過労死ラインは何時間から? 部下を疲弊させない管理職の役割について解説
過労死ラインとは、働きすぎによる健康障害が発生する恐れのある、時間外労働の目安とされています。ワークライフバランスや働き方改革が求められる昨今、企業にとって長時間労働の是正は必須の課題といえます。当記事では過労死ラインの概要と、労務管理における管理職の役割について解説します。
- 01.過労死ラインとは
- 02.過労死ラインと労災認定の基準
- 03.過労死ラインに該当する長時間労働が心身に及ぼす影響
- 04.過労死ラインを守らないことの企業へのリスク
- 05.過労死防止のために企業がとるべき対策
- 06.部下の残業は管理職の責任
- 07.部下に長時間労働させないためには
- 08.まとめ
01過労死ラインとは
過労死ラインとは長時間労働による心身への負荷が、健康障害に発展する恐れのある時間数を目安として表したものです。長期間にわたる過重な労働は疲労の蓄積をもたらし、脳や心臓疾患の発症と関連性が強く指摘されています。 また、うつ病などの精神疾患にも深く関与するとされています。労働者が脳や心臓の疾患、あるいは精神疾患に起因する自殺で死亡した場合、直近の勤務に過労死ラインを超える時間外労働があれば、労働災害と認定される可能性が高まります。
厚生労働省による過労死等の定義
過労死等とは、どのようなものでしょうか。
- ・業務における過重な負荷による脳血管疾患
- ・心臓疾患を原因とする死亡
- ・業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
- ・死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害
上記の4点を厚生労働省は過労死等の定義としています。
過労死ラインの目安は何時間の残業?
過労死ラインとされる残業時間の目安は、1ヶ月あたり100時間、もしくは2〜6ヶ月の平均で80時間を超える時間外労働とされています。この基準を超える時間外労働は、健康障害を発生するリスクを高めると医学的な知見から証明されています。
正しい残業代を払っているか
企業は労働者を、法定労働時間を超えて勤務させた場合、賃金を割増しして支払う義務があります。時間外労働1時間あたりの割増率は、時間外労働60時間までが「1.25倍」以上、60時間を超えた部分に関しては「1.5倍」以上とされ、相応の割増賃金を支払う必要があり、これを正しく支払っていない場合は違法となります。ですがもちろん、正しく支払っていたとしても長時間労働は健康面への配慮から是正されるべきものです。
02過労死ラインと労災認定の基準
長時間労働と健康障害の関連は、時間外労働が月間45時間を超え、増えるにつれ強まっていくとされています。健康障害を発症した直近1ヶ月の時間外労働が「100時間」を超えていた場合、もしくは2〜6ヶ月間の平均で「80時間」を超えていた場合は、業務との関連性が強く指摘され労働災害として認定される可能性が高くなります。
過労死ラインと三六協定の関係
法定労働時間を超えて労働者を時間外労働させるには、労働基準法第36条に基づく労使協定を労働組合等と締結する必要があります。36条に基づくことから「三六(サブロク)協定」と呼ばれます。これを締結することにより「1日8時間、週40時間」の法定労働時間を超えて、「月45時間・年360時間」の時間外労働が可能になります。過労死ラインとされる80時間以上の時間外労働は三六協定違反となり罰則の対象となります。
企業の安全配慮義務について
企業は労働者の健康や安全に対し、必要な配慮をしなくてはなりません。これを安全配慮義務といいます。過労死ラインを超える長時間労働が常態化しているのであれば、大変危険な状態で安全配慮義務違反に該当します。これは企業にとって重大なリスクといえます。
03過労死ラインに該当する長時間労働が心身に及ぼす影響
月80時間以上の時間外労働は、労働者の心身に大きな負荷となり、健康障害の原因となります。主に脳と心臓の疾患及び精神疾患は、特に長時間労働との関連が強いとされています。発症し、死亡した場合、過労死として労災認定される可能性は非常に高くなります。
脳梗塞・くも膜下出血
過労死の原因とされる脳疾患に、脳梗塞とくも膜下出血が挙げられます。脳梗塞とは脳の血管が詰まり血流が滞ることで、脳の機能が損なわれる病気です。くも膜下出血などの脳出血は、脳の血管が破れ出血が生じてしまう疾患です。
心筋梗塞・虚血性心疾患
心筋梗塞といった虚血性心疾患も、過労により発生のリスクが高まるとされています。心筋梗塞は、心臓に酸素を供給する血管が詰まることで血流が阻害され、心臓の筋肉が壊死し正常に機能しなくなる疾患です。
過労自殺
過度な長時間労働によりうつ病を発症し自殺に至った場合は、過労死として認定される可能性があります。長時間労働以外にも職場の人間関係、特にパワーハラスメントが原因でうつ病を発症し自殺に至るケースもあります。
睡眠不足・過労による事故
睡眠不足・過労による事故 重大な疾患に至らなくても、長時間労働による睡眠不足や過労は集中力に影響し、業務の能率を下げるだけではなく事故の原因となります。業務中や通勤時に居眠り運転による交通事故を起こしたり、集中力の低下から機械を誤操作するといった事故を発生させる恐れがあります。
04過労死ラインを守らないことの企業へのリスク
