なぜ人事評価には不満が生まれるのか?基礎から課題、活用法まで解説
組織の成長や目標達成、人材育成の観点から人事評価制度の見直しを検討することもあるかもしれません。これから初めて人事評価を正式に制定する、という比較的若い企業の方もいるでしょう。どうすれば従業員の不満を減らし、目的達成につながる制度を制定できるのでしょうか。本記事では人事評価制度の目的を踏まえたうえで、その基礎から制度が抱える課題、そして解決策を解説します。
- 01.人事評価とは?
- 02.人事評価の目的
- 03.人事評価制度を適用することのメリット
- 04.人事評価制度が抱える課題とは?
- 05.人事評価の課題を解決するには
- 06.まとめ
01人事評価とは?
「人事評価」とは、評価項目を設けてその項目に従って従業員を評価する人事・人材管理手法のことです。人事評価は、従業員本人と上長・人事などを交えてオープンに評価され、その結果も従業員本人に知らされることがほとんどです。 似た言葉として「人事考課」が挙げられます。人事考課は、本人不在の閉じた場で運用され、考課結果は会社役員や上長までしか公開されないことが多いでしょう。 とはいえ、それほど大きな違いはなく、会社によっては同じ意味で使っていることもあります。それほど違いを意識しなくても良いのではないでしょうか。本記事ではすべて、「人事評価」として統一して解説していきます。
一律で社員を評価するために制度化が必要
明確な基準がなければ社員を一律に評価することができず、不公平や不満感を生み、納得感の薄い評価結果となってしまうでしょう。 会社が組織として確立・成長してくるにつれ、給与体系や職位・職権範囲を明確化する必要が生じます。それらの一環として、評価基準も曖昧なものではなく、明文化・明確化した「人事評価制度」が必要となるのです。
能力・業績・情意の3種により評価することが一般的
人事評価は、主に下記の3種の要素から成り立っています。
- ・保有スキルを評価=能力評価
- ・成果や業績を評価=業績評価
- ・勤務態度を評価=情意評価
人事評価はこれらの3つの観点から総合的に行うことで、従業員の能力や成果、職場での態度をバランスよく評価することができます。これにより、適切な人事決定が行われ、従業員のモチベーション向上や組織全体のパフォーマンス向上につながることが期待されます。それぞれの評価については具体的に次で解説していきます。
能力評価
能力評価は、従業員の持つスキルや知識、専門的な能力を評価するものです。これは従業員が仕事を遂行するために必要な技術的な能力や専門知識をどの程度持っているかを評価します。具体的には以下のような要素が含まれます。
- 技術的スキル: 職務に関連する専門知識や技術の習得状況
- 問題解決能力: 問題を効果的に解決するための分析力や判断力
- 学習能力: 新しい知識や技術を迅速に習得する能力
▼能力評価について詳しく知りたい方はこちらから▼
【関連記事】能力評価とは?人事評価で行うメリットや実施方法について解説する
業績評価
業績評価は、従業員の仕事の成果や達成度を評価するものです。これは目標達成度や生産性、効率性など、具体的な業績に基づいて評価されます。以下の要素が考慮されます。
- 目標達成度: 個人やチームの設定された目標をどの程度達成したか
- 品質と量: 提供された仕事の質や量
- 時間管理: 納期を守り、効率的に仕事を進める能力
▼情意評価について詳しく知りたい方はこちらから▼
【関連記事】情意評価とは?特徴・メリットと導入時の注意点について解説
情意評価
情意評価は、従業員の態度や行動、職場での人間関係に関する評価です。これは職務遂行に対する態度や協調性、リーダーシップなど、職場での行動特性を評価します。具体的には以下のような要素があります。
- 協調性: チームワークを重視し、他のメンバーと協力して仕事を進める能力
- 積極性: 仕事に対する前向きな姿勢や新しいアイデアの提案
- リーダーシップ: 他の従業員を引っ張る力や指導力
02人事評価の目的
人事評価は組織の持続的な成長と発展に寄与する多岐にわたる目的を持っており、具体的には次のようなものが挙げられます。
- ・人材のスキル管理
- ・従業員のエンゲージメント向上
- ・従業員のモチベーション向上
- ・生産性の向上
- ・ビジョンや理念の浸透
これを適切に実施することで、従業員の成長を支援し、組織全体のパフォーマンスを向上させることが可能となります。
人材のスキル管理
