ジョブ・リターン制度を最大限活用するには?制度の内容を詳しく理解しよう
ジョブ・リターン制度とは、やむを得ない理由で退職した従業員が復職する制度です。本記事では、ジョブ・リターン制度が設定された背景やメリット・デメリット、導入のポイントを解説しています。これからジョブ・リターン制度を取り入れたい方は、ぜひご参考にしてください。
01ジョブ・リターン制度とは
ジョブ・リターン制度とは、結婚や介護など、やむを得ない理由で退職した従業員を、本人の希望で再雇用する制度です。企業によって呼称が違い、「カムバック制度」と呼ばれる場合もあります。 ジョブ・リターン制度は、ワークライフバランスの推進にもなる制度で、導入する企業も増えてきていますが、まだ一部の企業にしか浸透していません。それも制度化することで全社員に認知されるようになり、一度退職しても戻ってきやすい雰囲気になる点が特長です。ジョブ・リターン制度を設けている企業に対して、助成金を出している自治体もあります。
正当な理由で退職した社員が復職できる制度
ジョブ・リターン制度は、正当な理由で退職した社員が復職できる制度です。正当な理由とは、結婚や妊娠、介護、キャリアアップによる留学などを指します。復帰するタイミングとしては、子どもが大きくなって子育てが落ち着いた後や、介護の必要性がなくなった際、スキルを十分に身につけて帰国した時点など、さまざまです。
制度化している企業は少ない
出戻りを認めている企業は多いものの、正式に「ジョブ・リターン制度」として制度化している企業はまだ少ないのが現状です。 厚生労働省が2017年に実施した雇用均等基本調査によると、再雇用制度を設けている企業は全体の30.3%となっています。 ジョブ・リターン制度を作らなくても、必要に応じて出戻り社員に対応したり、従業員も育休制度を取得したりするケースが多いためと言えます。また、人員削減中でジョブ・リターンする従業員の受け入れ枠がない企業も存在します。
奨励金や助成金を出している自治体もある
ジョブ・リターン制度を適用している企業に、奨励金や助成金を出す自治体もあります。東京都を例に出すと、「育児・介護からのジョブ・リターン制度整備助成金」という名目で、ジョブ・リターン制度を整備した企業に対して、20万円の補助金を出しています。 ただし、補助金を申請する流れは少々煩雑です。社内のジョブ・リターン制度の規定を設けたら労働基準監督署に届け出をしなければなりません。さらには社内外への通知を行い、細かい制度や支給要件も満たす必要があります。 さらにこの助成金制度は事前エントリー形式であり、いつでも申請できるわけではありません。まずは、企業が位置する自治体の助成金制度を確認することから始めましょう。
02ジョブ・リターン制度が設定された背景とは
以前は存在しなかったジョブ・リターン制度が、なぜ最近になって設定されるようになったのでしょうか。ひとつ目の理由として、企業の人材不足と少子高齢化の影響が挙げられます。昔と比べると労働人口が減少し、入社してもひとつの企業で働き続けたいと考える人が減少しているのです。この背景を受け、ジョブ・リターン制度を設定して従業員に戻ってきてもらい、人材不足の深刻化を防ぐのが企業の狙いです。
企業の人材不足が深刻化している
一昔前までは、新卒で入社した企業に定年まで勤め上げる流れが一般的でした。しかし、今では、入社しても数年で退社することや転職が珍しくない時代になり、募集をかけてもなかなか人が来ない、もしくは中途採用してもすぐに辞められるケースもあり、企業の人材不足が深刻化するようになりました。ジョブ・リターン制度を適用することで、離れていた従業員が戻ってきやすくなり、タイミングよく仕事を探していた元従業員も、再雇用を前向きに考えてくれる可能性があります。
少子高齢化の影響が大きくなっている
少子高齢化が進み、若い人材や優秀な人材を獲得するのが難しくなってきました。そうなると、企業の存続危機にもなります。そのため、かつて働いていた従業員が戻ってくると、社内のことを熟知しているので、細かく教える必要もなく、貴重な即戦力になります。
03ジョブ・リターン制度を導入するメリットは?