過労死ラインを超える長時間労働を放置した場合、企業が抱えるリスクにはどのようなものがあるでしょうか。過重労働の放置は労働者の命を軽視していると見られ、世間から「ブラック企業」といった認識をもたれることにつながります。企業イメージを大きく損なう重大なリスクであるといえます。
労働基準監督署の立ち入り調査
労働基準監督署の立ち入り調査 労働基準監督署が調査に入った場合、是正勧告の対象となります。違反の程度がひどかったり、悪質であった場合、書類送検され社名が公表されるなど、企業イメージの悪化は免れません。
訴訟のリスク
長時間労働による過労死もしくは健康障害を発生した場合、家族や労働者本人から訴訟を起こされる可能性があります。長時間労働による過労死等と認定されると、多額の損害賠償が発生します。
05過労死防止のために企業がとるべき対策
安全配慮義務の観点からも企業は過労死や過労による健康障害防止のため、さまざまな対策を講じる必要があります。制度や仕組みの改善と意識の変革による2つの側面から考える と良いでしょう。
適正な労働時間の管理
まずは労働者一人ひとりの労働時間を適正に管理することです。タイムカードや勤怠管理システムといった、客観的かつ正確に労働時間を記録できる仕組みを導入することなどが挙げられます。そのうえで進捗を確認し、オーバーワークになっている労働者に対しては、注意喚起や業務配分を減らすといったコントロールを行い過重労働を防止します。
勤務間インターバル制度を設ける
勤務間インターバル制度を活用することも、過労による健康障害の防止に役立ちます。勤務間インターバル制度とは、勤務終了から翌日の勤務開始までに一定時間の休息を確保するものです。例えば、9時~18時が定時勤務の事業所で、23時まで残業したとします。一定の休息時間を11時間と設定した場合、翌日の勤務開始を1時間遅らせ10時からで良いとするものです。適切な睡眠時間を確保できる利点があります。
ストレスチェックの適切な実施
従業員が50人以上いる事業所において、ストレスチェックは1年に1回の実施義務があります。50名以下の事業所においても努力義務とされています。労働者のストレス状態を把握することは、労働環境の問題点の洗い出しや改善に役立ちます。
専門家につなぎやすい環境整備
労働者が自身の心身の不調に気づいたとき、気軽に専門家に相談できる環境を整備することも重要です。産業医や保険スタッフよる定期的な健康相談の実施や、相談窓口の設置といった環境整備により、問題が深刻化する前に対処が可能になります。
管理職に対する労務管理研修
管理職に対する労務管理研修を実施することも有効な対策となります。労働関連の法律知識をはじめ、長時間労働がもたらす健康への影響を正しく理解してもらいます。適切な労務管理が、人件費の抑制や生産性の向上につながることを知ってもらうことで、意識を高めていきます。
06部下の残業は管理職の責任
同じような業務量・業務内容であっても、残業が多い部署もあれば、少ない部署もあります。これは、管理職のマネジメント力の差による場合が多いといえます。部下の残業は管理職の責任と認識してもらうことが重要です。部下に長時間残業させない仕組みづくりと、意識付けを行うことが管理職の責務です。
07部下に長時間労働させないためには
適切なマネジメントにより残業を抑制することは管理職の役割です。長時間労働是正のために、部下の意識に変化をもたらす、以下のような取組みを実施してみてはどうでしょうか。
タイムマネジメントの重要性を認識してもらう
残業の多い部下には、タイムマネジメントに関する研修を受講してもらうと良いでしょう。研修内のワークにおいて、担当業務の洗い出しを行います。重要度・緊急度の観点から業務を分類、優先順位や時間配分を明確にしてもらうといったプロセスを経験することで、業務のムダやムラをなくす工夫を身につけてもらいます。
労働時間よりも成果を求めていることを認識してもらう
かつては長時間働くことが、仕事への熱心さをアピールする手段であった時代もありました。今はそういう時代ではないことを、はっきりと表明することも効果的です。求めているのは労働時間ではなく成果であること、そして、どのような成果を望んでいるかも十分に理解してもらいます。決められた時間内に成果を出すことが、高評価に値することを認識してもらいましょう。
上司自ら余暇を楽しむ
上司がいつまでも職場にいると部下は帰りにくいものです。時間内に仕事をこなし、退社後や休日に趣味や家族サービスを充実させている姿を、手本として見せることも重要です。上司自らが、調和のとれたワークライフバランスを実現している姿を示すことで部下の意識は大きく変わります。
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■資料内容抜粋
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08まとめ
月80時間を超える時間外労働は、健康障害を発生させるリスクを高めます。過労死や過労による健康障害を防ぐためには、企業として適切な労務管理に取組む必要があります。労働時間管理を適切に行うシステムを導入し、実態を正確に把握することが第一歩です。そのうえで、現場をまとめる管理職がワークライフバランスに意識を向け実践し、その意識を部下に浸透させていく取組みを実施してみてください。