」と題し、消費者に告知しました。これは増税に抵抗がある消費者心理を活用し、ナッジの要素を含めた販売促進策のひとつです。 また、スーパーの店頭やレストランのメニューなどで、「本日のおすすめ」と書かれているものを良く目にしますが、これにもナッジ理論を活用しています。特定の商品の売り上げを伸ばしたいという、店舗側の意向が反映されているためです。

パターナリズム・リバタリアニズムとの違い

パターナリズムとは、立場の強い人が弱い人の意思に関係なく行動に介入することで、「温情的介入主義」と言われることもあります。立場の弱い人の意思が反映されず、自由が阻害される状況となるため、好ましい状況とは言えません。 リバタリアニズムとは、「完全自由主義」と訳されることが多い言葉です。他人の自由を邪魔しない限り、各々の個人的・経済的双方の自由を尊重しようとする考えを意味します。 ナッジは、この2つの性質を兼ね備えた思想です。「強制しない誘導」として選択肢を複数提示し、冷静な判断のもとで選べる環境をつくり出します。

ナッジに注目が集まっている背景

人々の合理的な判断や選択が限定される場合に、より望ましい選択を促すための手段であるナッジですが、そもそものはじまりは、シカゴ大学のリチャード・セイラー教授とハーバード大学のキャス・サンスティーン教授により、2008年に出版された『Nudge : Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness』で提唱された理論です。イギリスでは、ナッジを活用し、税徴収率を向上させるなどの成果を挙げ、注目が集まっています。日本では2018年にナッジの活用が成長戦略や骨太方針へと位置付けられ、統合イノベーショ ン戦略、AI 戦略、各種白書等でナッジの活用が推進されています。

【参考】ナッジと EBPM | 環境省

 

02ナッジを構成する4要素

ナッジの考え方は、次にあげる4つの要素(フレームワーク)から構成されています。要素の頭文字を取って「EAST」と呼ばれており、相手の行動を促すための重要なポイントとなっています。EASTは、イギリス政府がナッジを活用するうえで効果的だったと表明しているほどです。それぞれの要素が何を意味しているのか、見ていきましょう。

Easy

「簡単」という意味を持つ単語ですが、ナッジにおいては簡単かつ楽に行える行動を選ぶ傾向を指します。具体的には、選択肢を絞って選びやすくする、難しい専門用語を使わずに分かりやすい言葉で資料を作るなどして、行動をとりやすくするのです。 アンケートの回答においても、記述式よりも選択式のほうが、回答率が上がった事例が報告されています。

Attractive

「魅力的」「印象的」などの意味を持つAttractiveは、ナッジでは人が魅力的だと感じる選択肢の用意を言います。相手が興味を保つための仕掛けを行い、行動を起こすきっかけとします。 企業で行われている例としては、コミュニケーションを高めるためのサンクスカードや、業績をたたえるための表彰制度などがあげられます。

Social

「社会性」「社会的」といった意味の単語です。ある行動を、社会的な行動と意識させ、他の人達が影響を受け、同じ行動を取るように促します。 例としては、従業員へ健康診断の受診を促す際に、「8割の社員が受診した」などと伝える行為があげられます。

Timely

「適切なタイミング」を意味している単語です。情報やサービスを求めている相手に、適切なタイミングでアプローチを行い、行動を起こしやすくします。 例えば、営業成績が上がって表彰された従業員に対して、表彰式の場で次の目標を決めるように促すと、さらに高い目標を掲げられるようになります。

 

03ナッジを活用する6つのテクニック

ナッジの概念は、行政・企業・個人など、幅広い場面で活用されています。企業においては、選択が難しい場面では、特に多く用いられているのです。企業でぜひ活用したいナッジのテクニックとしては、次の6つが挙げられます。