人事評価は、従業員のスキルや能力を効果的に管理するための重要なツールです。評価プロセスを通じて、各従業員がどのようなスキルや知識を持っているかを明確に把握することができます。これにより、組織は従業員一人ひとりの強みを理解し、適材適所に配置することが可能となります。また、スキル評価を通じて従業員のスキルギャップを特定し、必要なトレーニングや研修を計画することで、全体的なスキルレベルを向上させることができます。これは、組織の競争力を維持するためにも不可欠な要素です。
従業員のエンゲージメント向上
人事評価は、従業員のエンゲージメント、すなわち仕事や職場に対する情熱やコミットメントを高めるためにも重要です。定期的な評価を通じて、従業員に対する建設的なフィードバックが提供されることで、自己成長の機会が得られます。さらに、明確な目標設定とその達成に向けたサポートが行われることで、従業員は達成感を感じることができ、仕事への意欲が向上します。また、評価によって業績や努力が認識されることで、従業員は自分の貢献が組織にとって重要であると感じ、エンゲージメントが一層深まります。
従業員のモチベーション向上
人事評価は、従業員のモチベーションを高めるための重要な手段です。個々の従業員に合わせた目標設定が行われ、その達成に向けた支援が提供されることで、従業員は自分が成長し、キャリアを築くための具体的な道筋を見出すことができます。また、評価を通じて将来の昇進やキャリアパスが明確化されることで、従業員は自分の努力が報われることを実感し、モチベーションが向上します。さらに、優れた業績に対する適切な報酬やインセンティブの提供も、従業員のやる気を引き出す大きな要因となります。
生産性の向上
人事評価は、組織全体の生産性向上にも寄与します。評価プロセスを通じて、従業員の業績や成果が定量的に測定され、改善点が明確になります。これにより、個々の従業員だけでなく、チームや組織全体のパフォーマンスを向上させるための具体的な改善策を立案し、実行することが可能となります。また、高い生産性を持つ従業員を適切なポジションに配置することで、リソースを効果的に活用し、全体的な業務効率を向上させることができます。これらの取り組みを通じて、組織はより高い生産性を実現し、競争力を強化することができます。
ビジョンや理念の浸透
人事評価は、組織のビジョンや理念を従業員全体に浸透させるための重要な手段でもあります。評価面談などを通じて、経営陣は組織の長期的な目標や価値観を直接従業員に伝えることができます。さらに、評価基準に組織の価値観を反映させることで、従業員がその重要性を理解し、日常業務で実践するよう促すことができます。これにより、全従業員が共通の方向性を持ち、一貫性のある行動を取ることができるようになります。結果として、組織のビジョンや理念が全体に浸透し、強固な組織文化が形成されるのです。
03人事評価制度を適用することのメリット
人事評価を制度化し、適用するにはどのようなメリットがあるのでしょうか。大きく次の3つが挙げられます。
- ・評価・等級(職位)・報酬(給与)は切り離せない関係にある
- ・行動指針を示し組織のビジョンを浸透させられる
- ・人材育成・人材配置・配置転換に活用できる
人事評価制度は、上記のようなメリットがあり、組織の持続的な成長と発展に欠かせない重要なツールです。ここではそれぞれについて具体的に解説していきます。
評価・等級(職位)・報酬(給与)は切り離せない関係にある
そもそも人事制度は、「評価」「等級(職位)」「報酬(給与)」の3種を柱に考えられています。 等級によって報酬が決められており、評価によって等級が決められます。また、等級によって評価基準は変わり、評価の度合いによっては賞与額が増減します。 正確かつ公正な人事制度を運用するためには、人事評価の設定は不可欠なのです。
行動指針を示し組織のビジョンを浸透させられる
人事評価を設定することは、どのような行動・能力・態度を高く評価するかを全社に周知することでもあります。これにより従業員全員に組織の行動指針を示し、目指すビジョンやミッションを浸透させることができます。すなわち、組織のカルチャーを醸成するために活用できるのです。
人材育成・人材配置・配置転換に活用できる
適切な評価を行うことで、社内人材がもつスキルを可視化・棚卸することにもつながります。これにより、社内には現在どのような能力・職能をもつ人材がいるのか、何が社内に足りないのかを把握することができ、その後の人材育成や採用活動を行いやすくなるでしょう。 また、従業員の人材配置やローテーション、配置転換をする際の指針としても活用できます。もちろん、従業員個人がもつ希望や必要な育成などに対応させ、個別に人材育成をするためにも利用できます。 組織全体の人的リソースを適切に運用するためにも、人材評価は有用なのです。
04人事評価制度が抱える課題とは?
