同一労働同一賃金とは?法改正がもたらす影響やそのメリットについて解説する
同一労働同一賃金制度は「働き方改革」の一環として、「パートタイム・有期雇用労働法」として適用が開始されました。シンプルにいえば、責任や働き方が同じであれば、雇用形態で差別することなく同じ賃金を支払うルールを運用しようという制度です。この法改正は会社にどのような変化を与えるのでしょうか。
- 01.同一労働同一賃金とは
- 02.同一労働同一賃金のメリット
- 03.同一労働同一賃金のデメリット
- 04.同一労働同一賃金の進め方
- 05.同一労働同一賃金の違反事例
- 06.まとめ
01同一労働同一賃金とは
同一労働同一賃金とは「雇用形態に関わらず、同一企業・団体内で同一の仕事には同一の賃金を支給する」という原則のことです。これはパートタイム・有期雇用労働法、労働者派遣法によって定められ、違反した場合は行政指導や罰則なども行われます。
この原則は、いわゆる正社員とアルバイトや派遣社員などの非正規雇用者との間にある不合理な待遇差の解消を目指すために作られました。
▶︎参考:厚生労働省|同一労働同一賃金特集ページ
同一労働とは
同一労働とは、単純に同じ業務をしているということではありません。同一労働かどうかを判断する基準は大きく2つあり、1つは「職務の内容が同じ」かどうか。もう1つは、「職務の内容・配置の変更の範囲(人材活用の仕組みや運用など)が同じ」かどうかです。以下では、厚生労働省が公開している「パートタイム・有期雇用労働法の概要」から、同一労働の判断方法について詳しく紹介します。
職務の内容
まず、職務の内容が同じかどうかは、職種・中核的業務・責任の程度といった3つの要素によっても決まります。
責任の程度とは、権限・求められている成果・緊急時の対応責任の範囲などが判断材料になります。これらが全く同じであれば同一労働と言えますが、付与する権限を下げたり、緊急時の対応責任を緩和したりなどして、同一労働とならないように調整をしている企業が多いようです。
職務の内容・配置の変更の範囲
ここで着目すべきは、転勤の有無と転勤の範囲です。例えば、カフェ店員で正社員とアルバイトが同じ業務を担っていたとしても、正社員は遠方の店舗に異動する可能性があり、アルバイトには異動する可能性がなければ同一労働とは言わないのです。
また、将来の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化等が全く同一であるかどうかも、同一労働の判断材料になります。
同一賃金とは
同一賃金と聞くと、給与だけ同一であれば良いように聞こえますが、同一にしなければならないのは待遇です。パートタイム・有期雇用労働法では、以下のような待遇について、不合理な待遇差がないようにしなければならないとしています。
- ・基本給
- ・昇給
- ・賞与
- ・各種手当
- ・福利厚生施設の利用
- ・慶弔休暇の有無
- ・健康診断
- ・病気・休職時の扱い
- ・通算勤続年数に応じた休暇の付与
- ・教育訓練・キャリア開発
注意すべき点は、すべての待遇を同じにする必要はないということです。大事なことは、合理的な説明がつかない格差があるかどうかです。例えば、「正社員は休憩室を使用することができるが、派遣社員は休憩室の利用ができない」といったような待遇の違いがあった際に、合理的に休憩室の利用に関する格差を説明できるかどうかが問われています。
02同一労働同一賃金のメリット
同一労働同一賃金には、企業側・労働者側のそれぞれにメリットがあります。この章では、それぞれの視点から同一労働同一賃金のメリットを詳しく紹介します。
企業側のメリット
企業側の視点に立つと、同一労働同一賃金のメリットは3つあります。
人手不足の解消
少子高齢化に伴う労働者人口の減少によって、多くの企業が人材不足に困っています。人手不足の解決策には、生産性向上や業務効率化、女性の活躍推進も当然すべきですが、非正規労働者の積極的な登用も欠かせません。
非正規労働者と正社員の待遇格差を是正し、非正規労働者が前向きに働けるような環境を整えることで、人手不足の解消にもつながるでしょう。
非正規労働者のエンゲージメント向上
非正規労働者の中には、仕事に意欲的な人も多くいます。このような人たちにとって、「正社員よりも頑張っているのに評価されない」・「業績に貢献しているのに給与も変わらず賞与も与えられない」といった不満は、エンゲージメントを大きく下げる要因になります。同一労働同一賃金によって、非合理な待遇格差がなくなることで、非正規労働者のエンゲージメント向上につながります。
D&Iの浸透
非正規労働者を選択した人の中には、育児や介護が理由の人もいます。その他に、精神的な問題を抱えている人もいるでしょう。非正規労働者と正社員の待遇格差を是正し、多様なバックグラウンドを持つ人が共創することで、ダイバーシティ&インクルージョンの考えが浸透するはずです。
労働者側のメリット
労働者側の視点に立った際にも、同一労働同一賃金のメリットは3つあります。
納得感を持って働ける
パートタイム・有期雇用労働法によって、企業は正社員と非正規雇用労働者の待遇差について説明義務を果たす必要があります。仮に、社員から待遇に疑問や不満の声が上がった場合に、社員に対して合理的な説明をしなければならないのです。これにより、納得感を持って働くことができるようになるというメリットが労働者側にあると言えます。
多様な働き方を選択できる
男性・女性を問わず、育児や介護などにより、正社員という雇用形態が適切な状態ではなくなることもあります。非正規雇用労働者と正社員の不合理な待遇差が解消されることによって、雇用形態を問わず平等な待遇で働くことができるようになり、多様な働き方を選択できるようになるのはメリットと言えるでしょう。
キャリア向上を目指すことができる
