多能工とは?メリット・デメリットや活用している企業を紹介
多能工化は、限りある人材を最大限活用するための手法として注目されています。ひとりで複数の業務ができる能力を持つ多能工を育成することで、労働環境の改善や、生産性の向上が期待できます。今回は、多能工化の導入メリットとデメリット、具体的な企業事例などを紹介します。
- 01.多能工とは
- 02.多能工化のメリットとは
- 03.多能工化のデメリットとは
- 04.多能工化する具体的な手順とは
- 05.多能工化している企業を紹介
- 06.まとめ
01多能工とは
「多能工」とは、ひとりで複数の業務や作業を行うこと、及び複数の技能や技術を持った作業者のことを意味します。もともと多能工という言葉は、工場などの生産現場をはじめ、主に製造業の間で使用されていました。 より生産性の高い製品を作るため、一人の従業員が複数のラインを担当する場合などに使われ、現在では製造業以外にもさまざまな職種や業務で合理化の手法として活用されています。
単能工との違いとは
多能工の反対にあたるのが「単能工」です。単能工は、ある定められた仕事のみを行うことを指し、一人でひとつの業務を担当し、ひとつのスキルを専門に業務を行う人のことを指します。 従来は、単能工が一般的で、今でも多くの業種で単能工が残っています。しかし、近年では、ニーズに合わせてマルチスキルを活かす事ができる多能工がより求められるようになってきています。
02多能工化のメリットとは
多能工を教育・育成することを多能工化と呼びます。多能工の育成に成功すれば、その時々で忙しい工程に労働力を集約させるなど、従業員の負荷を平準化し、生産性の向上が実現できます。ここでは、多能工化のメリットについて解説します。
仕事量の平準化ができる
多能工の最大のメリットは、業務負荷が均等になる点です。限られた人員のなかで、繁忙期やイレギュラー対応をカバーし合いながら業務を進められるようになるため、仕事量の平準化ができ、従業員への負荷を軽減できます。
業務を安定的に進められる
単能工が集まる職場では、自分の担当以外の業務ができないのと同時に、他の人がその業務を行えません。そのため、休暇が取りにくくなるなど担当者の負担が増えることや、担当者が急病や急用で休んだ時に、業務が滞るおそれがあります。 それに対し、現場の多能工化が進めば、たとえ欠員が発生しても、その業務をフォローできます。現場の多能工化は、業務を安定的に進めるためのリスク管理としても有効です。
多角的な視点を持って仕事に取り組める
多能工化を取り入れることで、自分の担当外だった業務にも必然的に関心を示すようになり、スキル取得後は、多角的な視点を持って仕事に取り組めるようになります。 複数の仕事を兼務することで、さまざまな立場の人の気持ちを理解できるようになり、より主体的に物事に取り組めます。
03多能工化のデメリットとは
多能工化には多くのメリットがありますが、運用を誤ると結果的にデメリットへと生じてしまう可能性もあります。ここからは、多能工化のデメリットや運用上の注意点を紹介します。せっかくの多能工化が無駄な取り組みへとならないよう、チェックしておいてください。
多能工育成までに時間がかかる
初めからいくつもの業務を一度に習得できません。複雑な現場であればあるほどOJTなどの教育が必要となり、育成に時間と費用がかかる可能性があります。その時間と費用も考えた上で育成をしなければ結果として無駄になってしまいます。 まずは、従業員の向き不向きなどをきちんと考慮したうえで、任せられそうな業務から少しずつ教えていくなど、育成方法を考えながら行う必要があります。
業務の無駄が発生しやすい
多能工化は、一時的に業務の無駄が発生しやすくなります。一人の従業員が複数の仕事を行うことで、かえってコミュニケーションコストがかかるなど、不慣れが原因で無駄な工数が発生するおそれがあるからです。 また、多能工化を行うためには、複数のメンバーで情報共有を行わなければならず、進捗状況の把握に時間がかかってしまいがちです。データの一元化をはじめ、個々の業務状況を常に確認できる体制を整えることが重要です。
適正な人事評価制度を構築する必要がある
従業員を多能工化する際には、多能工に適した人事評価制度が必要不可欠です。複数の仕事を掛け持ちで行っている場合、従来の人事評価では全てのパフォーマンスをきちんと評価しきれないケースが出てきます。 また、営業のような数値で成績を出せる部署と、バックオフィスでは評価の指標も異なります。どのような業務、従業員であっても正当な評価を行えるような方法を模索し、適正な人事評価が行えるよう制度の構築を行ってください。
