マトリックス組織とは?その特徴と成功している企業の導入事例を紹介

組織に縦・横二つの指揮命令系統を作り、管理していく「マトリックス組織」は、グローバル企業を中心に採用されてきました。昨今の先行きが不透明で変化が激しい経営環境の中、組織が機動的に対応していくためには、部門横断の連携や知識の共有が促進されやすいマトリックス組織のメリットが活かされます。本記事では、マトリックス組織の基本的な仕組みや種類、導入によって得られるメリットを整理したうえで、実際の導入事例もあわせて紹介します。
- 01.マトリックス組織とは?
- 02.マトリックス組織の種類
- 03.マトリックス組織を導入することで得られるメリット
- 04.マトリックス組織を導入することで発生しやすい問題
- 05.マトリックス組織を導入している企業事例
- 06.まとめ
01マトリックス組織とは?
マトリックス組織とは、「事業」や「機能(職能)」など異なる2つの軸で指揮系統を作り、管理する組織形態です。通常の企業組織では、例えば「営業部」「開発部」のように、ひとつの軸で部門を分け、その中に階層を作る形で管理します。一方マトリックス組織では、社員が「商品A事業部」と「技術部門」の両方に所属するといった形をとり、2つの指揮命令系統のもとで動くことになります。
この構造により、異なる専門性を持つメンバーが日常的に連携しやすくなるため、部門の壁を越えた情報の共有や、変化する顧客ニーズへの柔軟な対応が生まれやすくなります。
▼参考:白石弘幸(2008)近年におけるマトリックス組織の再評価と導入|金沢大学経済学部論集
事業別組織との違い
事業別組織は、製品ラインや市場ごとに独立した部門を設ける形態です。例えばA製品部門・B製品部門がそれぞれ独自の営業・開発・製造チームを持つケースがこの形態にあたります。各部門が自己完結しているため責任の所在が明確で、意思決定もスピーディに行えるのが強みです。
一方、マトリックス組織では機能別・プロジェクト別など複数の軸で組織を管理します。事業別組織と同じく「事業」もよく利用される軸の一つですが、「機能(職能)」や「地域」など、異なる軸を組み合わせるのが特徴です。従業員が複数の視点を持てることから、リソースの共有や部門の壁を越えた協働が生まれやすくなります。事業別組織が「縦割り」の強さを持つとすれば、マトリックス組織は「横断的なつながり」を強みとする組織形態といえます。
02マトリックス組織の種類
マトリックス組織で従業員は、例えば「事業」と「機能(職能)」といった、異なる2つのグループに所属するため、レポートラインや意思決定の権限が複線化しやすくなります。一方で、マトリックス組織を導入する企業によって、この異なる2つのグループ間のパワーバランスや役割分担は異なります。以下では、次の代表的な3つのタイプについてご紹介します。
- ウィーク型
- バランス型
- ストロング型
▼参考:Stuckenbruck, L. C. (1979). The Matrix Organization. Project Management Quarterly, 10(3), 21–33.
ウィーク型
ウィーク型は、基本軸を「機能(職能)」、横軸を「各プロジェクト」とした場合に、権限の重心が機能部門のマネージャー側にある形式です。プロジェクトマネージャーの役割は限定的で、プロジェクト全体の進捗確認や調整が主な担当領域となります。機能部門のマネージャーが自身の領域の業務に対して責任を持ち、プロジェクトマネージャーは直接的な指示権限を持たない「調整役」に近い立場です。専門性を維持しやすい反面、プロジェクト全体の統合や意思決定が遅れやすくなる傾向があります。
バランス型
バランス型では、2グループの責任者が対等な関係で組織を管理します。例えば、PMが「何を・いつまでに達成するか」を定め、機能部門のマネージャーが「どのように実行するか」を担うといった形で役割を分担します。両者が協議しながら意思決定を進めるため、柔軟性は高まりますが、合意形成に時間がかかりやすく、権限の境界が曖昧になることで摩擦が生じやすい面もあります。
ストロング型
ストロング型では、ウィーク型と反対に、横軸の責任者が強い権限を持つパターンです。「機能(職能)」と「プロジェクト」でマトリックスを形成する場合、プロジェクトマネジャーが人員配置や業務の流れに対して強い権限を持ち、プロジェクトの完遂に対する責任まで一元的に担います。機能部門のマネージャーの関与は、必要な人員の提供や技術的なアドバイスにとどまります。意思決定の速さやプロジェクト統合のしやすさが強みで、大規模・複雑なプロジェクトを並行して進める場面に向いています。
03マトリックス組織を導入することで得られるメリット
マトリックス組織には、部門の壁を越えた情報共有や経営リソースの効率的な活用など、階層型組織にはない独自のメリットがあります。