非正規雇用労働者の登用が進むことにより、研修や教育機会の提供も雇用形態を問わず実施される割合が増えるでしょう。キャリア向上を望むかどうかは人それぞれですが、もし非正規雇用ではなく正社員として働きたいと願う人がいた場合に、教育機会を平等に受けられる環境は非常に魅力的に映るはずです。
03同一労働同一賃金のデメリット
同一労働同一賃金はメリットだけではありません。もちろん、企業側・労働者側の双方に生じる可能性があるデメリットもあります。
企業側のデメリット
企業側のデメリットについて解説していきます。
人件費の増加
同一労働同一賃金によって、人件費が増加する可能性もあります。就業規則に給与の引き下げを明文していない企業は少ないとは思いますが、仮に記載がなければ待遇差の是正をするために非正規労働者の給与を引き上げる必要が生じる可能性があります。また、教育機会を平等に提供することによって、教育コストやそれに伴う人事の人件費も増えることが想定されます。
制度改訂に工数が発生する
同一労働同一賃金を実現する際に、就業規則や人事制度などの見直しが必要になることもあるでしょう。特に、基本給や各種手当を変更する場合は就業規則の改定が必須となります。仮に就業規則を変更した際は、役所に届出を出さなければいけないというルールがあり、担当者の工数が発生します。
労働者側のデメリット
労働者側のデメリットについて解説していきます。
正社員の待遇が下がる可能性がある
同一労働同一賃金によって、不合理な待遇差をなくす方法には、非正規労働者の待遇を正社員と同等に引き上げるか、正社員の待遇を非正規労働者と同等になるまで引き下げるかの2つの方法があります。つまり、経営者が引き下げを判断した場合は、正社員にとっては喜ばしくない事態が発生する可能性もあるのです。
非正規雇用の採用が縮小する可能性がある
人件費の高騰を懸念して、非正規雇用労働者の採用や受け入れを縮小する企業もあるかもしれません。 経営が悪化した際に、人件費を削減するという手段は投資家に説明がつきやすく、非正規労働者の受け入れを止めることで人件費の削減を図る企業も中にはあるでしょう。
04同一労働同一賃金の進め方
同一労働同一賃金は、以下の3ステップに沿って進めましょう。
- 1.同一労働かどうかを確認する
- 2.待遇が不合理かどうかを判断する
- 3.不合理な待遇差を是正する
同一労働同一賃金は、正社員と非正規労働者の待遇を全て平等にするという原則ではありません。同一労働をしている場合に、不合理な待遇があれば是正する必要があるというものです。そのため、まずは同一労働をしているのかを確認し、次に待遇が不合理かどうか、不合理な場合はどのように是正するかの順に考えます。
1.同一労働かどうかを確認する
同一労働であるための条件は、業務内容が同一かどうかだけではありません。成果に対しての責任範囲や緊急時の対応責任、転勤の有無などの条件も加味されます。
同一労働かの判断が難しい場合は、厚生労働省が公開している「パートタイム・有期雇用労働法の概要」にフローチャートが掲載されているので、それを参考に同一労働に該当するかを判断するとよいでしょう。
2.待遇が不合理かどうかを判断する
同一労働に該当する場合、次に待遇が不合理かを判断します。この判断をする際には、その待遇差が「非正規労働者だから」という説明になるかどうかで、一次的な判断ができるでしょう。
「非正規労働者だから通勤手当は支給されない」といったように、合理的な理由がない場合は、待遇が不合理と判断される可能性が高いです。
3.不合理な待遇差を是正する
不合理な待遇差があった場合は、それを是正する措置をとる必要があります。最も簡単な方法は、正社員と同等の待遇に引き上げることです。しかし、待遇差を急に引き上げると、「やっぱり差別されてたんだ」と思ってしまう非正規労働者も出てくる可能性があります。
そのため、なぜこのような差をつけていたのかを、まずは丁寧に説明しましょう。「責任の範囲が異なると思っていたが、実態は責任も同程度で不合理な差が生まれてしまっていた」など、どうして差が生じていたのかを説明した上で、「実態に沿うように、この点について就業規則を変更することにした」と改善策も一緒に提示すると、社員の納得度も高くなるでしょう。
05同一労働同一賃金の違反事例
最後に同一労働同一賃金の違反事例をご紹介します。違反事例を参考にすることは制度の考え方を理解し、自社における注意点を学ぶことにつながります。次に2つの判例についてご紹介していきます。
長澤運輸事件(東京高裁)
長澤運輸は、従業員66人を雇用する運送会社です。昭和55年から平成5年までに入社した従業員に対して60歳定年、定年後の再雇用制度を適用し勤務継続を実施していました。再雇用については、定年前の条件と同じ職務内容、就業場所、転勤もあり得るとしていたにも関わらず、給与額は定年前と比較し大きく減額されていたため、「正社員と同等の賃金」を請求したことによる事例です。東京地裁は、「給与格差は不合理な差異として、労働契約法第20条違反である」と結論を出し処遇の改善を指示しました。
ハマキョウレックス事件(大阪高裁)
ハマキョウレックス事件では、有期契約社員と無期契約社員である正社員との格差について争われました。正社員が月給制をとっており「賞与や退職金」「無事故手当」「作業手当」「給食手当」「住宅手当」「皆勤手当」「家族手当」などの手当が支給されていましたが、有期契約社員は時給制をとっており手当の支給はありませんでした。当初原告側は違法とする判決を不服としていましたが控訴審である大阪高等裁判所は、不合理な格差という判決を下しました。
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06まとめ
本記事では、同一労働同一賃金をテーマに法令の解説から判例までのご紹介をしています。同一労働同一賃金の制度を導入することは、企業として必要な法対応です。本記事を参考に自社内の制度導入の見直しや導入を推進する際の参考にしてください。