AI(アプリシエイティブインクワイアリー)とは?活用メリットや企業事例を紹介
人材開発や組織活性化を進める手段のひとつに、AI(アプリシエイティブインクワイアリー)という手法があります。AIと言うと人工知能を思い浮かべる方も多いですが、本記事で解説するアプリシエイティブインクワイアリーは、自分たちが持つ強みや価値・なりたい姿に着目し、パフォーマンスの向上につなげるものです。 本記事では、アプリシエイティブインクワイアリーの考え方や活用のメリット、実行に必要な4Dサイクルなどについて解説します。アプリシエイティブインクワイアリーをしっかりと理解し、組織活性化を図りたいと考えている担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
01AI(アプリシエイティブインクワイアリー)とは
AI(アプリシエイティブインクワイアリー)とは、問いかけることで価値を見出したり強みを発見したりしながら、ポジティブに問題を解決する方法です。 これまで、多くの企業で採用されていた問題解決方法は、まず「できないこと」に注目するものでした。アブリシエイティブピンクワイアリーは、この考え方とは異なるアプローチで問題解決に導く方法です。アプリシエイティブインクワイアリーとはどのような手法なのか、従来の組織開発手法との比較を交えながら解説します。
1987年に米国で提唱された組織開発手法
アプリシエイティブインクワイアリーは、アメリカの大学教授であるデービッド・クーパーライダー氏と、国際NPO団体のひとつであるタオス・インスティテュートのダイアナ・ホイットニー氏が1987年に提唱した組織開発手法です。 アプリシエイティブ(Appreciative)は、「価値を見出す・認める」という意味を持ち、インクワイアリー(Inquiry)には「問いかける・質問する」などの意味があります。
AIアプローチとは
AIアプローチは、まず企業組織やグループに存在する前向きなエネルギーに焦点を当てます。このエネルギーを最大化するために、組織内のメンバーがお互いに協力関係を築く、参加型のアプローチです。 ポジティブなアプローチにより、自分たちが持つ真の価値を探求し、望ましい未来を実現するための方法を考え、実行に移します。
従来の組織開発手法との違い
従来の組織開発手法とは、課題に対して解決策を編み出すためのアプローチを取っていくやり方を指します。具体的には、まず今起こっている課題や問題を特定し、原因を分析します。その後、課題や問題に対する解決策を考えるという流れで進めていきます。課題や問題が、弱みに起因している点が特徴です。 これに対し、AIは最初に強みや良い部分を明確にし、可能性をさらに活かす方法を模索します。ポジティブな視点で探求することで成功要因を見つけ出し、成果が上がるよう理想の状態に向けて計画を実行していく点が、組織開発手法と大きく異なります。
02AI(アプリシエイティブインクワイアリー)が求められる背景
アプリシエイティブインクワイアリーが求められるようになったのは、VUCA時代に突入していることが大きな要因です。VUCAとは、以下の4つの単語の頭文字からできた造語です。
- ・Volatility(変動性)
- ・Uncertainty(不確実性)
- ・Complexity(複雑性)
- ・Ambiguity(曖昧性)
社会情勢が不確実かつ不透明な現代で組織を成長させるには、組織を機械として捉えていては対応が困難です。組織のなかで多くの人々が結び付き、生体的に活動することで、組織と人の気持ちの両方を動かすことができます。 これを実現するために、アプリシエイティブインクワイアリーの考え方が重視されるようになりました。成功した方法やうまくいった経験などから良いところを見つけ、認め合いながら伸ばしていくことで、さらにポジティブな感情が生まれます。
03アプリシエイティブインクワイアリーを活用する3つのメリット
アプリシエイティブインクワイアリーを活用することで、企業は主に3つのメリットが得られます。具体的なメリットの内容を、ひとつずつ解説します。
- 1.変革や挑戦を肯定的に捉える社内風土が醸成される
- 2.従業員同士の団結力が高まり協力関係が築かれる
- 3.企業・組織全体の生産性がアップする
1.変革や挑戦を肯定的に捉える社内風土が醸成される
アプリシエイティブインクワイアリーは、プラスの面をさらに伸ばす考え方です。価値の可能性を最大限に引き出し、効果的に能力を発揮できる仕組みを生み出す方法です。 自分たちが持つ潜在的な可能性を追求することで、ポジティブな思考ができるようになり、社内全体で変革や挑戦をプラスに捉える動きが広がるようになります。これにより、従業員同士の長所が発見しやすくなり、関係性や風通しの改善が期待できます。
2.従業員同士の団結力が高まり協力関係が築かれる
アプリシエイティブインクワイアリーは、ポジティブに課題を解決することを目的としています。自分だけでなく同僚の長所を見出し伸ばすことで、お互いが認め合えるようになります。その結果、協力的な人間関係が構築でき、団結力を高めながら仕事ができる点も大きなメリットです。
3.企業・組織全体の生産性がアップする
従業員一人ひとりが、仕事に対してポジティブな感情を抱くことで、自分がすべき役割や行動が明確となり、仕事への意欲も高まります。この傾向が企業や組織全体へ広まると、生産性アップが期待できます。アプリシエイティブインクワイアリーは、人だけでなく、組織全体を動かす前向きな考え方です。
04アプリシエイティブインクワイアリーにおける8つの原理
アプリシエイティブインクワイアリーの哲学は、以下の8つの原理から成り立っています。それぞれの原理がどのような哲学から成り立っているのかを、ひとつずつ解説します。
- 1.構成主義の原理
- 2.同時性の原理
- 3.詩的の原理