ここまではメリットを見てきましたが、人事評価を導入するには課題もあります。具体的には次のようなものが挙げられます。
- 行動指針に合わない人材の採用率・定着率が下がる
- 能力・業績・情意のいずれかに不足がある社員に不満が溜まりやすい
- 頻繁に変更できず制定にはコストがかかる
これらの課題点は蔑ろにされることで離職などにつながる可能性があります。ここでは、それぞれの課題の要因について解説していくので、導入や改修に際し、課題についてもあらかじめ確認しておきましょう。
行動指針に合わない人材の採用率・定着率が下がる
前項では、「行動指針の浸透に役立つ」とお伝えしました。そのメリットが、そのままデメリットとして作用してしまうことがあります。行動指針に合わない人材の採用率・定着率が下がってしまう可能性があるのです。 採用率については、採用担当側が自社の行動指針に沿った採用活動を行うため、行動指針に合わない候補者を採用しないことは当然とも言えるでしょう。 問題は、すでに社内で活躍している人材の離職を促すことにつながってしまう可能性もあることです。行動指針に合わないと気づいた優秀な社員が辞めてしまうことは、短期的に考えれば痛手となることは間違いありません。
能力・業績・情意のいずれかに不足がある社員に不満が溜まりやすい
評価の3種の要素のうち、どれかが不足している社員、特に一つだけに不足がある社員に不満が溜まりやすくなってしまう、という点も課題です。 ・能力は高く業績も上げているが、勤務態度や協力姿勢に問題がある社員 ・能力もあり態度も十分だが、運悪く業績が上がらなかった社員 ・情意も十分で業績も上げているが、不足している能力がある社員 上記のような社員に、特に不満が溜まってしまいます。 二つ以上の項目で不足があるなら、社員本人も納得できるかもしれません。ですがほかの項目で優秀な結果を残している社員の場合、足を引っ張っている一つの項目のせいで全体的な評価が下がってしまうことに不満を感じやすいのです。
頻繁に変更できず制定にはコストがかかる
人事評価制度を制定することは、社内の綱紀の面でも重大な事態です。給与体系や等級・職種・職位・職務範囲の見直しも必要となります。決して、一朝一夕で制定できるようなものではありません。ヒアリングや試算、今後の会社の成長プランなど、さまざまな要素を考え合わせる必要があります。時間的にも体力的にも作業工数的にも、膨大なコストが必要となります。 また一度制定して発効した場合、簡単に変更することは難しくなります。数か月、場合によっては数年単位で「どのように自己成長していくか」「どのように部下を育成するか」といった決定にも関わるためです。特に長期的な視野でスキルを習得していく技術系・専門スキル系の職種においては、半期ごとなどに評価制度を変えると大きな不満を招く恐れがあります。 PDCAを高速で回すタイプのフレームワークを、人事評価制度に対して適用することは厳禁なのです。
05人事評価の課題を解決するには
前項で挙げた課題は、どのように解決すれば良いのでしょうか。具体的な解決策として、次のようなものが挙げられます。
- ・例外を受け入れる制度を別途用意する
- ・評価制度の評価を行い微調整する
- ・心理的安全性の確保を行う
- ・優秀だが行動指針に合わない人材は引き止めない
例外を受け入れる制度を別途用意する
本来、人事評価制度は社員全員に一律に適用し、公平に評価するための制度です。ですがどうしても、画一的な制度は例外に弱くなってしまいます。 ・評価基準として組み込んでいないスキルにおいて、非常に高いスキルをもつ社員がいる ・計画も手法も完璧だったが、感染症の影響で流通が滞り業績が落ち込んだ ・家族の不調が重なり、業務に集中できない期間が続いた 上記のような例が考えられます。 解決策の一つとして、例外を受け入れる制度をあらかじめ作っておくことが挙げられます。これはスキル(能力評価)以外についても同様です。 ・流通事故や国際情勢の変化など、特別な事情や不測の事態を考慮する ・業績評価は結果だけでなく、計画や契約段階などの途中経過も細分化して評価する ・評価できないスキルに関しては、能力評価とは別の軸で評価する(情意=意欲面として評価する、など) ・今期だけでなく、過去の情意評価も検討項目に入れる 上記のような評価手法をあらかじめ組み込んでおくことで、例外的な事態にも柔軟に対応できる可能性が高まります。
評価制度の評価を行い微調整する
