ARCSモデルとは?導入するメリットや研修に応用するアイデアを紹介
ARCSモデルは、従業員のモチベーションと学習意欲の向上につながる点が評価されて、近年では人材教育に導入する企業が増加しています。本記事では、ARCSモデルを構成する要素を確認するとともに、導入のメリットや研修計画への応用のアイデアを紹介しています。
01ARCSモデルとは
人材教育の現場において、どのようなアプローチを取れば、効果的に従業員の学習意欲を引き出せるかという課題は、すべての人事担当者が抱えているものです。ARCS(アークス)モデルは、学習意欲に関わる要因を4つに分類して、それぞれの側面から学習者に対して戦略的にアプローチする考え方を意味します。
学習意欲を向上させる動機付けのモデル
ARCSモデルは、教育現場でのデータ分析と研究結果をもとに提唱された、学習意欲向上のための動機付けのモデルのことです。 ARCSモデルでは、学習意欲を高める要素を、「Attention(注意喚起)」「Relevance(関連性)」「Confidence(自信)」「Satisfaction(満足)」の4つと考えています。これら4つの要素において、動機付けの手立てを提案していることから、頭文字をとってARCSモデルと呼ばれているのです。 ARCSモデルは、多くの学習者に対して広く有効と考えられるアプローチを提唱しているため、活用することで効果的な動機付けを行える可能性が高いとされています。
ARCSモデルの歴史的背景
ARCSモデルは、1983年にアメリカの教育心理学者である、ジョン・ケラーが提唱した考え方です。ジョン・ケラーは、「大学の授業において生徒がやる気を出さないのはなぜだろうか」という視点に立って、その要因を探るべく研究やデータ調査を行いました。心理学の分野を中心に、関連する諸分野のデータを活用しているうえに、実用性が非常に高い点が評価されています。 もともとは、学習者である子どもや学生を対象として、教育現場で導入が進んでいたARCSモデルですが、近年では企業における人材教育への活用例が増加しています。
02ARCSモデルを構成する4つの要素とは
ARCSモデルでは、学習意欲に関連する要素を4つ挙げて、それぞれの側面から動機付けのアプローチ方法を示しています。ここでは、ARCSモデルを構成する要素について、その内容と動機付けのアプローチ例をみていきます。
注意喚起
注意喚起の要素においては、学習者の知的好奇心や興味、探求心を刺激することで、学習内容に対して注意を喚起すると考えられます。学習者が学習内容に触れたときに、「もっと知りたい、学習したい」と思うような目新しさや分野の将来性を示すとともに、学びに定期的に変化を取り入れるなどマンネリ化しないような工夫が大切です。
関連性
学習意欲を向上させるためには、学習自体にやりがいがあると感じさせたり、学習者の経験と学習内容とのあいだに関連性と親しみをもたせたりという取り組みが有効といえます。また、学習者がもつ目的や目標と学習内容をつなぐことで、学習者のモチベーションを高める狙いがあります。
自信
学習者の自発的な学習意欲を引き出すためには、主体的な学びによる成功体験を重ねて、自信をつけさせることが効果的です。自信がなければ、「学習しても無駄だ、意味がない」などと考えてしまい、学習に対するモチベーション低下のおそれが懸念されます。 学習上の明確な目標を、学習者自身の努力と工夫によって着実にクリアする繰り返しを経て、徐々に自信を培っていくのがよいでしょう。
満足感
学習によるメリットや効果を感じられなければ、学習意欲を保つのは難しくなってしまいます。したがって、学習した実績に対して公平かつ適切に評価したり、報酬や昇給などの外発的報酬を与えたりすることで、学習者に満足感を感じてもらう取り組みが重要といえます。また、学習内容を業務において実践する機会を用意することも、「学習してよかった」と学習者に思ってもらえる可能性が期待できます。
03ARCSモデルを人材教育に導入するメリットとは
ARCSモデルを人材教育に導入することによって、従業員の学習の質を高めるだけでなく、最終的には企業全体の生産性の向上をもたらす可能性があります。また、学習者の満足度やモチベーションが高まれば、離職率の低下も視野に入ってくるといえます。
従業員の自発的な学習意欲を引き出す
ARCSモデルの活用によって、従業員の知的探求心や好奇心が高まれば、学習に対する内発的動機付けが実現し、自発的な学習意欲を引き出せると期待できます。また、ARCSモデルのサイクルを回すことで、学習に対してやりがいや満足感を感じるようになり、学習のモチベーションも維持できるはずです。
教育の習熟度や学習スピードを高める