離職につながる可能性がある
マルチスキルを得るためには、必然的に多くの業務を経験しなければなりません。そのため、「入社時に希望していた業務内容が違う」というクレームにつながりやすく、結果的に離職へと発展するおそれがあります。 多くの従業員は、自分が挑戦したいと思う業務ではない仕事を任せられるのを嫌がります。 特に、入社直後の従業員に対して多能工を求めてしまうと、「当初の契約と話が違う」「求人広告には書いていなかった」といったトラブルに発展することも考えられるため、注意が必要です。 多能工化を行う際は、従業員としっかりコミュニケーションをとり、双方が納得した状態で進めていくことが重要です。
04多能工化する具体的な手順とは
多能工化を実施する際は、「多能工化の目的」を明確にし、従業員の納得感を得たうえで、正しい手順を踏み、導入を進めていくことが非常に重要になってきます。ここからは、多能工の進め方について、具体的な手順を紹介します。
業務量やスキル調査を行う
まず、現状の業務を洗い出し、各部門で行っている業務内容や業務量、さらに従業員の業務習得レベルを把握します。実際に担当部門のメンバーにアンケートやヒアリングを行い、各項目を定量化させたポイントを可視化します。
課題を可視化しスキルマップを作成する
調査結果をもとに、属人的な業務になっている部分、無駄なコストがかかっている部分、人手が足りていない部分などを中心に、多能工化を検討します。目標値と現在の水準のギャップを課題として設定し、現状抱えている課題を全体で可視化します。次に、スキルマップを作成し、足りてないのはどのような部分なのか、常に確認できるようにしておきます。
業務マニュアルを作成し多能工人材を育成する
スキルマップの作成が済んだら、実際にスキル習得に向け、業務マニュアルを作成し、多能工化に向けた教育を行います。業務に関連するすべての従業員とコミュニケーションを図りながら、問題が起こっていないかしっかりとチェックしていきます。
評価と振り返りを行う
実施後は、定期的に人材育成の進捗状況と、業務平準化策の実施による部門別稼働率の変化を確認し、その評価と振り返りを行います。業務に問題はないか、業務コストや従業員の負荷など企業側だけではなく、従業員目線でも改善点の余地はないか確認しながら進めます。
05多能工化している企業を紹介
大手企業を中心に、日本国内でも社員の多能工化が年々浸透しつつあります。ここからは、実際に人材教育の一環として多能工化を採用し、業務効率改善や、生産性アップといった成功を納めた企業の一例を紹介します。
星野リゾート
リゾートホテルや温泉旅館などを経営する「星野リゾート」では、従業員に対してフロント、客室、レストランサービス、調理補助の4つの仕事を覚えるよう教育指導しています。 他社に負けないような人材の育成を目的とし、一人ひとりのスキル習得度と実践度を細かく数値化しています。 こうした取り組みにより、業務バランスを保ちながらも、顧客との接触時間を増やせ、お客様ファーストなホテル運営が実現できています。
トヨタホーム
大手ハウスメーカーである「トヨタホーム」では、住宅部材工場で多能工化が実践されています。通常、工場勤務の従業員は現場の応援を行わないことが多いですが、トヨタホームでは繁閑に合わせて柔軟に人員配置が行えるよう、多能工化を採用し、人材育成を行っています。 複数の業務にフレキシブルに対応できる従業員を増やすことで、人件費などのコストを削減しただけでなく、完全受注生産を効率的に行えるようになりました。
ヤオコー
埼玉県などを中心に展開しているスーパー「ヤオコー」でも多能工化を採用しています。スーパーマーケットではレジ担当、惣菜担当、品出し担当というように業務が細分化されているのが一般的です。 しかし、忙しい時間帯は部門によっても異なり、各担当者の手隙時間がたびたび見受けられる、という問題が生じています。そこで、手が空いているレジ担当者は、品出しや惣菜の補助にまわり、反対に惣菜担当も手が空けば夕方の忙しい時間帯はレジを担当する、といった取り組みを行っています。その結果、業務を平準化でき、全体の生産性アップを実現しました。
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06まとめ
多能工を育成することで、従業員の負荷を平準化したり、柔軟な人材配置が可能になったり、企業全体の生産性の向上が実現できます。さまざまな業界で効果を発揮する有効な手法ですので、ぜひ本記事を参考に、多能工化の導入を検討してみてはいかがでしょうか。