ジョブ・リターン制度を導入するメリットは、4つあります。それは、採用や研修にかかるコストの削減、社外で得たスキルの活用、企業のイメージアップ、社員のモチベーションアップです。ジョブ・リターン制度で、やむを得ず退職した従業員を前向きに受け入れている姿勢がアピールとなり、社内外の人に好感度を与えることができます。
採用や研修にかかるコストが削減できる
ジョブ・リターン制度による採用活動は、採用側も応募者側も互いのことを知っているため、スムーズに行われます。従業員はかつて職場で働いた経験があることから、雰囲気や仕事のやり方を熟知していて、自然に職場にも溶け込めるはずです。いちから教えなければならない中途採用者よりも、はるかに採用・研修コストを削減できます。
社外で得たスキルを活かせる
退職して再び職場に戻ってくることで、従業員は社外で得たスキルを活かすことができます。自社にはなかったノウハウやスキルを他社などで習得していることが企業にとっての刺激となり、業績が改善される可能性があります。特にキャリアアップのために退職・復帰した従業員であれば、より採用後の活躍に期待を持てます。
企業のイメージアップにつながる
ジョブ・リターン制度を導入することは、企業のイメージアップにもつながります。「退職しても戻ってきたいと思える会社」であると既存の従業員に伝われば、労働へのモチベーションアップにもつながるでしょう。特に妊娠・出産をきっかけに退職せざるを得ない女性にとって、戻れる職場があるのは心強いものです。このような観点からも、ジョブ・リターン制度は企業のイメージアップにつながる施策と言えます。
社員のモチベーションアップが期待できる
会社のために頑張ってくれる社員のために企業ができることは、福利厚生を充実させることです。ジョブ・リターン制度は、福利厚生の中でも魅力のある制度のひとつであり、社員のモチベーションアップが期待できます。 「企業が自分たち従業員のために導入してくれた制度」と思えば、自社への帰属意識も高まります。結果的に従業員のモチベーションがアップし、社内の環境も和やかになると予想されます。
04ジョブ・リターン制度のデメリットとは?
ジョブ・リターン制度にもデメリットはあります。代表的なデメリットは、退職しやすい環境ができてしまうこと、社員による待遇の開き、人間関係が複雑になる可能性の3つです。やむを得ずに退職をした社員が復帰できる仕組みではあるものの、企業側が意図しないトラブルが発生したり、戻ってきた従業員と既存従業員の間に溝ができたりすることもあるため、全方位に配慮した制度の導入を検討しましょう。
退職しやすい環境ができる恐れがある
退職してもまた戻って来れる環境を良いことに、気軽に従業員が会社を辞めやすくなるおそれがあります。退職は覚悟を持ってすることであり、気軽にすることではありません。ジョブ・リターン制度を設けることで、従業員が企業を軽んじてしまう可能性があります。
社員による待遇の開きができやすくなる
有能な従業員が役職付きで復職すると、既存従業員からの反発を招く可能性があります。「ずっと同じ場所で頑張っている既存従業員が損をしている」と感じてしまうのです。このような事態に発展しないように、ジョブ・リターン制度を活用する従業員は退職時よりも役職を下げてスタートするなど、何らかの措置を取りましょう。
人間関係が複雑になる可能性が起こる
復職した社員と既存社員との間に溝ができて、職場の人間関係が複雑になる可能性が低くありません。復職した社員が高い役職に就いたり、既存社員よりも多い給料を受け取ったりしていると、既存従業員の嫉妬心を煽ることになります。 また、経験があるからと言って、新しい仕事に取り組もうとしなかったり、上司目線で声をかけたりすると、既存社員の不満が溜まります。こういった状況を放置しておくと職場の環境が徐々に悪化し、離職者が出てしまうかもしれません。
05ジョブ・リターン制度を導入するためのポイントとは
ジョブ・リターン制度を導入する際のポイントは4つあります。制度が利用できる条件の明確化、既存社員との不公平にならない制度の制定、企業と退職者がつながる手段の確保、そして復職時の雇用形態の柔軟化です。これらのポイントを押さえて、復職する従業員と既存従業員、そして企業の三者がそれぞれ納得できる制度づくりを進めましょう。
制度が利用できる条件を明確にする
ジョブ・リターン制度を導入する際には、制度が利用できる条件を明確化する必要があります。例えば、退職の理由を介護や妊娠・出産、配偶者の転勤、留学などに限定する、勤続年数が3年以上の従業員に絞る、などです。このように条件を絞ることで、誰もが利用できる制度ではなくなり、離職率も抑えられます。