部署の壁を越えて情報がスムーズに共有できる
マトリックス組織では、異なる部門に属するメンバーが日常的に接点を持つ構造になっているため、横断的な連携や情報接点を作りやすくなります。縦割り組織では部門をまたいだ情報共有が起きにくく、現場の情報が経営層まで届かないまま埋もれてしまうことも少なくありません。マトリックス組織では部門横断の連携が構造として組み込まれているため、こうした情報の滞りが生まれにくくなるのです。
Schoo for Businessの授業『部門間の連携不全を紐解く。』に登壇する清水久三子先生は、部門などチームをまたぐ連携においては、意思決定や情報共有のプロセスをあらかじめ明確に定めておくことが重要だと解説しています。
マトリックス組織はこの観点からも有効です。縦横の両軸で組織が構成されるため、誰がどのように情報を共有し、意思決定するかという流れが構造として組み込まれやすくなると考えられます。一方で、権限や役割分担が曖昧なままだと、かえって調整負荷や対立が増えることもあるため、縦横それぞれのラインで適切な役割設計や運用ルールを定めることが大切です。
経営リソースの効率的活用を促進できる
マトリックス組織では、専門的なスキルを持つ人材や設備を複数のプロジェクト間で柔軟に共有することができます。事業別組織のように各部門がリソースを抱え込む必要がないため、組織全体として無駄のない人員・設備の配置が実現します。限られた経営資源をより多くの事業・プロジェクトに活用できる点は、特にリソースに制約のある組織にとって大きなメリットとなります。
「個人のスキルアップ」と「プロジェクトの成果」を両立できる
マトリックス組織では、メンバーが自身の専門領域を持つ部門に軸足を置きながら、同時に部門横断のプロジェクトにも参加する構造になっています。そのため、日常の業務で専門性を深めつつ、プロジェクトを通じて他分野の知識や視点にも触れることができます。また、一人のメンバーが複数の上司や他部門のメンバーと連携しながら仕事を進めるため、自分の判断や意見を発揮する場面が自然と増えます。こうした経験は、仕事への主体的な関与を促す可能性があります。
外部環境の変化に対する適応力を強化できる
マトリックス組織では、異なる部門のメンバーが日常的に連携しているため、多様な視点を組織内に取り込みやすく、不確実性の高い環境や変化する顧客ニーズへ柔軟に対応しやすくなります。縦割り組織では特定の部門の視点に偏りがちな意思決定も、複数の専門領域を持つメンバーが関与することで、より多角的な判断が行いやすくなります。さらに、現場への権限委譲を組み合わせれば、組織の硬直化を防ぎ、環境変化に対してより機動的に動ける体制を整えやすくなるでしょう。
04マトリックス組織を導入することで発生しやすい問題
マトリックス組織には多くのメリットがある一方で、運用上の課題も少なくありません。以下では、米国のコンサルティング会社Vantage Partnersが500社以上・750名超の回答をもとに組織の有効性を調査した研究レポートをもとに、マトリックス組織で発生しやすい代表的な問題を紹介します。
優先順位がバラバラになり現場が混乱する
マトリックス組織では、複数の部門や事業ユニットが異なる目標・優先事項・業務プロセスをそれぞれ持つため、組織全体として足並みをそろえることが難しくなります。調査によれば、マトリックス型組織に属する回答者のうち、各部門の目標やインセンティブが「完全に一致している」と答えたのはわずか11%にとどまりました。また、調査参加者全体の48%は、事業部門と機能部門の目標やインセンティブが「あまり一致していない」または「まったく一致していない」と回答しています。こうした目標のズレは、部門間の対立や非効率を生む大きな要因となり、現場のメンバーが「どの優先事項に従えばよいのか」判断できない状況を招きやすくなります。
「誰が決めるのか」が曖昧になり意思決定が遅れる
マトリックス組織では権限の所在が不明確になりやすく、意思決定のプロセスが停滞しがちです。調査結果によると、高度にマトリックス化された企業の回答者のうち、役割と責任が「完全に明確」と答えたのは15%にすぎませんでした。役割の曖昧さは意思決定を麻痺させ、実行の遅れや部門間の摩擦・フラストレーションを引き起こします。
さらに、高度にマトリックス化された企業の回答者の43%が、組織の複雑性が意思決定とイノベーションのスピード・質を「ある程度」または「大きく」妨げていると回答しており、意思決定の遅さはマトリックス組織における最も深刻な課題のひとつといえます。
役割の境界線がぼやけて実行力が低下する
マトリックス組織では、一人のメンバーが複数の上司に報告しながら、異なる部門の目標を同時に追うことを求められます。この構造的な複雑さが、日常的な業務の遂行を必要以上に困難にし、組織全体の実行力を低下させる可能性があります。