制度を運用するなかで、当初の想定と違っていたことが発覚するのもよくあることです。誤った制度のまま進めてしまうと誤った行動指針が浸透してしまい、思うような組織運営ができない可能性があります。 そのため「評価制度自体の評価」は、必ず定期的に行わなければなりません。 ですが、人事評価制度を一度制定したあと、再び制定し直すのは難しいとお伝えしました。誤りがあった場合はどのように解消すればいいのでしょうか。そんなときにオススメするのが、大きく変えるのではなく、一部分のみに微調整を行うことです。 例えば能力評価において、不要であることが発覚したスキルがあったとします。それを突然、能力評価から無くしてしまうのではなく、今期は必要だと発覚した新しいスキルを評価軸に入れ、来期から不要なスキルを評価から外すといった形で、段階的に調整を行います。 このような微調整を繰り返すことで、最終的に最適な制度にすることができます。
心理的安全性の確保を行う
評価結果と個人の人格を結びつけるのは、絶対にNGです。ハラスメントにもなってしまいかねません。人事評価を行う際には、被評価者の人格を守るような評価制度、システムにする必要があります。 情意評価を行う場合には、特に注意が必要です。情意評価が低評価だった被評価者は、「勤務態度が悪い」のではありません。「この評価軸だと、高い評価ではない」のです。 被評価者の個人の思想に配慮しつつ人格を守ることと、そのうえで低い評価を行うことは矛盾するものではありません。評価結果の伝え方や表示の仕方、事前・事後の面談などでフォローすることも可能です。 このような手法で適切に心理的安全性を確保することで、モチベーション向上も期待できます。前述した能力・業績・情意のいずれかに不足がある社員に不満が溜まりやすい、という課題も、心理的安全性の確保によって多少は緩和することが可能です。
優秀だが行動指針に合わない人材は引き止めない
例外を受け入れた上で、それでも組織の行動指針に合わない方については、残念ですがどれだけ優秀でもお互いのために引き止めるべきではないでしょう。 そもそも組織カルチャーに合っていないのであれば、働いている当人にとっても苦痛が生じているのではないでしょうか。そのような社員と組織の不一致を見極めるためにも、人事評価制度は機能します。
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06まとめ
人事評価について、基礎のおさらいから導入メリットと課題、そして課題の解決策まで解説してきました。人事評価制度を導入するタイミングや刷新するタイミングは、組織の規模やカルチャーによっても変化するため、一律に決めることはできません。 ですが人事評価がもつ意味や手法について理解することで、最適な時期に最適な評価内容を導入または改善することができるようになるはずです。そして適切な人事評価は、組織をより強固なものにしていくでしょう。
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組織開発の全体像から実践できる具体的な方法まで、体系的な組織開発の全貌をテーマにしたウェビナーのアーカイブです。テレワークの拡大も進む中、組織に広がる「他責のムード」に悩まされる人事責任者は多いのではないでしょうか。組織開発のフレームワークを活用して、組織の中で必要な「対話と合意形成」を生み出すことで、他責型組織から自律型組織への変革を実現する方法についてお話します。
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登壇者:小金 蔵人 様株式会社ZOZO 技術本部 技術戦略部 組織開発ブロック ブロック長 / 組織開発アドバイザー STANDBY 代表
1998年に大学卒業後、味の素株式会社に入社し、営業マーケティングに従事。2006年にヤフー株式会社へ転職し、新規ビジネス開発・サービス企画のリリースを経験するかたわらで各種組織活性プロジェクトを推進。2016年に希望して人事部門に異動後、全社の人材開発・組織開発を担当。1on1ミーティングをはじめとしたピープルマネジメントツールの推進や管理職のマネジメント支援と並行して、現場の組織課題解決をサポート。2019年に個人での組織開発アドバイザリー事業と組織開発エバンジェリストとしての情報発信を開始。2020年に株式会社ZOZOテクノロジーズ(現・株式会社ZOZO)へ転職し、現在は全社およびクリエイター部門の人事企画・人材開発・組織開発に携わっている。