他人から指示されて受身の姿勢で学習するのと、自発的かつ主体的に学習するのとでは、学習の習熟度や学習スピードは明らかに異なります。ARCSモデルでは、学習者の自発的な学びを促すため、人材教育の効果がより高まると期待できるのです。
業務に対するモチベーションが向上する
ARCSモデルには、学習内容を業務に活用する機会を設けることで、学習者にやりがいや達成感を感じてもらう狙いがあります。この際、学習によって業務効率や生産性が向上したと実感できれば、業務に対して以前より自信が増して、モチベーションが高まります。
企業全体の生産性が向上する
ARCSモデルを全社的に展開すると、積極的に新しいことを学び業務に活用する社風が根付く可能性があります。常に向上心と探求心を持ち続けている企業は、新規事業の開拓や既存事業の改善によって、より良いサービスや商品を提供できるようになり、生産性向上につながります。
04ARCSモデルを研修計画に応用する際のアイデアとは
ここまで、ARCSモデルを構成する要素や導入のメリットについてみてきましたが、どのような方法で人材教育に活用していけばよいのでしょうか。ここからは、人材教育のなかでも、研修計画を立てる際にARCSモデルを応用するアイデアを紹介していきます。
研修名に斬新な要素を取り入れて注意喚起を行う
研修のパンフレットを作成する際に、案内文や研修タイトルのなかに斬新な要素を取り入れて、学習者の興味を引き注意喚起を行うアイデアがあります。従来のタイトルとは少し異なった要素を入れてみる、研修用のゲームを用意して告知してみる、などが注意喚起のアイデア例です。 ARCSモデルの最初となるのは注意喚起のため、まずは研修内容自体に興味を持ってもらえるような工夫が欠かせません。
チェックリストを用意して社内に周知する
担当者だけでARCSモデルを立てても、社内の従業員が認知していなければ浸透することはありません。そのようなことがないように、ARCSモデルのわかりやすいチェックリストを作成したうえで社内に周知をするようにしましょう。マネジメントをするときには、このチェックリストを用いると従業員も理解を深められるようになります。 また、ARCSモデルについて説明している書籍を用意し、事前に読んでくるように伝えると研修をスムーズに進められます。
研修と業務の内容に関連性があることを示す
研修が自分の業務内容に関連している、もしくは現在抱えている課題を解決する手だてになりそうと感じさせる、この2点をどうクリアしていくかが重要です。そのため事前のアンケート調査を通して、研修に対して期待するものや抱える課題を把握しておくことで、研修内容と受講者のあいだの関連性をより深めたプログラムを作ることができます。
課題の難易度を低くすることで自信を与える
研修のなかで、学習効果を測定するための課題やテストを用意することは多いものです。課題の難易度があまりにも高いと、学習者は課題クリアへの自信をなくし、学習意欲が低下するおそれが懸念されます。 そのため、研修で用意する課題やテストの難易度を比較的低く設定して、「これならできそう」と思わせることで、自信を与えるのがおすすめです。低すぎる難易度では、学習効果が測定できないデメリットが存在するため、研修を聞いてさえいれば回答できるような内容にするのがおすすめです。
研修の最後に確認テストと肯定的な評価を行う
研修成果を学習者に実感してもらうには、研修の最後に確認テストを実施するとともに、講師から受講者への肯定的な評価を行うのが有効といえます。講師からの評価においては、学習姿勢を褒める、あるいは業務への活用方法をアドバイスするなどの工夫がおすすめです。 これらの取り組みを通して、「学習内容が定着している」「今後の業務に活用できそう」と思ってもらえれば、学習に対する満足感ややりがいを学習者自身で見出せる可能性があります。
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05まとめ
ARCSモデルを人材教育に取り入れるにあたっては、学習に対する公平な評価が重要であり、人事評価制度に学習の項目を設定することも求められるでしょう。また、内発的動機づけだけでは、学習意欲をうまく引き出せないケースが多い場合には、報酬や昇進の仕組みを活用することで外発的動機づけを行うことも検討してみてください。 継続的に成長を続け、競争力を高めている企業は、従業員一人ひとりの学習意欲や向上心が高い傾向にあるものです。ARCSモデルのサイクルをうまく運用することで、従業員の自発的かつ主体的な学習姿勢が定着して、業務へのモチベーションも向上するはずです。 まずは研修計画にARCSモデルを取り入れて、人材教育の質と実施効果を高めてみてはいかがでしょうか。