  • デフォルト
  • フィードバック
  • インセンティブ
  • エラーを予期する
  • 選択肢の構造化
  • マッピングの理解

これらはいずれも、ナッジの概念を有効活用したテクニックばかりです。

デフォルト

「初期設定」「初期値」という意味の単語ですが、対象者に選んでもらいたい選択肢をデフォルトにしておくのは、有効な手段のひとつです。 例えば、企業内で確定拠出年金の加入者数を増やす施策を行うとします。書類などで、あらかじめ「加入する」の欄にチェックを打っておき、加入しない場合はチェックを外すという方式で手続きを行うと、 加入するという行為がデフォルトとなります。この方式で、加入者数が急増した事例があります。加入する・しないは、従業員本人の意思に委ねることが重要です。

フィードバック

企業で仕事をしていると、多くの人は成長したいという意欲が湧いてきます。そのなかで業務に関するフィードバックを行い、企業側から営業成績を伝えたり、顧客からの反応を知らされたりすると、自分の業務が適切だったかどうかがわかります。フィードバックを基に、更に望ましい方向へ誘導するのは、ナッジの理論を活用した教育方法のひとつです。

インセンティブ

行動に対してメリットを与えることを言います。ここで重要なのは、メリットが金銭的なものではなく、「メリットとなる行動を取ると自分の糧になる」と捉えてもらう点です。 例えば、スタンプカードが10個貯まると1杯無料で飲めるというコンビニコーヒーのサービスは、インセンティブ効果を活かしたものです。

エラーを予期する

予測されるエラーに対して、前もって対策を考えておく行動を指します。分かりやすい例としては、ATMで現金を下ろした後に返却されるものの順番があげられます。カードや通帳の取り忘れを防ぐために、先にカードや通帳が返却され、最後に現金が出てくる仕組みは、エラーを予期することの代表的な事例です。

選択肢の構造化

レストランのメニューや引越し先のアパートなどを選ぶときに選択肢がたくさんあると、どれを選んだら良いか迷ってしまうことがあるでしょう。その際に、セットメニューから選んだり、家賃や間取り駅からの距離などで選択肢を絞ったりするなどして構造化すると、選びやすくなります。

マッピングの理解

マッピングとは、特定の項目に対して、別の項目を位置付けたり、割り当てたりするルールや規則を指します。ナッジにおいては、人々の行動とその背後の意思決定プロセスを理解することから始まります。なぜ人々がある行動を選び、どの要因が影響を与えるのかを把握することで、適切なナッジを開発し、望ましい行動を促進するための手段を考えることができるのです。例えば、医療機関で定期的に健康診断を受けるように促すため、予約のリマインダーや健康診断の重要性を示す情報を提供することで、人々が健康管理を意識的に行うようになります。

 

04職種別でのナッジの活用例

ナッジは様々なビジネスシーンでも活用することができます。ここでは職種別に活用例について解説します。

マーケティング職

ナッジとの相性が良いマーケティングは様々な活用方法があります。一例として、デフォルトのテクニックを使ってメルマガの読者数を増やすことを考えてみましょう。会員登録時にメルマガの受信を選択させるフォームでは多くの場合、受信しないを選択する人が多くなってしまいます。そこで、自動的にメルマガの配信がされるように登録するように仕組んでおくのです。メルマガを解除するには意識的な行動が必要で、メルマガがユーザーにとって少しでも役立つ内容であれば解除される可能性は低くなります。 このように、マーケティング施策にナッジを取り入れることで効果を高めることができるのです。

営業職

営業においても商品の売上を上げるためにナッジを活用することができます。主な方法として、売りたい商品をそれ単体で紹介するのではなく、引き立て役となる商品も併せて販売する方法が挙げられます。 例えば、新聞の購読について、紙面版が5,000円、WEB版が4,500円であるとします。そして紙面版・WEB版をセットで5,500円とするとセットの方がお得だと感じる人が多くなるのです。 ユーザーはお得だと感じるものを購入する傾向にあり、お得であれば本当に欲しいわけではなくても選んでしまうのです。このように、売りたい商品を引き立てるために、別の商品をあえて販売する考え方も大切です。

