エグゼンプトとは?アメリカの雇用形態と注意点をわかりやすく解説
エグゼンプトとはアメリカの雇用形態のひとつで、労働者自ら労働時間の管理を行い、残業代の支払い対象とならないことを意味します。本記事では、エグゼンプトの考え方や制度の概要を説明します。
01エグゼンプトとは
エグゼンプトは、もともとアメリカのFLSA(公正労働基準法)で定められている制度で、労働者自ら労働時間の管理を行い、残業代の支払い対象とならないことを意味します。 反対に、時間外労働賃金の支払い対象者のことを「ノン・エグゼンプト」と呼びます。 日本では、働き方改革が叫ばれて久しい昨今ですが、その議論の中で「ホワイトカラー・エグゼンプション」という考え方があります。柔軟な働き方ができるため、導入を待ち望む声がある一方で、際限なく時間外労働を課されるのではないかという不安の声があるのも事実です。
エグゼンプトが注目される背景
「ホワイトカラー・エグゼンプション」が注目される背景には大きく2つの流れがあります。ひとつ目は、働き方改革の実現に向けた取り組みで、2019年に施行された「高度プロフェッショナル制度」です。この制度は、一定の要件を満たした専門的知識や高度な能力を持つ労働者に対して、労働時間にもとづく制限を撤廃する制度です。 2つ目は、新型コロナウイルス感染症の影響により、テレワークが普及し、時間にとらわれない自由な働き方として、改めて注目された点です。
ノン・エグゼンプトとの待遇の違い
ここで、ノン・エグゼンプトとエグゼンプトとの定義をおさらいしておきましょう。両者の主な違いは、時間外労働賃金の支払いの有無であり、アメリカの一般企業におけるエグゼンプトは主に管理職・専門職・営業職などに代表されるホワイトカラーです。詳しい内容は後述します。 一方、ノン・エグゼンプトは、ホワイトカラーの一般職やブルーカラーの従業員が対象となります。
02アメリカでエグゼンプトに該当する業種・職種
ここからは、アメリカのエグゼンプト制度について見ていきます。日本では、エグゼンプトの対象者イコール管理職のイメージが強いですが、アメリカにおいては必ずしもそうでなく、また州によって制度が微妙に異なります。 基本的には、1.一般的要件、2.俸給要件、3.職務要件の3つの要件を満たす必要がありますが、1.2.については共通で、3.については職種ごとに異なります。以下で職務要件の概要を見ていきましょう。
管理職エグゼンプト
職務内容が恒常的に存在する部門の管理であり、採用・解雇に関する権限、被使用者の昇給・昇進等の処遇面に関する大きな権限を有していることが条件となります。管理職については、日本に比べて、より経営に近いポジションを対象にしているのが特徴です。
運営職エグゼンプト
運営職が執り行なう分野は、経理や人事管理、宣伝、販売、安全衛生、労使関係など多岐に亘ります。その職務内容は、社員や顧客の管理、事業運営全般に直接的に関連する業務が多くなっています。また、職務遂行において、重要事項の裁量・独立した判断が認められています。
専門職エグゼンプト
専門職には以下の分類があります。「専門職」については、日本より広く解釈する傾向にあります。 1.学識専門職エグゼンプト:職務内容が、高度な学問的知識を必要とする労働であること 2.創造専門職エグゼンプト:職務内容が、音楽・芸術等の分野において、クリエイティビティが要求される労働であること 3.教師:職務内容が、教育機関に雇用されて行う教育活動であること。 4.法律業務エグゼンプト・診療業務エグゼンプト:正式なライセンス保持者であり、必要な学位および教育を受けていること 5.コンピューター関連職エグゼンプト:職務内容が、ハードウェア・ソフトウェア又はシステムの機能仕様決定に関わるものであること、または、それらの設計・開発・ドキュメンテーション・創作・テスト・修正等の業務であること
03エグゼンプトを導入するメリット
エグゼンプトに該当する業種・職種についてみてきました。エグゼンプトは、労働者・企業双方にメリットがある制度といえます。ここからは、エグゼンプト導入により得られるメリットについて、ひとつずつ説明していきます。
自己裁量で仕事ができる
エグゼンプトの大きな特徴のひとつが、労働時間の裁量を与えられている点です。コアタイムなど会社ごとの規則はありますが、与えられた仕事の責任さえ果たしていれば、自己判断で自由にプライベートの時間に充てることが可能です。 ただし、仕事の割り振りが明確になっていて、かつ、労働者それぞれの責任範囲が明確であることが前提条件になります。
企業は人件費を抑えられる
企業側としては、人件費を安く抑えられるメリットがあります。周りに合わせて残業する風習が残っている職場もありますが、そもそも給与とは、仕事の成果に対して支払われるべきものです。エグゼンプトを導入することで、従業員側も無駄な残業をしようと考えなくなるでしょう。
適正な評価を期待できる