- 4.想定の原理
- 5.ポジティブさの原理
- 6.全体性の原理
- 7.体現の原理
- 8.自由な選択の原理
1.構成主義の原理
構成主義の原理とは、現実・知識・意味は人間のコミュニケーションによって形成されるという考え方です。人間が普段認知している「現実」は、客観と主観が混在したものです。人同士の言葉や会話によって、意味・現実・知識が作り上げられることで、言葉が世界を創造すると説いています。
2.同時性の原理
同時性の原理とは、質問と変化が同時に起こる現象を指しています。インクワイアリー(質問)は介入であり、発生した瞬間に変化が生まれるとされています。つまり、インクワイアリーは大きな変化を起こす要因のひとつです。
3.詩的の原理
詩的の原理とは、メタファー(暗喩)を用いることで具体的なイメージを持たせる手法です。組織に属することで、学習・インスピレーション・解釈などができるようになります。世界を表現し創り上げるために、何を選び検討するかが大きな違いをもたらします。
4.想定の原理
想定の原理とは、現在の行動と達成により、未来が導かれるものです。人間に関するあらゆるシステムを意味するヒューマンシステムは、イメージする未来へと進んでいきます。未来のイメージがポジティブで明るいほど、現在のアクションもポジティブで希望にあふれたものとなります。
5.ポジティブさの原理
ポジティブさの原理とは、ポジティブな働きかけがポジティブな変化をもたらす考え方です。モーメンタム(推進力)により大規模な変化を起こすためには、ポジティブな感情と社会的なつながりが必要です。モーメンタムは、ポジティブな質問を受けることで、最も良い形に生成されます。
6.全体性の原理
全体性の原理とは、全てのステークホルダー(利害関係者)の参加により探求が行えることです。組織全体が最良のパフォーマンスを行うと、人または組織の最善が引き出されます。つながりのある人々が、大規模なフォーラムで一堂に会すると、創造性が刺激されひとつにまとまった大きな能力が発揮されます。
7.体現の原理
体現の原理とは、望んでいる未来がそこにあるかのように表現することで、本当に変化が起きる考え方です。変化を起こすには、人々が望む変化のように行動することが必要です。変化を起こすプロセスが、理想的な未来を実現するモデルである時に、ポジティブチェンジが実現されます。
8.自由な選択の原理
自由な選択の原理とは、従業員の自主的な選択を重んじる考え方です。自由に選択する権利を得た従業員は、より良い結果を出そうとして、より良い行動をとります。自由な選択は、組織の卓越性の追求とポジティブチェンジを誘発します。
05アプリシエイティブインクワイアリーにおける「4Dサイクル」
アプリシエイティブインクワイアリーは、発見(Discover)・.夢(Dream)・設計(Design)・実行(Destiny)という4つのフェーズに分けて進めます。各段階において、どのような内容を話し合うのか、簡単に解説します。
1.発見(Discover)
発見(Discover)は、これまで体験してきた組織の成功事例などから、価値や強みを見出す段階です。ふたり一組になったりワークショップを行ったりして、明らかにしていきます。
2.夢(Dream)
夢(Dream)は、価値や強みを活かす方法や、目指す方向性などを話し合います。ポジティブな感情のままで話し合うことで、可能性をさらに引き出せる点が大きなメリットです。
3.設計(Design)
設計(Design)では、話し合いの結果まとまった内容を共有します。可能性を最大限に活かせるよう未来や目標に向かう組織の姿をビジョンとし、何をすべきかを設定する段階です。
4.実行(Destiny)
実行(Destiny)において、設計に基づき達成に向かって持続的に取り組んでいきます。一連のフェーズで重要なのは、「○○したい」という感情を持ち続けることです。
06アプリシエイティブインクワイアリーの取り組み事例
実際の企業の現場では、アプリシエイティブインクワイアリーがどのように活用されているのでしょうか。効果的な活用方法を知るためには、実際の事例を学ぶことが大切です。ここでは、取り組み事例を2つ紹介しますので、参考にしてみてください。
グループワークを通じて自組織の価値を明確にする
4Dサイクルで解説した「発見」に該当する取り組みです。グループワークという問いかけを通じて、従業員同士で話し合ううちに、組織の良いところや価値が見えてきます。 実際のグループワークでも、以下のテーマが多く取り扱われています。
- ・幸せな組織作り
- ・リーダーの育成
- ・営業部門の成果達成への取り組み
テーマは企業によってさまざまであるものの、どのテーマも組織の価値を高める目的であることは変わりません。
チームごとにビジョンマップを作成してもらう
ビジョンマップとは、チームの目標や公約などを1枚の紙にまとめて書いたものです。ビジョンを決めることで、従業員同士で目的が共有でき、方向性を明確に示せます。ビジョンがチーム全体に浸透すると実行力につながり、努力しようという意識も高まります。 ビジョンマップを作成するには、まず目標を設定し、設定した目的や理由を明文化します。そして、目標達成に必要な行動を具体的に記載し、従業員が理解しやすいようスローガンなどを定めると効果的です。
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07まとめ
本記事で紹介してきたように、アプリシエイティブインクワイアリーは長所を伸ばし、ポジティブな変革を目指す取り組みです。従来のように問題を解決するための組織開発手法ではなく、本来持っている力をさらに伸ばし目標を達成する方法を、チームや企業全体で導き出します。 自社が持つ強みやビジョンを最大限に活かすため、従業員と共有しながらより良い変革を目指していきましょう。