人事

人事の仕事においても、ナッジの活用が可能です。例えば、任意参加型の研修への参加率を上げる施策を考えてみましょう。より多くの社員に参加してもらい、学んでもらいた者です。そこで、出欠の確認方法として、欠席の場合のみ担当者に連絡する形式とし、デフォルトでは出席とするのです。そうすることで、研修内容が招待者全員にとって意味のあるものだと考え、出席率の向上につながります。 このように、ナッジを活用することによって企業の人材育成を効果的なものに変えることができるのです。

 

05ナッジによって期待できる社内の変化

ナッジの考え方は、ビジネスシーンでも大いに役立ちます。ここからは、ナッジの考え方を取り入れることで、社内に起こりうる変化を考えてみましょう。どれもプラスの変化を期待できるものばかりです。

従業員に決断力がつく

ナッジの概念としては、自発的に決定したという感覚を持っている点が特徴です。そのため、従業員が自分自身で決断を下したときにも、「自分の意思が尊重された」と自信が持てるようになり、 物事に対する決断力をつけられます。

上司・部下間に信頼関係が生まれる

ナッジを活用すると、上司は部下に対して強制しない誘導を行うことになります。しかし、部下は 自発的に決定したと考え、上司に誘導されたとは感じません。そのため、部下は自分の意見が上司に受け入れられたと捉え、上司と部下の間に信頼関係が生まれます。

売上・利益が改善される可能性が高い

ナッジを活用することで、従業員の心理に即した営業戦略や経営戦略などを立てられるため、効果的な経営につなげられる可能性が高まります。さらに、改善すべき点が生じた場合にも素早い対応が可能です。これらの積み重ねにより、売上や利益の改善を期待できます。

 

06ナッジを活用するときの注意点

うまく使えば効果的なナッジですが、注意点も存在します。具体的には次のようなものが挙げられます。

  • ・操られていると感じさせてしまう可能性がある
  • ・意図していな行動を促す可能性がある

ここでは上記について具体的に解説します。

操られていると感じさせてしまう可能性がある

ナッジは人を動かす効果的な手法ですが、多用しすぎると操られていると感じる人も出てくるようです。その結果、促したい行動と逆の行動をとってしまうこともあるのです。 ナッジを導入する際には、できる限り誘導されているような気持ちにさせないような施策を考える必要があり、露骨な表現を避けるなどが大切です。

意図していな行動を促す可能性がある

ナッジを導入したにも関わらず、逆に悪影響が生じるケースもあります。 例えば、会員から退会しようとする人に対して、何度も退会しないことのメリットを提示したり、退会手続きの方法をわかりづらくするなどが挙げられます。これらのナッジは退会を阻止できたとしても、企業のイメージを悪化させ、商品やサービスの利用意向の低下につながります。 導入するナッジのプラスの効果だけではなく、マイナスの効果がないかをしっかりと考えておくことが重要です。

 

07ナッジの事例

厚生労働省

行政機関のひとつである厚生労働省では、自治体の医療・健康担当部署向けに、がん検診や特定健診の受診率の向上施策として、ナッジを活用した全国の自治体の取組事例をわかりやすくハンドブックにまとめています。ハンドブックでは、、最適な選択をできない人を より良い方向に導くための手法として、ナッジをどのように活用していけばいいかを解説しています。

【参考】厚生労働省 受診率向上施策ハンドブック | 自治体ナッジシェア

京都市

京都市では、京都市内有数の繁華街である四条通で一部のタクシーによる交差点・横断歩道付近での客待ち駐停車が頻発しており、近隣バス停におけるバス発着の妨げや交通渋滞の要因となっていました。そこで、京都市と株式会社NTTデータ経営研究所による公民連携の共同実証実験として、京都市内の交差点付近におけるタクシーの違法な客待ち駐停車を解消するために、ナッジを活用した看板を設置。その結果、看板設置前に比べて、設置後では、1日あたりの違法停車時間の合計が約9割減少する成果に繋がりました。