継続して在籍している従業員との不公平感が出ない制度を制定する
長年在籍している従業員との不公平感が出ない制度にするために、既存社員をベースに考えて制度の内容を決めましょう。復職する従業員のほうが待遇が良いとなると、現役社員から不満が出るためです。例えば、既存社員よりも給料を低く設定する、役職や昇進は既存社員を優先する、などとすれば既存社員のモチベーションも下がりません。長年自社に貢献してくれている社員のチャンスや成長を阻まないように配慮しましょう。
企業と退職者がつながる手段を確保しておく
企業と退職者がつながる手段を確保しておくと、人手が欲しいときにも復帰したい従業員から連絡が来る場合があります。あらかじめ自社のホームページで、ジョブ・リターン制度専用のページを作っておくと、退職者とスムーズにつながれるはずです。また、退職者の住所をシステムに登録しておき、企業側からジョブ・リターン制度の案内を出す方法もあります。このようにお互いの連絡手段を確保しておくことで、人手不足が発生した際にも解決することができるでしょう。
復職時の雇用形態を柔軟に対応する
復職時の雇用形態に幅を持たせると、勤務する本人にとって働きやすくなります。小さい子どもがいる従業員にはパートタイム、介護から手が離れた従業員にはフルタイム勤務など、一人一人に柔軟な対応ができるのが理想的です。復職希望者一人一人に合わせることで、従業員は復職後も安心して働けるようになります。
06ジョブ・リターン制度の導入事例
ここまでジョブ・リターン制度の概要について説明してきましたが、実際に導入している企業はどのような運用を行っているのでしょうか。ここでは、具体的な企業事例を紹介します。
三菱UFJ銀行
三菱UFJ銀行の「ウェルカムバック採用」プログラムは、過去に同行で働いていた元従業員を対象としたリエントリープログラムです。このプログラムは、キャリアブレイク後に再び銀行業界で働きたいと考える元従業員向けに設計されています。ウェルカムバック採用では、復帰者が新しいポジションでの従業員として再参加する際に、キャリアの継続や成長を支援する機会を提供しています。 このプログラムを通じて、三菱UFJ銀行は過去に経験を積んだ元従業員が、新たな能力を身につけ、銀行業界で再び活躍するための環境を提供しています。ウェルカムバック採用は、元従業員の経験を評価し、職場への円滑な復帰をサポートするプログラムとして展開されています。
ニトリ
株式会社ニトリは、ジョブリターン制度を導入しており、育児や介護などの一時的な休職を経験した元従業員が職場に復帰する際のサポートを提供しています。この制度は、仕事と家庭を両立させるために一時的に離れていた従業員に対し、円滑な復帰とキャリアの再構築を支援することを目的としています。 ニトリのジョブリターン制度は、多様なライフステージに合わせたサポートを提供しています。
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07まとめ
ジョブ・リターン制度は、やむを得ない理由で退職した従業員が復職できる制度です。企業側にとっては採用や教育コストが削減できますし、元従業員は安心感を持って働けます。しかし、デメリットもないわけではありません。全員が気持ちよく働ける環境を目指して、企業はジョブ・リターン制度の利用条件を明確化する必要があります。 ジョブ・リターン制度を設けている企業はまだ限られていますが、メリットは決して少なくないと考えます。人手不足が叫ばれる現代にあって、前向きに導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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登壇者:田中 研之輔 様法政大学キャリアデザイン学部 教授
一橋大学大学院(社会学)を経て、メルボルン大学・カリフォルニア大学バークレー校で、4年間客員研究員をつとめ、2008年3月末に帰国。2008年4月より現職。教育・研究活動の傍ら、グローバル人材育成・グローバルインターンシップの開発等の事業も手がける。一般社団法人 日本国際人材育成協会 特任理事。Global Career人材育成組織TTC代表アカデミックトレーナー兼ソーシャルメディアディレクター。 著書―『先生は教えてくれない大学のトリセツ』(筑摩書房)『走らないトヨタ―ネッツ南国の組織エスノグラフィー』(法律文化社)『都市に刻む軌跡―スケートボーダーのエスノグラフィー』(新曜社)他多数