エグゼンプトの導入で、適正な評価を得やすくなるのも利点です。長時間労働を美徳とする層が一定数存在するのも事実ですが、エグゼンプトを導入することで、労働時間の制約がなくなり、仕事の成果に対する正当な評価を期待できるのです。
従業員のモチベーションアップを期待できる
エグゼンプトは副次的な効果として、モチベーションアップを期待できます。前述したように、充実したプライベートは仕事に良い影響を与えるとともに、不必要な残業をしている従業員の方が、報酬が高くなる不公平感も払拭できます。また、成果のみで評価されることになるため、仕事に対する責任感が高まるでしょう。
04エグゼンプトを導入するデメリット
日本でホワイトカラー・エグゼンプションが導入されるまでには、「残業代ゼロ法案」や「定額働かせ放題」といった批判があったように、多くの懸念がありました。ここからは、エグゼンプト導入により、考えられるデメリットを見ていきましょう。
残業代カットが従業員のやる気の低下につながる
日本の伝統的な働き方に慣れていると、残業代が少なくなり、従業員のやる気低下につながるおそれがあります。日本の高度経済成長を支えた終身雇用・年功序列は「生活給」を前提にしていました。入社時は給与が少なく、勤続年数が増えていくにつれて給与も上がっていく仕組みです。 こうした考え方が根強く残っている場合には、エグゼンプトの考え方はそぐわないものになるでしょう。
過度な長時間労働が発生しうる
労働時間の制約がないということは、短時間の労働でも問題がない一方で、長時間働くこともできるわけです。そのため、時間外労働賃金の発生有無に関わらず、過度な労働が発生しないように、労働時間を管理する必要があります。 ホワイトカラー・エグゼンプション導入以前から、管理監督者など時間外労働賃金支給対象外の従業員に関しては、「健康管理時間」といった考え方で労働時間を管理していました。また、必要に応じてカウンセリングも行っていました。自由な働き方が増えるなかで、こうした管理をより一層厳密にしていくことが求められます。
個人主義に走りがちになる
日本の成長を支えてきたチームワークといった考え方が廃れていく可能性があります。前述したように、エグゼンプトは、仕事の責任範囲が明確であることを前提に、その成果のみで評価されます。こうした考え方では、他人の仕事を手伝うといった考え方は介在の余地がありません。そのため、個人主義的傾向が強まってしまうおそれがあります。
05企業にエグゼンプト制度を取り入れる際のポイント
エグゼンプトのメリットとデメリットをみてきました。ここからは、自社にエグゼンプト制度を導入する際に、気をつけるべきポイントを解説していきます。詳細な解説は厚生労働省の「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」ページ内にも記載があります。
ホワイトカラー・エグゼンプションの導入判断基準を理解する
ホワイトカラー・エグゼンプションを導入するには、下記の条件を満たす必要があります。 1.高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確であること 2.一定の年収要件を満たす労働者であること 3.労使委員会の決議及び労働者本⼈の同意があること 4.年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずること
高度な専門知識を有する業務の詳細
高度な専門知識を有する業務には、19の業務が指定されています。金融商品の開発・ディーリングやアナリスト、コンサルタント、研究開発、取材・編集業務、企画・立案・調査業務、公認会計士・弁護士などが挙げられます。 ちなみに医師は、医学研究に従事している場合は対象となりますが、臨床現場に属している場合は、ホワイトカラー・エグゼンプションの対象外となります。
社内ルールを制定する
導入条件の4にあるように、安全配慮義務上のルールとともに、フレックス制度におけるコアタイムなどの働き方ルールを定めておく必要があります。場合によっては、人事制度や就業規則の変更が必要になるケースもでてくるでしょう。
明確な評価基準を設ける
適正な評価を行うためには、明確な評価基準を設ける必要があります。目標の指標を具体的にすると同時に、目標設定面談などで目標基準合意のプロセスから、被評価者に納得感のあるプロセスを構築することが必要です。
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適正な評価を行うためには、明確な評価基準を設ける必要があります。目標の指標を具体的にすると同時に、目標設定面談などで目標基準合意のプロセスから、被評価者に納得感のあるプロセスを構築することが必要です。 以前のような年功序列型の雇用が崩れるなかで、成果主義的な風潮は日本でも広がりつつあります。それに伴い、企業・従業員双方にメリットがあるエグゼンプト制度も徐々に拡大していくと考えられます。ただし、運用には注意点もあるため、本記事を参考に新しい時代の働き方に備えて、今のうちから検討を始めてみてはいかがでしょうか。