【参考】京都市 タクシー駐停車マナー改善ナッジ | 自治体ナッジシェア

NECソリューションイノベータ株式会社

昨今、日本をはじめとする先進諸国において、環境問題は重要な課題として注目が集まっており、大量生産・大量消費・大量廃棄社会から資源循環型社会へのシフトが求められています。そんな中、NECソリューションイノベータ株式会社は、宮城県南三陸町にて、ナッジを活用し、南三陸町のゴミ集積場261か所で、住民に対して生ごみを出す行為に対して、感謝状を設置しました。結果、感謝状を掲載したゴミ集積場と非掲載のゴミ集積場では、生ごみの質や量が向上した。

【参考】NECソリューションイノベータ株式会社 感謝フィードバックによる資源循環促進 | 環境省

 

08ナッジ能力を身につけるためにおすすめの研修

ナッジ能力を身につけて部下との関係を良好に保つためには、研修の実施が近道です。オンラインや座学など、さまざまな研修方法がありますので、受けやすい研修を検討してみましょう。数ある研修のなかでもおすすめの研修は以下の通りです。

管理職研修

管理職の役割は、部下の能力を認めた上でより向上させ、業績を上げることです。そのためには、「期待できる社内の変化」でも紹介したように、部下のやる気を上げる方法を学ぶ姿勢が求められます。 管理職研修で学ぶ主な内容は、部下の指導や育成を行う際に適切な方法です。 部下から仕事への意欲を引き出す際には、ナッジの考え方が重視されます。

マネジメント研修

ナッジの考え方を活用したマネジメント研修も、多くの企業が取り入れるようになりました。マネジメント研修は、人の行動を理解するところから始まり、行動を阻害する「バイアス」という思考が発生する点も学びます。このバイアスから抜け出すためには、ナッジが有効です。部下の思い込みを正しい方向に導く方法を習得できます。

コミュニケーション研修

コミュニケーションは、どの仕事においても欠かすことができないスキルです。コミュニケーション研修を受けることで、人を動かす力が身につき、ナッジのメリットをさらに活かせるようになります。部下に伝えた内容を、部下が納得して受け入れるためには、ナッジの考え方だけではなく、日頃のコミュニケーションも重要です。


 

研修をしてもその場限り」「社員が受け身で学ばない」を解決!
研修と自己啓発で学び続ける組織を作るスクーの資料をダウンロードする


■資料内容抜粋
・大人たちが学び続ける「Schoo for Business」とは?
・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など

Schoo_banner
 

09まとめ

ナッジは、上司と部下が良好な関係で仕事を行うために、必要不可欠な考え方です。強制的に命令や指示などを出すことなく、部下を適切な方向へと誘導できるようになります。部下の考え方をできる限り尊重したうえで、企業全体が一丸となれるような取り組みを行っていきましょう。

  • Twitter
  • Facebook
  • はてなブックマーク
  • LINE
この記事を書いた人
Schoo編集部
Editor
Schooの「世の中から卒業をなくす」というミッションのもと活動。人事担当や人材育成担当の方にとって必要な情報を、わかりやすくご提供することを心がけ記事執筆・編集を行っている。研修ノウハウだけでなく、人的資本経営やDXなど幅広いテーマを取り扱う。
執筆した記事一覧へ

20万人のビジネスマンに支持された楽しく学べるeラーニングSchoo(スクー)
資料では管理機能や動画コンテンツ一覧、導入事例、ご利用料金などをご紹介しております。
デモアカウントの発行も行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

お電話でもお気軽にお問い合わせください受付時間:平日10:00〜19:00

03-6416-1614

03-6416-1614

法人向けサービストップ