例えば、あるメンバーが事業部門のマネージャーから「新規顧客向けの提案を優先してほしい」と指示される一方で、職能部門のマネージャーからは「既存顧客のフォローアップを先に対応して欲しい」と求められる、といった状況がマトリックス組織では起こりやすくなります。どちらの指示に従うべきか判断できないまま時間が過ぎたり、同時にこなそうとして双方が中途半端になったりと、業務がなかなか前に進まない状況が生まれやすくなってしまうのです。
「協働」のスキルがないと、組織の不和を生む可能性がある
マトリックス組織では、複数の指揮命令系統が存在するため、異なる部門のメンバーを巻き込んで物事を進める際に他者を動かすための「影響力の行使」が重要になります。しかし調査によれば、回答者の38%が、社内で他者を動かす際に最もよく取られる行動として「自分のアイデアがいかに優れているかを説明し、相手を説き伏せること」を挙げています。このようなアプローチは、場合によって対立につながるなど、マトリックス組織の本来の強みである「多様な視点の獲得」などを阻害する要因になり得ます。
05マトリックス組織を導入している企業事例
海外のグローバル企業で採用されているイメージが強いマトリックス組織ですが、日本国内でも導入している企業が存在します。ここからはマトリックス組織を導入に成功した各社の事例を紹介します。自社でマトリックス組織の導入を検討される際の参考にしてください。
花王
花王は2012年から2013年にかけて組織全体を事業×機能のマトリックス型に再編成しました。研究開発部門では「商品開発研究」と「基盤技術研究」が連携しながら研究を推進し、社内の生産・品質保証・生活者コミュニケーションセンターなどの関連部門とも密に連携する体制を整えています。また、研究員が専門領域を越えて同じフロアで日々対話する「大部屋制」を設けることで、自発的な知の交流と協働が生まれやすい環境を実現。こうした柔軟な組織運営が、研究開発のスピードアップとイノベーション創出を支えています。
▼参考:花王 | 組織運営
村田製作所
村田製作所では、事業部組織を縦軸、生産活動などを行う「場所」の組織を横軸とし、そこに機能スタッフを加えた「三次元マトリックス組織」を構築しています。さらに、工程別・場所別の部門損益制度と独立採算制を導入することで、現場一人ひとりがオーナーシップとコスト意識を持って働ける環境を整えています。
このようなマトリックス経営は、顧客ニーズを取り込みながら技術を横展開していく同社のビジネスモデルと連動しており、事業部・製造現場・機能スタッフが一体となって事業を推進できる体制を実現しています。
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06まとめ
本記事では、マトリックス組織の概要や種類、メリット、注意点、そして国内企業の導入事例について解説しました。マトリックス組織は、部門の壁を越えた情報共有や経営リソースの効率的な活用といったメリットをもたらす一方で、目標のズレや意思決定の停滞、役割の曖昧さといった運用上の難しさも伴います。こうした課題を理解したうえで導入・運用することが、マトリックス組織のメリットを最大限に引き出すうえでは重要です。
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組織開発の全体像から実践できる具体的な方法まで、体系的な組織開発の全貌をテーマにしたウェビナーのアーカイブです。テレワークの拡大も進む中、組織に広がる「他責のムード」に悩まされる人事責任者は多いのではないでしょうか。組織開発のフレームワークを活用して、組織の中で必要な「対話と合意形成」を生み出すことで、他責型組織から自律型組織への変革を実現する方法についてお話します。
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登壇者:小金 蔵人 様株式会社ZOZO 技術本部 技術戦略部 組織開発ブロック ブロック長 / 組織開発アドバイザー STANDBY 代表
1998年に大学卒業後、味の素株式会社に入社し、営業マーケティングに従事。2006年にヤフー株式会社へ転職し、新規ビジネス開発・サービス企画のリリースを経験するかたわらで各種組織活性プロジェクトを推進。2016年に希望して人事部門に異動後、全社の人材開発・組織開発を担当。1on1ミーティングをはじめとしたピープルマネジメントツールの推進や管理職のマネジメント支援と並行して、現場の組織課題解決をサポート。2019年に個人での組織開発アドバイザリー事業と組織開発エバンジェリストとしての情報発信を開始。2020年に株式会社ZOZOテクノロジーズ(現・株式会社ZOZO)へ転職し、現在は全社およびクリエイター部門の人事企画・人材開発・組織開発に携わっている。